入門して最初の頃は、たまに抜擢していただくと、「よう出来た」と褒めていただける。10年以上経って名題(なだい)昇進試験に合格して“名題”という身分になると、幹部俳優さんとからむことが増えます。この立場だとうまく出来て「普通」です。ところが幹部俳優になると、幹部俳優としてのセリフの言い方、芝居の仕方があることに気づかされるんです。最初はうまく出来ませんでした。どうやっていいか、わからないんです。先輩方に「それらしい芝居をしなさい」とアドバイスしていただきましたけど、襲名するまでは幹部俳優さんの後ろで控えているような役が多かったでしょう。急に意識改革できませんでしたね。
--最初から御曹司として歌舞伎の世界で育った俳優さんは当たり前のようにそういう演技ができる
つくづく思うのは、歌舞伎には家柄とか門閥が必要だということなんです。御曹司でないと出来ないお役ってあるんですよ。たとえば、「勧進帳」の義経とか、「仮名手本忠臣蔵」の直義(ただよし)のように身分が高くて、品格や大きさが必要なお役は、御曹司でないとそういう匂いが出ないような気がします。不思議なものです、歌舞伎という芸は。
(上村吉弥)
産経新聞インタビューより。
竹三郎さんと同じく、歌舞伎とは無縁の世界から歌舞伎役者になられた吉弥さんの言葉は、興味深いです。
【インタビュー】
①美貌の女形、上村吉弥さん「歌舞伎とは無縁の田舎育ち」
②「師匠の誘い受け役者に」
③上方歌舞伎の名跡を襲名…戸惑いも
④弟子には「役の性根を大切に」