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1065 只見(福島県)「お帰り」と手を振る人の只見線

2022-11-09 17:28:06 | 山形・福島
只見線が復旧し、運行が再開されると聞いて「これは行かなければ」と気が急いた。というのも小出(新潟県)と会津若松(福島県)を結ぶこのローカル線は、いつか乗ってみたいと思いつつ、2011年夏の豪雨で路線が寸断されてしまったのだ。幾つかの被災区間は翌年には復旧されたものの、福島県最奥部の只見駅―会津川口駅間は復旧費用の大きさなどから議論が起こり、廃線の危機さえ報じられていた。実に11年ぶりの全線再開なのである。
 
 
路線は昭和の初めから、会津若松と小出からそれぞれ少しずつ延びて行き、電源開発用の鉄路も転用して只見線として135キロが全通したのは1971年になってだった。只見川と新潟県側の破間川が削った細々とした渓谷の、名だたる豪雪地帯を行く。県境の只見町でも標高は337メートルだから、奥地ではあるけれど高地というほどではない。市町村合併が進んだことで、現在の36駅が結ぶのは2市6町だ。典型的な過疎山間地域である。
 
 
小出から会津若松方向が「上り」になる。私が小出を起点に計画を立てたのは、上越線に馴染みがあるから程度の理由しかない。運行は1日5本。そのうち会津若松直行は3本だけだ。早朝5時台の1番列車は無理だから、「とにかく乗車体験して、車窓を楽しみたい」という私のような旅行者は、小出13時12分発の便しかない。終着まで4時間12分の行程だ。2両編成の気動車は小出で出発を待っている。すでに身動きできない混みようだ。
 
 
無人駅を幾つか経由して、大白川駅を過ぎると県境を越える。昔、入広瀬という村があったのはこの辺りかと考えたけれど、生まれ育った新潟とはいえ、ここはあまりに遠く、全く知らない地域だ。稲田はすでに刈取りを終え、しだいに山が迫って紅葉が鮮やかさを増す。国道252号線が付かず離れず並走している。唐突に長いトンネルに入った。「六十里越」という県境の難所なのだろう。18年前に妻の運転で通っているのだが、記憶は全く蘇らない。
 
 
トンネルを抜けると只見駅に到着した。只見町は「奥会津」の最奥にあって、94%が山林だ。戦後の電源開発ラッシュのころは人口が3万人を超えたというが、今では10分の1近くに減少している。駅の周りでは大勢の人たちが列車に手を振っている。「おかえり!只見線」の横断幕も。車内の乗客も手を振り返し、つかの間の車窓越しの交流である。そういえば小さな無人駅でも手を振る人がいた。住民が、遠来の客を歓迎しているのだろうか。
 
 
単なる歓迎ではあるまい。「よく来てくれました。これからもこの鉄道を守るため、力を貸してください」と手を振っているのではないか。住民同士が話し合い、毎日この列車が通過する時間に集まることにしているのかもしれない。そう気付いて(外れているかもしれないが)、私は目頭が熱くなった。豪雪で道路が寸断されがちな冬は、この鉄路が唯一つの外界とのつながりになる。そうした土地で生きる人たちの、鉄道に対する思いが伝わってくる。
 
 
JR各社はローカル線の区間収支を公表し始めた。赤字路線の存廃を、地元自治体と話し合う地ならしなのだろう。利用客の激減で、赤字線の収支は惨憺たるものらしい。只見線の復旧についても厳しい意見が出された。土地や施設は自治体が保有し、運行はJR東日本が行う「上下分離方式」で再建が決まったものの、自治体の負担は重い。同じ赤字路線と言っても、バス代行が難しい路線などは国費の投入を検討すべき時期に来ている。(2022.10.31)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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