今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

1156 本部(沖縄県)フクギを抜けるとエメラルドグリーン

2024-02-25 16:39:30 | 沖縄
沖縄には「樹」を眺める楽しみがある。土地の人にはごく見慣れた風景であろうが、北の人間にとっては枝の広がりや気根の荒々しさなど、自由奔放としか言いようのない亜熱帯の樹木は見上げていて飽きない。見つめ過ぎると、枝が人の腕のように動き出して、捕らえられそうな怖い錯覚に襲われる。例えば本部半島先端の備瀬崎の、遠浅の海に沿って延びる備瀬集落は、すべての家々がフクギに埋もれ、集落全体が濃密な緑に絡め取られている。

(久高島のフクギの生垣 2007.2.18)

フクギは「福木」だろうか、生垣や路傍の並木によく用いられている樹種で、10メートルを超す高木もある。密生する葉は掌大の卵型をして、ツヤがあって厚く、実に硬い。この硬い葉が重なり合って、風を避け火を防ぎ潮風から家を守るのだろう。そうした用途から、フィリピンなどから持ち込まれた樹らしい。幹からは黄色の色素が抽出され、紅型や紬の染料に利用される。私は久高島で美しい生垣に気がつき、島の人にいろいろ教えてもらった。



昔、今村昌平監督の『神々の深き欲望』という映画を観た。琉球の海のどこかの離島を舞台に、男女の剥き出しの性が描かれる、よくわからないけれどドロドロと迫ってくる映画だった。そこに映し出される亜熱帯の木々が人間以上に生々しい生命力をみせ、「こんな樹木に囲まれていては、いずれ狂ってしまうだろう」と思ったものだ。沖縄の御嶽でノロの女性たちが捧げる祈りも、こうしたおどろおどろしい樹相があってこそ成り立つのではないか。



さて備瀬の集落である。似たような広さの区画に涼しげに建つ平屋の家々が1キロほど続き、すべてフクギに埋まっている。区画を囲む屋敷林のフクギが、隣家のフクギとつながる形で並木道を造っているのだ。路地に入ると緑のトンネルが延び、その先にエメラルド・グリーンの海が見通せるといったロケーションは、近年は観光スポットとして人気だという。古くからの島の暮らしがあったであろう家々は、カフェや民宿などに転用されている。



備瀬集落がある本部町は、半島西端の人口12000人ほどの街だ。沖縄県の賑わいは中・南部に偏っており、一般的に言えばここは過疎地域になるのだろう。しかし本部町は伊江島など離島の航路拠点であり、1975年には沖縄海洋博覧会の会場になって沖縄美ら海水族館や海洋博公園が整備されたことから、北部の観光拠点になっている。備瀬も観光スポットになったものの一方で転出者が後を絶たないらしく、路傍には「売地」の看板が目立つ。



集落の東にはサトウキビ畑が広がるけれど、大規模に農業を展開するにはいかにも狭い。集落の前に広がる海は礁嶺が延び、モズクや海ブドウ、ウニなどの養殖が試みられているようだが、なりわいとしての漁業が成り立つ見通しは未だのようである。南国の陽光を浴びる備瀬の集落は、空気はいいし海は美しく、しばらく滞在してみたくなる。しかし滞在ならいざ知らず、ここで子を育て、育った若者が職を得て定住するのはなかなか難しいだろう。



巨大水槽をジンベエザメやマンタが泳ぐ「美ら海水族館」は、評判通り修学旅行生らで賑わっていた。だが何と言ってもこの観光エリアは交通の便が悪い。修学旅行生は乗り合いタクシーでやって来ている。那覇と名護の70キロを1時間で結ぶ「沖縄鉄軌道構想」が動き出している。半島深部には大規模なテーマパークの建設が始まっており、北部地域の活性化に高速鉄道は大いに期待できる。私に乗る機会は来ないだろうけれど。(2024.2.15)















































コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1155 今帰仁(沖縄県)やん... | トップ | 1157 読谷(沖縄県)私好み... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

沖縄」カテゴリの最新記事