マダムようの映画日記

毎日せっせと映画を見ているので、日記形式で記録していきたいと思います。ネタバレありです。コメントは事前承認が必要です。

宮廷画家ゴヤはみた

2008-10-26 12:20:16 | 映画ー劇場鑑賞
ー宮廷画家ゴヤは見たーGOYA'S GHOSTS
2006年 アメリカ/スペイン
ミロス・フォアマン監督 ハビエル・バルデム(ロレンソ神父)
ナタリー・ポートマン(イネス・ビルバトゥア/アシリア)ステラン・スカルスガルド(フランシスコ・デ・ゴヤ)ランディ・クエイド(国王カルロス4世)ミシェル・ロンズデール(異端審問所長)ホセ・ルイス・ゴメス(トマス・ビルバトゥア)マベル・リベラ(マリア・イザベル・ビルバトゥア)

【解説】
アカデミー賞監督賞などを受賞したミロス・フォアマン監督が、スペインの天才画家ゴヤの目を通して人間の真実、愛の本質を見つめた感動作。ゴヤが描いた2枚の肖像画のモデルたちがたどる数奇な運命を、18世紀末から19世紀前半の動乱のスペイン史を背景に描く。『ノーカントリー』のハビエル・バルデム、若手実力派女優ナタリー・ポートマン、『エクソシスト ビギニング』のステラン・スカルスガルドら国際派キャストが織り成す重厚なドラマに圧倒される。(シネマトゥデイ)

【あらすじ】
18世紀末スペイン、ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は国王カルロス4世(ランディ・クエイド)の宮廷画家に任命される一方、権力や社会を批判する絵画も描いていた。ある日、彼のミューズであるイネス(ナタリー・ポートマン)が、ロレンソ神父(ハビエル・バルデム)が指揮する異端審問所にとらわれてしまう。そして彼女を救おうとしたゴヤが見たものとは……。(シネマトゥデイ)

【感想】
この映画を見終わって、異端審問とか、拷問ととか、こういうヨーロッパの長い歴史が根っこにあって、あのアウシュビッツの悲劇が起きたんではないか、と思ったのですが、実際、監督のミロス・フォアマンの両親はアウシュビッツで亡くなったそうです。
それに加えて、監督自身が若い時にチェコにいて、「プラハの春」を体験してアメリカに渡り、「カッコーの巣の上で」でアカデミー賞とGG賞の監督賞を受賞しています。

私の大好きな「アマデウス」の監督でもあります。

それを考えると、この作品も彼らしい作品だなあと思いました。

異端審問とか、拷問とか、まるで前世の亡霊のような言葉ですが、監督が経験したファシズムの中にも、共産党の独裁の中にも潜んでいる、人間の救いがたい残虐性が、誰の中にもあるのだという危うさを、私たちに再認識させてくれているようでした。

「この作品のイネスの拘留は、横田めぐみさんの拉致にも通じる」と一般の人のレビューで読みましたが、本当にそうだと、あらためて憤りを感じました。

 イネス(ナタリーポートマン)
そして、その対極にある、人の純真無垢な心の美しさ。
これは、イネス(ナタリー・ポートマン)が体現しているのですが、その姿も心も拷問と長い拘置生活でボロボロになりながらも、決して失われない心の清らかさには、こころを揺すぶられました。
牢屋で鎖に繋がれ、人としての尊厳をすべて打ち破られた中でも、彼女は家族を思い、家族の愛に感謝します。
そして、とらわれの長い年月を経て、自分自身を失っても、彼女の中に残る人間であることの証明。
他者を愛する心は失われていなかったのです。

それを宮廷画家ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)の目を通して、浮かび上がらせるという手法が、すごく成功していました。

下手をすると、興味本位の恐いもの見たさの作品に成り下がってしまいそうなテーマを、とてもバランスよくしかも楽しめる作品に仕上げていました。

そう、見終わった後の不快感はまるでありませんので、安心してみていただきたいと思います。

☆ネタバレ
ゴヤのアトリエには、様々な絵画があったが、その中に、裕福な商人の娘イネスと、教会の重鎮ロレンソ神父(ハビエル・バルデム)の肖像画もあった。

 ロレンソ神父(ハビエル・バルデム)

イネスは、ゴヤが描く教会の壁画の天使のモデルにも使われているほど、美しい少女でした。

ゴヤは宮廷画家として、王室に使えている身でありながら、自らの心情を曲げるのも最小減にとどめるし、自由に教会の風刺画も描いて庶民の支持を得るような一面も持っていました。

あろうことか、その天使のようなイネスが異端審問会に呼び出され、そのまま帰らなくなってしまった。

 イネスと兄たち

兄と遊びに行った居酒屋で、イネスはブタを食べなかった。
小人の足にキスで祝福して、施しをした。
どちらの行動が問題だったのか、内偵していた審問会の役人の報告が本部に届いてしまったのだった。

「なぜ、ブタを食べなかったのか?」審問官は優しく問いかけた。
「口に合わなかったからです」イネスは無邪気にそう答えたが、聴聞という名の拷問にかけられた。
「真実を述べよ」
苦痛に悲鳴を上げながら尋ねるイネス「真実とは何ですか?」
とうとうイネスは自分は祖先のユダヤ教を信仰していたと告白してしまう。

 イネスの両親

イネスの父は、ゴヤを通じてロレンソ神父を自宅に招く。
拷問による自白は真実ではないと、神父に迫るが、神父はそれこそが真実だという。

父は、ゴヤを追い出し、ロレンソを拷問にかけ、ウソの自白をさせて、拷問の不当性を証明し、イネスの救出をロレンソに約束させるが、告白してしまった囚人の釈放は論外と、父のお金だけを取って、教会は知らん顔。

さすがに哀れと思ったロレンソはイネスを尋ねるが、同情を装って関係を持った後、行方をくらましてしまう。

そして、15年後、フランスでは革命が起き、ナポレオンが天下を取った。
スペインにもフランス軍が攻めて来て、解放とは名ばかりの侵略が行われた。

イネスの実家も略奪され、皆殺しとなった。

しかし、異端審問会は解散となり、囚人たちは開放され、がりがりの体、顔もみにくく歪んで別人と成り果てたイネスも釈放された。

今は聾者となったゴヤを尋ね、「獄中で産んだ赤ちゃんを捜してくれ」と哀願する。

 ゴヤが描いた王様の一家の絵の前に、侵略者として帰ってきたロレンソ。

一方ロレンソは、フランス革命の英雄として、スペイン教会に乗り込んできた。
自由と権力を謳歌する彼には、愛する妻と家族があった。

ゴヤはイネスを連れてロレンソに会いにきた。
「私たちの赤ちゃんはどこなの?」と問いかけるイネス。
ロレンソは非情にも、イネスを精神病の施設に送ってしまった。

ある日ゴヤは公園で、若い時のイネスと瓜二つの少女をみつけた。
「あれこそがイネスの娘」と確信するゴヤ。

しかし、歴史はまた、動く。
フランスの支配にごうを煮やした民衆が、イギリス軍の助けを借りて王制を復古させたのだ。

すばやく逃げ出すロレンソ。
しかし、家族は逃がしたが自分は捕まってしまった。

酒場で拾った赤ちゃんを、自分の赤ちゃんだと思い込んでいる哀れなイネス。
ロレンソが捕まったのも知らず、彼を探しまわる。
ロレンソにその赤ちゃんを会わせて、喜ばせたいという気持ちしかない。
「あの人は、まだ知らないの」と無邪気に言うイネスの笑顔に、涙があふれました。

ふたたび権力を握った教会から死刑判決を受けるロレンソ。
「改心したら命を助けよう」という言葉にも、もう従う気力さえない。
それとも、こんな極悪非道、冷徹な男にも、人間としての誇りが一欠片だけ残されていたのかー?
抜け殻のようになって公開処刑されてしまったロレンソ。

荷馬車に引かれたロレンソの手を握り、嬉しそうに歩いて行くイネスの後を、ゴヤがそっとついて行きました。

バルデムが悪人を演じると、ノーカントリーの時もそうだったけど、どこかしらユーモアがただよいます。

ナタリー・ポートマンも細い裸身をさらしての大熱演。

そして、要のゴヤ役、ステラン・スカルスガルド(名前が難しくて覚えられません)はパイレーツ・カリビアンでおなじみ、ウィル(オーランド・ブルーム)の父親役です。


パリ、恋人たちの2日間

2008-10-26 11:37:56 | 映画ーDVD
ーパリ、恋人たちの2日間ー2 DAYS IN PARIS
2007年 フランス/ドイツ
ジュリー・デルピー監督・脚本・音楽
ジュリー・デルピー(マリオン)アダム・ゴールドバーグ(ジャック)ダニエル・ブリュール(ルーカス)マリー・ピレ(アンナ)アルベール・デルピー(ジャノ)アレクシア・ランドー(ローズ)アダン・ホドロフスキー(マチュー)アレックス・ナオン(マニュ)

【解説】
パリを訪れた倦怠(けんたい)期のフランス人とアメリカ人のカップルがさまざまな危機に遭遇するラブコメディー。この2人の間に横たわる大きなカルチャーギャップを、日常のささいな事柄から面白おかしく検証する。『ビフォア・サンセット』のジュリー・デルピーは本作で監督、脚本、音楽、編集、主演を担当。その才能をいかんなく発揮した。テンポの良い会話とともに普段着のパリの風景も堪能できる。(シネマトゥデイ)

【あらすじ】
ニューヨーク在住のフランス人写真家マリオン(ジュリー・デルピー)と、アメリカ人インテリアデザイナーのジャック(アダム・ゴールドバーグ)は付き合って2年になる。彼らはそのマンネリな関係をリフレッシュしようとベニス旅行に出かけ、帰りに2日間パリに立ち寄ることに。だが到着早々フランス語のできないジャックは不機嫌になり……。(シネマトゥデイ)

【感想】
「恋人たちの距離(ディスタンス)」「ビフォア・サンセット」は私の大好きな作品です。

さて、この2作を踏まえて、ジュリー・デルピーが脚本・制作・編集・音楽まで勤めた、監督初作品となる本作品や如何に?

最初から最後まで会話の嵐。
これは、付き合って2年目、ロマンティックな時代は過ぎた、倦怠期の恋人たちを扱っているので、前述の作品のような初々しさや、謙虚さ恥じらいなどは皆無です。

ホンネの恋人たち、ホンネのパリ。
かなり怖いです。

でも、考えてみれば、パリと言えども生身の人間たちが生きている場所。
日常生活なんだから、これが普通ですよね。
ドラマも生まれなければ、きれいごともない。
マリオン(ジュリー・デルピー)が叫ぶ。
「これが、パリ!!」なのかも。

よい意味で裏切られた感のある楽しい作品。
うちの夫も、普段は男女の会話劇なんてまるで興味のない人ですが、面白がってみていました。

皮肉とユーモア、大阪人には共通しているのかもしれません。
また、男と女では、見方も分かれるでしょうね。
タテマエで生きたい人と、ホンネで生きたい人との評価もわかれるでしょう。

若い人から夢を奪ってはいけませんので、中年以降の人にはお薦めだと思います。

ちなみに、恋人役のアダム・ゴールドバーグ(ジャック)はジュリーの元恋人、両親役には実の両親を配置しています。
なかなか、やるよねー。