かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

サボテン開花記念、ではないのですが、短編小説をアップしていきます。

2008-05-18 20:26:10 | サボテン
 この間和歌山で買って来たサボテン『緋花玉』がようやく咲きました。まあ咲いたのは多分金曜日くらいからだろうと思いますが、ちょうどお昼ごろにしか満開にならないため、確認は今日になってしまったのです。自分の身体よりも大きい、光沢のある花弁を目いっぱいに広げた姿は、目が覚めるようなという形容詞がぴったりなほど綺麗な花です。花は多分明日明後日にはしぼんでしまうと思いますが、何とか元気に育てて、また来年も一段と多くの花を楽しませてもらいたいものです。

     


 さて、新作の短編小説を公開するにあたり、今日はとりあえずその前編に当たる部分をアップいたします。まあすでにサイトのほうでは公開済みのお話ですので、ご存知の方は新作お披露目まで今しばらくお待ちいただきたいと思います。
 内容は、ビデオ「ドリームハンター麗夢 夢の騎士達」その後、という感じで、美奈ちゃんが残っていた夢魔の女王の鏡を発見するところから始まります。



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短編小説『鏡の悪戯 前編』 その1

2008-05-18 20:26:01 | 麗夢小説 短編集
 夢魔の女王の陰謀も記憶の片隅にすっかりファイルされた頃、その『事件』は起こった。ヨーロッパでの一騒動や、「夢サーカス」の事件でてんてこ舞いした後の虚を突かれたと言えばそうかも知れない。麗夢は自分の油断にほぞをかみながら、目の前の危険な混乱を、成す術なくただ呆然と見つめていた。
 
 事の発端は、麗夢が久々に美奈の訪問を受けた所から始まった。美奈の訪問、それは互いの異能に立脚した、夜の逢瀬である。夢魔の女王を滅ぼしてからしばらく、麗夢はアルファ、ベータと共に夢の中で美奈のリハビリに付き合っていたのであるが、それがすっかり必要なくなってからも、こうして夢の中でおしゃべりするのを楽しんでいるのだ。この日もそんな日常から始まったのであるが、話の拍子に夢魔の女王の事が出てきたのが運の尽きであった。
「夢魔の女王の鏡?」
 美奈の何気ない一言に、麗夢の眉が軽くひねり上がった。
「そんなものが、まだ残っていたの?」
「ええ」
 病院にいた頃とは見違えるほど元気になった美奈が、少し不安げに頷きながら、昨日見た夢の話を麗夢に聞かせた。
「初めはそこがどこか判らなったんだけど、あの夢魔の女王がいるような、いやな感じがしたの。そしたらその鏡が目の前にかかっていて……」
 夢魔の女王は確かに滅ぼしたはずだ。だが、あれは世の女性達の嫉みや妬みなどの負の感情が結晶した夢魔だった。つまり、世に女性がいる限り、夢魔の女王がいつ復活してもおかしくは無い。しかも、その持ち物がまだ残っていたとなれば、そんな器物を基に再生したりするのかも知れない。そうなればこれはゆゆしき事態である。
「そんな鏡は早く壊しておいた方がいいわ。いきましょう美奈ちゃん。アルファ、ベータ、あなた達は外から不穏な気配が動かないか、見張っていて頂戴!」
「にゃーん」
「ワン、ワンワン!」
 さっきまで美奈のところでじゃれ合っていた小さな毛玉が二つ、それぞれ愛らしい尻尾を振って返事をした。
「じゃあお願いします。麗夢さん」 
 あの部屋の気配に不安を抱いていた美奈は、
大喜びで麗夢の案内に立った。

 それは、姿見という名に相応しい大きさの、逆三角形をした鏡だった。上部に直線の亀裂が幾つも走り、装飾も古風だったが、主を失った空虚な暗闇に、それだけがぽっかりと浮かび上がっているのは、一種異様でもある。そのせいか、空間自体に息苦しさを覚える不安が満ちあふれているようにさえ感じられた。だが、慎重に鏡へ近づいてその表面にそっと手を触れた麗夢は、すぐに想像していたほどの危険はないことに気が付いた。確かに何か力を隠し持っているような気配はあるが、それにしたところであの夢魔の女王には遠く及ばない微弱さだ。
 麗夢は小さくほっと一息を付くと、すぐ後ろで不安げに佇むお下げの少女に振り返った。
「今のところ差し迫った危険はないわ。でもちゃんと壊しておいた方がいいと私は思うの」
 麗夢の言葉に、美奈も胸をなで下ろして笑顔をようやくほころばせた、その時である。
「ちょっと待ったぁ!」
 びくっと肩を震わせた麗夢が、反射的に脇のホルダーから愛用の拳銃を抜き放つ。その黒光りする危険な銃口を突きつけられた相手は、思い切り万歳をしで、ひっと息を呑んだ。
「あ、貴女は……、夢見さん?」
「麗夢ちゃん、いきなり酷いよぅ」
 呆気にとられつつも銃を下げた麗夢に、夢見小僧は苦笑を浮かべつつ手を下ろした。
「だっていきなり背後から叫んだりするから、てっきり夢魔でも出てきたのかと思って……、って、一体どうやってこの夢の世界に?」
「いやぁ、『仕事』中何げに鏡覗いたら、いつの間にかいたのよねぇ。ほんと、私にも訳わかんないわ。まあそんなことはともかく、ねえ、麗夢ちゃん!」
 つり目な大きな瞳がキラリと光った。これは危ないかも、と麗夢の心に不安がよぎる。案の定、つかつかと鏡に歩み寄った夢見小僧は、つるりとしたその表面に右手を添えながら、麗夢に振り向いて言い放った。
「この鏡、私に頂戴!」
 あ、始まった、と麗夢は思った。夢見小僧は夢が関係するアイテムを狙う泥棒で、警視庁からは怪盗241号という符号で指名手配されている。ただ、世間的には神出鬼没な仕事ぶりから名付けられた、「怪盗夢見小僧」という令名の方が圧倒的に通りがよい。その怪盗としての食指が、この夢魔の女王の忘れ形見に舌なめずりして見せたというわけである。
「駄目よ夢見さん。これはすっごく危険なものかも知れないのよ?」
「だって麗夢ちゃんもさっき大丈夫だって言ってたじゃない」
「だからといってはいどうぞ、とは言えないわ。第一、ホントにただの鏡だったら、夢見さんちに粗大ゴミが一つ増えるだけじゃない」
「わ、私の収集物はゴミじゃないわよ。でも確かにただの鏡ではしょうがないかも……」
「麗夢さん、鏡を見て!」
 突然割り込んできた美奈の一声に、二人は驚いて振り返った。すると、さっきまで麗夢と夢見小僧が映していた鏡が、急に暗くなって渦をなす雲の様なものを浮かべ、その中央に一対の目が現れたのである。
「あ、やっぱりただの鏡じゃなかった!」
 夢見小僧が小躍りして胸の前で手を合わせた時、鋭くも陰惨な気配を宿らせる、まがまがしさに満ちた視線が、相応しい暗い声で語りはじめた。
 『私めは魔法の鏡でございます。さあ、何でも望みのものを見せて差し上げましょう』
「このっ!」
 麗夢がさっき夢見小僧に向けたばかりの拳銃を、改めて鏡に突きつけた。
「待って麗夢ちゃん! 壊すのはいつでも出来るわよ!」
「どいて夢見さん!」
 慌てて銃口を遮ろうとする夢見小僧と、とにかく破壊しようと言う麗夢がもみ合う中、はらはらしながら見守る美奈に、直接鏡が話しかけてきた。
『お嬢さん、貴女が見たいモノは何?』
「え、え、私?」
 美奈が口ごもると、にやりと笑ったように鏡の目がすうっと細くなった。
「かしこまりました。『この世界で一番美しいのは誰か』でございますね?」
「え、私まだ何も言ってない……」
『どうぞご安心下さい。私めに投げかけられる質問は、ほとんどそれなのですから』
 まだ目を白黒させている美奈を置いて、鏡の目が更に細くなって、雲の渦の中に消えた。
 ふと気づくと、夢見小僧が美奈に向けてウィンクしてにっこり笑った。
「まったくもう!」
「だって鏡よ鏡、って言ったら、これが定番だよね?」
 曖昧に頷く美奈に、麗夢も一旦は諦めて、渦なす雲を見守った。やがて鏡の表面が晴れて、一人の少女の姿が浮かび上がってきた。
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短編小説『鏡の悪戯 前編』 その2

2008-05-18 20:25:49 | 麗夢小説 短編集
「……麗夢さんだ」
「ほんと、麗夢ちゃんみたい……。でもこの格好はなに?」
 それは、夢戦士の姿で剣を振り回す麗夢の姿であった。美奈は夢魔の女王の一件で既に見ているが、夢見小僧は初めてである。
「私の夢の中での戦闘スタイルよ!」
「でも、何となくプロポーションが良すぎる気がするんだけど」
 首をひねる夢見小僧に、麗夢は少し顔を赤らめながら言った。
「き、気のせいよ! それよりもういいでしょう? 壊すからそこどいて、夢見さん!」
「駄目よまだ! 私、麗夢ちゃんが1番て納得いかないもの!」
「はぁ?」
 麗夢が呆れてため息を付く間に、夢見小僧は鏡へ新たな質問を投げかけた。
「本当に麗夢ちゃんが夢世界一の美女なの?私にはそうは思えないのだけれど」
 すると鏡はいったん元の渦巻き雲状態に表面を整えると、目を開いて夢見小僧に答えた。
『どうすれば御納得いただけますか?』
「そうねぇ……」
 夢見小僧はうーんと唸って腕を組み、やがてそうだ、と手をぽんと打つと、満面の笑みでこう言った。
「候補者を集めて決めましょ。題して『夢世界美人コンテスト』! それで一番になったんだったら、私も納得できるわ」
「出来るわけ無いじゃないそんなとんでもないこと!」
「出来るわよ。ねえ鏡さん、私をこの世界に引き込んだんですもの。それくらい訳ないでしょ?」
『もちろんです。私の魔力は、現世でも冥界でも、届かぬところは一つとしてありません』
「じゃあ早速呼び出して。候補者をここに勢揃いさせるのよ」
『かしこまりました』
 鏡の目がすっと細くなり、背景の雲が、一段と速さを増して暗い渦を描き出した。急激に高まった闇の力が、肌を逆なでするような無音の圧力を伴って、麗夢達の心を圧迫する。だが、それもほんの数秒のことだった。麗夢が危険を覚えてやはり破壊すべし、と決心する直前、唐突にその圧力が失せ、大勢の人間がたむろするざわめきが、3人の背後に出現したのである。
「わぁお・ これは大勢いるわ」
「す、すごい……」
 そこには、二人には面識のない様々な姿格好をした少女達がたむろしていた。だが、麗夢にはその顔一つ一つに見覚えがあった。いや、強烈な記憶で心に焼き付いていると言ってもいいだろう。何故なら彼女らは、麗夢のかけがえの無い味方であり、かつて助けたクライアントであり、そして、制圧に困難を極めた「敵」だったからである。それも半分以上は、既にこの世にいないはずのモノだ。どうして、と聞こうとして、麗夢は思い出した。魔法の鏡は言ったではないか。現世と冥界とを問わず、と。
 そうして惚けている内に、麗夢から見て最前列にいた一人の少女が、バスタオル一枚と言うあられもない姿で麗夢に飛びついてきた。
「麗夢さま! やっとお会いできましたわ!」「ヒッ! あ、貴女、豪徳寺美雪、さん?」
「イヤですわ、そんな他人行儀。どうぞ美雪、とお呼び下さい」
 美雪は、たじろぐ麗夢の首に手をしっかと回し、やんわり抑えるくらいでは到底離れそうにない。
「ど、どうでもいいけど少し離れて、豪徳寺さん……」
「だから美雪とお呼び下さいな。私のファーストキスを奪ったお方、あの感動は一生忘れませんわ!」
「貴女、麗夢ちゃんとキスしたの? ずっるーい! 麗夢ちゃん、私にもしてぇ」
 いつの間にか、豪徳寺美雪の反対側から見覚えのあるブレザータイプの制服を纏った女の子が一人、抱きついてきた。
「巻向静香さん?!」
「な、何て馴れ馴れしい! 私の麗夢さまに抱きつかないで!」
「いやよぅ。貴女こそお邪魔なのよ」
 猫なで声の間延びした言葉遣いが、かえって相手の感情を効果的に逆なでする。豪徳寺美雪は、きーっ!と真っ赤になって怒りつつ、
反対側から一層強く麗夢に抱きついた。
「静香さん、話がしにくいから少し遠慮なさい」
「あ、あっぱれ4人組……」
 見ると南麻布女学園古代史研究部部長、荒神谷弥生と、その横に眞脇由香里、斑鳩日登美の二人が並んで立っている。弥生は、ずり落ちかけた眼鏡に手を添えながら、麗夢に言った。
「あっぱれ言うな! それより私達こそお伺いしたいわ麗夢さん。折角『根の国』で復活のための儀式を遂行していたのに、突然こんなところに呼び出されて。一体ここはどこなんですの」
 すると、その後ろから、冷ややかな視線で睨み付ける美少女が言った。
「私も是非伺いたいわね。地獄で今度こそナンバーワンになる予定だったのに、急にこんなところに連れてこられたら迷惑なのよ」
 その隣には、突然の出現に目を丸くしたまま固まっている双子の片割れ、高宮陽子が、思わず声を漏らしていた。
「……き、鏡子が生き返ってる……」
 更にその横で、見事な金髪にピンクのリボンをウサギの耳のように立てた少女、ROMが、けらけら笑っていた。
「あーそれ、あったしも知りたいなっ! れーむちゃん」
「あ、あの、どうなっているんでしょうか?」
いつの間にか美奈のとなりに寄り添うように、一人の少女が青い目に不安げな色を浮かべて立っていた。年の頃は美奈よりも少し下位の、若草色のスカートにエプロンドレスを纏う美少女、シェリー・ケンプである。
「率爾ながら、私も事情を伺いたいのですが……」
 更に美奈を挟むようにして、一人和装の美少女が立っていた。美奈は夢御前麗夢(れいむ)の横顔と麗夢の顔を交互に見比べ、あまりの相似に目を丸くして驚いている。
「麗夢さん、これって事件なの?」
 彼女達から少し離れた脇に立つ、ポニーテールの少女が言った。その隣の、年格好がよく似ている女の子も続けて声をかける。
「あのう、私、早く帰りたいんだけど」
「榊ゆかりさんと白川哀魅さんまで……」
 オウム返しに麗夢がその名を呼ぶと、二人は困惑しつつも曖昧に笑みを浮かべた。そして最後に残った一人が、きょろきょろと自分の姿を見回したり腕を鼻に近づけたりした後、悲しげに麗夢に言った。
「にゃあ」
「あ、貴女もしかして、アルファ? 一体どうして?」
「にゃあ!」
 名前を呼ばれたのがうれしかったのか、何故か姿はすっかり人間の女の子になったアルファが、喜色満面で飛びついてきた。麗夢は無理矢理抱きつこうとする三人にもみくちゃにされながら、心底途方に暮れた。何てことだ……。アルファまで人型になって召還されるなんて……。
『ム○クの2に人間体の姿がありましたので、モノは試しとその姿でお呼びいたしました』
 麗夢は、目の前が暗くなるのを覚えて、天を仰いだ。
「エー、皆さんご静粛に! 今からこの事態について説明いたしまーす! ちなみに私は最初にここへ召還された者で、夢見小僧と言います! 麗夢ちゃんとは探偵と怪盗でライバル関係してまーす!」
 夢見小僧が、いつの間にどこから取り出したのかリンゴの木箱の上に立ち、マイク片手に自己紹介しつつその場を仕切りはじめた。
「……と、言うわけで、この魔法の鏡さんの力でもって、皆様にお集まりいただきました。つまり、私も含めてここに集う皆様が、熾烈なる予選を勝ち抜いて決勝進出を果たした、自他共に認める夢の美女達、というわけです」
 夢見小僧が締めくくると、おぉ、とどこからともなく小さなどよめきが生まれた。皆、相応に自分の容姿には自信のあるものばかり。そう言われて気分の悪かろうはずはない。
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短編小説『鏡の悪戯 前編』 その3

2008-05-18 20:25:37 | 麗夢小説 短編集
「では、どうやって一番を決めるか、皆様のご意見をお聞かせ『お待ちになって!』?」
 夢見小僧の提案を遮って、胸の前で腕組みして仁王立ちしていた荒神谷弥生が声を上げた。
「な、なんでしょう?」
 まさかこの時点で横槍が入るとは思っていなかった夢見小僧は、少し慌て気味に問いかけた。すると弥生は、一歩前に身を乗り出すと、意を決したようにこう宣言した。
「せっかくですが、私達4人は辞退します」
「「「え~っ!!!」」」
 部長の思いもかけない発言に、部員3名のブーイングが見事にハモった。
「ちょ、ちょっとぶちょお! それどういう意味?」
「面白そうじゃないのよぅ」
「そうそう! 辞退なんてもったいないって」
口々に反対する3人に、弥生は有無をいわさず言い返した。
「皆さん! こんな原日本人の美の理想とはかけ離れた姿で、どの面下げて美人コンテストなどに出られるとお思いなのです!」
「そんな事思ってるの、部長だけだよぅ」
「そんなら部長だけ帰ればいいじゃん」
「お願い部長。考え直して」
「お黙りなさい!」
 未練たらたらな三人の懇願を、弥生はぴしゃりとはねつけた。
「第一私達にはこんな茶番にお付き合いしているヒマはないわ! さあ、帰りましてよ皆さん!」
 とりつく島もない弥生になおも3人は食い下がったが、一度言い出したら聞かないリーダーの性格は死んでも変わりないようだった。
「じゃあね麗夢ちゃぁん」
「復活したら、一番に会いに行くから」
「麗夢ちゃんの方がきてくれてもいいんだよ。待ってるからね!」
 こうして南麻布のあっぱれ4人組は、何やら物騒な言葉を残して「根の国」とやらに帰っていった。一部始終を唖然として見送った夢見小僧は、4人が消えたところでようやく気を取り直し、再びマイクを手にとった。
「では、辞退された方も出ましたけど、気を取り直して進めて参りましょ『お待ち下さい』……って、また?」
 声のした方を見ると、美奈の隣で端然と佇んでいた古風な衣装の美少女が、麗夢にそっくりな瞳で夢見小僧を見つめていた。
「私も辞退して早々に戻りたいのですが」
「ど、どうして! 貴女はこの中でも最有力候補の一人なのよ?!」
 鏡が言う一番は綾小路麗夢その人であるが、夢御前様は、顔かたちがそっくりである。しかも立ち居振る舞いの優美さや全体に醸し出されるおしとやかな雰囲気は麗夢には無い。この好カードを失うまいと夢見小僧は必死に慰留したが、夢御前様の決意は揺るがなかった。
「私は、智盛様にさえ「愛しい」と言っていただければそれで十分なのです……」
 ほんのり頬を染めてうつむき勝ちに答える夢御前様に、夢見小僧は何か既に決定的な敗北を喫したかの様な重い感じに囚われた。
「あ、そう言うことなら私も辞退するわ!」
「私も別にいい」
「私も帰りたいのですけど……」
 ほぼ同時に声を上げたのは、白川哀魅とロム、それにシェリー・ケンプ嬢の3人である。
「貴女達もなの?」
 呆れ顔で壇上から見下ろす夢見小僧に、3人は口々に言った。
「私、ハンスにご飯作ってあげてる最中だったのよ。早く戻らないと、彼、飢え死にしちゃうわ」
「あたしは屋代博士が一番カワイーって言ってくれてるからそれでいいの!」
「私も、ジュリアンにお花をあげないと……」
「そう、あなた達も「男」の方が大事ってわけね……」
 心なしか夢見小僧の声が震え、その笑顔が引きつっているかのように見える。
「……判ったわ。やる気のないヒトはいいわよ! もう!」
 投げやりな夢見小僧の一声に、それじゃ遠慮なく、と4人の美少女がその場から消えた。「あのう、私も辞退したいけど、いい?」
 おずおずと手を挙げて言った榊ゆかりを、夢見小僧はきっとにらめ付けた。
「何? 貴女も「男」?!」
 するとゆかりは、いいえと首を左右にブンブン振ってこう言った。
「私は夢の世界とは関係ないし」
「でも、死神と闘ってたじゃない!」
「あんなの、麗夢さんに助けてもらっただけよ。でもそうね、じゃあこうするわ。私、麗夢さんでいい。麗夢さんに1票入れる」
「あ、それなら私も、麗夢さんに1票入れます」
「もちろん私も、一番は麗夢さまに決まっていますわ」
 ゆかりの一言に、黙って事の成り行きを見守っていた美奈と美雪も声を揃えた。
「ニャニャっ!」
「アルファも私に一票だって」
「ニャっ!」
 呆れ顔の麗夢の首にまとわりつきながら、しゅたっと勢い良く手を挙げて、ヒト型アルファがにっこり笑う。
「貴女わっ。貴女達はどうなのっ?!」
 夢見小僧は、ただ一組残った双子の姉妹に縋る様な視線を送りつけた。
「き、鏡子、どうしよう」
「しっかりなさい陽子! もう、貴女がそんなだから私までこんな所に呼びつけられたんだわ。全く、いい迷惑ね!」
「ご、ごめんなさい」
 全く同じ顔同じ体つきなのに、かたやおどおどと視線を泳がせて及び腰の陽子に対し、死霊であるはずの鏡子の方が、自信満々で余程生気を発しているかに見える。
「あの~、姉妹喧嘩はいいから、質問に答えてくんない?」
 夢見小僧がおずおずと切り出すと、鏡子はようやく思い出したとでも言うように、夢見小僧を見た。
「どうでもいいのよ、こんなこと」
「へ? どうでもいい?」
「そうよ。世界一の美女なんて過去の話、私にはもうどうでもいいの! それに第一、一番なんて選んでもらうものじゃないわ。自分の力で勝ち取るものよ! だからとっとと帰して頂戴! はじめに言ったように、あたしは地獄の制圧に忙しいの!」
 どこまでも前向きな鏡子の発言に、陽子もしどろもどろながら帰りたいと告げた。
「私も夢の世界とはもう関係ありませんから。でもどうしてもと言うことでしたら、私も麗夢さんに1票入れます」
 すうっと二人の姿が消えていく。どうやら鏡が、二人の辞退の意志を汲み取ったらしい。
 続けて豪徳寺美雪とアルファの姿も消えていった。
「れ、麗夢さま! また、またお会いできますわよね! 麗夢さまー!」
「ニャーン!」
 それぞれ別れの一言を置いてかき消えると、残っているのは最初にここへきた3人だけとなった。
「どうするの、夢見さん?」
「……もういいわ一番は麗夢さんで。この鏡もらって私も帰る」
「え?」
「帰るって言ったの!」
 突然くわっと目を見開いて麗夢を睨み付けた夢見小僧は、手にしたマイクを投げ捨てると、鏡に飛びついた。
「でも、どうやって持って帰るんですか? 夢の中から」
「へ……?」
 美奈の何気ない一言に、夢見小僧は抱きつくように鏡へかけていた手を止めた。その頬に一筋、冷や汗が流れ落ちる。
「……あ、あなたの魔法で何とか」
『私めは夢魔の女王の呪いでこの場所から動くことが出来ません』
「そ、そんな、麗夢ちゃん」
 夢見小僧は麗夢に振り返ったが、麗夢も呆れたように首を振るばかりだった。
「あーん、何とかならないのぉ?」
 子供のように泣きじゃくりはじめた夢見小僧を見て、やれやれと麗夢は肩をすくめた。
「判った判った。でも、ほとんど魔力が無くなってただの鏡になっちゃうけど、それでもいい?」
「え? 持って帰れるようにしてくれるの?」
「特別に、ね」
「ありがとう麗夢ちゃん!」
 やっと3人の抱きつき攻撃から逃れた麗夢は、再びそれに勝るとも劣らぬ勢いで体の自由を奪われること暫し、ようやく解放されたところで、秘められた力を解放した。
「はああああああああっ!」
 夢の戦士に変身した麗夢が、その聖なる剣を天にかざし、夢の力を集積していく。その力で夢魔の女王の呪縛を断ち切り、更に鏡の魔力も加えて、現実世界にその姿を叩き出すのだ。鏡は、ハンス同様人畜無害な器物となって、夢見小僧のコレクションに加わることだろう。夢見小僧はその様子を見ながら、なるほど、やっぱり一番は麗夢ちゃんかな、と改めて感じ入ったのであった。
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