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いっしょに笑い いっしょに泣き 大阪学童保育研究集会で~子どものまなざし 36

2010年07月13日 | 土佐いく子の教育つれづれ

 梅雨の晴れ間、太陽が照りつける中、子どもの手を引いた親たちが朝から集まってきています。子ども向けイベントか芸能人のパフォーマンスでもあるのか、と思うほど人が集まっています。

 大阪経済大学で開催された大阪学童保育研究集会のつどいでした。身銭をきって自ら参加費を払って学びに来た父母や指導員さんたちなのです。この風景を見ただけで、私はもう胸が熱くなりました。

 私はこの日、全体集会での講演を仰せつかっていたのです。千人を超える人たちで会場は通路まで埋まっています。始まる前から熱気が舞台裏まで伝わってきました。壇上に上がると、期待して待ってくれている参加者の目があたたかく、しかも輝いていてまぶしいくらいでした。

「みなさん、朝からほんとによく来てくださいました。…私も退職して2年になりました。3人の息子たちも家を出て夫と二人の生活。息つく暇なしの忙しい生活でした。先日、夫が『一回家に帰ったら、迎えに出てくれて、お風呂にしますか、お食事にしますかと言うてみてや』と言うので、やってみたら『あれ、家まちごうた』と出て行きました」

 こんな自己紹介を始めると、もう会場はどっと笑い声。安心して笑えて、その笑いが参加者同士で響き合って、どっとなるという感じです。聞き手の関係がバラバラだとこうはなりません。この笑い合える関係を今、子どもも大人も求めているのです。

 厳しいくらしの中で顔を上げて生きている子どもたちの話をすると、共感の涙で、また響き合うのです。この時代を悩みも不安も抱きながら懸命に生きている人たちが話を聞いて、ほっとしたり、ああ一緒だ、わかってくれたと共感し合ったりすると、涙になってあふれ出るのでしょう。

 かつて子育ては地域をバックボーンに叱ったり叱ってくれたり、迷惑をかけたりかけられたりしながら、皆で見守り共同で進める営みでした。

 ところが今、親は地域で子育ての悩みを聞いてくれる人もいなければ、子どもを本気でほめたり叱ってくれることもなく、孤立状態にあることが少なからずあるのです。心痛む虐待問題もしかりです。

■素顔の自分だせる場

 学童保育運動は今日、学童保育が法制化され、教育学会の研究対象になるまで大きく発展してきました。いえ、みんなの力でさせてきたのです。

 学童保育は、親たちを子育ての共同の場に引き出し、父ちゃんたちを子育ての輪の中に登場させてくれたのでした。一緒にキャンプに行ったり、食事やおやつ作りを楽しみ、手作りのスポーツ交流会やゲーム大会で親も一緒に汗を流したりしながら、親が手をつなぎ合って子育てしていく場を創造してきたのです。

 学童保育は、親が安心して働ける保障を作っただけでなく、子どもたちに豊かな放課後を保障し、活動は未来の子育てのありようを示唆する運動にまで発展してきたのです。

 私も3人の息子たちを学童に預け、働き続けてきました。

 子どもたちにとっては、ここは、評価の目や能力主義とは違う目で、自分を見てくれる安心の場だったのです。そして、ありのままの自分が出せ、おもしろい遊びがあり、仲間がわいわいいて、ケンカもいっぱいしたけれど、子どもの時間が流れていたのです。

 私も子育ての悩みを聞いていただいたり、わが子の地域での様子を教えていただき、安心をもらってきました。

 夫は、おやじの会を作り、子どもたちをキャンプやスキーにも連れて行ってくれました。おやじたちも普段、仕事場では見せない素の自分が出せて、とにかく楽しいからと集まってくるのです。

 息子たちが成人した今も、おやじの会は健在です。ゴルフ、飲み会、地域の祭りと大人たちの居場所になって生き続けているのです。

 学童保育運動は、今後の日本の教育に貴重な示唆を与え、大切な役割を担っていくだろうとあらためて思えた研究集会でした。

(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)

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