A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

言葉の重みに地球が軋む~不失者「まぶしい いたずらな祈り」

2012年10月09日 00時27分05秒 | 灰野敬二さんのこと


ツアーの連続で肝心のCDレビューが遅くなったが、今年4月にリリースされたティファーグリーン包まれた「光となづけよう」に続く不失者の2012年2作目のスタジオ・アルバム「まぶしい いたずらな祈り」が9/18にリリースされた。

前作同様、ナスノミツル氏(b)、高橋幾郎氏(ds)とのトリオによる作品。11年ぶりのスタジオ録音アルバム「光となづけよう」は歌・楽器が明快に分離した素晴らしい録音による張り詰めた糸が切れそうな緊張感と時折爆発する轟音ギターに満ちた"わかりやすい"ロック作品だったが、今作はこれまでになく「歌」に比重を置いた楽曲集になっている。映画「ドキュメント灰野敬二」で如何にして不失者の楽曲が産み出されるかの秘密を知ってしまった僕らにとっては、今までの作品以上に創造力を逞しくして対峙することが求められるアルバムである。

ここでは耳を圧する轟音ギターは影を潜め、緊張感溢れる演奏に乗せた「歌=言葉」が中心を占める。深いリバーブの中に重なりあう声が静謐で曖昧模糊とした世界を形作るタイトル・ナンバーから始まり、独特の音楽理論に基づいたある種ジャズ的な非定型のアンサンブルの上にとてもクリアな声が立ち上がり聴く者に迫って来る。まさに"言魂"である。2009年に灰野さんや大友良英さん、今堀恒雄氏、石橋英子嬢をゲストに開催されたナスノミツル氏主催イベント「ナスノスペシャル」のMCでナスノ氏が灰野さんを「最高の詩人」と紹介していたが、その通り「詩人=灰野敬二」を明確に提示した作品である。その言葉ひとつひとつが魂の深淵を刺激する。とても平易で誤解の余地の無い言葉の積み重なりでありながら、その意味が聴き手に様々な解釈を促す表現の自由度はデビュー作「わたしだけ?」で歌われた短歌のように短い散文詩の世界から全くブレていない。灰野さんは当時から一貫して「言葉=祈り」と定義していたが、特に昨年の震災以来「祈りが足りない」という言葉が必ず歌われるのは象徴的だ。

前作同様、不失者(灰野敬二)の作品としては非常にわかりやすい、ある意味ポップな作品である。アルバムとライヴではメンバーが違うが、灰野さんが提示する世界観は完全に一致している。是非とも多くの人に聴いて頂きたいアルバムだし、余りに音楽の意義が軽視されている現代に対するステイトメント=啓示ともいえる重みのある作品である。



「まぶしい いたずらな祈り」不失者(灰野敬二、ナスノミツル、高橋幾郎)
HEARTFAST HFCD-014
曲目:
1. まぶしい いたずらな祈り
2. ときすまされるとは・・・
3. さしだされたまま
4. ここのありか
5. いみくずし
6. ぼくになっている

言葉から
生まれる祈り
輝いて

このトリオでは一気にアルバム3枚分の楽曲を録音したそうだからもう1枚残っていることになる。それがどんなコンセプトの作品になるのか興味は尽きないが、3部作が完成した暁には日本のロック・シーンに新たな金字塔が打ち立てられるに違いない。

★不失者(灰野敬二+亀川千代+Ryosuke Kiyasu)によるFREEDOMMUNE 0<ZERO>でのライヴ音源が配信中。売上は全額震災支援寄付に。詳細は→コチラ

▼不失者2012のアーティスト写真 その2
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