褒めまくる映画伝道師のブログ

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映画 山猫(1963) 貴族社会の没落

2024年03月17日 | 映画(や行)
 そういえば山猫は眠らないというタイトルの軍事アクション映画があったが、それとはまったく関係ない。今回紹介する映画山猫は19世紀半ばの激動のイタリアのシチリア諸島が舞台。本作を理解する上で少しばかりこの時期のイタリアの状況を説明しておく必要があるだろう。現在は長靴の形をしたイタリア共和国として存在しているが、元々はバラバラの国として存在していた(サルディーニャ王国、パルマ公国、両シチリア王国等)。そんな時にイタリア統一運動に大きな働きをしたのが革命軍を率いたイタリアでは有名すぎるガリバルディ。ガリバルディがシチリア島に攻め込んでくることが本作の発端となる。
 それとシチリア島の状況も少しばかり説明しておく必要もあるか。本作では主人公であるバート・ランカスターが「シチリアは25世紀に渡って他国に支配されてきた」と言う台詞がある。そして、シチリアは色々な国の支配を受けている歴史がある(スペイン、フランス、ブルボン王朝等)。本作においてはシチリアはブルボン王朝の支配を既に長年に渡って受けていたのだが、そこへ前述したようにガリバルディがブルボン王朝を支配するべく攻め込んできたのだ。
 そんなブルボン王朝の下で甘い蜜を吸っていたのが特権階級に属する貴族たちだが、階級社会で上流にあたる彼らは王朝の庇護を受けて、ボッ~としながらでも豪華な暮らしをすることができた。ところが、王政打倒、共和制を掲げるガリバルディの革命軍がもの凄い勢いでシチリアに攻め込んできた。もしもガリバルディにシチリアを征服されると、この地にいる貴族たちは社会の変革によって彼らの特権は剥奪される恐れを抱かざるを得ない。
 そんな貴族社会がピンチに陥ってしまった事に対して苦悩するのが、長きに渡って続いた名門中の名門であるバート・ランカスター演じる老年のサリーナ公爵。

 古き社会と新しき社会の狭間で揺れる老貴族に訪れる運命はこれ如何に。
 19世紀半ばイタリアのシチリア島において。山猫の紋章を持つ貴族であるサリーナ公爵(バート・ランカスター)はシチリアのパレルモで大家族と共に暮らし、貴族らしく振る舞っていた。しかし、そこへガリバルディによる革命軍がシチリアへ上陸。そんな時にサリーナ公爵の甥であるタンクレディ(アラン・ドロン)は時代の波を嗅ぎつけ、革命軍に参加することをサリーナ公爵に告げる。まさかの申し出に戸惑うサリーナ公爵だったが、日頃可愛がっているタンクレディにお金を持たし、革命軍に参加することを許す。
 ガリバルディによってシチリアも征服され、サリーナ公爵一家は別荘へ逃れる。そこではこの混乱に乗じて資産を増やして勢力を伸ばしているブルジョワ上がりのカロージェロ(パオロ・ストッパ)が市長となっていた。
 そして、軍功を挙げて帰ってきたタンクレディだが、カロージェロの美しい娘アンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)に一目惚れ。タンクレディはサリーナ公爵にアンジェリカとの結婚の後ろ楯になるように頼み込むのだか・・

 貴族社会の特性として近親での結婚が多いことが挙げられる。タンクレディも当初はサリーナ公爵の娘と婚約していたのだが、彼女を振ってブルジョワ上がりの娘であるアンジェリカに乗り換える。名門一族の貴族にとって結婚することにも相手の階級を気にしなければならないのだ。しかも、相手はまるで価値観の異なる家柄の女性。タンクレディは新時代の象徴であり、そして彼の時代を読み取る目が凄いからなのかポリシーを簡単に曲げるのだが、その辺りが俺的にはムカついた。
 そしてサリーナ公爵だが結構なエロ爺。シチリアが一大事な時でも娼婦の館に通い詰める。しかしながら、迫りくる老いと貴族社会の斜陽、それに抗うことに苦悩する。しかし、その姿に名門貴族としてのプライドや引き際の美学を感じさせられた。
 なかなか重厚な人間ドラマを感じさせ、それでいて政治的な面も描かれている。そして現在のイタリアの姿になる激動の時代を少しばかり勉強した気分になる。個人的には非常に面白く観れたのだが、3時間の長丁場。貴族だのイタリア統一運動だのシチリアの綺麗な風景などに興味が無い人には恐らく睡魔との戦いになるか。そのためにもここで述べたような知識ぐらいは予習しておきたいところだろう。更に、後半では30分以上の時間を豪快に踊りまくるシーンが出てくるだけに脱落してくる人も出てきそうなのが不安だ。
 そうは言っても本作は貴族の末裔であるルキノ・ヴィスコンティ監督。貴族の末裔がこのような貴族の没落を描くことの奥深さを感じるし、豪華セットは見所充分、ニーノ・ロータによる音楽は素晴らしいし、何と言っても格調が高い。少しばかりイタリアに興味があり、ルキノ・ヴィスコンティ監督と聞いて心が騒ぎ、3時間の長丁場に耐えられる人に今回は山猫をお勧めに挙げておこう

 監督は前述したルキノ・ヴィスコンティ。映画界に多くの名作を遺した。サスペンスの傑作郵便配達は二度ベルを鳴らす、女の情念を感じさせる夏の嵐、1960年代のイタリアの南北格差を描いた若者のすべて、骨肉の争いが凄まじい地獄に堕ちた勇者ども、本作と同じくバート・ランカスター主演でうるさい訪問者に悩まされる家族の肖像、彼の遺作であるイノセント、ひたすら豪華さを求めるならルードヴィッヒがお勧め






 



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