カンボジアの食材 3 昆虫食とクモなど

カンボジアから   金森正臣(2005.12.22.)

カンボジアの食材 3 昆虫食とクモなど

写真:手前のトレイの上の茶色がタガメ、黒いのがゲンゴロウ。次のトレイの黒いのがクモ、次いで茶色いのがコウロギ。次のトレイは、茶色がカイコの蛹、黒いのがクモ。一番奥のトレイは、コオロギ。プノンペンのセントラルマーケットにて。

 カンボジアでは、様々な昆虫が食卓に上る。タガメ、コオロギ、ゲンゴロウ、カイコの蛹、アリなど。昆虫ではないがクモも見られる。
 私は、信州の山の中育ちで、いろいろな昆虫などを食する文化の地域であった。加えて、戦後の何も無い時期で、様々な物を食べることには慣れている。しかしながら上に挙げたたうち、クモだけは対象になっていなかった。カンボジアの食文化の、「食材の広さ」は際立っている様に思われる。

タガメ(Lethocerus sp.)
 日本のタガメと同属であるが、大きさはやや大きい様に感じる。日本では数が少なくなって、計測して平均値を得るほどは捕獲できない貴重種になっている。農薬の影響が徐々に低下して、一部の地域ではかなり復活してきている。
 タガメ類は水生であるが、カメムシの仲間である。このためかなり強い臭気があり、人によっては好まれない。タイなどではこの臭いを好む人は、乾燥したタガメを、粉にして各種食事に振りかけるという。カンボジアにはその様な食べ方はなく、専ら本体そのものが、姿作りでそのまま出る。

 唐揚げ状態あるいは乾煎り状態でだされる。タガメは、肉食動物で、他の動物に口吻を差し込んで、吸い取る。このために口器は硬いので、まずこれを取り除き、そのあとはバリバリと頭から食べる方法がある。また人によっては、口器を取り除いて後、胸部と腹部を離し、両側の内部を吸い出す。この場合には、頭部胸部の硬い部分や羽は残ることになる。カンボジアでは、ビールなどの摘みの一品として食べる。市場や夜のビヤーレストランに売りに来る。だいたい1匹が、500-1000リエル(15円から30円弱)ぐらいである。
 個体に寄るのか調理状態に寄るのか、あまり強烈ではないが、あるものにはカメムシ特有の臭気が残っている。ほとんど臭気の無いものもある。

 皆さんはカメムシを食べたことがおありだろうか。日本ではわざわざ食べたりしないが、時によると口の中に飛び込んできてしまい、口を閉じると強烈な刺激に襲われることがある。
 学生時代に谷川岳の谷川温泉に、山岳部の所有する「白樺小屋」があり、春夏秋冬よく訪れた。どこかの鉱山の作業小屋を譲り受けたもので、全ての炊事や暖房は薪で賄われていた。そのため小屋の周囲には、冬季用の薪が積み上げられていた。秋になると周囲が寒くなるので、カメムシたちはこの薪の中に潜り込む。秋の終わりから初冬に訪れて、中でストーブを燃すと、温度が上がりカメムシが活躍するところとなる。外から持ち込んだ薪の中にも潜り込んでいるし、窓の隙間からも潜り込んでくる。
 薄暗がりで食事をしていたり、大口を開けて寝ていたりするとカメムシが口の中に入り、噛み潰した途端に、目も開けられないほど強烈な刺激に見舞われる。タガメの臭いはカメムシの臭いほど刺激は強くないが、カメムシの臭いを思い起こさせる。誰がこの食材を食べる様にしたかは定かではないが、なかなか勇気のある行動である。ナマコや納豆なども、勇気のある人がいたものだと感心するが、タガメもそんな部類である。

コオロギ
 コオロギは、いろいろな種類が食されていてにわかに判別しがたい。大きなものは日本のエンマコオロギの2倍程度はある。食べているので小さな方は、日本のエンマコウロギくらいの大きさである。日本ではコウロギは、あまり食べられていない様に思われる。しかし同じ直翅目のイナゴは、各地で食べられているから同じ様なものだ。イナゴよりも柔らかく、腹部にボリュームもあって食べ応えがある。
 揚げる或いは蒸したあと味付けをしてあり、佃煮の様なものだ。イナゴの味付けよりは薄くて、ビールの摘みには結構である。一掴みくらい入る缶で一杯1000リエル(30円弱)くらいである

 農家などでは、採集するのを楽しみにしており、新月の時が良いという。捕獲の仕方が、夜間に外に出て白い布を張って光を当て、集まってくるところを捕らえるという。夜間採集と同じ理由で、多分月の無い暗い夜がよいのであろう。多い時には一晩で10kg以上も捕獲するという。現金収入のために、出荷する家も多い。自分の家で食べる時には、脚と羽はむしってあり、食べ易くなっている。売っている物より手がかかっており、上等かも知れない。
 シーズン的には乾期ではなく、雨期が始まって間もなく始まり、半年ぐらいは続く様である。12月はシーズンの最後の頃と思われる。

 日本では、比較的昆虫食は少ない。しかし動物学的に見ると、エビ、カニなどの甲殻類の発展したものであり、同一の系統にある。従って味の基本は、同じ様な物質で構成されていると思われる。やや外骨格が発達して、筋肉の部分が少ないが。

ゲンゴロウ
 ゲンゴロウは、コオロギと同じく市場や夜のビヤホールで売りに来るものである。しかしコオロギよりは一般的ではないのは、量が少ないのであろうか。ある時期には、市場にも売られている。ビヤホールなどに売りに来るのは、一掴み1000リエルくらいである。
これも頭部と腹部の外骨格、前翅は硬いので外して食べている。味付けはタガメと同じ様なものである。

 信州の天竜川流域や各所では、ゲンゴロウの幼虫を食用にしている。トビケラなどの水生昆虫の幼虫と一緒に、佃煮様にして保存されていることもある。やはり酒の肴に適している。幼虫と成虫ではまるで味が異なり、幼虫の方が美味い。カワゲラなどは不完全変態のため、羽化直前の幼虫は、羽化後の繁殖のために脂肪などを蓄えてあり、一段と味がよい。ゲンゴロウの仲間は、完全変態なので羽化してからも栄養を補給しているから、幼虫が特に美味いわけでもない。なかなか大きくて食べ応えはある。

 甲虫の幼虫では、カミキリムシの幼虫が美味い。信州ではブドウムシと呼ぶ地方もあり、ブドウの蔓の芯を食べている。他の木であっても、薪を割っているときに、転がり出てくることがある。或いはカミキリムシの食った穴があると、一生懸命で探す。特に冬には脂肪分を蓄えており、焼くと香ばしくて美味しい。アフリカでも、現地の人達はこの虫が好きで、見つけると同じ様な食べ方をしていた。

カイコの蛹
 カイコの蛹は、戦後の食糧難に時代には、重要な栄養源であった。家庭で捕れる蛹は、真綿などを捕った後や、糸引きをした時に捕れる程度で量は多くなかった。しかし佃煮様にすると結構な味だった。蛹は、繁殖のための栄養を貯めているから、栄養学的にも優れた食材である。家庭では少ないので油までは取らなかったが、蛹の油も売られていた。しかし工場で捕れた蛹は、時間が経って油が酸化しており、特有な臭いがあって美味いとは思えなかった。

 カンボジアでは、やや薄味の佃煮様にして売っている。味は悪くない。多分カンボジアの場合には、糸取りが家内工業的に行われており、蛹を捕ってから調理するまでの時間が短く、劣化が少ないためであろう。蛹の様なものは、死んでからの変質は早い。市場でも売っているし、夜のビヤがーホールに売りに来る。だいたい片手で掴めるぐらいで1000リエルくらいである。
 カンボジアのカイコの糸は、金色である。繭も綺麗な黄色をしている。特に取り立ての濡れた糸は、見事な金色である。しかし退色が激しいのか、自然色の加工は少ない。自然色の暖簾を1枚持っているが、直ぐに退色が進みそうでなかなか掛けられない。やはりケチなのだろうか。繭は日本のものよりもかなり小さく、蛹も小さい。だいたい1サイクルは、35日前後である。私も沢山の場所を見ているわけではない。数カ所で見たところでは、1件の農家が飼育している量は少なく、繭にして数キログラムと言ったところであろうか。

 韓国でも寒い冬に湯気を立てながら良く路上で売られており、しばしば懐かしくて買った。寒い冬でも、ビールを片手に暑い蛹を頬張りながら歩くのは、何となく楽しみであった。

クモ
 クモは昆虫ではないが、節足動物と言うことで、近縁なので一緒にしておこう。種類としては最も大型の、タランチュラに近いと思っていたが、全く違うグループの様な気がする。シンガポールの蜘蛛の図鑑があるので、何とか属ぐらいまでは分かるかと思ったが、まるでお手上げ。インターネットでも調べることは出来なかった。参りました!!
 この蜘蛛は大型で、地下に穴を掘ってか、他の動物の穴を借りてか、巣を造る。よく見られるのは、石の下などである。かなり色々食べているらしい。聞くところに依ると小さなトカゲぐらいまでは食べるという。
 この蜘蛛は、プノンペンからシェムリアップに向かう国道6号線の分岐点付近では、生きたものが売られている。勿論調理したものも売られている。色は黒色で荒い毛があり、オドロオドロしいが、咬まれても死ぬことはない様だ。

 蜘蛛は、油で揚げて味が付けてある様に思われるが、調理法は確かではない。普通私は、食べると多くの調理法は理解できるのだが、蜘蛛の場合には不明な点が多い。腹部もあまり柔らかくはないので、ドロドロ感はない。わりあいにカラリとしており、適度の味付けになっている。
 ビヤホールなどに売りに来るものは、だいたい1匹が、500から1000リエルくらいである。市場で売っているものも大差はない。最初に食べた時には、国道6号線の分岐付近であったが、教員養成校の若い女性教官が買ってくれた。彼女も一緒に食べていた。カンボジア人でも食べない人もおり、様々である。
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