BO NINGENのことを知ったのは「ノーディスク・ミュージックガイド~iTunes Music Storeですぐ聞ける1000曲案内」「NYLON100% 80年代渋谷発ポップカルチャーの源流」などの著作で知られるサブカル研究家ばるぼらさんのツイートがきっかけだった。ロンドン在住の日本人サイケデリック・ロック・バンドの来日という情報に興味を惹かれ、対バンがメルツバウとルインズ・アローンだったのもその気にさせた。しかし彼らについての情報は少なく、当日まで行くかどうか迷っていた。ばるぼらさんに「迷っている」とツイートしたら「生で観る貴重なチャンスを逃さないで」との返事だったので意を決して雨の中UFO CLUBへ向かったと記憶している。「Style Band Tokyo+BO NINGEN presents Far East Electric Psychedelic」というイベントで会場は満員。ガガキライズ、ルインズ・アローンに続いてBO NINGENが登場。全員腰までの長髪のヒッピー・ファッションでかなり雰囲気がある。驚いたのはその演奏。90年代関西サイケ界の帝王サバート・ブレイズを彷彿させるヘヴィ・ロックにぶっ飛んだ。その場でデビュー・アルバム「BO NINGEN」を入手。イギリスのStolen RecordingsリリースのCDには日本向けに歌詞カードが付いていて、新人とは思えない堂々としたサウンドに再度衝撃を受けた。
以来3度の来日ツアーに通い、観る度に濃度を増して行く幻惑的な世界に陶酔した。2011年度最大の衝撃と言って間違いない。灰野さんとも2度対バンし共通する世界観を描き出した。灰野さんのロンドン公演に世話人として同行したエピソードにも親しみを感じた。ヴォーカル兼ベースのTaigen Kawabe氏はこのブログを読んでくれてツイートをくれ、今年1月の来日時に直に会って話したが実に礼儀正しい好青年だった。この夏の来日時には曲名の決まっていない新曲を何曲か披露し新作への期待が高まった。
10月半ば1年半ぶりの2ndアルバム「Line The Wall」がリリースされた。同時にイギリス/ヨーロッパのメディアでは高く評価されセンセーションを巻き起こしている。amazonにオーダーしたら品切れ続きで、リリースから2週間経ってやっと届いた。ギターのKohhei Matsuda氏デザインの羽模様のジャケットに包まれた羽模様のCD盤をプレイヤーにセットしヘッドホンの音量を上げる。飛び出した1曲目「Soko(そこ)」の骨太のビートと左右で自由気ままに飛び回るギターに聴覚が喜びの叫びを上げる。クラウトロック風のハンマービートが心臓の鼓動と同期する。2曲目は1月のツアー時に出た来日記念EP収録の「Henkan(変換)」。やはりビートが強調され四つ打のバスドラはテクノを思わせるダンス風味を感じさせる。彼らは来日の度に物販用に「MG」シリーズCDRを持って来るのだが、その内容は自らの曲をメンバー4人がそれぞれリミックスしたもので、彼らのダンスビートやクラブミュージックへの関心の高さを示している。ヘヴィに這いずり回るだけではなくアッパーに踊れるサイケデリック・トランス。Taigen氏のハイトーンでパラノイアックなヴォーカルが聴き手をトンネル天国ならぬサイケデリック・ヘヴンへと誘う。
どの曲も秀逸で甲乙付け難いが、個人的には「Henkan(変換)」、2つのパートに分かれたスーパーヘヴィな「Daikaisei(大快晴)」、異国に住む彼らの心情が描かれた歌詞が印象的な「Nichijyou(日常)」、壮大なアンビエント・ナンバー「Ten To Sen(点と線)」が特に印象に残った。特筆すべきは日本人離れしたサウンド・プロダクションと演奏力の凄まじさである。太文字の「ROCK」をそのまま真空パックしたアルバム。ブルー・チアーやMC5のデビュー作と同じく、録音がいいとか演奏が上手いといった次元を超えた正真正銘の"生の"ROCKアルバムなのである。
メンバーが読んでいるかもしれないので書くのが恥ずかしいが、仕事中iPodで聴いていたら突然涙が溢れ出て来た。異国で頑張る彼らへの想いでも、童謡風ノスタルジアのある旋律のせいでもない。そもそも激しいビートとトリップしまくるギターは決して感傷を誘うものではない。ただこのサウンドの素晴らしさに素直に感動した涙である。音楽を聴いて涙を流すなんていつ以来だろう。BO NINGENのサウンドが私の琴線に触れた。
注)何度聴いてもまだまだ聴き足りない中毒性の高い世界にご注意のこと。
壁に線
描けと言った
棒人間
現在問い合わせ中だが本作の日本盤が発売されるかどうかは定かではない。もしリリースされるなら1st同様日本だけの特別仕様に違いない。そしたらまた買ってしまうだろう。
BO NINGENの来日ツアーが予定されている。詳細を待て。