A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【魅惑の軽音楽 その2】哀愁のタンゴ10インチLP~原孝太郎と東京六重奏団/ダイアモンド・エコーズ

2021年11月30日 01時48分26秒 | こんな音楽も聴くんです


最近Hard-Offのジャンク沼から救い上げたタンゴの10インチLPを愛聴している。どちらも1960年代初頭に発売されたものだが、方や『追憶のタンゴ』方や『夢のタンゴ~想い出はタンゴとともに』というタイトルで、タンゴを懐メロとして扱っている。日本の第一次タンゴ・ブームは昭和初期にさかのぼる。ラジオ放送の開始により海外のタンゴが人気となり、昭和4年には東京・赤坂にタンゴのダンスホールが開店、やがてダンスホールブームが到来。戦前には全国の主要都市に50を超えるダンスホールがあったという。ダンス文化は第二次世界大戦で中断するが、戦後統制が解かれると国内のタンゴ楽団が次々生まれ、その人気は1950年代半ばにピークに達した。しかし60年代に入りエルヴィス・プレスリーやビートルズなどロックンロールの台頭によりタンゴ低迷期が訪れる。その頃にはタンゴは「昔懐かしい過去の音楽」の烙印を押されてしまったようである。そんなタンゴ不遇時代の哀愁が滲み出るこの2枚の素晴らしさを堪能している。

●原孝太郎と東京六重奏団『追憶のタンゴ』(キングレコード LKF-1293 / 1962)


1944年に結成され50年代に銀巴里で活動、日本一のコンチネンタル・タンゴ楽団と称された名門バンド。ヴァイオリンやヴィオラといったストリングスを中心とした演奏は華やかで艶やか。青春の夢路にかかる追憶の虹に似た美しいタンゴを聴かせる。

水色のワルツ 原孝太郎と東京六重奏団



●ダイアモンド・エコーズ『夢のタンゴ~想い出はタンゴとともに』(日本コロムビア ZL-1147 / 1960.12)


スチール・ギター:ポス宮崎、ハモンド・オルガン:道志郎を中心にギター、ベース、ウクレレからなる特別編成のバンド。ハワイアン・タンゴとでも呼べそうな南国風味たっぷりのラテンメロディがスウィートでエキゾチック。懐かしい海の潮の香のように、想い出はあとからあとから湧き出てくる。
ダイアモンド・エコーズの音源はYouTubeに見つからないので、同じくスチール・ギターを取り入れたタンゴ楽団ワイラナ・シャック・グラス・ボーイズの演奏を。邦題は「ジプシーの嘆き」。

WAILANA GRASS SHACK BOYS - LAMENTO GITANO (Grever)


タンゴとは
想い出湧き出る
泉の音

これらのレコードを聴きながら、筆者のこれまでの音楽体験に「タンゴ」が重要な役割を果たしてきたことに気が付いた。そんな個人的なタンゴ体験については別の機会に記してみたい。



★関連記事⇒【魅惑の軽音楽】築50年の古民家生活のBGM~デニス・ファーノン/ギィ・ルイパルツ/ヴィルジニー・モルガン/マーティン・デニー
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【私のポストパンク禁断症#13】我が愛しのB級パワーポップ~ダーリング/ヨッツ/ザ・レッズ/ザ・サイレンサーズ

2021年11月28日 01時31分46秒 | ロッケンロール万歳!


筆者にとっての最高のパワーポップ・バンドはスコットランド、エジンバラ出身のザ・レジロスである。高校1年生の時FMラジオで特集されたデビュー・アルバム『レジロス登場』は中学3年生で衝撃を受けたセックス・ピストルズやクラッシュに負けない影響を受けたが、パンクのような反抗精神や欲求不満の発露ではなく、純粋にロックンロールの楽しさを謳歌するポジティヴィティを感じた。それから30年以上たった現在でも、決して現状に満足しているわけではないが、怒りをぶちまけるよりも、すべてを忘れて音楽をとことん楽しみたい。まるで彗星のように4年周期で巡って来るパワーポップ禁断症状に身を委ねて、我が愛するB級パワーポップバンドを紹介しよう。
【パワーポップUSA】THE POP/THE A′s/THE RUBINOOS/THE dB′S/MILK′N′COOKIES etc.

●ザ・レッズ The Reds


1979年A&Myoriデビューしたフィラデルフィアの4人組ザ・レッズのデビュー・アルバム。RED(赤)なのにGREEN(緑)ヴァイナル。補色関係の二色の対比にクリスマスを感じる1枚。いかにもパワーポップという感じの骨太なギターロックだが、EPではザ・ドアーズのカヴァーもやっていて、ルーツに60年代サイケの要素があることが分かる。80年代半ばに解散するが、リック・シャファー(g,vo)とブルース・コーエン(b.key,vo)のデュオとして2002年に再結成し、現在も活動中。

The Reds - Break On Through (The Doors Cover)



●ヨッツ Yachts


イギリス、リヴァプールで1977年4月に結成された4人組。前身バンドAlbert Dockは76年にセックス・ピストルズのリヴァプール公演の前座を務めたという。エルヴィス・コステロの前座で注目されスティッフ・レコードからシングル・デビュー、その後レイダー・レコードと契約しリリースした1stアルバムが本作。ザ・フーやジョー・ジャクソンのサポートでアメリカ・ツアーを行うが、2ndアルバム『Without Rader』(80)リリース後81年に解散。コステロやニック・ロウに通じるパブロック風味のパワーポップは意外に通好み。

Yachts - Yachting Type



●ダーリング Darling


1973年にロンドンで結成されたグラムロックバンドSlack Aliceのメンバーを中心に1979年に結成された4人組のデビュー・アルバム。ルックスはニューウェイヴだが、サウンドはドスの効いた女性ヴォーカルが毒を吐くグラムパンク。ヴォーカルのアリス・スプリングはサンドラ・バリーの芸名で60年代から女優・歌手として活動していた。アメリカのパワーポップにはない陰影の深さが英国ロック好きにアピールするだろう。

Darling - Lookin' Kinda Rock 'N' Rolled (1979)



●ザ・サイレンサーズ The Silencers


ジョー・ジャクソンの1979年のアメリカ・ツアーに影響されてピッツバーグで結成された5人組。80年にデビュー、2枚のアルバムをリリース。MTVでオンエアされた最初のピッツバーグのバンドとなる。ストレートなロックンロールだけでなく、ブルースやカントリーの要素のある多彩な音楽性はパワーポップというよりアメリカン・インディ/カレッジ・ロックの先駆者と呼ぶ方が相応しい。84年に解散。なお、イギリスにも同名のグループがいるので要注意。

The Silencers - Peter Gunn, Remote Control and Illegal


パワーとポップ
水と油じゃ
ありません

Rezillos - Flying saucer attack 1978
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【セットリスト公開】盤魔殿 Disque Daemonium 圓盤を廻す會 リベンジ vol.37@渋谷DJ Bar EdgeEnd 2021.11.23 tue

2021年11月25日 00時49分57秒 | 素晴らしき変態音楽


盤魔殿 Disque Daemonium 圓盤を廻す會 リベンジ vol.37
2021年11月23日(火・祝)渋谷DJ Bar EdgeEnd

『盤魔殿 Disque Daemonium 圓盤を廻す會』が11か月10日ぶりに開催された。緊急事態宣言中もスピンオフ的なイベントは単発的に開催されてきたが、自粛や諸事情で長期間イベントに参加できなかったDJもいたため、全員が顔を合わすのは久々。リアルなイベントの醍醐味は現場で鳴る音楽の振動をリアルタイムで享受しすぐに他の参加者と気持ちを分かち合えること。DJブース前でジャケットを眺めながら談笑する盤魔殿ならではの光景も、独りで家で聴くのとは違う音楽の歓びを思い出させてくれた。お客さんも常連の方も初めての方もいて、異端音楽の邂逅を楽しんでもらえたようである。現場での新たな出会いがあって次の現場が生まれていく。当たり前が如何に貴重なことか実感した魔法の一夜であった。

【SET LIST】
●DJ Ipetam a.k.a. Rie Fukuda


“他のレジデンツDJが攻めて来るだろうと予想、敢えて親しみやすく踊れる選曲にしてみました。そうは言っても選曲のテーマは一応ありまして、ふと思い出したYazooがハウスに影響を与えたとの事で、元祖◯◯の皆さんと、前にかけられなかった曲を足して。これから始まる異端DJ軍の優しい門番を演じましたの。”

SE. 品川駅港南口
1. GOODBYE '70's / Yazoo
2. BRING YOUR LOVE DOWN(DIDN'T I) / Yazoo
3. METAL DANCE / SPK
4. I FEEL LOVE /BRONSKI BEAT &MARK ALMOND
5. West end girls / PET SHOP BOYS
6. STILL MOON / 吉田美奈子
7. the sun always shines on t.v. / a-ha
8. Sexy Music / Wink
9. NEVER UNDERSTAND / THE JESUS AND MARY CHAIN
10. Why should I Love You? / KATE BUSH &PRINCE


●DJ Necronomicon a.k.a. 剛田武


“初期現代音楽と民俗音楽で絶対盛り上がらない選曲にしたつもりが最後の『十字架の愛』でウケてしまった。宇田川さんに謎のクリスチャンフォークと絶賛された。今ならヤフオクで安く買えるみたいなので、好事家は手を出してはいかが?”

1. George Antheil:Ballet Mecanique
2. Franco Evangelisti:Proporzioni
3. 間宮芳生:弦楽四重奏曲
4. Liciano Berio:Sequenza III for Solo Voice (performed by Cathy Berberian)
5. Olivier Messiaen:Fete Des Belles Eaux
6. Edgar Varese:Ionisation for Percussion Ensemble of 13 Players
7. 郭永章 Guo Yongzhang:老来难Old Man Blues
8. 中国軍隊喇叭:起床
9. アイヌ民謡:ピリカ・ピリカ
10. 松本清治:ピアノ曲 OP・198
11. Karlheinz Stockhausen:Short Wave performed by The Negative Band
12. 藤田みどり:十字架の愛




●DJ BEKATAROU a.k.a. 伊藤元


1. 冨田勲 / バミューダトライアングル〜悲しきワルツ(Jean Sibelius)〜ヴォコーダー(冨田勲)〜
2. Fabio Fabor / Designazione
3. Chiaroshi / Toccata 2000
4. Molder / From Continent Ⅰ
5. Rick Potts / Some of time
6. Yen Shiromaru / Wetland carnival
7. Yen Shiromaru / Stamp!
8. 冨田勲 / バミューダトライアングル〜未知との遭遇(John Williams)〜
9. 脳brain / 等身大XXX + 冨田勲 / バミューダトライアングル〜交響曲第5番:第2楽章〜(Сергей Сергеевич Прокофьев)
10. 喜多郎 / Wings




●DJ Vaby a.k.a. 大場弘規


“昨日は超久し振りの盤魔殿!実に実に楽しい夜で大満足!!個人的には珍しくテーマを絞らずにオールジャンルの一部ノリノリマテリアル(笑)をチョイスさせて頂きました。来場したお客様は楽しんで頂けたかなぁ。”

1. Brian Harnetty / Boy
2. Tibor Szemző / The Other Shore
3. Joan La Barbara / La Barbara: As Lightning Comes, In Flashes
4. Lydia Lunch / No Excuse
5. 経血 / 経血
6. Split Enz / Dirty Creature
7. Adam And The Ants / Beat My Guest
8. Sprung Aus Den Wolken / Shakin Your Body
9. Muslimgauze / Return To Kuwait City
10. Spasmom / Out Sun
11. Big Audio Dynamite / James Brown




●DJ Bothis a.k.a. 山田遼


1. Painting Petals On Planet Ghost ‎– Honoho No Ko
2. Esplendor Geométrico - Comisario De La Luz Ⅰ
3. 榎本 健一 - パイのパイ節(東京節)
4. Die Partei - Wo Sind Sie
5. 丸山明宏 - アカシアの雨がやむとき
6. Murder Corporation - Mortuary
7. 橋本孝之 - ASIA
8. Coil - Going Up




●DJ Qliphoth a.k.a. 宇田川岳夫


“Mで始まる二人にありったけの愛をこめて。”

1. Maurizio Bianchi (& Criminal Party) – Verrückt B side
2. Jack Or Jive – worry about country 2008
3. Vortex -Seppuku (from Santa Sangre Magazine Compilation)
4. Les Rallizes Dénudés – 恋の物語
5. 石川忠 – Sixth Tooth (Testuo Original Soundtrack)
6. Death In June – Smashed To Bits (In The Peace Of Night)
7. Regard Extème – Résurgence
8. Death in Rome feat. By The Spirits – Love will tear us apart (from Santa Sangre Magazine Compilation)
9. Death In June – She Said Destroy
10. African Imperial Wizard – Béhanzin Hossu Bowelle


●DJ Athmodeus a.k.a. 持田保


“コロナのアレで約2年ぶり?復活盤魔殿ご来場お客さま&渋谷Edge Endありがとうございました!何つーか盤魔殿でしか有り得ない空間…当たり前と思っていたものの大切さを実感するというT he虎舞竜的気付きを得た一夜にマジ感謝(湘南乃風)!次回のは渋谷頭バーで土曜の夜!混沌の夜をお前に‼︎‼︎”

1. ヘンリー川原 / 私とあなたの関係に於いて、私は私自身についてベッドの上で考察する
2. Human Flesh & Alain Neffe / One Way Conversation,Pt.1
3. YES / Owner of a Lonely Heart
4. Peter Murphy / Final solution
5. Duran Duran / The Reflex
6. Psychic TV / Godstar
7. タモリ&タッグヘッド / タモリズドリーム
8. ポール・ハードキャッスル&小林完吾 / 19
9. 岩本清顕 / Love Will Tear Us Apart (千紗子と純太 Rework)
10. 猫 シ Corp. / 春Plaza
 


▼フルサイズ音源公開!


皆集え
魔性の夜の
音浴びて

【次回の盤魔殿】
2021年1月8日(土) 阿佐ヶ谷TABASA
盤魔殿 presents「第2回 輝く、盤魔殿レコード大賞!!!(リベンジ編)」
開場・開演18時 終了20時30分 1000円+1ドリンク
盤魔殿DJ総出演!2021年度「盤魔王(バンマーキング)」決定戦。
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再開記念『盤魔殿アマルガム vol.35』ヘンリー川原/Tibor Szemző/Stefan Goldmann/吉田美奈子/Yoonkee Kim/Goldmund/アントロポセンの空舟

2021年11月24日 00時51分40秒 | 素晴らしき変態音楽


盤魔殿DJ 今月の1枚  
盤魔殿DJ陣が毎月お気に入りの音源をご紹介。こだわりの選盤からどんな世界が広がるかお楽しみください。

●DJ Athmodeus a.k.a. 持田保
ヘンリー川原 / 電脳的反抗と絶頂:エッセンシャル・ヘンリー川原 (EM Records)2021


ダグラス・ラシュコフが名著”サイベリア”にて90年代前半の米国デジタル・アンダーグラウンドとサイケデリックスやオカルティズムの異種混合文化についてレポートしたように、日本における90’s秘教的サイバー文化を音楽的に紐解く存在がこのヘンリー川原である。1991年から1996年という短期間に日本オカルティズムを代表する出版社”八幡書店”をメインに23作(23!)の作品を発表。サイキックTVファンにもお馴染みのヒューゴ・ズッカレリの立体音響システム、ホロフォニックスの日本型展開としてデジタル式立体音響ヴァーチャル・フォニックススを確立したヘンリーによるケミカル変性意識世界にただただ圧倒される。ライナーノーツで八幡書店代表である武田崇元氏が当時を振り返って「オカルトと神道とサイバーパンクがごちゃまぜみたいな」と評していたが、たしかにそんな時代だった。レイヴ・カルチャー前夜のデジタル・サイケデリアとチルアウト。ヴェイパーウェイブ世代にも刺さりまくること間違いなしの「かつて存在したはずの未来」をアンビエンスに奏でるイリーガル桃源郷。


●DJ Vaby a.k.a. 大場弘規
Tibor Szemző / The Other Shore - Various Compositions 1992 – 97(CD)


アート&アヴァン系マニアには知られた、78年始動のハンガリー実験アンサンブルGroup 180。ここに参加した重要人物であり、音楽のみならずインスタレーションや映画制作も行ったブダペストの重鎮Tibor Szemzőが99年にリリースした作品。本作はアンサンブルやパーカッショニストと共に作り上げた、もはや何処にもカテゴライズ出来ないユニーク過ぎる92~97年までの3つの録音を纏めた音源集。清水寺の住職による祈りと信仰に関する語り(これが、なかなかの聴き応え)、軽快なパーカッション、流麗なストリングスを混ぜた「The Other Shore」、日常風景がボソボソのテクスチャーでミックスされるサウンドスケープコラージュ「Symultan」、そしてシンプルな室内楽とパーカッションの絡みによる「Gull」、この凄まじい音楽性/世界観は皆様に是非1度は体験して頂きたいと切に願う今日この頃なのです。
 

●DJ Necronomicon a.k.a. 剛田武
Stefan Goldmann & .es / At A Moment’s Notice(The Wormhole)2021


盤魔殿との関係も深い気鋭の音楽家にして個人的にも良き友人であった橋本孝之氏の当然の逝去の報はコロナ云々など吹き飛ばす大きな衝撃だった。5月10日の橋本の死の3か月後にリリースされたベルリン出身の電子音楽シュテファン・ゴルドマンの最新作。2012年7月12日大阪ギャラリーノマルに於けるゴルドマンとドットエス .es=橋本孝之+saraとの共演ライヴ音源が収録されている。ぶっつけ本番の即興演奏。金属的なエレクトロニクスがギャラリーのナチュラルエコーで輪郭が曖昧になり霧と化して会場を包み込む中、鋭角的な橋本のサックスが霧笛のように切り裂き、saraのピアノが雨粒となって弾ける。反復する電子音とパーカッションに鋭角的なフラメンコギターや慈しみのハーモニカが共鳴し合い、狭い画廊に無限のサウンドスケープを現出させる。
当時の音源を使ったアルバムをリリースしたい、というオファーがゴルドマンから橋本孝之に届いたのが2020年8月。その際にトリオセッションの音源を聴いて、今聴いても面白いということで快諾した。それから1年経ち、2021年8月にリリースのニュースが届いたが、すでに橋本は他界しており、それを知らなかったゴルドマンは大変驚き残念がっていたという。奇しくもリリース元は時空の穴を意味するWormholeレーベル。まさにタイムカプセル、もしく遅れて届いた孤独のメッセージだろうか?異端音楽家の魂が「盤」という形で未来永劫に生き続ける証である。


●DJ Ipetam a.k.a. Rie fukuda
gazer / 吉田美奈子


もうどこの街で働いた頃か忘れたが、その時々で思い出深い曲はいつもラジオで流れていた、そんな一曲。浮遊感たっぷりで気持ちよく、それでいて芯が強くて、隅々まで作り込まれていて.....あの局は一推しの一曲をヘビーローテーションするから、いつでも聴けると思いつつ、盤を求めて寄り道をする羽目になった。
その"午後の恋人"は盤の最後の方に入っている。本作は1990年リリース、吉田美奈子の12作目。少し調べてみると、前作から一年半後にリリースされており、一度作ったものを一旦棄てて、作り直したとか何だとか。
後ほど聴きなおした他のアルバムに比べて、イマジネイティブで幻想的、彼女のプライベートを覗き見している様な気持ちにさせられる一枚である。
そういえば、昨年閉店した高円寺の某所に、たまに飲みに来るとか噂を聞いた事があったが.....確固たる評価のある方だけに、まだ浅いファンがとやかく言うべきではないだろうが、滅多に人前に姿を出さず、神秘的な存在でいて欲しいと思わせる、そんな異世界に迷い込める一枚。
ボックスセットも既に手に入らないなんて、世の移り変わりも早過ぎる。

             
●DJ BEKATAROU a.k.a. 伊藤元
Yoonkee Kim / JUNALIS


幼少の頃よりピアノを習い、音楽に親しんだYoonkee氏は10代で出会ったパンクやグランジをきっかけに音楽制作を始め、2004 年にリリースされた"Asian Zombie”でその才能が世に知られるようになる。コンスタントにリリースするアルバムの他にもbandcampに膨大な楽曲をアップロードしたり、並行してドローイングも制作する等幅広く活動する。
さて、本作はアナログシンセサイザーやリズムマシンを中心とした楽曲から弾き語りによるものまで徹底したロウファイを楽しむことができる傑作である。
どのような音なのかを少し触れさせていただくと柔和な軟体生物が生き生きと活動するかのように立ち上がり、伸縮する電子音のダイナミズム!!!楽曲が進むにつれ多彩な表情を魅せ、リズムマシンから突き上がるビートにチープな生楽器音の流れが交わると意識と脳髄が攪拌され、アコースティックギターでの弾き語りが始まればその余りにもゆるくぬくぬくとした音の運びに雲の上で寝そべるような心持ちだ…このような緩さの中、、、時折の発光!!!水玉のように広がる音々の雫が鼓膜に跳ねれば正体不明の高揚感が脊椎を下る…!このように述べた上で全ての楽曲を通して感じられるのは人の気配、場の空気だ…氏のミュージックビデオにも見られるのだが日々の生活であるとかそこで感じていること…呼吸を記録しているのではないだろうか…そのように思えてならない…


●DJ Bothis a.k.a. 山田遼
Goldmund - The Malady Of Elegance (2008) CD Type


あまり盤魔殿っぽくない作品で恐縮なんですが、個人的に非常に好きな作品でして、長年愛聴しているので今回ご紹介します。ジャンルで言うとポスト・クラシカルと言うのでしょうか?Apple、Facebook、Google等の企業のCM音楽も手がけるアメリカの音楽家キース・ケニフによる、ピアノを主体とした音楽プロジェクト「Goldmund」による2ndアルバムです。非常に少ない音数ながらも、必然性のある音選びに長けているというか、わざとらしい御涙頂戴メロディみたいなハッタリを用いずに、聴き手の精神の部分にスゥーっと染み込む旋律を紡ぐことができていて、尚且つ、まぁ何かと患っているであろう人がレコード屋で見たら迷わずジャケ買いしてしまうであろう作品ジャケットも秀逸。ただ、こういうメランコリックな美しさみたいなものに耐性が無い方もきっといらっしゃると思うので、もちろん万人受けはしないだろうなとは思いつつ、娯楽の対象とはまた違う観点で音楽を必要としている方に届けばいいのかなと思いました。今のところ、「Goldmund」の作品だと本作が頭一つ抜けていて、同じくキース・ケニフのエレクトロニカ路線の別名義「Helios」だと2018年の作品『Veriditas』がおすすめです。ぜひ。


●DJ Qliphoth a.k.a. 宇田川岳夫
俺の中で鳴り止まない盤(もの):Naked アントロポセンの空舟 original soundtrack SHS-2101水族館劇場


水族館劇場の演劇公演「アントロポセンの空舟」サウンドトラック。水族館劇場は曲馬舘の流れをくむ芝居集団で、同じく曲馬舘から派生し、風の旅団を経由した劇団、野戦之月よりもダイレクトな政治色は弱まり、都市の闇を漂泊する名もなき漂泊の民と権力に仕える漂泊の民の相克を描き、抒情性やロマンチシズムは深い。雑司ヶ谷鬼子母神、三軒茶屋世田谷八幡神社、新宿花園神社など、神社仏閣の境内で彼ら自ら建設する仮設の芝居小屋で公演はすべて行われる。水が噴き出したり、役者が宙づりになったり、舞台を難破船や銀河鉄道が疾駆したりする巧みな舞台装置も魅力の一つだ。年末年始の日雇い労働者が仕事にあぶれる時期には山谷や寿町などの日雇い労働者の町で、炊き出しと同時に義援金を集めるための路上芝居「さすらい姉妹」の公演も行う。看板女優は曲馬館時代から活躍する千代次であり、これに風兄宇内や七ツ森左門などの個性的な役者がからむ。前芝居といって、公園の前に客寄せと客入れ、そしてプロローグを兼ねた芝居を15分ほど会場の入り口周辺で行い、客を仮説の劇場に入れていく。現実と幻想の狭間が崩れる感覚は実際に見に行くものの楽しみだ。曲馬舘から派生した劇団の劇中歌や劇伴音楽は定評があるが、水族館劇場の音楽も魅力的だ。野戦之月は大隈ワタルの演奏するクレツマーミュージック的な音楽が魅力だが、水族館劇場の音楽は状況劇場の小室等の音楽や、天井桟敷のJ・A・シーザーの音楽とも違う。懐かしさを誘う昭和歌謡と前衛的な電子音楽が場面に従って交錯する楽しみがある。初期の音楽はマディ山崎が担当していたが、現在は山本紗由が担当している。山本紗由はバイオリニストで、かつては由良瑯座の主宰するパフォーマンス集団モントザハトに所属していた。その後水族館劇場に加入し、役者兼バイオリン奏者として活動していたが、京都在住のためコロナ禍で東京公演に参加することが出来ず、ここのところ音楽担当に専念する形になっている。公演の際の音楽もかつては生演奏だった今日も今回は録音したものを使用している。一聴して驚くのは山本の作る音楽の多彩さだ。1曲目「アントロポセンのテーマ」のオーケストレーションと役者による合唱は聞くものを劇の世界に連れ去るし、9曲目「神殿崩壊」は途中まで1曲目と同じ主題を用いながら突然テンポが速く電子音楽的になり、舞台を照らす強烈な光とあふれ出る水、そして崩壊する舞台装置といった劇の場面が脳裏に浮かび上がる。その外の曲も名曲ぞろいで、劇と関係なく音楽としてもしっかり聴きとおせるアルバムだ。このアルバムのほかにも劇団は数多くのサントラやDVDを出していたが、現在は残念なことにすべてが廃盤だ。復刻と再発を強く望むものである。

▼2021年11月23日(火) 渋谷DJ Bar EdgeEndにて


イベントが
出来る幸せ
噛み締めて

【次回の盤魔殿】
2021年1月8日(土) 阿佐ヶ谷TABASA
盤魔殿 presents「第2回 輝く、盤魔殿レコード大賞!!!(リベンジ編)」
開場・開演18時 終了20時30分 1000円+1ドリンク
盤魔殿DJ総出演!2021年度「盤魔王(バンマーキング)」決定戦。


【EVENT INFORMATION】
2021年11月27日(土) 渋谷 頭バー
The Third Mind vol.4


19時〜22時
1000円+1D
DJ出演:持田保、Rie Fukuda、DJ TKD、脳ブレイン
LIVE出演:直江実樹(短波ラジオ奏者)


2021年12月3日(金) du cafe 新宿(ディスクユニオン新宿1F)
石田昌隆『UKレゲエとパンクの接点』写真展示&トークイベント
18:00~20:00
料金:2,500円(A5版48ページ、限定30部、シリアル番号、サイン入りのZINEつき)
+要1DRINKオーダー

激動する国際情勢とそれに敏感に反応して変化を続ける音楽シーンの動向を世界を旅して追ってきた写真家・石田昌隆氏。今回は、UKレゲエとパンクの接点に着目し、石田氏が撮影してきたジョー・ストラマー、ジョン・ライドン、リントン・クウェシ・ジョンソン、アスワド、マッシヴ・アタックらの貴重な写真をご披露しながら、イギリスにおける黒人移民の歴史を踏まえ、UKレゲエとパンクの関係について語り尽くします。
聞き手は、石田氏の千葉大学の後輩にあたり、身体改造ジャーナリストとしてTBS系人気番組『クレイジージャーニー』でも紹介されたケロッピー前田が務めます。
【出演】
石田昌隆(フォトグラファー)
ケロッピー前田(身体改造ジャーナリスト)
【トークイベント参加方法】
※メールにてdu cafe新宿宛にお申し込みください。
申し込みアドレス→ ducafe@diskunion.co.jp
※メールの件名を【『UKレゲエとパンクの接点』トークイベント参加申込み】とし、本文に下記を明記してお申し込みください。
・お名前(氏名)
・電話番号
・参加人数
※受付が完了しましたら、du cafe 新宿より「予約完了」の返信がございます。メールの受信設定にご注意ください。
※お申し込み/ご予約は定員に達し次第、締め切らせていただきます。ご了承ください


2021年12月6日(月) 吉祥寺NEPO
【Grazin'】 剛田武が参加するアンビエントユニット「MOGRE MOGRU」ライブ出演。


1F open 17:30
B1 open/start 18:00/18:30
adv/door¥2,300(+1order)
streaming ¥1,000(準備中)
〈出演〉
ilyons
kill me Elkと職場の仲間達
MOGRE MOGRU(剛田武+Tanao+黒い瞳)

〈チケット〉
https://nepo.co.jp/contacts/index/1262?tab=booking
配信
https://nepostream.myshopify.com/


2021年12月13日(月)阿佐ヶ谷TABASA
ケロッピー前田 & 持田保 presents
狂気音楽 a.k.a. クレイジーミュージック探訪
~ エイドリアン・シャーウッド&On-Uサウンド 編

19:00 - 21:00
チャージ1000円 ドリンク(キャッシュオン)


2022年1月15日(土) 阿佐ヶ谷TABASA
唸る語る盤魔殿 Vol4.
PowerElectornics and Political Music In Japan

18時
料金1500円+1ドリンク
出演 帝都御社Y 大久保正彦(LINEKRAFT) 持田保 宇田川岳夫 
限定20名 予約者優先 物販あり 予約者特典あり


【特報!盤魔殿の新イベント】
2021年12月某日予定 渋谷DJ Bar EdgeEnd
盤魔殿 即興道場 Disque Daemonium Improvisation Gym
時間未定
参加料金1000円(1drink付)

楽器持参でどなたでも参加できる即興ジャムセッション。
ヴォイス、舞踏、パフォーマンスも歓迎です。
即興が初めての方大歓迎。
*ギターアンプとPAミキサーがあります。
*爆音演奏はできません。

詳細は後日ブログ、SNSにて公開します。
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【ニックネームはブリンナー】スキンヘッドロッカーズの宴~スピリット/ロケッツ/クラシックス・ヌヴォー/シンニード・オコーナー/ザ・ペイル/スカンク・アナンシー

2021年11月19日 01時27分57秒 | 素晴らしき変態音楽


幼い頃の筆者は髪の毛がなかなか生えず2歳頃までくりくり坊主頭で、父親に抱かれて散歩に行くと、近所の高校の生徒から「ブリンナーが来た!」ともて囃される人気者だったらしい。今でこそ語られることは少ないが、ユル・ブリンナーは『王様と私』『十戒』『荒野の七人』といったヒット作に主演して50年代後半~70年代前半に人気を誇った映画俳優で剃り上げたスキンヘッドが特徴だった。子供心にブリンナーの頭はハゲや坊主とは違うカッコいいヘアスタイルならぬヘッドスタイルとして憧れを抱いていた。

Yul Brynner "Two Guitars" on the Ed Sullivan Show


ロックの世界でスキンヘッドというとイギリスの右翼寄りのパンクスを連想させるが、Oiパンクだけがスキンヘッドではない。スキンヘッドに憧れて半世紀の筆者が推すブリンナー似のロックミュージシャンを紹介したい。

●スピリット Spirit


筆者の好きなサイケバンドの5本指に入るスピリットは1967年にデビューしたロサンゼルス出身の5人組。中心人物はギターのランディ・カリフォルニアだが、彼の義理の父親(母親の再婚相手)がスキンヘッドのドラマー、エド・キャシディである。30年代後半からジャズドラマーとして活動してきたベテランで、他のメンバーより20歳年上。バンドはメンバーチェンジで紆余曲折を繰り返すが、キャシディは97年にカリフォルニアが事故死するまで共にスピリットとして活動を続けた。スピリットの音楽の素晴らしさについては別の記事で論じたい。

1984 (HQ Stereo)(1970) Spirit



●ロケッツ Les Rockets


メンバー全員宇宙服に身を包み銀粉を塗したスキンヘッドのフランスのロックバンド。1976年にアルバム『未来の子供たち』でデビュー。パンク/ニューウェイヴを期待して聴いたら、オールディーズをディスコ風にカバーした曲などもあって拍子抜けしたが、今聴くと結構キッチュで面白い。この後日本盤はリリースされなかったが、イタリアを中心に人気を誇り、現在も活動を続けている。

Rockets - Space Rock (1977, Official Video)



●クラシックス・ヌヴォー Classix Nouveaux


“ニュー・ロマンティック最後の騎士”というキャッチコピーでイギリスから登場したニューウェイヴバンド。スキンヘッドのヴォーカリスト、サル・ソロの存在がゴシックというよりオカルトっぽかった。エレクトリックドラムとシンセを多用したエレポップサウンドだが、哀愁のメロディーと退廃的なヴォーカルが気に入っていて学生時代のバンドでカバーしたこともある。85年にクラシックス・ヌヴォーは解散。サル・ソロはスキンヘッド繋がりで(?)ロケッツに加入し2年間活動。その後もソロ活動を続けながらローマ・カトリックに帰依し、クリスチャン・ミュージックで伝道活動を行っている。

CLASSIX NOUVEAUX - Guilty (1981) HQ



●シンニード・オコーナー Sinead O'Connor


1987年デビューのアイルランド出身のシンガーソングライター。カトリックへの愛憎を表現した過激な言動でスキャンダルを巻き起こした。99年には新興宗教団体の女性司祭になったあと、2018年にはイスラム教へ改宗し、シュハダ・サダカットと改名した。何かとお騒がせなスキンヘッド・アーティストだが、音楽的には好みである。

Sinead O'Connor - Nothing Compares 2 U (Live)



●ザ・ペイル The Pale


1990年にデビューしたアイルランド出身のヴォーカル、ベース、マンドリンの3人組ロックバンド。メジャー・デビュー前にリリースしたデモカセットのタイトルは『Why Go Bald(禿げる理由)』。打ち込みのドラムマシンをバックにアイルランド民謡やジプシー音楽の要素を取り入れたサウンドは、同郷のポーグスにも通じるが、もっと洒脱で能天気。A&Mから1枚アルバムをリリースしたのちインディーズに移り、何度かの活動休止を挟みながらも現在もアイルランドで活動中。

The Pale - Shut Up Venus



●スカンク・アナンシー Skunk Anansie


1994年ロンドンで結成されたオルタナティブロックバンド。ヴォーカリストのスキンの挑発的なスキンヘッドを見て怖いバンドだと思い込んでいたが、改めて聴いてみるとしっかりしたメロディを持つ柔軟なギターロックは現代ロックの王道だと思い直した。2001年に解散するが2009年に再結成。現在も活動を続けている。

Skunk Anansie - Charlie Big Potato


こうしてみると、スキンヘッドロッカーズの寿命は長髪よりも長いのかもしれない。早くスキンヘッドにならなきゃ。

禿げじゃない
坊主でもない
スキンヘッド

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【ライブビデオ公開】う       た|灰野敬二 x 蓮沼執太|U       TA|Keiji Haino x Shuta Hasunuma at WWW X

2021年11月17日 00時37分19秒 | 灰野敬二さんのこと

撮影:船木和倖 Kazuyuki Funaki

9/3にWWW Xで開催された灰野敬二と蓮沼執太によるコラボレーションライブのライブビデオが公開されました。2人が新たな試みとして表現する"うた"をぜひご覧ください。



Performed by:
灰野敬二 Keiji Haino
蓮沼執太 Shuta Hasunuma

Date: 2021.9.3
Venue: Shibuya WWW X
Event Title::う       た|U       TA
Video Director:rokapenis
Cover Desigh :KOHJI FUKUNAGA

|Keiji Haino|
Official website:http://www.fushitsusha.com/
Official Instagram:https://www.instagram.com/keijihaino_official/?hl=ja

|Shuta Hasunuma|
Official website:http://www.shutahasunuma.com/
Official YouTube Channel:https://www.youtube.com/c/shutahasunuma
Official Twitter:https://twitter.com/shuta_hasunuma
Official Instagram:https://www.instagram.com/shuta_hasunuma/?hl=ja
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【私のB級サイケ蒐集癖】第37夜:海賊盤の禁断の歓び~裸のラリーズ/ジャックス/ザ・フー/セックス・ピストルズ

2021年11月16日 02時46分52秒 | 素晴らしき変態音楽


初めて買った海賊盤はセックス・ピストルズの『100 Club Sex Pistols Party』というLPだった。1976年9月20日ロンドンの100CLUBで開催された伝説的なパンク・フェス『100 Club Punk Special』でのライブ盤。吉祥寺のFFビル(今のコピス)の1階にあった名曲堂で1978年に購入した(名曲堂は普通の国内盤を扱うローカルチェーン店だったが、なぜか海賊盤コーナーが充実していた)。客席からのワンマイクの録音らしく、所々音が途切れる劣悪な音で、一緒に聴いた弟から「なんでこんな不良品を買ったの?」と責められたが「音の悪さが本物パンクの証拠だ」と訳の分からない言い訳をしていた。実際は自分でも音の悪さが苦手で滅多に聴くことはなかったが、妙に愛着を感じていたことも確かである。最近改めて聴き直してみたところ、思っていたほどひどい録音ではなく、逆に音の悪さが初期ロンドンパンクの熱気とスリルを伝えているように感じた。弟に言った言葉が間違っていなかったことを43年経って確認した次第である。

Sex Pistols 100 Club 20, 9, 1976


その後ザ・フーのライヴ・ドキュメンタリー映画『The Kids Are Alright』を観て衝撃を受けてからザ・フーの海賊盤を買い集めた。西新宿にKINNIEという海賊盤専門店があったが、試聴は出来なかったので、録音場所や曲目、ジャケットの雰囲気だけで選ぶしかない一か八かのギャンブル性があった。高価な割に音が酷いライブ盤に大枚はたいてがっかりしたことも少なくない。それでも90年代になってCDやビデオで未発表ライヴ音源や映像が正規に発売されるようになるまでは、音が悪い海賊盤を聴きながら、腕を風車のように廻してジャンプするピート・タウンゼンドの雄姿を想像することが出来るだけで至福の歓びだったのである。

The Who - Tales From The Who (Complete Bootleg)


80年代後半に世界的なサイケデリックロックの再評価が起こり、60年代サイケの名盤やレア盤が再発されるようになるが、その中には海賊盤も少なくなかった。特にサイケのレア盤専門の2大レーベルPSYCHOとEvaのレコードは、不良マスターテープやレコード盤起こしでアーティストの許諾を得ずにプレスされた非正規盤が多かった。オリジナル盤に入っていた効果音が削除され全く別ものになってしまったレコードもあった。さらにジャケットも音もレコードからコピーしたリプロ盤と呼ばれるレコードも登場。権利関係の問題で長年廃盤だったフランク・ザッパ&マザーズ・オブ・インヴェンションの初期VERVE盤もリプロ盤で発売されたと知って、モダーン・ミュージックで買って聴いてみたら針飛びがあり、翌日交換に持っていったら「マスターとして使った元のレコードが針飛びするらしく、交換してもすべて同じ個所で針飛びする」と言われて交換を諦めたこともある。他にも数々の粗雑なリプロ盤にお金を使った。マザーズをはじめ、その多くは数年後にCDで正規再発され、数倍クオリティのいい状態で安価で手に入るようになったが、リプロ盤は手放していない。

日本のロックも例外ではない。日本のグループサウンズがガレージパンクコンピレーションにレコード盤起こしで収録されたのを皮切りに、60・70年代日本のアンダーグラウンドなロックやジャズのレコードが無許可で海外で再発されることになった。その中には日本国内で製造され流通する場合もあった。その最たるものが裸のラリーズの海賊盤の乱発である。それついては10年近く前に書いたことがあるのでここでは繰り返さない。とはいえ、謎に包まれた地下ロック表現者の情念が、劣悪な音質の中からジワジワ伝わる歓びは、正規盤では味わえない魔性の魅力を持っていることは確か。禁じられれば禁じられるほど欲しくなる禁断の果実のような音楽。海賊盤が似合う音楽と呼んだら怒られるかもしれないが、ボックスセットのリリースが予告されるたびにモダーン・ミュージックに予約して入荷日に受取りに行ったことを思い出す。今年10月に公式ウェブサイトが開設され正規音源のリリースが予定されていることが発表されたが、発売と共に入手困難にならないことを祈りたい。

裸のラリーズ Les Rallizes Denudes feat 山口冨士夫: "造花の原野/夜、暗殺者の夜/夜より深く/?". from Live 1980/ Disc-1


ジャックス・ファンクラブが制作したと言われていたジャックスの『2nd Jacks Show』もモダーン・ミュージックで購入した海賊盤LPでしか聴けなかった1枚。モノラル録音でレベルが低いが、今年正規再発されたCDを聴いてみて、この海賊盤がオリジナルのLPの音質にかなり近いであろうことを確信した。CDは音がクリア過ぎてアンダーグラウンド感が薄い気がして、筆者はもっぱら海賊盤LPを愛聴している。2013年に拙著『地下音楽への招待』のためにモダーン・ミュージックの故・生悦住英夫氏にインタビューしたとき、モダーン・ミュージックが開店して少し経った頃、このオリジナルLPを売りに来た人がいて、かなりいい値段で買い取ったら、次の日に何十枚か追加で持ってきたので驚いた、という話を聞いた。おそらくファンクラブ関係者だったのだろうが、今回のCD再発に関わった人なのかどうかは分からない。

JACKS/LIVE/お茶の水日仏ホ-ル/1968 7 24


非合法かつ非倫理的であり、著作権者の権利侵害であり、品質にも問題のある海賊盤を100%容認するわけにはいかないが、筆者一個人の音楽聴取体験の中ではひと際特別な存在として輝いていることは否定しえない事実である。

ヤバい音には
ヤバい盤が
お似合いです


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【クラシックの嗜好錯誤】第十回:7インチで聴くミュージック・コンクレート~ピエール・アンリ『21世紀の男』『タコの秘密の愛欲生活』

2021年11月13日 02時27分19秒 | 素晴らしき変態音楽


●ピエール・アンリ Pierre Henry『21世紀の男 L'homme Du XXIe Siècle』

Unidisc – EX 33.145 / France / 1960

脚本:アルベール・デュクロ
音楽:ピエール・アンリ
表紙写真:アルマンによるオブジェ
語り手:アルベール・デュクロ/テアトル・デ・クインゼ

フランスのサイバネティクスの先駆者と言われる科学者アルベール・デュクロの脚本によるラジオ・ドラマのサウンドトラック。何千年も前の原始人の残した壁画から当時の生活を推察するように、21世紀の人類がどうなっているのかを知ることは出来ないだろうか、というテーマに基づいたストーリーらしい。テアトル・デ・クインゼ(15人劇団)のメンバーの会話のバックにピエール・アンリの奇怪で時にコミカルな電子音が流れるサウンドは、子供向けアニメの効果音にように聴こえる。日本でも鉄腕アトムの効果音を電子音響作家大野松雄が担当していたし、武満徹や湯浅譲二、一柳慧らの電子音楽がラジオドラマやアニメ映画に使われていた。なお、ジャケ写のオブジェを手掛けたアルマン(本名:Armand Pierre Fernandez)はフランスの芸術家で、1953~1971年、女流電子音楽家エリアーヌ・ラディーグと結婚していた。ラディーグは当時ピエール・アンリのスタジオ・アプソムで助手として働いていたという。

L'homme du 21ème siècle (Part 1)


L'homme du 21ème siècle (Part 2)



●ピエール・アンリ Pierre Henry『タコの秘密の愛欲生活 The Secret Love Life Of The Octopus』

Stomach Ache Records – SA-12 / Mexico / 1994

フランス/1965/フランス語/カラー/DVD(原版:35mm)/13分
監督:ジャン・パンルヴェ、ジュヌヴィエーヴ・アモン
音楽:ピエール・アンリ
提供:ドキュマン・シネマトグラフィック

海の生き物についての科学映画で知られ、生涯で200本以上の科学映画を制作したフランスの映画監督ジャン・パンルヴェ監督の1967年の短編映画『タコの愛の生活 Les amours de la pieuvre』のサウンドトラック。知られざるタコの交尾の儀式を激写&接写した実験映像にアンリのグロテスクな電子音が加わると、タコが地球外生命体に見えてくる。パンルヴェ自身の朴訥とした語り口が、逆に非現実感を増幅させる。後半の濃厚な交尾や出産シーンに性的興奮を覚える人もいるだろう。細胞のマイクロスコープ映像はそのままミュージック・コンクレートのMVに使えるクオリティ。無数のタコの赤ちゃんが舞う誕生シーンで生命の神秘に感涙すること必至である。このレコードは、映画で使われたラッカー盤から起こした限定200枚の非公式7インチ。ゲロゲリゲゲゲやAUBE、Abe Sadaなどジャパノイズもリリースするメキシコのノイズ/パンク・レーベル「胃痛レコード」からのリリース。

Jean Painleve 1967 The Love Life of the Octopus


7インチ
具体音楽
具象的

▼ヨ・ラ・テンゴがジャン・パンルヴェ監督映画に音楽を付けたパフォーマンス。『タコの愛の生活』は43分32秒から。
Yo La Tengo - The Sounds of the Sounds of Science [ Live Visuals ]



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【特報】第六派アンビエントユニット『MOGRE MOGRU(通称モグモグ)』12/6(mon)吉祥寺NEPOにてライヴイベント出演決定!

2021年11月12日 00時07分38秒 | 素晴らしき変態音楽


2021年7月29日「盤魔殿スピリチュアルラウンジvol.2」でデビューし、10月18日盤魔殿スピリチュアルラウンジvol.3にてバンド名「MOGRE MOGRU(モグレモグル)」として本格始動した我が新進アンビエントユニット通称モグモグが、吉祥寺は井の頭公園近くにある新感覚ライブハウス「吉祥寺NEPO」への出演が決定した。驚異的なサウンドシステムとビデオプロジェクター完備の近未来的ステージでいかなる闇美炎吐(アンビエント)曼荼羅が展開されるのか、自分でも興味は尽きない。対バンはNEPOの発起人の1人である白水悠(KAGERO / I love you Orchestra / chemicadrive代表)率いるノイズ系ユニット「ilyons」、ベース/ドラム/鉄琴&ピアニカによる自由気ままなポップバンド「kill me Elkと職場の仲間達」、この日が初ライブとなる新バンド「王」。異なるスタイルの4バンドが集い幅広い音楽性を感じられる面白いイベントになるに違いない。ぜひ足を運んでみてほしい。

2021/12/6(Mon)@吉祥寺NEPO
【Grazin'】

1F open 17:30
B1 open/start 18:00/18:30
adv/door¥2,300(+1order)
streaming ¥1,000(準備中)

〈出演〉
ilyons

I love you Orchestra のフロント三人の派生形態として活動しているI love you Orchestra "Noise Style"、通称「ilyons」

kill me Elkと職場の仲間達

時代によって流行り廃りが繰り返される中、変化しない本質的な音を追い求める事をテーマに、隣人を愛しながら良質な音と美酒を求め仲間達と旅をする。
1本のベースの音を中心に、町や自然の音と融合したロードムービー的な音は、人生の美しさや日常に潜む人間の思考を切り取った様な幻想的な世界を創り上げている。

MOGRE MOGRU

DJイベント"盤魔殿"主宰にしてリードフルートやノイズドール等を操る地下音楽家・剛田武、1990年代より音楽活動を開始し現在ノイズ系アンビエントユニット”INIBURA”を主宰するTanao、同じくINIBURAにミュージックソー、打楽器、おもちゃ楽器、朗読などで参加しつつソロでアンビエント・環境音楽を制作するAura Noir=黒い瞳からなるアンビエントの新たな地平を切り拓くトリオ。


BAD TASTE CABARETというバンドのメンバーで組んだ新バンド。

〈チケット〉
店予約
https://nepo.co.jp/contacts/index/1262?tab=booking
上記URLより予約可能です。

配信(随時追加)
https://nepostream.myshopify.com/

NEPOで見る
闇美炎吐の
玉手箱


MOGRE MOGRU(モグレモグル)
剛田武 Takeshi Goda: flute, clarinet, accordion, percussion, etc.
Tanao (INIBURA):guitar
黒い瞳 Aura Noir:musical saw, glockenspiel, recorder, percussion, etc.

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【私のB級サイケ蒐集癖】第36夜:ヤング・キャプテン・エレクトリック(エレキの若大将)『加山雄三』はキャプテン・ビーフハートとキャプテン・トリップのお兄さん

2021年11月11日 02時29分39秒 | こんな音楽も聴くんです


加山 雄三(かやま ゆうぞう、1937年〈昭和12年〉4月11日 - )は、神奈川県茅ヶ崎市出身の日本の俳優、シンガーソングライター。タレント業のほか、音楽家としてギタリスト・ピアニスト・ウクレレ奏者、画家としても活動している。本名は池端 直亮(いけはた なおあき)。ニックネームは若大将。作曲家として弾 厚作(だん こうさく)のペンネームを用いる。

キャプテン・ビーフハート(Captain Beefheart)は、1941年1月15日 - 2010年12月17日)は、アメリカ合衆国のソングライター、シンガー、ミュージシャン、アーティスト、詩人、作曲家、プロデューサー、映画監督、画家。 本名・ドン・ヴァン・ヴリート(Don Van Vliet)(ドン・グレン・ヴリートという通称もある)。

ジェリー・ガルシア(Jerome John "Jerry" Garcia, 1942年8月1日 - 1995年8月9日)は、アメリカ合衆国のミュージシャン。グレイトフル・デッドのリードギタリストであり、1960年代のカウンターカルチャーの象徴としてよく知られる。幻覚的なギタープレイで「キャプテン・トリップ」と呼ばれていた。また、音楽シーンだけでなくアート方面でも才能を発揮した。



加山雄三と言えば、いつも太陽のような笑顔で「しあわせだなあ 僕は君といるときが一番しあわせなんだ」なんて恥ずかしいセリフを朗々とした声で臆面もなく口にする恰幅のいいおじさん、という印象がある。演歌の大御所、北島三郎(1936年生まれ)と1つしか違わないというが、田舎の頑固おやじのようなサブちゃんに比べると、ずっとハイカラなアメリカ帰りの遠い親戚のような親しみを感じる。とはいえこれまで彼の音楽をちゃんと聴こうとしたことはなかった。

しかし、最近ベンチャーズなど60年代エレキサウンドに興味を持ち、音源を掘っていて出会ったのが、加山雄三自作自演のエレキインストナンバー「ブラック・サンド・ビーチ」だった。モズライトギター特有のブリブリした太い音色で、俳句のようにシンプルながら詫び寂びのあるフレーズで攻めるエレキサウンドは、ベンチャーズやアストロノウツら欧米のエレキバンドとは一味違った、サムライ精神あふれるガレージパンク。この曲は1965年の主演映画『エレキの若大将』の勝ち抜きエレキ合戦のシーンで演奏される突撃ナンバーである。

エレキの若大将 予告篇



●加山雄三のすべて~ザ・ランチャーズとともに(1966)


超ドアップのジャケット写真の眼光の鋭さに悩殺されるデビュー・アルバム。パブリック・イメージ・リミテッドの1stやINUの『メシ喰うな!』のジャケットは加山雄三に影響されたのかもしれない(新説)。「ブラック・サンド・ビーチ」をはじめとする加山雄三とザ・ランチャーズによる感電しそうなエレキサウンドに交じると、大仰なストリングスのバラードもアシッドフォークに聴こえてくる。NHKみんなのうた風の「ランニング・ドンキー」の能天気なグッドタイムサウンドは、70年代のザ・バーズなどのカントリーロックを先取りしていた。



海の上の少年(umi no ue no syounen)/加山雄三(kayama yuzo)



●加山雄三のすべて第二集(1967)


1967年1月にリリースされた4thアルバム。収録曲の半分はランチャーズの演奏で、ぶっきらぼうな英語詞ガレージロック「アイ・フィール・ソー・ファイン」、カモメの鳴き声SE入りのアシッドフォーク「心の海」、ファズエレキインスト「スリーピング・モンスター」、フォークロックの「フォー・オクロック」、さらにハワイアンやクラシック・ギター・ソロもあり、節操がないほどバラエティに富んだ音楽性は、1967年6月リリースのザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に影響を与えたのかもしれない(新説)。

Yuzo Kayama & The Launchers - "I Feel So Fine"


加山は1966年に3作、1967年に4作、1968年に2作、1969年に3作(ライブ、ベスト含む)という驚異的なペースでアルバムをリリースした。あたかも生き急ぐようなスピードであるが、失速することなく2020年代まで活動を続けてきた。昨年小脳出血で倒れてから現在リハビリ中とのことだが、永遠の「エレキの若大将=ヤング・キャプテン・エレクトリック」の早期の復帰を祈りたい。

お元気で
日本サイケの
若大将

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