シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

The Lady~アウンサンスーチー引き裂かれた愛

2012-07-27 | シネマ さ行

アウンサンスーチーさんについては以前から興味を持ってニュースなどで見ていたのですが、彼女の名前を聞いて思い浮かぶのは「自宅軟禁」「ビルマ軍事政権」「ノーベル平和賞」などのキーワードばかりで、正直言って彼女の私生活のことなんて考えたことすらなかった。なので、今回彼女の知られざる(ワタクシが知らなかっただけか?)私生活が描かれるということで楽しみにしていた。のだが、監督がリュックベッソンということで一抹の不安もありつつ、、、だったのだけど。

リュックベッソン、ごめん。思えばあなたは女性を描くのが好きな監督だった。「ジャンヌダルク」「レオン」「ニキータ」など魅力のあるヒロインを描いてきていたんだった。しかし、彼の作品には荒唐無稽なお話が多いので、こんな現実に存在する偉大な女性を描くことができるのか?という不安も分かってもらえるよね?ふたを開けてみると、この不安はいい形で裏切られることになって本当に嬉しい作品になった。

まずアウンサンスーチーさんミシェルヨーがイギリス人男性マイケルアリス博士デヴィッドシューリスと結婚して2人息子がいたことなんてつゆほども知らなかった。1988年までイギリスで普通に一家の妻・母として暮らしていたなんて思いもしなかった。ワタクシの不勉強なのですが、先にも書いたように彼女のプライベートについて考えてみることなどいままでなかったのだ。

1988年当時夫と子供たちとイギリスに住んでいた彼女は、心臓を悪くした母親を見舞うためにビルマに帰り、そのまま「建国の父」と言われたが軍事政権に殺害された父アウンサンの意志を継ぎ、民主主義運動を率い選挙に立候補することを決意するのだが、、、

軍事政権は彼女とその会派を弾圧し、彼女を自宅軟禁の刑に処してしまう。離ればなれの生活を強いられる家族。それでも彼女の夫の愛は強く、簡単に屈したりはしなかった。

マイケルアリス博士の背景については、この映画の中では語られないので彼がどういう経歴の人か分からないのだけど、オックスフォード大の教授であり、ビルマの民主化は二人の夢というセリフが再三登場することから、彼も何かしらビルマの民主化運動に昔から関わりを持っていたのかな?マイケルアリス博士とアウンサンスーチーさんの固く結ばれた絆を見ていると、そういう信条的なものでも強くつながっているというふうに思えた。これがもし、ただビルマから留学に来ているお嬢さんをたまたま好きになっただけの政治的には特に思想のない男性だったとしたら、ここまで「愛」だけでは耐えられなかったんじゃないかと思った。

いやー、それにしても彼らの絆はとても固く、愛はとても深い。もちろん、この映画では語りつくせない苦労というものがあっただろうけど、決して負けることなくビルマへの献身と家族への愛を貫いた二人に深く感動し、涙が止まらなかった。マイケルが英国で余命いくばくもないと分かっても、もしいまアウンサンスーチーがビルマを出国してしまえば二度と入国させてはもらえない。でも、マイケルにもビルマ入国のビザは降りない。

こんなふうに国家が一個人の幸せを踏み潰してしまうなんて本当に許せないけれど、それが実際に起こっている現実なのだ。1990年に初めて行われた選挙では492議席中たった10議席しか得られなかった軍事政権がいまだに政権を握っているという異常な状態が続いている。2007年に日本人ジャーナリストが犠牲になったのも記憶に新しいところだと思う。

ビルマの言葉は分からないので、ミシェルヨーがどれだけうまくセリフを言っているのか分からないのだけど、見た目だけの話をすると、アウンサンスーチーさんととてもよく似ていて、途中で本人の顔がどんなだったか真剣に思い出せなくなるほどだった。そして、献身的な夫を演じたデヴィッドシューリスの演技がとても素晴らしかった。これまでで最高の演技だったんじゃないかと思う。

ビルマの政情もきちんと語りつつ、夫婦、家族の愛を描いた感動の作品で少数の館でしか公開されていないのが非常に残念です。



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