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■後藤和司展 5th(2017年5月30日~6月4日、札幌)

2017年06月03日 06時03分59秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 札幌の抽象画家、後藤和司さんがギャラリーエッセで個展をひらいています。
「ここで展示するのは初めてだけど、いいところだね。窓が大きいから、道行く人がふらっと入ってきてくれる。ただ、時計台(ギャラリー)や大同(ギャラリー)と違って、広いし、感覚がつかめなくて、(搬入に)まる1日かかりましたよ」


 抽象といっても、画風が一本調子ではなくいろいろなので、見て楽しめると思います。また、細密なストロークや、絵の具の重なり具合が見どころになっている作品も多いので、画像では実物の魅力が半分しか伝わりません。
 
 たとえば、冒頭の「River」シリーズは、近づいてみると、さまざまな濃淡の青をメーンにした色彩が画面全体を覆いつくした後で、その上から、ジンクホワイトを重ねています。
 これがチタニウムホワイトだと、下の層は透けて見えないとのことですが、ここでは白の下から青が見えます。一部、ぽつんと塗り残されたところもあります。

 近づくと、青や紺だけではなく、さまざまな色が配されているのがわかります。
 その行為の集積を、白で覆いつくしてしまっているのです。
 上から白の絵の具が流れ落ちてきています。

 筆者は思うのですが、この絵の具の層こそが、油絵を見る最大の楽しみのひとつではないでしょうか。
 絵の具の重なりが、見る角度や光の具合で、微妙に絵を変えて見せるのです。
 これは、コンピューターやスマートフォンの画像では味わうことができません。


 南側の壁面です。左は「River 15」。
 このあたりは、ちょっと古い(といっても2015年ごろ)作品で、さらに細かい筆の跡が特徴です。
 近づいてみると、冬物スーツのヘリンボーン織のような反復模様が、細い筆でびっしりと画面を覆っているのです。

 この意図を、後藤さんにお聞きするのを忘れていました。
 新印象派のスーラの点描が画面に明るさを与えるとすれば、この細かな線描はむしろ、画面に重厚さを付与しているようにも思えます。
 筆者は、後藤さんといえば、この細かい反復の線を思い出すのですが、この技法が使われているのは今回の個展ではこの一角だけです。

 なお、右手の大きな絵は、メモの字が汚くて判読できないのですが(申し訳ありません)、一部に時計のような具象的モチーフも描かれているようで、やや他の作品とおもむきが異なります。


 左は「回想I(記憶の断片)」。
 記憶の断片、という語が入った題のシリーズが3点ならんでいますが、左の1点だけが、わずかに調子が異なります。
 これは下地に和紙をはっているためで、言われてみると、全体から受ける感じに豊かなものがあると思いました。

 画像は貼り付けませんが、入り口附近には「Town」というシリーズが3点並んでいました。
 これは暖色を主調に、ラフな縦線と横線が交叉しあうもの。
 ちょっと、ヴォルフを思わせます。
 シルクスクリーン版画もありました。


 窓に近いほうの壁にならんでいる「軌跡」シリーズ。左端は「軌跡 '17」。
 こちらも、さまざまな色が塗り重ねられ、削られ、といった過程を経ていることがわかります。

 「River」シリーズなどにも共通する、ところどころに配された絵の具の盛り上がりは、チューブを直接カンバスに押し付けた跡です。

 右側に見えているのは「春の奏」シリーズ。
 おなじような構図で、色の配置を変えた4点が展示されています。「緑」「花」「土」といった副題がつき、それぞれのイメージが色調に反映されています。
 こちらは、色の重なり方が、もわっとやさしい感じがします。



 後藤さんは、新道展(新北海道美術協会)の事務局長を務め、また北海道抽象派作家協会のメンバーでもあります。
 下のリンク先からもわかるとおり、精力的に制作・発表に取り組んできました。
 ただし、数年前に教員を定年退職してから体調を崩していた時期があったそうで、新道展事務局長も快復してから引き受けたとのこと。

 個展のタイトルに「5th」とあるのですが、筆者は個展を見たのは初めてです。
 じつは後藤さん、エッセでの個展の前に、月寒の小さなギャラリーで、ほとんど案内状も出さずに個展を複数回開いていたそうです。

 その頃、「リハビリとして」描いていたのが、入り口の近くにあった具象画の小品シリーズ。
 飼っていた猫や、函館の市電など風景を題材に、1日1枚のペースで制作していたとのこと。

 もっとも、見に来た人の多くはこちらに関心を示すそうで、中にはこちらだけ見て帰る人もおり、抽象画は生まれて1世紀を超すというのに、まだなじみのない人が大勢いるんだなあと思ってしまいました。


 さまざまな作風に取り組む後藤さんの新展開が堪能できた個展です。



2017年5月30日(火)~6月4日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
ギャラリーエッセ(札幌市北区北9西3)


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