シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

マーサ、あるいはマーシーメイ

2013-03-14 | シネマ ま行

予告編を見てから興味があった作品です。サンダンス映画祭で監督賞を取った作品ということもあったし、カルト集団から抜け出した主人公のその後を描くという題材にも非常に興味がありました。これだけたくさんの映画がある中で、カルト集団の洗脳から抜け出す様子を描いた作品というのは非常に少ないと思ったからです。

人里離れたカルト集団のコミュニティから脱出したマーサエリザベスオルセンは、2年ぶりに姉のルーシーサラポールソンに突然電話をかけ迎えに来てもらう。姉は夫テッドヒューダンシーとともに湖畔の別荘で2週間の休暇を過ごそうとしていたところだった。マーサは2年間彼氏と森の中で同棲していて、その彼氏と別れたから連絡してきたと嘘を言ったが、ルーシーはそれ以上追及せず別荘に置いてくれた。

どうやら姉妹の両親は、ルーシーが大学の寮で生活している間に亡くなってしまい、マーサは叔母と一緒に暮らしていたようだ。そして、その叔母のところを逃げ出した寄る辺ないマーサはカルト集団に入ってしまったらしい。

物理的にはカルト集団から抜け出したマーサだったが、心理的にはまだまだ囚われており、2年間で植え付けられたカルト集団内の常識が彼女にとっては“当たり前”になってしまっているようだ。

マーサは別荘の前の湖でいきなり全裸になって泳ぎ出しルーシーたちを驚かせる。ルーシーに叱られるがそれがなぜいけないのかマーサには分からない。他にもルーシーたちの別荘はとても広いのにどうして仲間同士で暮らさないのかとか、テッドがお金や物質的な満足を求めることはいけないことだと言ってみたり、ルーシーたちがセックスしている最中に寝室に普通に入ってきて一緒のベッドで寝ようとしたり。すべて、カルト集団の中では常識だったことで、マーサはそれの何が悪いのか分からなくなってしまっている。

物語はいまマーサが暮らしている姉の別荘と、マーサの記憶の中にあるカルト集団の生活が交互にシンクロするように描かれる。上に書いたようなマーサの常軌を逸した行動もカルト集団側の生活を見せられると納得がいく。

ここで描かれるカルト集団はまさにチャールズマンソンが率いたマンソンファミリーをベースにしていると考えられる。マーサのいた集団のリーダー的存在であるパトリックジョンホークスが風貌もチャールズマンソンっぽいし、音楽が得意なことや、ドラッグを用いて女性信者を“浄化の儀式”と称してレイプしたりしていたこと、男女がそれぞれ大部屋で暮らしときに乱交状態となっていたこと、女性の地位は低く食事は男性たちの後だったこと、お金持ちの家に侵入して窃盗したり、最終的にはワケの分からない理論で殺人まで犯したこと。だいたいの部分がマンソンファミリーと類似している。そういう意味ではカルト集団での生活になんら新しい興味の湧く部分がなかったのはワタクシにとっては少し物足りない部分だった。とはいえ、たいがいのカルト集団というものはだいたいセックスと暴力と薬物と独特の死生観みたいな共通項はあるのかもしれない。

映画的には少し退屈になってしまう部分もなきにしもあらずなのだけど、このマーサ自身があのカルト集団での体験が何だったのかはっきり分からないままでいるために、彼らのことを恐れてはいても、自ら専門家なりの力を借りて抜け出そうと認識するに至っておらず、そのあたりの不安定さというものは非常にうまく表現されていると思う。マーサはカルト集団の殺人をきっかけになんとか集団からは抜けたものの、2年間で心と体に染みついた集団内の常識は簡単に覆されるものではないのだろう。だからこそ、抜け出してからも一度は向こうに電話をしてしまったりもしたのだろう。途中でマーサがおねしょをするシーンがあるのは、精神的なストレスの表れということでいいのかな?

そして、事情がまったく分からない家族のほうもそれを見てただただオロオロするしかなく、結局は病院に入院させるしかないという結果になってしまうのだけど、現実的には確かにそんなものなのかもしれない。

つまり、マーサが立ち直っていく様やカルト集団の所業が明るみに出ることを期待してこの映画を見に来た人はとてもがっかりすることになると思う。展開もとても静かなのでちょっとツライ部分もあるにはある。ただやはり2年間もいたカルト集団から逃げ出した最初の2週間を描いたものとしては非常によくできているし、やはり題材として取り上げただけでも非常に価値のある作品だと思う。

最近「レッドライト」で知ったエリザベスオルセンだが、セレブなお姉さんたちとは少し距離を置いて演技の学校に行っていたそうです。こちらのほうが出演作としては最初なんですね。今回のミステリアスな抑えた演技はすごく良かったです。特にすごく顔がキレイなわけでも体がキレイなわけでもないのだけど、なんだか妙なエロスを漂わせた女性でこれからが非常に楽しみな女優さんです。