休廃止鉱山で発生する坑廃水は有害金属を含むため、鉱害防止対策として一般的に中和剤を用いた処理が行われている。
この処理では、多くの薬剤やエネルギーの投入を必要とすることから、自然の浄化作用を利用した環境負荷が低く低コストの処理技術の開発が求められている。
マンガン(Mn)は坑廃水に含まれる主要な有害金属の一つだが、Mn酸化細菌と呼ばれる微生物はMn(II)イオンを酸化してMn(IV)酸化物にすることで不溶化させるため、坑廃水処理への活用が期待されてきた。
しかし一方で、Mn酸化細菌を活用した廃水処理では細菌の栄養となる有機物を添加する必要があり、有機物に乏しい坑廃水に有機物をいかに供給するかが大きな課題になってきた。
秋田県立大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループは、Mn酸化細菌を活用した坑廃水処理システムを開発し、パイロットスケールで現地試験を実施してきた結果、有機物無供給、処理時間12時間の運転条件において、20 mg/LのMn(II)イオンに対して98%以上の除去率を達成することができた。
これまでMn酸化細菌を利用した廃水処理では有機物供給が必要と考えられてきたが、同研究によって、有機物を供給しなくても坑廃水を高効率で処理できることが明らかになった。
さらに微生物群集の遺伝子解析により、この処理システム内には、金属から電子を取り込んでエネルギー代謝や炭酸固定を行うとみられる細菌群が優占していることが判明した。
同研究により、特定の細菌の働きによってMn(II)が酸化されると同時に他の細菌が必要とする有機物が供給される、という微生物生態系の新しいしくみを提示することができた。
この研究成果をもとに今後、低環境負荷で低コストの新しい坑廃水処理技術の構築が期待される。<産業技術総合研究所(産総研)>