頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『ぼくの守る星』神田茜

2014-07-16 | books
連作短編集

文字を読むのに障害を持つ夏見翔(かける)は14歳。彼から見た日常、同級生、母親。そして彼の苦悩<ジャイアント僕>

翔の母、和代。息子の教育がうまくいかない。障害があるために勤めていた新聞社を辞めたのに。彼女の母親に月に一度呼び出される。偉そうに障害についてどこかで聞きかじった知識を披露する。全て悪いのは私なのか<済んだ水の池>

同級生夏見のボケは最高だ。教科書に書いてある「前日、前々日」を「前田、前々田」と読んだ。俺ならうまくツッコめる。あいつと組めばお笑いコンビとして成功するに違いない、そう信じる山上。姉は5歳に時に亡くなった。母はそのことをいまだに引きずっている。父は葬儀場で働いている。そのことで「線香臭い」とバカにされ<ゴール>

弟の聴覚障害のせいで母はおかしくなってしまった。そんな母と弟を引き離すために、父と弟は北海道に住むことになった。精神的に不安定な母と二人で暮らすのは翔の同級生まほり。翔との関わりの中で<はじまりの音>

翔の父は新聞社に勤務。息子に障害があるらしいが忙しいことを言い訳に子育てにほとんど関わらなかった。カイロでの単身赴任が終わって帰国したら、閑職に追いやられてしまった。しかし家庭では妻と息子に無視されるような存在になってしまった<山とコーヒー>

翔が見つける自分の人生<ぼくの守る星>

基本的にディスクレシアの翔を中心として、周辺の人物の喜びと苦悩を描く。文字がうまく読めないというのはこういうことなのかと分かって、後頭部とおたまでカキーンと叩かれたような思いがした。笑えたり、ジーンとしたり、ものすごくいい小説だった。薦めてくれた人に感謝。

あちこちにドキッとするような表現が、

山上は言う。

いつもそうだ。誰かといるときには自分がすごくでかくなったみたいに調子に乗れるのに、ひとりになった途端に体が半分になったような気がして、偉そうにしたことをあやまりたくなる。

ろくに子育てに参加しなかった翔の父。今まで一度も出たことのない学校行事にこれからは参加すると妻に伝えると、

「いいわよ、来なくて。感動だけ横取りしようなんて、都合が良すぎよ。私のご褒美なんだから、あなたは感動しなくていい」

うーむ。きびしい。でもその通り。

子育ては自分育てと言うが、子を育てなかった彼は、子を育ててきた彼女に、十歩も百歩も遅れをとったようだ。

ぼくの守る星

今日の一曲

文字で書かれたことば、それ以上のもの。ExtremeでMore Than Words



では、また。
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2 コメント

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こんにちは (ふる)
2014-07-23 13:37:17
>パールさん、

この本はあくまでもフィクションですから、日本にディスクレシアがある/ない という現実に関してはよく分からないですね。

>翔やまほりの弟が 女の子だったら、母親たちはこんなにも追い詰められたのだろうか

男の子の場合の方が「能力」の高さが求められることが昔はすごく多かったのだろうと想像致します。
しかしチェアマンがチェアパースンになる時代ですから、「そりゃ、男の子のほうが出来ない子じゃ、親は大変だよな。女ならまだいいけど」などと言うと、偏見だと言われれしまうのかも知れません。(男の子の場合の方が、母親は追いつめられてしまったのだろうなと思う自分が少し不思議です)
親が、社会が男の子に求めること、女の子に求めることの相違について考えてみると面白いような気が致しますが、またの機会に。
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Unknown (パール)
2014-07-18 20:56:28
日本語を使っている日本人には、ディスクレシアがほとんどいないのではないかと思っていました。私はいろんなことを知らなすぎだと。

自分では手に取らない本ですが、ふるさんの記事を読んで、図書館から借りました。

例えば、翔やまほりの弟が 女の子だったら、母親たちはこんなにも追い詰められたのだろうか と思いました。
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