理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターバイオ高分子研究チームのヌル・アリア・オクタビアニ特別研究員、沼田圭司チームリーダー、放射光科学研究センターNMR先端応用・外部共用チームの松上明正研究員、林文晶上級研究員らの研究チームは、クモ糸の紡糸過程において、種々のイオンがシルクタンパク質に及ぼす影響を明らかにした。
同研究成果は、クモ糸の紡糸機構を明らかにする一連の研究や、人工的に強靭なクモ糸を製造する技術開発に貢献すると期待できる。
従来のクモ糸の紡糸過程において、どのようなイオンがシルクタンパク質の構造に寄与しているかは分かっていなかった。
今回、同研究チームは、クモ糸の主成分であるシルクタンパク質が持つ非晶領域と結晶領域の繰り返し配列を遺伝子組換え技術で合成し、クモ糸が形成される直前の溶液状態を試験管内で再現した。
異なるイオンを含む環境下でシルクタンパク質の分子構造を解析した結果、ナトリウムイオンなどのカオトロピックイオンには、シルクタンパク質の分子内および分子間相互作用を抑制し、シルクタンパク質を溶かす効果がある一方、リン酸イオンなどのコスモトロピックイオンは、アミノ酸残基のグリシンを多く含む領域における水素結合の形成を促進し、ベータシート構造の形成に必須であることが分かった。