A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

台湾の癒し系女性シンガー齊豫( チー・ユー )の追憶

2012年10月02日 00時32分33秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


1970年代末に「地球の歩き方」が創刊されて以来、学生の間でバックパッカーという荷物一式を背負って外国を自由旅行するのが流行った。私も大学の卒業旅行で20日間のヨーロッパ一人旅に出掛けた。パキスタン航空のニューデリーやドバイを経由する南周りの格安便で、目的地のコペンハーゲンまで20余時間かかった。決してお金がなかった訳ではないが、当時は「如何に安く海外旅行をするか」というのがトレンドだったのである。

機内サービスの音楽チャンネルには中国語やヒンディ語やイスラム語の見慣れない曲が並んでいて興味深く未知の辺境音楽に浸った。その中に天使のような清浄な女性ヴォーカル曲があり心を奪われた。曲目リストを見てもどの曲か分からないので2・3度同じチャンネルを繰り返して聴き、どうやら台湾の齊豫という歌手の「沙漠」という曲らしいと突き止めた。その曲名をメモして持って帰ったが、インターネットは勿論、中国語圏の音楽を紹介する雑誌やラジオもなく、何の手がかりも掴めなかった。横浜の中華街に中国音楽専門のレコード店があると知り訪ねたが香港ポップスしかなく、台湾音楽の情報は皆無だった。中国語だから中国人なら分かるだろうと思うのは大きな間違いで、中国本土(中華人民共和国)と香港と台湾は文化的に完全に隔絶していたのだ。

就職して数年後に出張で台北を訪れる機会があった。絶好のチャンスとばかりボロボロになったメモを手に街中を歩き回りやっと探し当てたレコード店で店員に尋ねた。台湾ではまだCDは普及しておらずカセットが中心だった。店員が出してきたのは「回聲・三毛作品第15號」という女性が2人写ったジャケットのカセットで、確かに「沙漠」が収録されていた。言葉が通じないから齊豫がどんな存在の歌手なのか、このカセットの三毛とは何を意味するのか知りようもなかった。聴いてみると語りと歌からなるストーリー仕立ての作品だった。三毛は作詞家で彼女の作品を齊豫と潘越雲という女性歌手が歌ったアルバムらしい。

齊豫/沙漠


それから20年経ちそのカセットの存在もすっかり忘れていたが、先日部屋の片づけをした際にカセット・テープの詰まった段ボールを発掘し、齊豫と再会した。今ならネットで分かるはずと検索したら簡単に経歴や音源・動画を見つけ出した。「Chyi Yu(チー・ユー)」と発音し、1957年10月17日生まれ、1979年にデビューし「橄欖樹(オリーブの木)」という曲が大ヒットし、台湾の国民的人気歌手になった。台湾の最大手レコード会社Rock Records所属で30作近いアルバムを発表。台湾の作曲家のオリジナル作品もあれば欧米ポップスのカヴァー作品もある。熱心な仏教徒で、お経に曲をつけた仏教音楽の作品も数多い。弟の齊秦(チー・チン)もシンガーソングライターとして活躍している。

どの曲も透明感のある美しい歌声を聴かせ、ケイト・ブッシュやサリー・オールドフィールド、エニグマ、サラ・ブライトマンなどが好きな人は気に入るに違いない。日本では白鳥恵美子さんによく似た世界である。デビュー33年の大ベテランだから、存在感は台湾のユーミンか中島みゆきといったところか。日本での知名度は全くないが、中国ポップス専門のネット・ショップの通販で格安で入手できる。抑揚に富んだ中国語も彼女が歌うとフレンチっぽい優雅な音韻に聴こえるから不思議だ。

齊豫 Chyi Yu【橄欖樹】Official Lyric Video


四半世紀
かかって判明
台湾歌姫

近年のK-POPブームの余波でアジアン・ポップスへの関心が高まっているが、齊豫のようなベテラン歌手も紹介されれば嬉しい。領土問題でぎくしゃくする東アジア諸国との関係も溶かしてしまう癒しの歌声である。
コメント (4)
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