A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

魅惑の夜、東京のためいき~八代亜紀「夜のアルバム」

2012年10月11日 00時57分16秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


亜紀さんは、持ち前の美しく官能的な歌声で、才気と温かみにあふれた歌を聴かせてくれます。
その歌声に伴奏をつけるプロデューサー/アレンジャーの小西康陽さんの仕事ぶりも、とても見事です。
八代亜紀さんのご活躍をお祈りしています。ー ヘレン・メリル
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子供の頃、クラシック・マニアの父が時々ポップスのレコードを買って来ることがあった。帯には「軽音楽」や「流行歌」と書かれ、タイトルは大抵「魅惑の○○」だった。「魅惑のムード音楽」「魅惑の映画音楽」「魅惑のハワイアン」「魅惑の歌謡メロディ」などのオムニバス盤。ベートーヴェン、ワーグナー、バルトークなど硬派なクラシックが好きだったのでたまには軽音楽で息抜きしたかったのだろう。私は絵本付きの子供向けクラシックEP盤を何度も親にせがんで聴いたものだが、物心つくと"魅惑"の"流行歌"の世界に惹かれるようになる。クラシックに比べハイカラな香りのするムード音楽や映画音楽を父のコレクションから引っ張りだした。「禁じられた遊び」「第三の男」「鉄道員」「グレンミラー物語」などが記憶に残っている。

テレビではバラエティ番組に歌手が出て流行歌を歌っていた。歌手="アーティスト"ではなく"芸能人"だった時代。その頃流行った歌は今でも覚えている。八代亜紀さんがデビューしたのは1971年というから大阪万博の翌年である。1973年の「なみだ恋」が大ヒット、以来紅白にも毎年出演する。テレビに夢中な頃だったから亜紀さんの姿は何度も観た。子供心に他の歌手とは違う魅力を感じていた。特に目の印象が強かった。黒目の大きなネコのような瞳にガキンチョが魅惑されたのである。

その後桜田淳子、山口百恵、キャンディーズ、ピンクレディなどアイドルに走ったが、歌番組には亜紀さんや都はるみ、石川さゆり、森進一、前川清、五木ひろしなど演歌歌手も出演しており、アイドルソングと演歌は同じ世界の音楽だった。一方で井上陽水や吉田拓郎、荒井由実、かぐや姫などニュー・ミュージックの歌手はテレビではなくもっぱらラジオで聴いた。テレビの芸能人とラジオのニューミュージックの世界は何となく違うと思った。

芸能活動40年を迎えた八代亜紀さんが初の本格的ジャズ・アルバム「夜のアルバム」をリリースした。ジャズといえばフリー系ばかり聴いて来たので、ジャズ・シンガーといえばパティ・ウォーターズがまず頭に浮かぶのだが、学生の頃ジュリー・ロンドンの「カレンダー・ガール」というアルバムをジャケ買いしてハマったことがある。金髪美人のジュリーが12カ月ごとに衣装を替えて写っているジャケットは誠に魅惑的で、子供の頃ワクワクして聴いた父の流行歌のレコードを思い出した。亜紀さんの歌の世界への入り口もジュリー・ロンドンだったという。幼い頃いつも長い髪のドレスの女性の絵を描いていたのを父親が見て、レコード店で見かけたジュリーのジャケットが亜紀さんの絵にそっくりだと買ってきたそうだ。それを聴いた亜紀さんはクラブ歌手に憧れ、15歳で熊本から上京し銀座のクラブ歌手として歌い始めた。歌謡曲でデビューしてからもリサイタル等でジャズ・スタンダードも歌っていたそうだが、本格的なジャズに挑戦したのは今作が初めてである。

プロデュースは小西康陽氏。所謂渋谷系は”デス渋谷系”=暴力温泉芸者以外は殆ど聴いたことがないのだが、彼らの音楽的知識の深さと幅広さには共感するものがある。特にピチカート・ファイヴ時代の小西氏のアートワークやヴィジュアル面を含めたトータル・アートとしての作品作りにはマニアックさと大衆性が同居しており、音楽の好き嫌いは別として、アンディ・ウォーホール的な拘りを感じる。その意味では中田ヤスタカ氏と通じるものがある。その小西氏が手掛けた八代亜紀さんのジャズ・ワールドは亜紀さんの若い頃の思い出(ノスタルジー)と小西氏の現代的な感覚(モダニズム)が融合した素晴らしいものに仕上がった。明らかにアナログ盤を意識したアートワーク。この素晴らしいジャケットは是非ともアナログLP盤でもリリースして欲しいものだ。A面に当たる1~6曲目は主に洋楽ジャズのスタンダード、B面の7~12曲目は主に日本の流行歌を並べてあり、両者が見事に融合して”歌姫=八代亜紀”の新たな地平を創り出している。この感覚は普段演歌やジャズを聴かない人にこそ経験してほしい。



昔と違いテレビに演歌歌手が出演するのは年末の懐メロ番組か紅白くらいになってしまったが、このアルバムは世界70数カ国に配信されるというから、由紀さおりさんのように海外で話題となり、ワールド・ツアーが行われたりしたら面白い。

八代亜紀
演歌の女王
ジャズクイーン

11月9日(金)ブルーノート東京での公演「An Evening with AKI YASHIRO」は即ソールドアウトになったが、2013年3月22日(金)東急シアターオーブで開催される「JAZZ WEEK TOKYO 2013」にも出演が決定した。



コメント (2)
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