雑記帳

日常の出来事や、読んだ本のあらすじや感想など書いています。

影法師

2011-10-08 19:11:01 | 
百田 尚樹
講談社
発売日:2010-05-21


百田尚樹著"影法師"を読みました。
戸田勘一は下士の家に生まれました。武士の間でも上士と
下士との身分差別がありました。
勘一の父は上士に斬られて亡くなっています。
その時に勘一に向かって「泣くなっ」と怒鳴ったのが
磯貝彦四郎です。

ねたばれしないようにうまく書けませんのでお気をつけ下さい。

数年後下士が入れなかった藩校で勘一は学ぶことにまります。
最初はいやがらせを受けた勘一ですが力でねじ伏せます。
彦四郎と勘一は藩校で再会し生涯の友となります。
共に剣術の道場にも通います。
彦四郎は学問でも剣術でもぬきんでた才能を発揮します。
勘一も上位の成績です。

藩は貧しく農民一揆が起きます。
首謀者は一家もろとも磔の刑に処せられます。
一揆の農民を道を通してやった武士も切腹しています。
命をかけてもやらなければいけないことがあるのです。
貧しさから抜けるため勘一は日本海に面した広大な汽水湖を
干拓して田にする夢を持ちます。

上覧試合が開かれ勘一、彦四郎共に出場します。
彦四郎が勝ち抜きます。

やがて仲間はそれぞれ職につきます。
勘一は田の管理や年貢の取立てを主にする代官所で
働くことになります。田や農作業について熱心に
学びます。
彦四郎は長男ではなく本来職につけないのですが仮に
町奉行所の与力助役として働くことになります。

勘一、彦四郎に上位討ちの命が下ります。
相手は藩の剣術師範をしていた男とその弟子です。
この時負けるはずのない腕をもっていた彦四郎が
背中を斬られ、勘一が二人を仕留めることになります。
勘一は出世の道を踏み出すことになり、彦四郎は後ろを
見せたと蔑まれ蟄居を命じられます。
二人の運命が分かれます。

藩には滝本という悪家老がいます。賄賂を受け取っています。
勘一の出した干拓の計画を通させません。
勘一は城主に直接進言したいと思うようになります。
やがてその機会が来て試験的な干拓が始まりますが何度も
壊されたり人が斬られたりする妨害が起こります。
滝本の仕業です。
勘一は前からの一人と後ろから追ってきた二人に囲まれる
事態となります。
誰だかわからない人が後ろの二人を斬り勘一は命拾いをします。

勘一は干拓の途中で江戸詰めとなり20年ほどたって
国家老に出世して戻ってきます。
彦四郎が二年前にうらぶれて病気で亡くなったことを知ります。
彦四郎は勘一が江戸へ立った数日後道で出合った女性に
狼藉を働いてすぐに藩を出奔しています。

島貫という居合い抜きの元刺客が訪ねてきます。
20年前勘一が江戸へ向かう時刺客として追っていった
ことを告げます。
でも勘一はこの刺客に会っていません。

やがて勘一は何もかも知ることになります。
彦四郎が自分のために人生を捨てて助けてくれたことを。
上意討ちの時はわざと斬らせて手柄が勘一にいくように
したこと。
干拓地でおそわれた時に二人を討ってくれたこと。
狼藉を働いたふうを装って刺客を追いかけ討ち取って
くれたこと。
自分が彦四郎に守られていたことを初めて知ります。

彦四郎は自分が見込んだ男のため自分の人生を捨てて
助けます。
どうしてそこまでできたのでしょう。
ここまでして光をあててやらなければ力を発揮する
機会を得られないということなのでしょう。
自分は影に徹して一人の男を押し上げて能力を発揮
させてやりました。
彦四郎は学問も剣も優れたものを持ちながら埋もれる
人生を選びました。
そしてそれを誰にも告げませんでした。
勘一の業績や出世は彼の喜びでしょう。
自分の人生を勘一に背負わせたということはあるでしょう。
きっと見た目の不遇や貧乏は辛くはなかったのではと
思います。

それでも彦四郎にはその後の人生を自分のために切り開いて
幸せに暮らしていて欲しいものだと思います。
これだけの計略を謀れる人です。自分のためにも能力を
使って欲しかったです。
幸せな二人として再会して欲しかったです。9/30