はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

欲張りなんだ

2021-01-24 23:06:26 | はがき随筆
 朝食はバイキングでした。目移りするほどの料理が並んでいる。和食をすこしずつトレーに載せる。年々食も細くなり欲張らないことに、と言いながらフルーツはしっかり載せている。
 10年ほど前、娘とランチに出かけたときのこと。普段は小食なのにバイキングともなると旺盛だね、欲張りすぎじゃないのと娘に笑われた。あの頃の食欲はどこへやら。今ではあまり食も進まなくなったが、最後にアイスクリームがほしくなる。甘いクリームが喉元を通り過ぎていくあの幸せ感。まるで子どもに返っている。やっぱり欲張りなんだ。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2021/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

汚点

2021-01-24 23:00:13 | はがき随筆
 ある日、奥歯の詰め物が取れて近所の歯科医院へ行きました。歯科助手さんに口の中を見せました。
 その時、彼女の目が一瞬笑ったような気がしました。私は診察台の鏡に映る自分の顔を確認しました。そこにはしょぼくれた顔の鼻から白毛の鼻毛が数本見えていました。
 私は若い頃から「名も無く貧しいけれど美しく」生きるということを信条としておりました。白毛の鼻毛をひとさまに見せるなんてとても許せるものではありません。
 その日の出来事は私の人生の大きな汚点となりました。
 宮崎県日南市 宮田隆雄(69) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

牛乳と私

2021-01-24 22:53:43 | はがき随筆
 牛乳を飲む人より、配達する人の方が健康になれるということわざが西洋にあるという。
 牛乳を飲む人も運ぶ人もそれぞれのためではあるが、他者に何かをしてもらうより、してあげる方が、精神的な健康を得ることができる。
 幼少期より私は体が弱く、親が牛乳を与えたのが今も続く。
 私たち人間は与えるより与えられることを望むものだが、心の健康につながる道は他者に与える行いのなかに見出せる。
 ひ弱かった私は父母の愛を受け、いつも努力を心掛け、牛乳を必ず飲み、ちょっとしたウオーキングも続けている。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(94) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

土曜郵便の配達停止

2021-01-24 22:44:59 | はがき随筆
 はがきや手紙の土曜配達が来年秋にも廃止されるとか。電子メール普及でもともと需要が落ち込んだほか、配達員の負担を軽くする狙いがありそうだ。
 ガラケー返信もできぬ〝超〟アナログ人間。相手の顔を思い浮かべながら絵はがきなどをポストに投函するホッコリ感は、指先処理のメールとはひと味違うと自負するが、時代遅れと一笑されるのがオチか。
 日祝を除く週6回以上配達となっていたのを5日に法改正されるわけだが、遠からず月、水、金曜の週3日とか、月、木曜の2日配達なんて時代になるかも、と気になって仕方ない。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

皇帝ダリア

2021-01-24 22:38:14 | はがき随筆
 皇帝ダリアの茎は根元で直径8ッほどに太く、下方の葉は80㌢以上に大きく広げ、開花が待ち遠しかった。 しかし、期待むなしく台風10号により無残にもへし折られた。辛うじて残った根元に土をかぶせ、翌年に期待した。なんと、それが1間ほどに伸び、昨年11月下旬には4輪の直径20㌢ほどの、皇帝の名に恥じない薄紫の上品な色合いの花を見事に咲かせた。諦めていた花に巡り合えた喜びと同時に、この花の強靭な生命力に驚いた。つぼみもいくつか見えるので、霜の降りない限り私のめげやすい心に活を入れてくれるだろう。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(79) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

後期高齢者

2021-01-24 22:25:53 | はがき随筆
| 元気でバリバリ働いている私にとって、65歳以上を高齢者というのは納得いかなかった。 あれから10年、後期高齢者の手続きの書類が届いた。知・力・体の衰えを感じる近ごろ。「後期高齢者医療被保険者証」はなんと薄っぺらのカード。年寄りの命への軽さを感じた。 私のひが「みか。 数独、スマホゲーム、どこで息継ぎするか分からない早口言葉の流行歌の歌詞。長年の日課の散歩も、暑いから、雨だから......と、すべてテゲテゲ。「後期高齢者の前途を祝してドカ ーンとはがき随筆に載らないものか。 次月の月間賞の夢も続けて見れるから。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

働き納め

2021-01-24 21:38:22 | はがき随筆
 ガガガ、ガッコ~ン!  これは我が家の冷蔵庫の氷ができた瞬間に発する音だ。最初はさほど気にするような感じではなかったのだが「そろそろ買い替えてくれよ」とばかり日増しに文句を言い始めた。
 洗濯機は機嫌よく働いてくれる、と思っていたが最近の脱水時の揺れと音量は壊れたか? と疑うくらい激しい。あんまり ガタガタと回るので、その揺れに体を当ててみた。ダイエットの健康マシンみたいで面白い。
 この冬は、おそらくこれら電気製品の叫びに応えて新しく買わざるを得ないだろう。 
 懐も冬の訪れひんやりと…。
 宮崎市 藤田悦子(73) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

100円紙幣

2021-01-24 21:20:06 | はがき随筆
 今日は何もすることがない。 仏壇に手を合わせてから、仏壇の引き出しを引いてみると、封筒が入っていて、その中から10枚の100円紙幣が出てきた。 新札である。何でこんな所に?
 100円紙幣が硬貨と入れ替わったのは随分以前だし、多分この封筒はそれよりも前に入れたのだろう。しかし、私には全く記憶がない。もしかして家内のヘソクリ?  多分そうではないだろうか。 遺影を見上げると「どこにしまったのだろうと思 っていたら、そんな所にありましたか」と笑っているようだった。 さて板垣退助さん、これらの紙幣をどうしましょうかね。 
 熊本市東区 竹本伸二(92)  2021/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載

健やかな成長を

2021-01-24 21:00:21 | はがき随筆
 5歳の孫に弟が生まれ、やがて10カ月になります。 かわいくて仕方がないようで、頬ずりしたり頭をなでたり「洸介は僕の 一番の宝物。お母さんが死んで も、僕がちゃんと育てていくか ら心配しなくてもいいよ」と言います。弟もお兄ちゃんの弾くピアノが大好きで、「ジングル ベル」や「かえるのうた」を弾 き始めると、むずかっていてもじーっと耳をすませます。
 どうかこの子たちの行く手 に、いじめも差別も暴力も事故もない優しい世界が広がっていますように。 コロナウイルス感 染拡大の不安の中で、健やか 成長を祈るばかりです。
 熊本市中央区 渡邊布威(82) 2021/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載

マスクの顔

2021-01-24 18:11:29 | はがき随筆
 久しぶりに鏡を見て化粧をする。唇の端に1㌢ほどの白い髭を見つけて愕然。この長さになるまで気づかなかったとは。いつもマスクをして身だしなみもお構いなしのこのごろだったからと自分に弁解する。
 素顔にマスクの日常は簡単でいいが、買い物客のマスクの顔は識別が難しく、人に無関心になってしまう。目の表情だけでは誰かわからないのである。
 崇高なものにコロナ禍での医療関係のマスク姿がある。ありがたい存在を忘れてはならない。庶民のマスク姿も10カ月。終息が見えぬ今、マスクを卒業できる日が切に待たれる。
 鹿児島県霧島市 口町円子(80) 2021/1/21 毎日新聞鹿児島版掲載

正月のあいさつ

2021-01-24 18:03:47 | はがき随筆
 若いうちはどうということもなかったのに、近ごろ「明けまして~」というあの紋切り型の正月あいさつをひとさまと交わすのが、何となく照れ臭くおっくうになってきた。
 元日後の10日間くらい、近所の人とも顔を合わさぬよう努めていたが、9日の昼下がり、妻への用事で訪ねてきた隣の娘さんと庭先でばったり顔を合わせ、「明けまして……」と非の打ちどころない口上を述べられた。
 虚をつかれた格好の当方。年甲斐もなくあわてふためき、むにゃむにゃ「よろしく」と返事したが、八十路半ば過ぎの正月も楽ではない。
 宮崎市 山野秋男(87) 2021/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載

ビール

2021-01-24 17:55:57 | はがき随筆
 学生時代に覚えたビールが大好きで、空になった大瓶を畳の上に転がして友と飲んだ日々を思い出す。おいしく飲むために運動をした。今では草取りや一仕事済ませて一杯を楽しむ。
 最近350mlの缶ビールを持て余すようになってきた。試みに250mlに変えたら丁度いい感じだ。
 コロナ禍の中、車で出かけることもめっきり少なくなり、運転も億劫になったので、この際車を手放そうとも考えている。
 終活や断捨離の文字が目につくのは老化が進んだからだろうか。心の若さはいつまでも保ち続けたいと思うこの頃である。
 熊本市北区 西洋史(71) 2021/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

目覚めて生きる

2021-01-24 17:49:32 | はがき随筆
 昭和18年、国民学校に入学する。集団登校の途中で男子が私に何か言った。
 「そんなこと言わないの。泣き出すからね」と、上級生の浜田さんが男子をたしなめた。すると待ってましたとばかり私は泣き出した。泣かなければいけないと思ったらしい。男子の言ったことの意味もわからず、悲しくなどなかったのにである。
 「バカみたい」と幼い自分を笑いながら、人間は周囲の人の言動に操作されやすいことに気づいていった。
 いま自分の中の幾人かの分身と、ときに互いに衝突もしながら目覚めて生きているかしら。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(84) 2021/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載

てげてげでいいのに

2021-01-24 17:41:52 | はがき随筆
 友人に渋柿をもらい、干し柿にしようと皮をむいた。物干し台に釣竿を渡してそれにかければ、と簡単に思っていたが夫が出てきて大ごとになった。
 植木用の支柱を3本組み「台にする」と言って始めた。彼の仕事は丁寧すぎる。不要になって片付けるときが面倒くさい。結び目にしいも頑丈で解くのが大変。「そんなに大げさじゃなくていい。後がやっかい」とおおざっぱな私はいつも文句を言う羽目になる。
 物干し台と脚立に釣り竿を渡し、干し場は完成した。夫の考えた支柱は竿の真ん中で、たわみ防止に収まった。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(77) 2021/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

母親の思い

2021-01-24 17:33:48 | はがき随筆
 新年の挨拶に実家を訪ねた。昨年結婚したばかりの姪夫婦も来ていた。
 お膳には、ぶりの刺し身、煮付けが出ていた。姪の母親である弟嫁のKさんが、ぶり1匹をさばいて調理してくれていたのだ。このぶりは「よか嫁ごぶり」ということで、嫁ぎ先からお嫁さんの実家へぶりを贈る習慣があり、姪の嫁ぎ先から届いたのだ。他にがめ煮やサラダも手作りしてあった。Kさんの奮闘ぶりが分る。「娘が結婚してうれしいんだよ」と夫が言った。
 5月には、姪夫婦に子どもが生まれ、弟夫婦には待望の初孫誕生となる。
 熊本県玉名市 立石史子(67) 2021/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載