はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

卒業

2022-07-30 23:35:59 | はがき随筆
 世の中にはいろんな卒業があるものだ。「東京卒業」。30年前だったか、あるドラマで主人公がつぶやく言葉だったと思う。都会に疲れて夢半ばで故郷に帰ろうと考えていた、若き日の自分にびったりあてはまった。
 「酒卒業」。これはまだまだ私にはできそうにない。 
 「黒髪卒業」。今年の3月ごろ、美容室前の道路にずらりとのぼり旗が立っていた。高校を卒業する人たちへ染髪をすすめる広告なのだろう。さあこれからおしゃれをと考えている子たちへのメッセージ。なかなかうまいなと思った。そもそも、こちとら「髪の毛卒業」なのだが。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(53) 2022.7.20 毎日新聞鹿児島版掲載

納得の妥結

2022-07-30 23:28:08 | はがき随筆
 お手伝いの後の小2と小6の孫の駄賃は100円と決めて数年。2人の貯金箱には硬貨が貯まってきた。報酬目当てになってもいけないと、「今日からお駄賃は10円にします。じいじは貧しいので」と提案すると、気の強い小2の孫娘は「ダメ」とひと言。妻が「急に10円はかわいそう。中をとって50円にしたら」と言うが孫は譲らない。
 夕方、お駄賃用の10円硬貨を1枚ずつ渡そうとすると2枚渡した時点で「これでいい」と言う。20円は彼女なりの私を思いやる額だってのだろう。
 彼女に負けて「ほら、50円」と中間額で納得妥結となった。
 宮崎市 杉田茂延(70) 2022.7.19 毎日新聞鹿児島版掲載

浴衣

2022-07-30 23:21:02 | はがき随筆
 「こころまで藍しみわたる浴衣かな」7月4日付の「こころの歳時記」に長谷川櫂先生の句が取り上げられていて、来し方に思いを馳せながら詠みました。
 昭和40年代、主人の勤務先の職員住宅では夏祭りが行われ、各家庭から親子とも浴衣姿に団扇を持ち参加し、輪になり踊りました。 
 我が家も子供の浴衣姿に目を細め、私も藍染めの浴衣に身を包み参加しました。
 句から遠いなつかしい思い出をいただきました。
 早くコロナが終息し、夏祭りに浴衣姿をと願っています。
 熊本市東区 川嶋孝子(83) 2022.7.18 毎日新聞鹿児島版掲載

脱皮

2022-07-30 23:12:22 | はがき随筆
 妹の孫のK君から「修学旅行に行った」と、お土産が届いた。
 中学生の頃までは週末になると我が家に来て、いたずらざんまい。火遊びはするわ、畑に落とし穴は作るわと、まんまとその罠にはまった私は激怒。
 後日「Kです。お小遣いありがとうございました」と電話がきたので、「旅行はどげんじゃったね」といつものようにくだけた調子でしゃべると「ハイありがとうございます。楽しかったです」と大人びた返事に私は少し戸惑った。思えばK君も高校3年生。子供から大人へと脱皮する年ごろ。それにしてもつまんねえあ。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(74) 2022.7.16 毎日新聞鹿児島版掲載

無窮花

2022-07-30 23:03:53 | はがき随筆
 夫は晩年、海外旅行をしたいとしきりに言うようになった。そこでゆったり韓国の古都慶州に行くことに。お目当ては国立博物館。見学を終えホテルまでタクシーを探していたら、折よくバスが来たので慌てて飛び乗った。ところが小銭がない。ほとほと困ってお札をだしたら、運転手さんはもうもらったと言って、フロントガラス越しに前方の青年を指さした。彼が私たちの分も払って降りたそうだ。次第に遠ざかるその後ろ姿と道の両側に咲き乱れる無窮花。あれから20年余り。日本名木槿咲き始める7月になるとこの光景がよみがえる。
 熊本市中央区 増永陽(91) 2022.7.15 毎日新聞鹿児島版掲載

合歓の花

2022-07-30 22:55:51 | はがき随筆
 霧島市の山々に雷鳴が轟き、いよいよ梅雨明けも近くなると、林間住宅地のあちこちで合歓の花が咲き始めます。細かい葉が鳥の羽のように付き、夜には折りたたんで垂れ、まるで眠ったかのよう。また、薄桃色と白の混じった花はさながら刷毛のようでふわふわ柔らかく、どこまでも飛んで行くかと思われます。
 この合歓の花は遠く万葉集にも見られ、江戸時代には芭蕉が「象潟や 雨に西施が ねぶの花」と詠みました。
 さあ、私も静かな雨音を聞きながら、甘美な白日夢の世界をさまようことにしましょう。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(72) 2022.7.14 毎日新聞鹿児島版掲載

参議院の世論調査

2022-07-30 22:48:33 | はがき随筆
 土曜日の午後。洗髪中に電話。泡だらけの頭なので放っておいたら長々と鳴り続ける。慌てて洗い待機していたら再び電話。「こちらは情報センター。参院選について質問を」と言う。
 そして夕方、また電話が鳴る。「こちら○○、参院選について質問」とテレビ局からだった。
 投票まで1週間となり調査する方は熱が入るであろう。しかし、何で私にこうも聞きたいのだろうかと一人こぼす。
 次の日、電話にでると通信社である。参院選の……でプツンと切り、お父さんゴメンと心の中で手を合わせる。父の関係していた通信社だったのに……。
 宮崎県延岡市 源島啓子(74) 2022.7.13 毎日新聞鹿児島版掲載

会計を待ちながら

2022-07-30 22:37:49 | はがき随筆
 コンビニで会計を待ちながら大好きなドラマを思い出す。平成十九年のNHKドラマ「ハゲタカ」で数百億円を自在に操り企業買収を続ける外資ファンドの敏腕マネージャー氏が、コーヒー代の260円をきっちり硬貨でテーブルに置く。いいシーンだなあ。奢るでもなく、釣り銭不要でもなく、お金に対する考え方がわかる。現金には感情が映る。電子マネーだとあの場面はどうなるんだろう。
 「あの……」。店員さんの声で気づくと目の前に支払い方法入力を求める画面。慌てる私の手から硬貨が床に転がり落ちる。やはり現金には感情が映る。
 熊本市西区 矢野小百合(55) 2022.7.12 毎日新聞鹿児島版掲載

挿し木

2022-07-30 22:23:50 | はがき随筆
 挿し木した椿も背丈程に成長し、今年も見事な花を咲かせた。粘土探しに出掛けていた夫が挿し木が成功するのを楽しみにしていた頃を思い出す。
 深紅の八重椿は大輪で、おおらかに咲き、和菓子を思わせるような濃ピンクの八重咲は、神秘なまでの美しさに、うっとりと眺めていた。「年年歳歳花相似たり」と自然の偉大さに驚く。花木は愛情をもって接すればそれに応えてくれるからうれしい。高木になれば自分で手入れもかなわなくなってきてしまう。
 寄る年波には勝てなくなってきました。
 鹿児島市 竹之内美知子(90) 2022.7.11 毎日新聞鹿児島版掲載

プヨプヨ

2022-07-30 21:26:35 | はがき随筆
 5歳の孫が毎日のように「バアバアと一緒に寝る」とうれしい事を言う。娘が「なぜバアバアがいいの」と尋ねた。「プヨプヨしているから」と孫。ショック! あぜんとした。それって太っていることじゃないか。
 そばで聞いていた夫がニヤッとして「プヨプヨとー」とはやし立てカチンときた。その上妹らにまで知らせる始末。夫と寝ようとしないのでひがんでいるのだ。しかし寝るのはいいが、布団は蹴るは動き回り私を手枕腹枕にして寝た心地がしない。
 いつまで一緒に寝たいと言ってくれるのか。とりあえずプヨプヨをどうにかせねば。 
 宮崎県串間市 林和江(65) 2022.7.10 毎日新聞鹿児島版掲載

かわいい!

2022-07-30 21:18:11 | はがき随筆
 5.6弁の花は芯の方が白く外に向かって薄ピンク。そのグラデーションが上品でかわいい。道端ではじけそうになった種を持ち帰ってばらまいたのが、今夏も庭のあちこちで咲き出した。ヒガンバナ科? 名前は? ハサミ使いに興味を持ち始めた2歳の孫が「僕がおはなチョキチョキする」と言う。安全なハサミで花の終わった茎を切らせた。するとやがて蕾がまたにょっきり出てきた。何と今、三番花が咲いている。花殻摘みという園芸作業はこんな効果をもたらすのだと納得。何度も楽しませてくれる花もちょいちょいやってくる孫もかわいい!
 熊本市中央区 渡邊布威(84) 2022.7.9 毎日新聞鹿児島版掲載 

遼太郎のこと

2022-07-30 21:11:13 | はがき随筆
 15歳を過ぎた遼太郎は、愛犬の名前です。志布志湾の堤防下に捨てられていた子犬が、散歩する僕から離れず家まで来てしまい、カミさんの一声でわが家の家族になった。当時ゴルフ界に爽やかに登場した石川遼から名付けたのが遼太郎。
 動物の子は何をやっても可愛い。カミさんはメロメロで、自分が食べずとも「遼太郎には」と買い与える。気付くと我が家の真ん中に君臨している始末。
 しかし、去年の年明け早々2階の大手術を経験、生還に安堵した結果、一層わがままな老犬になった。お互い老いゆく身、折り合ってゆくしかない。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(82) 2022.7.9 毎日新聞鹿児島版掲載

百年ぬか床

2022-07-30 21:01:35 | はがき随筆
 漬物はおいしい。作るのは楽しい。好評だと嬉しい。
 昨年の冬は大根付けを作った。塩漬けして締めた大根を甘酢に漬け込んだもの。タカノツメが利き過ぎたが、のんべえには好評の手みやげとなった。
 今年の夏はぬか漬けにトライ。米ぬかと塩を基本にコンブとタカノツメを混ぜる。水を加えて程良い固さになったところで。知人から分けてもらった一握りのぬか種を入れる。「祖父母の代から引き継いでいるので百年以上よ」との話。4.5日でフカフカの百年ぬか床となった。
 畑のナス、キュウリがそろそろ収穫で出来るようになった。
 宮崎県延岡市 太田充(68) 2022.7.9 毎日新聞鹿児島版掲載

初夏の山

2022-07-30 20:54:57 | はがき随筆
 春の立田山はまだ緑が浅く、なだらかな丘の流れに見えた。太陽と雨の恵みを存分に受けた木々は繁茂し、どっしりとした風格の山になった。
 山の斜面の一連の建物は緑をバックに白く光り、異国の風景を思わせるハイカラな眺めになった。梅雨の晴れ間の青空には夏雲が力強く湧き、涼風が吹き渡り、ひととき梅雨の蒸し暑さを忘れさせてくれる。
 竹林の竹はぐーんと伸びて奔放にしなっている。お向かいのホームは静かに時を刻み、窓の下のひまわりも。小さなリズムが手をつないで優美なハーモニーを奏でている。 
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2020.7.9 毎日新聞鹿児島版掲載

かわいい手紙

2022-07-30 20:46:27 | はがき随筆
 ある土曜の朝「ガチャン」と玄関のポストの音。なんだろうと開けて見ると、紙を八つ折りにした物がぽろりと落ちた。
 「いつもあそんでくれてありがとう。おじちゃん絵かくのがんばってね~ファイト」と短い手書きに可愛い絵がそえてあった。なんとみくちゃんからの手紙。彼女の素直な心が文に表れ、気持ちが十分に伝わってきた。みくちゃんは時折、アトリエをのぞきにきて「何の絵?」「上手だね」と話し掛けてくれる小1の女の子である。
 僕は決して文も字も上手でないが、誰かにちゃんと伝えようと思う時は手書きが一番かも。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(74) 2022.7.9 毎日新聞鹿児島版掲載