
「will win(ウィル・ウィン)展」はもともと2020年、コロナ禍で忙殺されていた医療関係者へのチャリティーを目指して始まり、今回が3度目となるグループ展。
コロナ禍は一段落しましたが、出品者だった三浦恭三さんが昨年2月逝去し、追悼の意味を込めて開かれることになりました。
出品者には新道展会員や北海道抽象派作家協会の同人が多く、抽象的な傾向の作品が多いものの、各自が自由に制作・展示をしているという印象があります。

三浦さんの大作2点は「ブルーリング」と題されています。
明快な構成と明るく洗練された色調が持ち味です。
北海道の抽象画家は、もちろん全員ではないのですが、重たい色彩と激しいタッチの画風が多く、この清新さは貴重ですし、晩年まで色が濁ることはありませんでした。
北海道抽象派作家協会で長く一緒だった後藤和司さんによると、三浦さんは小樽市銭函の海沿いの家に長く住んでおり、この色彩を「銭函ブルー」と言っていたとのこと。
それ以前、十勝に住んでいたときは、トウモロコシを想起させる色合いで「あれも良かったんだよなあ」と振り返っていました。
ほかに小品3点が出品されていました。
三浦さんの略歴などは上のリンク先を参照してください。
展覧会の事務所を務める亀井由利さん。
モノクロームの激しい飛沫が画面に広がり、エモーションを感じさせます。
左から
「此方」
「枯野」
「霏々と降る」
「流」
「どんぱち」。
「流」はキャンバスを横につなげた大作です。
赤石操さん「a walk」
赤石さんはすべての作品が同じ題です。
亀井さんが一つ一つに題をつけているのはむしろ例外的で、他の出品者は、題についてはあまり意を用いていないのが実態です。自由に見てほしい、という気持ちがあるのでしょう。
赤石さんは今回、ボックス型の作品を手前に積み重ね、背後に絵画を並べています。
ボックスアートのほうは、コラージュ的、オブジェ的な手法に感じられます。
この画像の左手に100号クラスの油彩が展示されていました。
岩見沢市栗沢の今荘義男さんも、自作はすべて「古里」です。
1930年(昭和5年)生まれ、北海道抽象派作家協会展にはただひとり、第1回から最後の第48回まで出品した大ベテランです。
筆者は勝手に
「日本のロスコ」
と呼んでいますが、深く沈み込んでいくような色彩と複雑なマチエールは、日本的な意匠を持ってきただけの皮相な作品とは対極にあります。
今回の「古里 25-I」「古里 25-II」はいずれも純粋な新作ではなさそうですが、画面下部に青の帯が加筆されているのが目につきます。
おそらくは、同協会で長く盟友だった三浦さんへの追悼の意味がこめられているのでしょう。
後藤和司さん「Aqua 25ーI」「Aqua 25ーII」
中央の小品には題がついていませんでした。
青と茶という色彩の組み合わせが今荘さんと似ています。
精緻な筆が広い面積を覆っており、画面にリズムを生んでいます。
河口真哉さん「虚像」
水色の大きな箱を積み上げたようなインスタレーション。
ただの箱ではなく、小さな窓やドアが取り付けられていることで、作品全体にふくらみを持たせています。
手前にコーヒー飲料が入ったPETボトルが置いてあります。
題を記した紙片を支えるために置いたところ、先輩たちがおもしろがってそのままにしておくようにすすめたそうです。
背後に亀井さんと田中郁子さん(右の2点)の絵画が見えています。
河口真由美さん「気まぐれ野菜のピエタ」
市民ギャラリー第1室の高い天井を生かした展示。
3連画の上に、縦に細長い板が列をなし、教会建築を思わせる荘厳さが漂います。
さらに、ギャラリー備え付けの取り付け用のひもが何十本も天井から下がっており、垂直線が壁面に反復していることが、強い効果をあげているのも目を引きます。
ところが、中心になっている絵をよく見ると、荘厳どころか、ニンジンやジャガイモなどがモチーフになっています。
シリアスな作品と見せかけて、じつは日常的で卑近な題材、というのは、河口真由美さんの絵によくあります。ギャップ萌え?
あと、今回は、マスキングテープを活用しまくったストライプ柄が全開で、画面に近づくと武田浩志さんの絵にとてもよく似ているというのは、意外な発見でした。
日高管内浦河町の田中郁子さんも作品タイトルにはあまりこだわりのない人で「No.60」と題した絵がいくつもあります。
これはご自分の年齢です。
作品にはサインが入っていません。
会場にいったん並べてから、90度傾けたり、左右の配置を変えたりといったことも自由自在です。
一部は茶廊法邑で開いた2人展で展示したばかりの作ですが、会場も絵の向きも変わると、受ける印象もまったく異なります。
田中さんと並んで発表回数の多い楓月まなみさん。
中央の3点組みは「空より花咲きいでて一条の光」。
筆者の目には、いまも作者が出品を続けている前衛書と、抽象絵画とを架橋するような取り組みに見えます。白と黒だけでつくる世界です。
その左は亀井さん「海に居るのは」。
亀井さんが青系の絵を描くのは珍しいです。
今荘さんと同様、三浦さんをしのぶ意味合いがあるのでしょう。
右側は田中郁子さんの小品です。
宮部美紀さん「Flusso」
絵は5枚ありますが、題を記した紙は1枚だけです。
柳川育子さんは旧作5点。
「夜明け」(2010)
「群鳥(オアシス求めて)」(2011)
(題記載なし)
「春再び」(2014)
「ネクリ」(2007)
会場の高い天井からつり下がっているのが山岸靖司「光は巡る」。
12メートルほどもあると聞きました。
山岸さんの本職はフォトグラファーですが、写真を素材にした半抽象絵画のような作品も手がけています。
この作品が中央部の空間にあることで、各出品者をつなぐような役割をも果たしていると思います。
さて、北海道新聞に寄せた展覧会評で、書こうとして字数が足りずに盛り込めなかったことがあります。
三浦恭三さんらの世代にはおそらく、具象画よりも抽象画のほうが現代的で進んだ絵画だという認識を持っていた人がかなりおられると思います。
しかし、グリーンバーグ流のモダニズム的な見方が後退し、単線的な進歩史観が衰退した現在、むしろ人は抽象絵画をより自由に解釈し鑑賞できるようになってきたのではないか、ということです。
2025年4月2日(水)~6日(日)午前10時~午後5時(最終日~4時)
札幌市民ギャラリー(札幌市中央区南2東6)
will win 展□ https://willwin57.wixsite.com/mysite
過去の関連記事へのリンク
【告知】ファイナル バックボックス + will win 展 (2022年3月8~13日、札幌)
●北海道抽象派作家協会が今年解散へ (2021)
【告知】will win 展 ~描くしかできない人達 (2020年10月6~11日、札幌)=いずれも出品者の多くが出品
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021年4月20~25日、札幌)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展(2018)
■第45回美術文化北海道支部展 (2017)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
【告知】第42回北海道抽象派作家協会展 (2015)
■抽象展 7 (2014)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
・2011年の告知
■第37回(2010年)■続き
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■三浦恭三展(2009)
■北海道抽象派作家協会 同人と2009年展推薦者による小品展 (2009年7月)
■第36回北海道抽象派作家協会展 ■続き ■続々 (2009年4月)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■40周年小樽美術協会展 (2008年6月)
■第35回北海道抽象派作家協会展(2008年5月)
■企画展「07-08展」(2007-08年、画像なし)
■第13回さいとうギャラリー企画 夏まつり「風」パートII (2007年、画像なし)
■第34回北海道抽象派作家協会展
■第33回北海道抽象派作家協会展
■第32回北海道抽象派作家協会展
■第31回北海道抽象派作家協会展
■北海道抽象派作家協会展秋季展(2003、画像なし)
■第30回北海道抽象派作家協会展(画像なし)
■北海道抽象派作家協会展秋季展(2002、画像なし)
■第29回北海道抽象派作家協会展
■0北海道抽象派作家協会展秋季展(2001)
■第28回北海道抽象派作家協会展
【告知】Last One (2021年3月24~29日、札幌)
■第64回新道展 (2019)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■亀井由利展ー絶えなき生命のものがたり (2018)
■第63回新道展 (2018年8~9月)
■亀井由利展 (2018年6月)
■バックボックス展 (2018年4月)
■亀井由利小品展 (2018年1月)
■バックボックス展(2017)
■亀井由利小品展 (2017年1月)
■亀井由利展~きらめく生命(いのち)のものがたり (2014)
■花ざかりの絵画展
■亀井由利展 (2014年2月~3月)
■13→14展 (画像なし)
■亀井由利個展 (2010)
■北都館で清水アヤ子・亀井由利2人展(2009年10月)
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■06年9月の個展
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亀井由利「かかえる」
=厚生省買い上げ、菊水のがんセンターに展示
■北海道のアーティスト50人展 ライフワークとしてのアート「冬展」(2025年1月20日~2月2日、札幌)
■札幌のアーティスト50人展2024 vol.1 夏展「はこ」
■赤石操・丸藤真智子展 (2023)
■第3回 バックボックス展 (2019)
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■第6回千展
=赤石操さん出品
■さいとうギャラリー企画展 ゆく年くる年 '22▶'23展 (画像なし)
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■第64回新道展 (2019)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■今荘義男個展 (2018)
■バックボックス展 (2018年4月)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■バックボックス展 (2017)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
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【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
・2011年の北海道抽象派作家協会展告知
■第37回北海道抽象派作家協会展(2010年) ■続き
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■北海道抽象派作家協会 同人と2009年展推薦者による小品展 (2009年7月)
■第36回北海道抽象派作家協会展 ■続き ■続々 (2009年4月)
■今荘義男油彩個展 (2009)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■第35回北海道抽象派作家協会展(2008年5月)
■KYOCHO展(2008年1月)
■さいとうギャラリー企画展07→08
■第51回新道展
■第34回北海道抽象派作家協会展
■新道展50周年記念展(2006年)
■第33回北海道抽象派作家協会展
■第32回北海道抽象派作家協会展
■第31回北海道抽象派作家協会展
■03年北海道抽象派作家協会秋季展(画像なし)
■第30回北海道抽象派作家協会展(画像なし)
■今荘義男個展(2003年)
■02年の北海道抽象派作家協会秋季展(画像なし)
■第47回新道展(2002年)
■第29回北海道抽象派作家協会展
■01年の北海道抽象派作家協会秋季展
■第46回新道展
■第28回北海道抽象派作家協会展
=今荘義男さん出品
■さいとうギャラリー企画展 ゆく年くる年 '21-'22展 (画像なし)
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021年4月20~25日、札幌)
【告知】Last One (2021年3月24~29日、札幌)
■第63回新道展 (2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018)
■後藤和司展 5th(2017)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017年4月)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■抽象展 7 (2014)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
■第37回北海道抽象派作家協会展(2010)
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■第54回新道展 (画像なし)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■第35回北海道抽象派作家協会展(2008年5月)
■4人展 奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・佳乃子 (2007)
■第34回北海道抽象派作家協会展
■第51回新道展 (2006、画像なし)
■第33回北海道抽象派作家協会展
■新道展 50周年記念展 (2005、画像なし)
■第32回北海道抽象派作家協会展
■奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・高橋佳乃子4人展 (2004、画像なし)
■第31回北海道抽象派作家協会展
■03年北海道抽象派作家協会展秋季展(画像なし)
■第30回北海道抽象派作家協会展(画像なし)
■02年の北海道抽象派作家協会秋季展(画像なし)
■第47回新道展(画像なし)
■4人展 奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・佳乃子(画像なし)
■第29回北海道抽象派作家協会展
■01年の北海道抽象派作家協会秋季展
■第28回北海道抽象派作家協会展
=後藤和司さん出品
■New Point vol.25 (2025年1月)
■河口真哉インスタレーション作品展 言葉の雨が心の中にいつも降っている。(後編)(2024)
■素材としての写真拡張展 ~写真か?vol.4~ (2024年2~3月)
■河口真哉インスタレーション作品展『言葉の雨はこころの中でいつも降っていた。(後編)=2022
■第3回 バックボックス展 (2019)
■さっぽろ雪像彫刻展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展 (2018)
■New Point vol.25 (2025年1月)
■河口真由美展―氷の溶けるスピード(2024年11月)
河口真由美展(2024年7月)
■素材としての写真拡張展 ~写真か?vol.4~ (2024年2~3月)
■河口真由美個展 夢の通ひ路(2022)
■第3回 バックボックス展 (2019、画像なし)
■バックボックス展 (2018、画像なし)
■田中郁子・山内太陽 2人展 (2025年3月)
■「いくこのアナログ日記365日チャレンジ」展 (2024)
■田中郁子展 つながるさきへ(2022)
ファイナル バックボックス + will win 展 (2022)。【告知】はこちら
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■第3回 バックボックス展 (2019)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展
(2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
=田中郁子さん出品
■オープニング記念写真展「祝賀」第2、3、4週 (2025年3月)
■AXIS NORTH 2025 (3月)
■New Point vol.22 (2025年1月14~19日)
■いつつがり 其の壱 (2024年12月3~8日)
■風の音の造形 (2024年10~11月)
■第45回北海道現展 (2024)
■楓月まなみ展「空より花咲きいでて、一条の光」 (2024年5月2ー15日、深川)
■つらなるかたち Fractal Odyssey (2023)
まるまるもりもり
■楓月まなみ展「ときめきをときはなして」 (2022、札幌)
■第64回新道展 (2019)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■AXIS NORTH (2019)
=楓月さん出品
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展(2018)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
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=宮部美紀さん出品
チャオ31周年展 (2024)
■第64回新道展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■第45回美術文化北海道支部展 (2017)
■第41回美術文化北海道支部展 (2013)
■第36回美術文化北海道支部展(2008)
■第35回美術文化北海道支部展(2007)
■柳川育子個展 (2007)
■06年の美術文化北海道展
■柳川育子油彩展 (2002、画像なし)
=柳川育子さん出品
■オープニング記念写真展「祝賀」第2、3、4週 (2025年3月)
■山岸靖司「世界と私の おいかけっこ 私はあなた、あなたは私かもしれない。」(2024)
=山岸靖司さんの過去へのリンクは上の記事を参照してください(文字数超過のため)
コロナ禍は一段落しましたが、出品者だった三浦恭三さんが昨年2月逝去し、追悼の意味を込めて開かれることになりました。
出品者には新道展会員や北海道抽象派作家協会の同人が多く、抽象的な傾向の作品が多いものの、各自が自由に制作・展示をしているという印象があります。


明快な構成と明るく洗練された色調が持ち味です。
北海道の抽象画家は、もちろん全員ではないのですが、重たい色彩と激しいタッチの画風が多く、この清新さは貴重ですし、晩年まで色が濁ることはありませんでした。
北海道抽象派作家協会で長く一緒だった後藤和司さんによると、三浦さんは小樽市銭函の海沿いの家に長く住んでおり、この色彩を「銭函ブルー」と言っていたとのこと。
それ以前、十勝に住んでいたときは、トウモロコシを想起させる色合いで「あれも良かったんだよなあ」と振り返っていました。
ほかに小品3点が出品されていました。
三浦さんの略歴などは上のリンク先を参照してください。

モノクロームの激しい飛沫が画面に広がり、エモーションを感じさせます。
左から
「此方」
「枯野」
「霏々と降る」
「流」
「どんぱち」。
「流」はキャンバスを横につなげた大作です。

赤石さんはすべての作品が同じ題です。
亀井さんが一つ一つに題をつけているのはむしろ例外的で、他の出品者は、題についてはあまり意を用いていないのが実態です。自由に見てほしい、という気持ちがあるのでしょう。
赤石さんは今回、ボックス型の作品を手前に積み重ね、背後に絵画を並べています。
ボックスアートのほうは、コラージュ的、オブジェ的な手法に感じられます。
この画像の左手に100号クラスの油彩が展示されていました。

1930年(昭和5年)生まれ、北海道抽象派作家協会展にはただひとり、第1回から最後の第48回まで出品した大ベテランです。
筆者は勝手に
「日本のロスコ」
と呼んでいますが、深く沈み込んでいくような色彩と複雑なマチエールは、日本的な意匠を持ってきただけの皮相な作品とは対極にあります。
今回の「古里 25-I」「古里 25-II」はいずれも純粋な新作ではなさそうですが、画面下部に青の帯が加筆されているのが目につきます。
おそらくは、同協会で長く盟友だった三浦さんへの追悼の意味がこめられているのでしょう。

後藤和司さん「Aqua 25ーI」「Aqua 25ーII」
中央の小品には題がついていませんでした。
青と茶という色彩の組み合わせが今荘さんと似ています。
精緻な筆が広い面積を覆っており、画面にリズムを生んでいます。

水色の大きな箱を積み上げたようなインスタレーション。
ただの箱ではなく、小さな窓やドアが取り付けられていることで、作品全体にふくらみを持たせています。
手前にコーヒー飲料が入ったPETボトルが置いてあります。
題を記した紙片を支えるために置いたところ、先輩たちがおもしろがってそのままにしておくようにすすめたそうです。
背後に亀井さんと田中郁子さん(右の2点)の絵画が見えています。

河口真由美さん「気まぐれ野菜のピエタ」
市民ギャラリー第1室の高い天井を生かした展示。
3連画の上に、縦に細長い板が列をなし、教会建築を思わせる荘厳さが漂います。
さらに、ギャラリー備え付けの取り付け用のひもが何十本も天井から下がっており、垂直線が壁面に反復していることが、強い効果をあげているのも目を引きます。
ところが、中心になっている絵をよく見ると、荘厳どころか、ニンジンやジャガイモなどがモチーフになっています。
シリアスな作品と見せかけて、じつは日常的で卑近な題材、というのは、河口真由美さんの絵によくあります。ギャップ萌え?
あと、今回は、マスキングテープを活用しまくったストライプ柄が全開で、画面に近づくと武田浩志さんの絵にとてもよく似ているというのは、意外な発見でした。

これはご自分の年齢です。
作品にはサインが入っていません。
会場にいったん並べてから、90度傾けたり、左右の配置を変えたりといったことも自由自在です。
一部は茶廊法邑で開いた2人展で展示したばかりの作ですが、会場も絵の向きも変わると、受ける印象もまったく異なります。

田中さんと並んで発表回数の多い楓月まなみさん。
中央の3点組みは「空より花咲きいでて一条の光」。
筆者の目には、いまも作者が出品を続けている前衛書と、抽象絵画とを架橋するような取り組みに見えます。白と黒だけでつくる世界です。
その左は亀井さん「海に居るのは」。
亀井さんが青系の絵を描くのは珍しいです。
今荘さんと同様、三浦さんをしのぶ意味合いがあるのでしょう。
右側は田中郁子さんの小品です。

宮部美紀さん「Flusso」
絵は5枚ありますが、題を記した紙は1枚だけです。

「夜明け」(2010)
「群鳥(オアシス求めて)」(2011)
(題記載なし)
「春再び」(2014)
「ネクリ」(2007)

12メートルほどもあると聞きました。
山岸さんの本職はフォトグラファーですが、写真を素材にした半抽象絵画のような作品も手がけています。
この作品が中央部の空間にあることで、各出品者をつなぐような役割をも果たしていると思います。
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三浦恭三さんらの世代にはおそらく、具象画よりも抽象画のほうが現代的で進んだ絵画だという認識を持っていた人がかなりおられると思います。
しかし、グリーンバーグ流のモダニズム的な見方が後退し、単線的な進歩史観が衰退した現在、むしろ人は抽象絵画をより自由に解釈し鑑賞できるようになってきたのではないか、ということです。
2025年4月2日(水)~6日(日)午前10時~午後5時(最終日~4時)
札幌市民ギャラリー(札幌市中央区南2東6)
will win 展□ https://willwin57.wixsite.com/mysite
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■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
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■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
【告知】第42回北海道抽象派作家協会展 (2015)
■抽象展 7 (2014)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
・2011年の告知
■第37回(2010年)■続き
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■三浦恭三展(2009)
■北海道抽象派作家協会 同人と2009年展推薦者による小品展 (2009年7月)
■第36回北海道抽象派作家協会展 ■続き ■続々 (2009年4月)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■40周年小樽美術協会展 (2008年6月)
■第35回北海道抽象派作家協会展(2008年5月)
■企画展「07-08展」(2007-08年、画像なし)
■第13回さいとうギャラリー企画 夏まつり「風」パートII (2007年、画像なし)
■第34回北海道抽象派作家協会展
■第33回北海道抽象派作家協会展
■第32回北海道抽象派作家協会展
■第31回北海道抽象派作家協会展
■北海道抽象派作家協会展秋季展(2003、画像なし)
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■第64回新道展 (2019)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■亀井由利展ー絶えなき生命のものがたり (2018)
■第63回新道展 (2018年8~9月)
■亀井由利展 (2018年6月)
■バックボックス展 (2018年4月)
■亀井由利小品展 (2018年1月)
■バックボックス展(2017)
■亀井由利小品展 (2017年1月)
■亀井由利展~きらめく生命(いのち)のものがたり (2014)
■花ざかりの絵画展
■亀井由利展 (2014年2月~3月)
■13→14展 (画像なし)
■亀井由利個展 (2010)
■北都館で清水アヤ子・亀井由利2人展(2009年10月)
■亀井由利小品展(2009年5月)
■たぴお記念25th + 13th 異形小空間 (2007~08年)
■亀井由利個展(2007年)
■亀井由利 心象世界(07年4月)
■BOOKS ART展(06年11月。画像なし)
■06年9月の個展
■LEBENS展(06年6月。画像なし)
■新道展50周年記念展(05年。画像なし)
■柴崎康男・亀井由利2人展(04年。画像なし)
亀井由利「かかえる」
=厚生省買い上げ、菊水のがんセンターに展示
■北海道のアーティスト50人展 ライフワークとしてのアート「冬展」(2025年1月20日~2月2日、札幌)
■札幌のアーティスト50人展2024 vol.1 夏展「はこ」
■赤石操・丸藤真智子展 (2023)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■バックボックス展 (2018)
■女抽象三人展(2015)
■第8回千展 流動……(2008)
■第19回そらいろ展 (2007)
■第7回 千展
■第6回千展
=赤石操さん出品
■さいとうギャラリー企画展 ゆく年くる年 '22▶'23展 (画像なし)
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021年4月20~25日、札幌)
【告知】Last One (2021年3月24~29日、札幌)
■第64回新道展 (2019)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■今荘義男個展 (2018)
■バックボックス展 (2018年4月)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■バックボックス展 (2017)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
【告知】第42回北海道抽象派作家協会展 (2015)
■抽象展 7 (2014)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
・2011年の北海道抽象派作家協会展告知
■第37回北海道抽象派作家協会展(2010年) ■続き
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■北海道抽象派作家協会 同人と2009年展推薦者による小品展 (2009年7月)
■第36回北海道抽象派作家協会展 ■続き ■続々 (2009年4月)
■今荘義男油彩個展 (2009)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■第35回北海道抽象派作家協会展(2008年5月)
■KYOCHO展(2008年1月)
■さいとうギャラリー企画展07→08
■第51回新道展
■第34回北海道抽象派作家協会展
■新道展50周年記念展(2006年)
■第33回北海道抽象派作家協会展
■第32回北海道抽象派作家協会展
■第31回北海道抽象派作家協会展
■03年北海道抽象派作家協会秋季展(画像なし)
■第30回北海道抽象派作家協会展(画像なし)
■今荘義男個展(2003年)
■02年の北海道抽象派作家協会秋季展(画像なし)
■第47回新道展(2002年)
■第29回北海道抽象派作家協会展
■01年の北海道抽象派作家協会秋季展
■第46回新道展
■第28回北海道抽象派作家協会展
=今荘義男さん出品
■さいとうギャラリー企画展 ゆく年くる年 '21-'22展 (画像なし)
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021年4月20~25日、札幌)
【告知】Last One (2021年3月24~29日、札幌)
■第63回新道展 (2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018)
■後藤和司展 5th(2017)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017年4月)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■抽象展 7 (2014)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
■北海道抽象派作家協会秋季展 (2013)
【告知】第39回北海道抽象派作家協会展 (2012)
■第37回北海道抽象派作家協会展(2010)
■第三十三回北海道抽象派作家協会秋季展 (2009年10月)
■第54回新道展 (画像なし)
■第32回北海道抽象派作家協会秋季展(2008年9、10月)
■第35回北海道抽象派作家協会展(2008年5月)
■4人展 奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・佳乃子 (2007)
■第34回北海道抽象派作家協会展
■第51回新道展 (2006、画像なし)
■第33回北海道抽象派作家協会展
■新道展 50周年記念展 (2005、画像なし)
■第32回北海道抽象派作家協会展
■奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・高橋佳乃子4人展 (2004、画像なし)
■第31回北海道抽象派作家協会展
■03年北海道抽象派作家協会展秋季展(画像なし)
■第30回北海道抽象派作家協会展(画像なし)
■02年の北海道抽象派作家協会秋季展(画像なし)
■第47回新道展(画像なし)
■4人展 奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・佳乃子(画像なし)
■第29回北海道抽象派作家協会展
■01年の北海道抽象派作家協会秋季展
■第28回北海道抽象派作家協会展
=後藤和司さん出品
■New Point vol.25 (2025年1月)
■河口真哉インスタレーション作品展 言葉の雨が心の中にいつも降っている。(後編)(2024)
■素材としての写真拡張展 ~写真か?vol.4~ (2024年2~3月)
■河口真哉インスタレーション作品展『言葉の雨はこころの中でいつも降っていた。(後編)=2022
■第3回 バックボックス展 (2019)
■さっぽろ雪像彫刻展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展 (2018)
■New Point vol.25 (2025年1月)
■河口真由美展―氷の溶けるスピード(2024年11月)
河口真由美展(2024年7月)
■素材としての写真拡張展 ~写真か?vol.4~ (2024年2~3月)
■河口真由美個展 夢の通ひ路(2022)
■第3回 バックボックス展 (2019、画像なし)
■バックボックス展 (2018、画像なし)
■田中郁子・山内太陽 2人展 (2025年3月)
■「いくこのアナログ日記365日チャレンジ」展 (2024)
■田中郁子展 つながるさきへ(2022)
ファイナル バックボックス + will win 展 (2022)。【告知】はこちら
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021)
【告知】will win 展 ~描くしかできない人達 (2020)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展
(2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
=田中郁子さん出品
■オープニング記念写真展「祝賀」第2、3、4週 (2025年3月)
■AXIS NORTH 2025 (3月)
■New Point vol.22 (2025年1月14~19日)
■いつつがり 其の壱 (2024年12月3~8日)
■風の音の造形 (2024年10~11月)
■第45回北海道現展 (2024)
■楓月まなみ展「空より花咲きいでて、一条の光」 (2024年5月2ー15日、深川)
■つらなるかたち Fractal Odyssey (2023)
まるまるもりもり
■楓月まなみ展「ときめきをときはなして」 (2022、札幌)
■第64回新道展 (2019)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■AXIS NORTH (2019)
=楓月さん出品
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展(2018)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■第43回北海道抽象派作家協会展 (2016)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■第41回北海道抽象派作家協会展 (2014)
=宮部美紀さん出品
チャオ31周年展 (2024)
■第64回新道展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■第45回美術文化北海道支部展 (2017)
■第41回美術文化北海道支部展 (2013)
■第36回美術文化北海道支部展(2008)
■第35回美術文化北海道支部展(2007)
■柳川育子個展 (2007)
■06年の美術文化北海道展
■柳川育子油彩展 (2002、画像なし)
=柳川育子さん出品
■オープニング記念写真展「祝賀」第2、3、4週 (2025年3月)
■山岸靖司「世界と私の おいかけっこ 私はあなた、あなたは私かもしれない。」(2024)
=山岸靖司さんの過去へのリンクは上の記事を参照してください(文字数超過のため)
私はこの展覧会に出品された作家の皆様の人となりを知らないのですが、三浦さんを偲ぶような、また生命の行く末を感じさせるような作品が多く、とても良い展覧会だったと思います。