ーラビット・ホールーRABBIT HOLE
2010年 アメリカ
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督 ニコール・キッドマン(ベッカ・コーベット)アーロン・エッカート(ハウイー・コーベット)ダイアン・ウィースト(ナット)タミー・ブランチャード(イジー)マイルズ・テラー(ジェイソン)ジャンカルロ・エスポジート(オーギー)ジョン・テニー(リック)パトリシア・カレンバー(ペグ)ジュリー・ローレン(デビー)サンドラ・オー(ギャビー)
【解説】
わが子の命を奪った少年との交流を通して悲しみを乗り越えようとする母親を、ニコール・キッドマンが演じる感動の人間ドラマ。ピューリッツァー賞受賞の戯曲を基に劇作家のデヴィッド・リンゼイ=アベアー自身が脚本を手掛け、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督が映画化。共演は、『サンキュー・スモーキング』のアーロン・エッカート、『ハンナとその姉妹』のダイアン・ウィースト。絶望の中でも前向きに生きようとする女性を体現したニコールの繊細な演技に魅了される。
【あらすじ】
郊外に暮らすベッカ(ニコール・キッドマン)とハウィー(アーロン・エッカート)夫妻は、愛する息子を交通事故で失った悲しみから立ち直れず、夫婦の関係もぎこちなくなっていた。そんなある日、ベッカは息子の命を奪ったティーンエイジャーの少年と遭遇し、たびたび会うようになる。
(シネマトゥデイ)
【感想】
鑑賞予定にはなかったのですが、タイミングよく見られたので鑑賞しました。
子供を亡くした夫婦の話とか、ニコール・キッドマンの固い表情とか、あまり気は進まなかったけど、とてもいい映画でした。
久しぶりに泣きました。
郊外のステキな家に暮らすベッカ(ニコール・キッドマン)とハウィー(アーロン・エッカート)の夫婦。
庭いじりをするベッカに隣の奥さんがディナーに誘う。
やんわり断るベッカ。
この夫婦は、8ヶ月前に3歳の息子を亡くしていた。
犬を追いかけて門を飛び出して、ティーンエージャーが運転する車にはねられ死んだのだ。
同じ親でも悲しみの癒し方は違う。
ベッカは息子の遺したものを片付け目の前からなくそうとする。
ハウィーはスマートフォンで撮った息子のビデオを繰り返し見ていた。
子供を亡くした会も、ハウィーには慰めなのに、ベッカには偽善に思えて耐えられない。
ベッカの妹のイギーが妊娠した。
息子の服を洗濯して実家に持って行くベッカ。
「服代もバカにならないわよ」と高飛車に言うが、イギーに「まだ早いし、男の子だとは限らないし、ダニーの服を着て走り回っているのを見たくないわ」と言われてしまう。
本当にそうだ。
ダニーの服を着た子供が走り回るのを見るのは耐えられないだろう。
ベッカが落ち込んで帰る道、運転中の車から、スクールバスに乗っている加害者のジェイソン(マイルズ・テラー)をみつける。
あとを付けて行き、図書館まで付ける。
ジェイソンの返した「並行宇宙」を借りて帰り読み始める。
ベッカはまたジェイソンの家の近くまで行き、ジェイソンに声をかけられる。
二人はときどき公園で会うようになり、ベッカはそれが日課となった。
ベッカが「並行宇宙」を読んでいるというと、ジェイソンはその本から発想を得てコミックを書いているという。
タイトルが「ラビット・ホール」。
完成したら読ませると約束した。
ジェイソン(左)とベッカ
ハウィーは、子供を亡くした親の会で知り合ったギャビー(サンドラ・オー)と接近していき、心にぽっかりあいた穴を埋めようとしていた。
☆ネタバレ
ベッカは、息子の思い出に溢れた家にいるのが辛くてたまらないので、家を売ることをハウィーに提案するが、ハウィーは受け入れられない。
その上、ベッカの操作ミスでスマートフォンの映像まで消えてしまい、二人は口論する。
しかし、ハウィーは折れて家を売ることにし、その代わりにベッカの実家に預けられていた犬を取り戻す。
そこへ、できあがったコミックを持ってジェイソンが自宅にやってきた。
ジェイソンを見て激怒するハウィー。
自分に内緒で会っていたベッカにも怒る。
自分を押さえられない。
ハウィーは会に出かけると嘘をついてギャビーに会いに行く。
ベッカもジェイソンにコミックを返しに出かけた。
ジェイソンは卒業式に行くところだった。
それを車の中からかいま見たベッカは声を上げて泣いた。
泣きつかれて眠り、起きたときにジェイソンが心配そうにのぞいていた。
二人は公園に行き、パラレルワールドの話をする。
宇宙には自分によく似た人がいて、今は悲劇のバージョンだけど、幸せのバージョンの自分もいる。
そうかもしれないと、ベッカは思う。
ギャビーとの逢瀬を思いとどまって戻って来たハウィーに、ベッカはバーベキューパーティを提案する。
この8ヶ月、声もかけて来ない親友夫婦にもこちらから声をかけて、子供も一緒に来てもらい、誕生日プレゼントも渡して、妹とその恋人や母も呼んで、誰かがダニーのことを話題にするまで待とう。
みんなが帰ったそのあとは…。
涙。
これは、私の涙です。
二人はそっと手を握り合って、日が暮れていくのを見ていました。
でも、そうやってこの夫婦は悲しみを乗り越えていくのだろうなあと思いました。
都合の良い奇跡なんて起こらないもの。
ベッカの母親役のダイアン・ウィーストがいいよ。
自分も息子を亡くしているの。
ベッカの兄なんだけど、30歳も過ぎていて、麻薬中毒で、ベッカには「兄と同列に論じないで」ってきつく言われるんだけど、子供を亡くした親の心は同じなんだよって。
ベッカのこともすごく愛しているのがわかる、母の愛を感じました。
ダイアン・ウィースト
ベッカは、たぶん下町に育って、上昇志向の強い女性だったのでしょうね。
エリートの夫と郊外の豪邸、そしてかわいい息子と、欲しいものはなんでも手に入れてきたのでしょう。
絵に書いたような幸せ。
それがある日突然、最愛の息子の死という形で悲劇に見舞われるのです。
認めることができない不幸のどん底。
不思議の国のアリスのウサギの穴に落ちたような気持ちでしょう。
それを「これは悲劇のバージョン、パラレルワールドには幸せなバージョンもある」と思い至るのです。
悲しい思いだけど、そんなところからでも、人は生きていかなければならないんだなあ。
ニコールが、勝ち気で上昇志向の高いベッカを等身大で演じていて、とても好感が持てました。
監督は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル。
私は、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」も「ショートバス」も大好きです。
この作品とは全然おもむきが違うので、とっても驚きだけど、才能があるんですね。
すごい!!