今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

953 新庄(山形県)お囃子が聞こえて来るよ新庄やたい

2021-07-04 12:27:15 | 山形・福島
小柄なおばあさんが曲がった腰を「よーいしょ」と伸ばし、展示されている賑やかな飾り物を見上げている。「あーまた祭りが来るのー、今年はどんな山車(やたい)が見られるっかねぇ」とつぶやいているのかもしれない。山形新幹線・新庄駅のホール。飾られているのは「新庄山車まつり」の歴史絵巻だ。歴史上の名場面などを題材に、各町内の若連が毎年手作りしているのだとか。8月24日からの3日間、この賑やかな彩りが街を沸き立たせる。



新庄市は、最上地方と呼ばれる山形県内陸北部の中核の街だ。一帯は新庄盆地と呼ばれる、緩やかな山並みに囲まれた平野で、南端を最上川が西行して行く。江戸時代を通じ戸沢6万石の城下町だった地で、現在は35000人の暮らしがある。盆地の広さも人口の規模も、ごくごく小規模な地方都市だ。7年前、友人の車でこの盆地最奥の金山町に案内してもらった際に通過しているはずなのだが、記憶はない。知らない街の訪問は、いつもトキメク。



小さな街ではあるけれど、新庄は内陸部の十字路という交通の要地である。最上川に添って北上してきた羽州街道は、この街で仙台と酒田を結ぶ国道47号とクロスするし、鉄道も奥羽本線と陸羽東・西線の結節地だ。こうした土地柄が、新幹線の延伸を実現させたのかもしれない。周辺の物資が集積する街は、養蚕や林業、それに国営大規模開拓などで経済が活性化していったようで、エリアは狭くとも、進取の気性に富む気風があるのだろう。



ガラス張りのモダンな駅舎から西へ、大通りが延びている。突き当りが城跡の最上公園だ。駅と城跡を大通りで結ぶまちづくりが、城下町の定番であると書いたことがあるが、その距離の長短が街の規模を表しているようでもある。新庄の場合、ごく小規模ではあるけれど歩道は広く、電線は地中化されて心地よい。民話の里らしく「こぶとり爺さまどおり」と名付けられ、「右を曲がると樹齢300年余のカヤの大木があるのじゃ」と案内が細かい。



城跡公園は堀がよく残り、園内の池では課外授業らしい小学生が大勢たむろしている。「何年生?」「1年生!」「何してるの?」「ザリガニ釣ってるの」「釣れる?」「全然釣れない!」。トイレに行きたいという児を連れて城跡を駆け回っている若い女先生が、私と目が合うと「こんにちわー」と挨拶して追いかけていく。単純な私は、ただそれだけで「ああ、いい街だなぁ」と思う。周辺には文化施設が集積し、小さい街だからこその豊かさに満ちている。



「ふるさと歴史センター」が休館だったため、土地の勉強の機会は失った。しかしそのおかげか、近くに小さなギャラリーを見つけ、山形の作家たちの作品を堪能できたことは思いがけない幸せだった。高校・大学で教えてきた教育者が「地域にあって、芸術と出会うことで命、幸いの在り処を訪ねる火種となることを希って」開設した私設の「アトリエ・山形現代美術館」だという。誰もいないフロアを独占して、ゆっくり楽しませていただいた。



市役所を通りかかると、「新庄まつりの山車行事」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことや、街がオリンピックの台湾バドミントンチームのホストタウンであることが掲げられている。わずか3時間ほどの滞在だったから、城跡公園の小学生を除けば見かけた市民はごくわずかだった。既に廃墟といった方が早いようなアーケード街が残るなど、まちづくりの課題は少なくないようだ。しかし祭りという「火種」がある街は強い。(2021.6.25)




















(中川木鈴「木版・自画刻、1690年ころの制作」アトリエ・山形現代美術館で)














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