ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ハード キャンディ』

2006-05-18 00:03:29 | 新作映画
「う~~ん。
これまた、とんでもない監督が飛び出してきたもんだ」

----そう?よくある「赤ずきんちゃん」をモチーフにした
エロチック・サスペンスみたいなものじゃないの?
「もちろん、その要素は多分にあるし、
最初の方は、おやおやこのロリータ趣味は
日本じゃまずいよな……って感じで観ていたんだけどね」

----でも、それだけじゃなかったってわけ?
「うん。よく知られている『赤ずきんちゃん』は
赤ずきんちゃんによる“悪いオオカミへの復讐”で
めでたしめでたしとなるわけだけど、
この映画では最初から赤ずきんちゃんがオオカミに罠を仕掛ける」

----ふうん。でもそれもあらかじめ想定内と思っていたけど……。
「この物語はネットのチャットで知り合った
中年のカメラマンと14歳の少女が
実際に会う約束をするところから始まる。
このネット上での誘い方、
そして会ってから男の部屋に行くまでが実にスリリング。
その駆け引きの描写だけで
あっという間に観る者の心をつかんでしまう。
相手のちょっとした言葉の隙をついて、
お互いにラブアフェア、男と女の関係へとなだれ込もうとするさまがお見事。
まあ、ぼくにはちょっとマネできないな(笑)」

----でも、チラシとかによると、
それこそが男にとっては恐怖の体験の始まりとなるわけでしょ。
縛り上げられて、ついには股間の大切な部分まで
切り取られようとするとか……?
「そうなんだ。
この少女ヘイリーの行動があまりにもエキセントリックで、
精神的に病んでいるのでは……?と、
観客の心の針は最初、
カメラマンのジェフへの同情へと揺れ動く」

----でも、もともとは少女相手に
チャットをやっているくらいだから、
このカメラマンだって少しヤバいよね。
「うん。ところが彼はごく普通の男で、しかも意外に紳士的。
と言っても、これは男のぼくがそう思っているだけで、
他の人、特に女性が観たら、また違った意見になるかもしれないけど……。
彼の寝室には自分が写した少女モデルの写真こそ貼ってはあるものの、
特に過激なものや、おかしなものは何一つ発見されない。
しかし、独身の男の部屋にしては逆にそれは不自然」

----それはそうだよね。えいだって……。
「はいストップ!(笑)
ヘイリーは失踪したある行方不明の少女を
小児性愛者のジェフが殺したと決めつけているんだね。
つまりヘイリーのこの行動は
その友人である彼女によるジェフへの制裁。
でも果たしてそれは真実なのか、
彼女の勝手な思い込みではないのか?
この映画は、
終始、ふたりの会話によって映画が進んでゆく。
そのため、それぞれが発する言葉のどちらを信じるかによって、
観る人が受ける印象は180度違ってくる。
それはつまるところ観客のモラルや価値観といった、
その人のバックグラウンドの差異によって決まってくるとも言える」

----えいはどうだったの?
「ぼくは最初はジェフに同情。
でも後半に至って右に左に揺さぶられたね。
う~~ん。やはりこれは
この映画が長編デビューとなる
監督デイヴィッド・スレイドの作劇術が秀逸なんだと思う。
もちろん人によっては、
最初から最後までブレない人もいるかも知れないけど…」

----そう言えばこの映画も音楽が……。
「うん。オリジナルスコアはわずか9分間しか使われていない。
だからと言って,それ以外は無音かと言うと、
そう言うことではなく、
部屋の外の鳥の鳴き声とかも
きっちり捉えられている。
キャメラもフィルムスピードを変えたりするなど、
最初はトリッキーなテクニックが目についたけど、
舞台が部屋の中に移ってからは
流れるような移動撮影を多用。
その被写体となる対象から対象へと移る中で、
スクリーンを一つの<色>で埋めつくすという
眩惑的な映像を見せてくれるよ」

----話を聞いていると、
けっこう気に入っているみたいだね?
「う~~ん。
ただ後味があまりよろしくなかったね。
確かに観客の目をスクリーンに引きつける力に関しては
この監督、新人とは思えない並外れたモノを持っているけど、
そこがどうもね。
カタルシスというヤツが、少なくともぼくにはなかったな」


        (byえいwithフォーン)

フォーン「フォーンもオトコだから怖いニャ」もう寝る

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※画像はアメリカのオフィシャル壁紙より。