アリマシ爺さん              

アリマシ爺さん              2009.7.1. 金森正臣

 最近アフリカのタンザニアやザイールから便りがきた。なんだか乾いたサバンナが懐かしくなった。若手の研究者が、私の調査していたタンザニアの奥地にいるらしい。昔トラッカー(道案内や荷物運び、動物追跡などの手伝いをする)に雇っていた、アリマシ老人のことが気になっていて、問い合わせたらすぐに返事が返って来た。まだ健在であると言う。

 アリマシ老人は、私が初めて雇った1995年ごろ、既に60歳ぐらいであった。その後63歳になったと聞いたことがあるが、未だに63歳だと言う。あれから年を取っていない様だ。若者たちに、ムゼー・アリマシ(アリマシ爺さん)と呼ばれており、慕われていた。彼は字も書けないし、数字も分からないので、給料を渡すと、若者たちが確認して、大丈夫だと言って渡していた。やはりアリマシは、数が分からない様だ。なんだかいつまでも若くて、「ジャンボ、ジャンボ、ジャンボブアナ」(コンニチワ、コンニチワ、旦那さん)と元気な姿を見せそうで幸せな気分になる。

 彼は、森の中でハチミツを取って、村に出て売り、生活をしていた男で、もちろん学校とは無縁な男である。従って計算はほとんど出来ないが、彼が仕掛けているムニンガ(ハチに巣を作らせる空洞の丸太)の数はきちんとわかっており、135本仕掛けていると言っていた。雇った時には、もう力は衰えていたが、森で生きる知恵は抜群で、テント場に夜間に来たゾウの大群やサファリアリ(正式にはリョコウアリ?、移動性のアリで大群をなす)の窮地から逃れられたのは、彼の経験である。若者たちも、木の利用の仕方などは、アリマシに聞いていた。

 タンザニアの平均寿命は、50歳ぐらいだったと思うが、結構長寿の老人が多い。いつも世話になった、ムゼー・ジェームスも93歳だと言っていたし、聞き込み調査をした時には、100歳になる老人から話を聞いた。孫か非孫か分からないが、小学生ぐらいの子どもが来て、牛糞の乾いたのを拾い集め、火を付けて暖を取らせ、乾いたタバコの葉を取って来て、巻いて吸わせていた。南の2度ぐらいの赤道直下でも、海抜標高が1600mぐらいあると、朝の冷え込みは激しい。この老人も全くボケは無く、確かな記憶を持っていた。ジェームス爺さんは、トウジンビエの酒を仕込んでおいて、夜には飲ませてくれた。年寄りたちは皆大切にされ、元気で、ほとんどボケていない。日本はどこかおかしく、先進国とは何なんだろうと思っている。
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