シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用

2012-12-14 | シネマ さ行

松嶋×町山の三本目です。

子供のころチビだったクリスベル監督はハルクホーガン、スタローン、シュワルツェネッガーに憧れて筋肉モリモリを目指すが、そのためにはステロイドを注射しなければならないと知り断念する。彼の兄はレスラー崩れ、弟はウェイトリフティングの選手兼高校のフットボールコーチだが、彼らは二人とも当たり前のようにステロイドを使用している。そのことに疑問を一切持たない彼らに対して疑問を持った監督はステロイド賛成派、反対派のどちらにも公平にインタビューを行っていく。

アメリカでは驚いたことにプロのスポーツ選手よりも一般人のほうがステロイドを使用している割合が多いという。と言っても日本の割合を知らないのでこう言うのは公正とは言えないな。ただ、日本ではどう考えてもあんな不自然に筋肉モリモリの人ってそうそう見かけないよね。

プロ選手は禁止されてんだから、そりゃ一般人のほうが多くなるんじゃないの?って思う人もいると思うんだけど、こいつがまたまた驚いたことにあの超有名なロス五輪でステロイドで失格になったベンジョンソンだけじゃなくって、全世界のヒーロー、カールルイスまでもが実はステロイドやってたっていうんだよねー。これ、審査そのものが工作されてたって証言した人が登場して、なんとカールルイス本人までもがインタビューで否定してなかった。そのことを聞かれたとき明らかにムッとしてたしね。

この監督のいいところはステロイドを否定するばっかりじゃなくて、きちんとステロイド否定派の矛盾点を突いてるとこですね。倫理的にどやねんってのは分かるし、医学的にも絶対身体に影響ないわけないやん!って感じなんですけど、病気や寿命との関連性ってやつは証明が難しいっぽいですね。ステロイドが一般的に使われるようになってからまだ年数が浅くて長期使用の実験結果とかがちゃんと出てないっぽい。高校生の息子が自殺したのはステロイドのせいって言ってステロイド反対運動をしてるお父さんが出てくるけど、息子さんを亡くした人にこういうこと言うのは酷だけど、あのお父さんってステロイドを悪者にして自分を納得させているだけのような気がしたな。あの息子さんはステロイド以外にもうつ病の薬とか飲んでたようだし。

と言っても、ステロイド肯定派の意見もまた何と言うか・・・もうこれはイタイ、としか言いようがない。開き直って使ってる人はそれは納得済みで良いと思うけど、一人筋肉が異常なまでにモリモリのおじさんが出てきて、もう二の腕とかありえない変な形になってるんだけど、同じような写真を見て「いまのオレの二の腕はこんな形じゃない。こんなに変なら女の子とか引いちゃうだろ?」とか言ってたけど、十分同じくらい変だったよ?

笑っちゃいけないんだけど、一番笑えたのは監督がサプリメント業界の規制の緩さを指摘するために自らがインチキなサプリメントを作っちゃうところ。あんな適当な処方で勝手に作っても立派に商品として売ることができるアメリカ。きっと、薬業界が政界に相当お金を流して規制させないようにしてるんだろうね。

あとは、ストロイドだけじゃなくてアメリカ人の中にどれほど薬が浸透しているかってのが、非常に怖かった。麻薬とかの悪い薬じゃなくて普通に処方されたり、薬局で売っていたりする薬のバリエーションがすごい。うつ病の薬でプロザックっていうのがあってアメリカだと誰も彼もがプロザックを飲んでるっていう皮肉で「プロザックネイション」なんて言葉もできたけど、それだけじゃなくて大学生が勉強をするために夜中も起きていられる薬だとか、オーケストラのメンバーが気持ちを落ち着かせる薬とか当たり前のように飲んでいるという話。クリスベル監督はステロイドと同じようにそれって“ズル”じゃないの?という疑問を持つけど、明確な線引きは誰にもできない。

原題は「Bigger, Stronger, Faster」で「よりデカく、より強く、より速く」って意味だけど、これにはアメリカ人のメンタリティが大きく影響していると監督は分析する。よりデカく、より強く、より速くなって一番にならなくちゃ、勝たなくちゃ、という強迫観念とも言えそうなアメリカ人的気質が薬を飲んででも、という選択をさせるのでは?ということだった。「2位じゃダメなんですか?」と言って叩かれた政治家がいたけど、どんな手段を使ってでも1位に固執するメンタリティってのはやっぱり怖い。



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