北森鴻著"瑠璃の契り 旗師・冬狐堂"を読みました。
以前に読んだ"緋友禅 旗師・冬狐堂" の続編です。
連作短編集です。
"倣雛(ならいびな)心中"
同じ人形が3回店に戻ってきたといいます。
富貴庵の芦辺から人形を預かります。
人形作家の北澤濤声の作品です。
妻が自殺してから一年後に濤声も自殺しています。
その間に作られた作品です。
人形の行き先は子供がいる家、病気で臥せっている
人のもと、車椅子生活をしている人のもとでした。
その人たちの共通するのは視線が下からだということです。
ある視点から見ると人形は陰惨な目つきで侮辱の口元を
浮かべています。
この目線から陶子はもう一つの人形があることに
気が付き探し出します。
憤怒に歪んだ目つき、泣きだしそうな唇を持つ男の
人形を見つけ出します。
おしどり夫婦と言われていた濤声と妻の関係を表した
人形です。二人の死の意味も表しています。
"苦い狐"
美学生だった時にいっしょだった杉本早苗の追悼画集の
復刻版が送られてきました。
早苗は火災のため大学四年の時に絵といっしょに亡く
なっています。
陶子に絵を諦めさせるほどの才能の持ち主でした。
追悼画集は少ない費用で出したものですでに色あせて
います。保管してあった写真フィルムを元に作られた
ものです。
復刻版は鮮明なものです。誰が何の目的で作ったのか。
"瑠璃の契り"
横尾硝子はカメラマンです。陶子の友人であり商品の
写真撮影を頼む仕事仲間でもあります。
九州の立ち飲み屋さんで三千円で手に入れた瑠璃ガラスの
切り子椀に硝子は歓喜以上の表情を見せ一滴涙をこぼし
ました。
ガラス職人は佐貫皓一です。奥さんと娘をとても愛して
いました。その二人が亡くなりました。
佐貫自身もその後なくなっています。
硝子は佐貫の工房へ通ううち佐貫にひかれていました。
佐貫は工房の一人娘と駆け落ちしてしまいますた。
硝子の心のうちを覗かせる話でした。
"黒髪のクピド"
陶子は結婚していたことがあります。
学生時代の教師で英国人プロフェッサーDと呼ばれている
年の離れて男性です。
プロフェッサーDは人形に深い知識があります。
Dからある人形を競り落としてくれるよう頼まれます。
その人形とは生き人形でした。誰かを模した人形、
しかも死んだ子をです。
Dが行方不明になりました。
Dの行方を陶子は追っていきます。
生き人形の謎をめぐる話です。
友人の硝子や元夫の話が出てきておもしろかったです。
骨董品や美術品はただ愛でるだけでなくいろんな思惑が
付いて回るものなんですね。10/14