渋谷ユーロスペースでレイトショー公開中の宮崎大祐氏の初長編監督作品「夜が終わる場所」のゲストで「サイコデリシャス・ハードポア・バンド」=下山(Gezan)がスペシャル・ライヴを行った。宮崎監督は黒沢清監督をはじめ現代日本映画を代表する数々の名匠の下で助監督として経験を積み、本作で待望のデビューを飾った若干32歳の気鋭の映画監督。脚本やストーリーと並んで音楽と映像の関係に拘る新感覚派である。
「夜が終わる場所(end of the night)」は2000年の世田谷一家殺害事件をモチーフに日本の裏社会で生きる親子を描いたフィルム・ノワール作品。主人公のアキラを演じるのは若手俳優中村邦晃氏。坂本慎太郎氏を想わせるちょっと不機嫌なキャラクターで、無口で何を考えているのか分からない不気味な役どころを怪演している。アキラの運命を変える女・雪音には新進気鋭の若手女優、小深山菜美嬢。決して美人ではないが朴訥として温かい娘さん役がアキラと光と影の好対照を為す。その二人の数奇な運命が交錯し底知れぬ深みに沈み込む風景を描く。音楽は脱力系バンドHOSE のリーダーで大友良英ONJOのメンバーでもある即興音楽家/作曲家の宇波拓氏が担当、音数の少ないギターのメロディが緊張感を高める。"フィルム・ノワール=虚無的・退廃的な犯罪映画"というだけあり多くの謎を残したまま未完の終焉を迎えるストーリーは観終わった後にフラッシュバックを繰り返す。ユーロスペースでの上映は12日で終わってしまったが、海外の映画祭での評価も高く、順次全国上映されると思うのでぜひともご覧いただきたい。
上映後スクリーン前に高い脚立が用意される。下山のメンバーがぶらりと現れ客席に楽器をセッティング。ヴォーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポー氏が脚立のてっぺんに上りカルロス・尾崎・サンタナ氏のベースに乗せておもむろに歌い始める。ライヴハウスでの彼らの激烈演奏を知る者には驚くほど素直でまっすぐな歌。ギターのイーグル・タカ氏が加わり、やーさんリーゼントを今風の茶髪に変えたドラムのシャーク安江氏がスクリーン前にばら撒いたスネアやシンバルを叩く。10数分続いたところで照明が暗転、マヒト氏が拡声器でサイレンを鳴らしながら「なんで人を殺してはいけないのか誰も教えてくれない。自分で考えな!」と叫び、バンドも不気味なノイズ演奏を繰り広げる。その後再び静かなメロディに戻りデビュー・アルバム「かってうたといわれたそれ」収録のバラード「春の膝」で30分ほどのアンプラグド演奏は終了。
不条理な映画に不条理な演奏。両者がまぐわったノワールな時空は浮かれ騒ぐ渋谷の街に突如出現した漆黒のワームホールだった。
暗黒の
街に流れる
ハードポア
大阪から東京へ活動拠点を移した下山は8月~9月「侵蝕の赤い十六日」として都内16日連続ライヴという快挙(愚挙?)を成し遂げたが、次なる破壊的な企画16人限定マンツーマンライブ「侵蝕の赤い十六人斬り」が11/5 UFO CLUBで開催される。詳細はリンク先を参照いただきたいが、80年代のハナタラシを髣髴させる激ヤバ企画である。我こそはという方は応募してみては?
12/12にはCD+DVD「LIVE 2012・大阪/侵蝕の赤い十六日・東京」がリリースされる。