
公開時、見に行きたかったのだけど行けず仕舞いでもう6年も経ってしまった。このたびやっとレンタルで見ました。
2006年ロンドンでロシア人のリトビネンコ元ロシア連邦保安庁(FSB)中佐がポロニウム210という放射性物質を何者かに飲まされて死亡するという暗殺事件が起こった。この作品はこの衝撃の事件の真相に迫るドキュメンタリーである。
アンドレイネクラーソフ監督はアレクサンドルリトビネンコ氏の暗殺事件の5年前から彼にインタビューをしていた。その貴重な映像と他の関係者のインタビューが綴られる。
まずリトビネンコ氏は1999年にFSBが秘密裡に行っている政治的脅迫や暗殺事件について内部告発をする。これについて彼は逮捕されるが最終的には海外逃亡しないという条件の下釈放されている。ちなみに1999年時点でのFSB長官は現在のプーチン大統領だった。
2000年にイギリスに政治的亡命を果たした彼は、2002年の共著の中でチェチェン紛争のきっかけとなった1999年にモスクワなどで起きたアパート爆破事件はFSBの自作自演であることを告発。2003年にはモスクワ劇場占拠事件にもFSBが関わっている可能性があることを指摘。
そして2006年に暗殺されているのである。
このドキュメンタリーに登場するアンナポリトコフスカヤというジャーナリストもリトビネンコ氏と同じようなことを告発し続け、リトビネンコ氏より少し早く暗殺されている。皮肉なことにリトビネンコ氏が殺害されたのはアンナポリトコフスカヤの殺害に関する情報を集めるために知人と会った先でということだった。
彼らははっきりと現在のロシアはテロ国家であると断言する。ゴルバチョフ、エリツィンの時代に自由の風が吹いたはずの旧ソ連邦だったはずが、現在では報道の自由は規制され、FSBが幅を利かす国になっているという。
FSBが行っているのは偽装テロや暗殺だけではなく、汚職、脅迫、資金の個人流用なども日常的に行われているという指摘もあった。プーチンが担当していた時代にとある町の食糧調達のための資金を彼らが横領したために住民が飢えている映像も流れていた。
アンナポリトコフスカヤを始め数人の知識人たちはこのような事態を招いているのは民衆の無関心が原因でもあると言う。政府の機関が不正を働いているとしても、チェチェンに対して非道なことをしているとしても、人々は気にしない。プーチンの人気があるのも経済政策がうまくいっているからか、それとも歴史的に政府に蹂躙されることに慣れてしまっているからか。
いやー、怖い。ほんとにヤバイよ、ロシア。ソチオリンピックなんて喜んで見てる場合じゃないわ。最近の同性愛者への弾圧も先進国とは思えないし。ネクラーソフ監督は大丈夫なのかなぁ。政府に逆らったら暗殺なんてどこかの映画の話みたいだけど、これが現実なんだもんね。当時のリトビネンコ氏の変わり果てた姿は衝撃的だった。ネクラーソフ監督のインタビューですべてを語りつくしたあとに爽快な顔をして堅く握手を交わしていたときの印象とは大違いで、あまりにも痛々しかった。
リトビネンコ氏が死ぬ間際にイスラム教に改宗したというのが非常に印象的でした。ロシア正教徒からチェチェン人の宗教であるイスラムに改宗することで、彼個人を通じてロシアとチェチェンが手をつなぐことを望んでいたのでしょうか。
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