
日高管内浦河町姉茶在住で、札幌などで精力的に発表するかたわら臨床美術の実践にも取り組んでいる田中郁子さん(1965年生まれ)と、いまは小樽在住の山内太陽さん(1987年生まれ)という、珍しい組み合わせの絵画2人展。
昨年、同管内平取町の「沙流川アート館」で山内さんが個展を開いた際に会い、開催の運びとなったそうです。
田中さんは抽象絵画ですが、それほど難解という印象は筆者にはありません。
鮮烈な色彩の差し方と、無地の部分との組み合わせが巧みだなあといつも見ています(なんだか、ファッションを見るような視線ですが)。
勢いのあるストロークも見ていて心地良いです。
大小いくつものパーツからなる「dialogue」。
正方形、もしくは細長い単色の支持体からなり、一般的なF型キャンバスのような矩形があまりないのがユニークです。
いま気づいたのですが、右上の黒い円は、この反対側の壁面上部にもともと二つ並んである排気孔のようなものと、対比の配置になっていますね。
田中さんは題が附されていない作品もけっこうあります。
ついている場合でも、自分の年齢を入れて「No.60」とか、題にはあまり重きを置いていないことがうかがえます。
「monologue」という題の作品もありました。
この2枚組みは、レイヤー(層)の重なりを、最後に思い切って無効化してしまっているような、大胆な赤の入れ方が特徴的です。
こちらは、たしか「No.60」。
先の画像の作品と同様に、暗色の大きな面が、響き合うさまざまな色を一気に覆い隠しています。
田中さんは新道展会員。
4月2日から6日まで、札幌市民ギャラリーで開かれるグループ展「Will Win」に出品します。
また4月23~28日には、札幌市西区のカフェ北都館ギャラリーで個展を開きます。
一方、向かって右サイドの山内さんで目立っているのは、キャンバス3枚を横につなげた超大作「Down the river(シャケたちはどう生きるか)」です。
さまざまな描法で描かれたたくさんの鮭が、画面いっぱいに展開しています。
大きな流れとしては、左下のほうに卵や稚魚がいて、時計回りに泳いで、中央下で産卵して…という感じで、視線を誘導しているようです。川から海へ、そして最後に生まれた川へ…というサケの一生に沿った流れではありますが、それに沿いすぎないような自由な配置になっています。
左のキャンバスに2人、中央のキャンバスに1人、帽子をかぶってややマンガ的な輪郭線を有する人物が描かれて、北海道を代表するこの魚と人間との深いかかわりを示唆しています。
その左側の壁にあるのが「アカデミックサーモン」「「鮭」の研究」などの作品。
いうまでもなく、日本洋画の初期を飾る高橋由一の、干したサケを描いた作を踏まえています。
左下に小品「鮭の切り身」があります。
自然の連関の中にあるサケと、そこから切り離されて人間の流通経路のなかに商品として存在するサケとを対比しているともいえます。
(ただし現在の北海道では、人工授精で生まれたサケが多く、それほど簡単に自然対人工の図式に落とし込めるわけではありませんが…)
このほか「レジェンドオブサーモン」「HOKKAIDO BEAR」といった小品も展示していました。
札幌住まいの長かった山内さん、この数年、札幌以外にも目を向ける機会が増えてきたことが、これらの絵に反映しているというようなお話をしておられました。
わかります。
自分も札幌出身で、そのあと各地に転勤したので。
話がすこしそれますが、私見では、札幌は北海道の中でかなり例外的な都市で
イ)自然との距離は遠くはないが、自然とあまりかかわらなくても日常生活がおくれる
ロ)第1次産業が日常生活とほとんど接点がない
という点では、道内の他の市町村と全然違います。
ロ)は、室蘭、苫小牧は、第1次産業よりも第2次産業のマチですが…。北見や帯広などだと、本人が農家や漁師じゃなくても、収穫や漁の好不調がすぐに地域経済に跳ね返ってくるんですよ。
イ)については、いまや札幌では一戸建て世帯が半数を割り、雪かきをしなくて済む人が多数派になったという事情もあります。「アウトドアに興味が乏しく、集合住宅に住んで地下鉄で通勤通学する札幌市民」は、他の道民と、自然とのコミットの度合いがかなり違うんじゃないかなと思います。
「かりそめの宿」
サケなどを描くよりも以前はこのような複雑な構成の抽象絵画に取り組んでいました。
ご本人によると「削ること」に興味があったそうで、この作品も、塗っては削るという行為が繰り返された末にできています。
山内さんは、若手画家の登龍門として知られるシェル美術賞で2020年、「木村絵理子審査員賞」を受賞。道展でも佳作賞を2度受けていますが、コロナ禍以後は出品していないようです。
2025年3月12日(水)〜20日(木)午前10時〜午後6時(最終日~4時)、18日休み
茶廊法邑(札幌市東区本町1の1)
山内太陽絵画研究所 □ https://taiyoyamauchi.tumblr.com/
過去の関連記事へのリンク
■「いくこのアナログ日記365日チャレンジ」展 (2024)
■田中郁子展 つながるさきへ(2022)
ファイナル バックボックス + will win 展 (2022)。【告知】はこちら
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021)
【告知】will win 展 ~描くしかできない人達 (2020)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展
(2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■New Point vol.22 (2025年1月14~19日、札幌)=山内太陽さん出品
昨年、同管内平取町の「沙流川アート館」で山内さんが個展を開いた際に会い、開催の運びとなったそうです。

鮮烈な色彩の差し方と、無地の部分との組み合わせが巧みだなあといつも見ています(なんだか、ファッションを見るような視線ですが)。
勢いのあるストロークも見ていて心地良いです。
大小いくつものパーツからなる「dialogue」。
正方形、もしくは細長い単色の支持体からなり、一般的なF型キャンバスのような矩形があまりないのがユニークです。
いま気づいたのですが、右上の黒い円は、この反対側の壁面上部にもともと二つ並んである排気孔のようなものと、対比の配置になっていますね。

田中さんは題が附されていない作品もけっこうあります。
ついている場合でも、自分の年齢を入れて「No.60」とか、題にはあまり重きを置いていないことがうかがえます。
「monologue」という題の作品もありました。
この2枚組みは、レイヤー(層)の重なりを、最後に思い切って無効化してしまっているような、大胆な赤の入れ方が特徴的です。

こちらは、たしか「No.60」。
先の画像の作品と同様に、暗色の大きな面が、響き合うさまざまな色を一気に覆い隠しています。
田中さんは新道展会員。
4月2日から6日まで、札幌市民ギャラリーで開かれるグループ展「Will Win」に出品します。
また4月23~28日には、札幌市西区のカフェ北都館ギャラリーで個展を開きます。

一方、向かって右サイドの山内さんで目立っているのは、キャンバス3枚を横につなげた超大作「Down the river(シャケたちはどう生きるか)」です。
さまざまな描法で描かれたたくさんの鮭が、画面いっぱいに展開しています。
大きな流れとしては、左下のほうに卵や稚魚がいて、時計回りに泳いで、中央下で産卵して…という感じで、視線を誘導しているようです。川から海へ、そして最後に生まれた川へ…というサケの一生に沿った流れではありますが、それに沿いすぎないような自由な配置になっています。
左のキャンバスに2人、中央のキャンバスに1人、帽子をかぶってややマンガ的な輪郭線を有する人物が描かれて、北海道を代表するこの魚と人間との深いかかわりを示唆しています。

その左側の壁にあるのが「アカデミックサーモン」「「鮭」の研究」などの作品。
いうまでもなく、日本洋画の初期を飾る高橋由一の、干したサケを描いた作を踏まえています。
左下に小品「鮭の切り身」があります。
自然の連関の中にあるサケと、そこから切り離されて人間の流通経路のなかに商品として存在するサケとを対比しているともいえます。
(ただし現在の北海道では、人工授精で生まれたサケが多く、それほど簡単に自然対人工の図式に落とし込めるわけではありませんが…)
このほか「レジェンドオブサーモン」「HOKKAIDO BEAR」といった小品も展示していました。
札幌住まいの長かった山内さん、この数年、札幌以外にも目を向ける機会が増えてきたことが、これらの絵に反映しているというようなお話をしておられました。
わかります。
自分も札幌出身で、そのあと各地に転勤したので。
話がすこしそれますが、私見では、札幌は北海道の中でかなり例外的な都市で
イ)自然との距離は遠くはないが、自然とあまりかかわらなくても日常生活がおくれる
ロ)第1次産業が日常生活とほとんど接点がない
という点では、道内の他の市町村と全然違います。
ロ)は、室蘭、苫小牧は、第1次産業よりも第2次産業のマチですが…。北見や帯広などだと、本人が農家や漁師じゃなくても、収穫や漁の好不調がすぐに地域経済に跳ね返ってくるんですよ。
イ)については、いまや札幌では一戸建て世帯が半数を割り、雪かきをしなくて済む人が多数派になったという事情もあります。「アウトドアに興味が乏しく、集合住宅に住んで地下鉄で通勤通学する札幌市民」は、他の道民と、自然とのコミットの度合いがかなり違うんじゃないかなと思います。

「かりそめの宿」
サケなどを描くよりも以前はこのような複雑な構成の抽象絵画に取り組んでいました。
ご本人によると「削ること」に興味があったそうで、この作品も、塗っては削るという行為が繰り返された末にできています。
山内さんは、若手画家の登龍門として知られるシェル美術賞で2020年、「木村絵理子審査員賞」を受賞。道展でも佳作賞を2度受けていますが、コロナ禍以後は出品していないようです。
2025年3月12日(水)〜20日(木)午前10時〜午後6時(最終日~4時)、18日休み
茶廊法邑(札幌市東区本町1の1)
山内太陽絵画研究所 □ https://taiyoyamauchi.tumblr.com/
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■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展
(2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■New Point vol.22 (2025年1月14~19日、札幌)=山内太陽さん出品