はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

市電内のスマホ

2022-07-28 12:18:40 | はがき随筆
 起点からの市電の客15人。なんと3分の2が座るやいなやスマホを取り出す。ガラケーのメールも使えぬ時代遅れの当方はポカーン。
 次の電停でヨッコラショとステップを上がった高齢女性、隣に座るといきなりスマホ。ほう、こんなお歳の方も……。と、何気なく眺めた画面に出ているのは何かの広報連絡のようで、返信のメールを打たれているらしかったが、せめて乗車時間ぐらいは車窓風景や車内の雰囲気を楽しんでは……と考える当方。でも、「SNS全盛時代。お前こそ絶滅危惧種かも、と気付かなくちゃ」と陰の声がした。
 熊本市東区 中村弘之(86) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

総会屋

2022-07-28 11:44:43 | はがき随筆
 6月は企業の株主総会が多く開催される。昔は総会屋と呼ばれる人たちがいた。福岡では電力会社総会が閉会すると、私のいた建設会社にもやってきた。工事現場に来たら仕事にならないので、支店で総務担当の私が対応した。彼らはまず支店長に面会を求める。次に資材の購入を執拗に迫る。どんなに要求されても、きっぱり断った。
 夜遅く自宅の電話が鳴った。「もう街は歩けないぞ、家族も気を付けろ」と脅す。「録音している」と言うと、すぐ切れた。
 時代は変わった。反社会的勢力への規制が強化され、総会屋の姿も見かけなくなった。
 鹿児島市 田中健一郎(84) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

老いの学問

2022-07-28 11:35:17 | はがき随筆
 暇さえあれば、クロスワードを解く。草花の問題になれば、妻に「この花何だったかね」と聞く。「ネモフィラじゃない」と即座に返事。「もう、これで2回聞いてるよ」と言うので、辞典を引くと、確かに下線が。参ったなあ。よく覚えているよなあ、妻は。「あなたが聞いたことだけは、覚えていたの」と笑う。問題の数をこなすことに急いだので、答えをすっかり忘れていた。少しも頭の体操にはならなかったのかなあ。かえって、ど忘れを助長していた気がしてならない。一時でも自粛生活から解放されたくて、夢中になっていたのに。息抜きかなあ。
 宮崎市 原田靖(82) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

義妹との別れ

2022-07-28 11:25:05 | はがき随筆
 電話のベル。受話器を取れば「義姉さん、今、家内がなくなり、明晩お通夜、明後日が葬式です」の涙声。かける言葉もなく「残念です。お別れに行きます」。主人と大の仲良しの妹だった。くしくも、主人の逝去日と1日違い。長い入院生活を心配し呼んだのだろうか……。斎場では、コロナ以来、久々に会う親戚。葬儀も最後、納棺でのお別れ。花で埋まる。ご主人が最後に、そーっと頬に口づけをされた。胸中を察する私。涙。今ごろ、兄妹仲良く、思い出話に花を咲かせているのだろうか。昭和5年生まれの義妹、ご主人も私も何れそちらで……。
 熊本市中央区 原田初枝(92) 2022.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載