南紀和歌山の那智勝浦には行ったことがある。だから南房総の勝浦も行ってみたい街だった。南紀と房総には「勝浦」や「白浜」といった同じ地名がある。黒潮が文化を運び、紀伊から移り住んだ人々が故地と同じ名を付けた。そんなことを読んだ記憶があって、常々、人間の「動線」を不思議に思っていたのである。そういえば熊野灘も九十九里浜も、目の前は太平洋であり、6200キロメートル先にはハワイがあるという。似た土地柄な . . . 本文を読む
房総半島は、太平洋の高波から東京湾を守るかのように外洋にそっと手を添えた形で延びている。その指先部分は軽く鍵型に曲げられ、内側の平地に生まれた街・館山を包んできた。花冷えの数日が過ぎ、東京にも再び穏やかな春が戻った日、JR内房線の特急で東京駅から2時間、鏡ヶ浦とも呼ばれるらしい館山湾は、その名にふさわしい静けさの中で春の陽を映していた。そして館山の駅前では、花壇のポピーが風に揺れ、「八犬伝の里」 . . . 本文を読む