この作品が公開された時点で5年連続ミシュランの三ツ星を獲っていた「すきやばし次郎」の店主・小野二郎さんとその息子たち、弟子たちにアメリカ人のデイヴォッドゲルブ監督が迫るドキュメンタリー。現在では8年連続ミシュラン三ツ星を獲得している。
ドキュメンタリー作品なので物語があるわけでなく、淡々と二郎さん本人や息子さんたちへのインタビューを綴って行き、仕入れ、下ごしらえ、鮨を握る姿などを映しだしていくのだけど、全体がクラッシック音楽で彩られており、二郎さんの握る鮨や弟子たちが下ごしらえをする姿などと非常にマッチしていて美しい映像となっている。
二郎さん自身は大正14年生まれで幼少のころから丁稚奉公に出され、戦争にも行き、80歳になる現在でもカウンターに立ち鮨を握っているそうだ。銀座のすきやばし次郎本店では現在では長男の禎一さんが中心になっているようだけれど、それでもまだ息子に譲ったわけではなさそうだった。六本木ヒルズには次男の隆士さんが独立しているヒルズ店があり、こちらもミシュランの二つ星を獲得しているそうだ。
鮨職人と聞けば頑固でイヤなオヤジだったりするのかなぁと思っていたのだけど、二郎さんは全然そういうふうではなく、もちろん仕事に関してはとても厳しいのだと思うけど、話をしているのを聞いていると柔らかい雰囲気でユーモアも感じさせるところもあったのが少し意外だった。そして、ここまで何年も何年も鮨職人をやっていながら美味しい鮨を作るにはどうしたらできるかというのをいまだに夢に見るというのだからそれはそれはもの凄い職人気質なんだろう。そういう姿勢で鮨を作っているからこそ、めんどくさい作業を経て下ごしらえをするようになり、自分が下働きの時より今の人のほうが大変だよと言っていたのが印象的だった。自分がどんなに苦労をしたかということを強調する老人が多い中さらっとそういうことが言えてしまう二郎さんは偉大だと感じた。
息子さん2人も同じような雰囲気を持っていて本店の店主である禎一さんのほうがインタビューが多かったのだけど、鮨職人になっていなかったらレーサーになりたかったと言い、いまでもスポーツカーに乗っているという意外な素顔も見せてくれていた。
インタビューも興味深かったのだけど、クラシック音楽をバックに映し出される海苔を炙ったり、すし飯をしゃもじで切ったり、玉子焼きを焼いたり、実際に寿司を握ったりするひとつひとつの職人さんたちの姿がしびれるくらいカッコ良かった。
お弟子さんが10年修行して初めて玉子焼きを焼かせてもらい、二郎さんにOKをもらうまでのエピソードがあった。洋食でもはやり最初は玉子焼きですよね。玉子焼きって奥が深いんだなぁ。
禎一さんが築地に仕入れに行くシーンが何度かあるんだけど、当然良いものを見極める目は持っているんだろうけど、「餅は餅屋」とばかりにまぐろはまくろの専門家、たこはたこの専門家が選ぶ目を信じていると話していたことも意外だった。鮨職人さんてネタに関してもすべて自分の目が正しいと信じて疑わないのかなと勝手なイメージを持っていたから。すきやばし次郎に下ろしている築地の問屋さんたちはこれほどの鮨職人さんから全幅の信頼を寄せられるだけの目利きなんだろうけど、それでもそこに絶対の信頼関係が成立しているということがとても美しい関係に思えた。
その日の仕入れで良いものが出てくるんだろうけど、玉子焼きとかかんぴょう巻きとか庶民的なものも出てくるというのも驚いた。きっとすべてが調和された順序で出てくるんだろうなぁ。そして、1貫目を食べたお客さんの手を見て、右利きか左利きかを判断し2貫目からは利き手に合わせた方向に鮨が出てくるというのだから、そういう細かいところにまで目が届く二郎さんはやっぱりすごいんだな。
料理評論家の山本益博さんが一人3万円から、おまかせで出てくる鮨20貫を次々に食べ早い人だと15分で終わってしまうと話していた。それでもみながその値段に納得して帰るというのだから。あぁ、いつか行ってみたい。
オマケレビューを書いて初めて気が付いたのだけど、どうして小野「二郎」さんなのにすきやばし「次郎」なんだろ?
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