頭の中は魑魅魍魎

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『消滅した国の刑事』ヴォルフラム・フライシュハウアー

2013-10-24 | books
東ドイツ出身で現在はベルリンの警察で警視正の立場にいるツォランガー。最初の事件は、遺体の頭部と手足が切り取られた状態で発見されたところから始まる。トルソ状態なだけじゃなく、頭部には山羊の頭が乗せられていた。次の事件は、死んだ羊から人間の手が。猟奇殺人だろうか。並行して描かれるのは、兄が死に警察が自殺と断定したことに不満を持つ妹の奮闘。兄は大企業の不正について知っていたらしい。さらに並行して描かれるのは、銀行の頭取の娘の誘拐事件。その銀行は巨額の不正事件に関わっているらしい。この三つの事件が交差する先には…

ふむふむ。これはこれは意外な収穫。

東ドイツでは(それが正しいかどうかは別として)社会主義が犯罪を制御できていたのに、統合後のドイツではそれができていない、と考える主人公が新鮮で面白い。タイトルの「消滅する国」というのは東ドイツを指している。旧ソ連では犯罪の発生率は低かったのだろうか。文化大革命下の中国ではどうだろう。中央による強い支配の下にあるとき、人は反社会的行為をやめるのだろうか。自由とは裏返せば、犯罪をするも自由ということになるのだろうか。今後考える自分の宿題ができた。

目立たない作品だし、たぶん売れていないのだろうと想像する。しかしミステリとしてすごく魅力の多い小説だった。二転三転する様が巧く、そしてラストにかけての大きな仕掛け。まさか○○がXXだったとは!と思って驚いたら、実はXXではなく△△だったとは!

近年翻訳ミステリが売れていないそうだ。「本の雑誌」でも「がんばれ翻訳ミステリ」という特集があった。翻訳ミステリに育てらた身としては残念に思う。本を読む人が減っているのと、内向き志向が進んでいるからか、読むのなら濃くないもの、じゃなくて国内ものへとシフトしているからなのかも知れない。

単なるトレンドや人の好みについてあれこれ言うつもりはないけれど、ミステリに関しては国内のものは近年面白いものがそれほど多くなく、翻訳ミステリの中にすごく面白いものが多いように思う。テレビドラマでもアメリカやイタリア、英国、北欧のものの方が、日本のものよりも当たりに出会う可能性が高い。小説と全く同じではないだろうけれど、しかしなー。

インターだかネットだか、スマだかマホに押され気味の出版業界とテレビ局はどげんかせんといかん、と思うのは私だけだろうか。

と、前にした話をまた繰り返している私の方がどげんかせんといかん。

今日の一曲

ベルリンと言えば、



BerlinでTake My Breath Away(映画「トップガン」の主題歌。邦題「愛は吐息のように」)

「トップガン」6回ぐらい観たんじゃなかろうか。

では、また。

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