風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

音楽と政治について考えてみる

2022-03-02 03:22:02 | クラシック音楽

ここ数日ゲルギエフ関係の記事へのアクセス数が増えているのでなぜだろう?と思っていたら、遅ればせながら知りました。
今日は日本の新聞にもゲルギエフの記事が沢山出ていますね。
数日前には呑気に彼らのコロナ罹患の心配をしていたのに、数日後には全く別の方面から彼が指揮する音楽を二度と聴けなくなるかもしれない心配をすることになろうとは。世界の時間の流れをこれほど速く感じたのは初めてだな。
彼とプーチン大統領との親密な関係は以前から知っていたので(このブログでも何度か書いたとおり)、いつかこういうことも起こるかもしれないと全く想像していなかったわけではないけれど。

2014年のクリミア併合直後にミュンヘンフィルの首席指揮者になったとき既にミュンヘン市でその是非が議論になっていたことは知っていたので、今回のミュンヘンフィルの対応には全く驚きはないです。
「2月28日までにプーチンを明確に非難しなければ解任する」というミュンヘン市長の最後通牒も、嫌な方法をとるものだな…とは思うけれど、ミュンヘン市にはそうする権利はあると思うし。そしてそれに対してゲルギエフが沈黙を通したのも理解できる。
今回ミュンヘンフィルだけでなくあらゆる西側の音楽界から彼が締め出されたことからわかるとおり、結局彼が迫られた選択はロシアのマリインスキー劇場をとるか西側の音楽界での活動をとるかの二択だったともいえる。
そしてこれまでの彼の言動からすると、ゲルギエフがロシアよりも西側をとるということはあり得ないように思う。
His mission, he said, has always been serving music and exposing the world — and Russia itself — to Russian culture. That, he insisted, is his politics.
Los Angels Times, Aug 2019)

ゲルギエフ自身がインタビューで言っていたように二人の出会いは1992年のプーチン大統領がサンクトペテルブルク副市長だった頃にまで遡るので(二人は年齢もほぼ同い年)、それから今日まで、親友という言葉の裏側では綺麗なだけではない諸々も少なからずあったろうと想像する。もっともそれは西側の国々も同じこと。彼らだって100%綺麗だったわけではないでしょうに。サロネンがバルト海音楽祭へのゲルギエフ参加の是非を問われたときに「ロンドンがオリガルヒから金銭を稼いでいる限り、オーストリア人達がウクライナの出来事に関係なくガスの安定供給のためにロビー活動を行っている限り、なぜゲルギエフがここに来てもいいと私が言ってはいけないのですか?」(Financial Times , Dec 2014)と言っていたのは、私もそのとおりだと思ってしまう。また過去に西側諸国が関わった戦争が100%正義だったとでも?
プーチン支持がイコール戦争支持であるとは言えないとも思う。
ゲルギエフが過去に行ってきたチャリティー活動や環境活動や教育活動についてメディアが一切触れていないのもなんだかなとも思う。
東側の文化と西側の文化は全く違うものであって、どちらか一方の物差しではかるべきではないとも思う。
それでも。
現に、あれほどの人達が死んでいる。その火蓋を切ったのはプーチン政権であることは間違いのない事実なわけで。
芸術と政治は切り離すべきとか切り離さないべきとかの議論の以前に、現実に切り離されていないことは事実なわけで(特にゲルギエフにおいては)。
だから今回の西側の国々のゲルギエフに関する対応は、仕方のないことだと理解できる。なぜなら彼らは西側の立場にあるのだから、当然といえば当然のことをしているとも言える(それにしても「西側」「東側」という言葉を再び日常的に使う日が来ようとはねえ・・・)。

でも、ただ一つだけシンプルに言うなら、私はゲルギエフの音楽が好きなんですよね…。天国と出るか地獄と出るか極端な指揮者ではあるけれど、もらえた感動や時間には嘘はない。そして一度でもそういう感動をもらえた人に対しての感謝は、私の中で変わることはありません。それはどの芸術家に対しても同じこと。

ところでこれまでプーチン支持を公にしていたゲルギエフやマツーエフやネトレプコ等は今回声明を出しても出さなくても変わりはないように思うので別として(もちろん意見が変わったのなら言えばいいけれど。ただしそういう立場にある彼らにプーチン非難の機会を与える方法は一見善意のようで悪趣味だなとは感じる)、それ以外のロシア人アーティスト達にプーチン非難の声明を強要するような今の世界の空気は見ていて気分のいいものではないな…。政治信条の表明って本来は自由意思で行うものでしょうに。それが東側にはない西側の美徳だったでしょうに。そう思うならそう思う人が声を上げればいいだけのことで、他者がそれを強要するのは違うだろうと思う。またロシア人と一言で言っても、それぞれの置かれている立場も状況も異なる。
トリフォノフの「長期的な平和をもたらす解決を祈ります」というコメントに対して「そんな曖昧な言葉では足りない!もっと強い言葉で非難を表明すべき!」みたいな反応が起きている今の世界の空気は恐ろしいと感じる。


Gergiev verliert Auftraggeber(Süddeutsche Zeitung, 28. Februar 2022)
南ドイツ新聞の記事。
冷静な論調です。以下抜粋(ドイツ語→英語のgoogle翻訳)。

What Gergiev is thinking, he alone knows. But a clear distancing from Putin and his criminal policies is unlikely. His closeness to the Russian ruler was known long before the Philharmonic brought him to Munich. This proximity now puts him in a dilemma. He either renounces his international career or his position in Russia, not only in St. Petersburg, where Gergiev directs the Mariinsky Theater, organizes festivals, promotes young musicians - and thus professional existences are connected with his.

If he speaks out at all, the general expectation is that he will reject the war, but not distance himself from Putin, as the mayor of Munich has explicitly demanded. Gergiev's eventual or even expected sacking could cost the city dearly: Attitude is a delicate reason for dismissal. If in doubt, Gergiev would probably have to be paid off. Not to mention the really tricky question of whether, when and to what extent politics can force artists to make political statements.

When Daniel Froschauer, chairman of the Vienna Philharmonic, announced Gergiev's cancellation of the US guest performance, he also emphasized the decades-long bond between his ensemble and the Russian conductor and said: "Culture must not become a pawn in political disputes."

Denounce Putin or lose your job: Russian conductor Valery Gergiev given public ultimatum(The Guardian, 28 Feb 2022)



※追記:
駐日ロシア大使館が早速今回の件をtwitterとFBで糾弾していますが、彼らを守るつもりがあるのなら、今は黙っていてくれないだろうか……。明らかに逆効果……。
いや、この状況もロシアはプロパガンダとして使っているということか…。

※追記:
サロネンもinstagramで「The San Francisco Symphony stands in solidarity with the people of Ukraine, and rejects the violence and pain caused by Russia’s invasion of that sovereign nation. Each night this week, Davies Symphony Hall will be illuminated with the colors of the Ukrainian flag as a symbol of support for the resilient and courageous people resisting this needless war.」と投稿。サロネンはゲルギエフの友人ですが、ウクライナ問題についての意見は正反対だと以前から述べていました。この投稿に対しても「で、バルト海音楽祭はいつゲルギエフとの関係を断ち切るのか?」と返信がついていますね…(二人は2003年にスタートしたこの音楽祭の共同創設者)。

※追記
The Munich Philharmonic should also be aware that further collaboration with Gergiev is unlikely. Despite all the criticism, he still had a majority in the orchestra when the contract was extended in 2018. And with the successful opening of the new Isar Philharmonic Hall last October, the construction of which Gergiev had driven forward in a politically clever manner, the collaboration seemed to have paid off for the orchestra. But the support of the musicians for Gergiev has obviously dwindled massively since the beginning of the war. When the city's ultimatum to Gergiev was read during Friday's rehearsal, there was applause from the orchestra, according to musicians.
BR KRASSIK, 25 Feb, 2022)
記事には今回のウクライナ侵攻以降にミュンヘンフィルの楽団員達のゲルギエフに対する支持が変わったとあるけれど、両者の関係ってもともとそれほど良い関係ではなかったのではないかしら…。ゲルギエフがミュンヘンフィルと来日したときの印象も、オケも指揮者もどちらもビジネスライクというか、醒めた雰囲気だったし(マリインスキーやウィーンフィルと来た時にはそういう空気は感じなかった)。ミュンヘンのマネジメント会社による解雇通知は温かみを感じさせる内容だったので、やはり関係性の問題だと思う。もっともミュンヘンフィルの元楽団員の方のコメントによると「もし解雇に反対している楽団員達がいたとしても、ミュンヘンフィルとしては西側の音楽界のゲルギエフ排除の流れに逆らうことは不可能だろう」と。


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ディルとサワークリームの使い道

2022-03-01 14:31:57 | 日々いろいろ




先日のボルシチのために購入したディルとサワークリーム。
余ってしまった分をどうしよう?とググってみたところ、こんなレシピを発見。
サーモンソテー 炒め玉ねぎとディルのサワークリーム添え(サントリー)

美味しかった(写真はなんかキモい感じになってるが)
ディルとサワークリームとサーモンの組み合わせは、最強ですね~。
生のディルって今回初めて買ったんですけど、イケアのマリネで知っていた味そのままで感動してしまった。

サワークリームの使い道としては、これも美味しかったです。
新じゃがとベーコンのサワークリーム和え(Nadia)
どちらも「お酒に合うレシピ」と書かれてあるな。。。そう、私はそういう料理が大好き。つまりお酒が大好き

ところで、写真の青の花柄のウィッタードのお皿はロンドンで、ミイの人形はヘルシンキで買いました(ミイが乗っている切株のコースターはダイソーです笑)。
旅先でお土産を買わないタイプの人も多いけれど、私は断然買うタイプ。特に海外では迷ったら買う。
旅行って、形あるものは何も残らないけど、心の思い出が一生の財産になるじゃないですか。そして何十年たってもその時に肌で感じた感覚を現地の空気ごと思い出させてくれるのが、小さなお土産。
悪くはないお金の使い方だと思うのです。


【スウェーデン大使館シェフのおつまみ】ニシンの酢漬けディルクリームソース|作り置きレシピ|魚料理|北欧の味|クリスプブレッド|オムニポロビール

今見つけた、ディルとサワークリームを使ったレシピ。
これ絶対美味しいやつだ。。。イケアの鰊の酢漬けをこのソースで食べたい!鰊の塩漬け(以前ご紹介した鎌倉の山安で買えるノルウェー産のアレ)と和えても美味しそう。
この動画で使っているサワークリームは、今回私が買ったのと同じ中沢乳業のものだな。

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