シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

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ディアドクター

2012-06-25 | シネマ た行

ケーブルテレビで見ました。西川美和監督の作品は初見です。「ゆれる」を見ようと思いつつまだ見ていません。

笑福亭鶴瓶は芸人としても役者としても好きだし、この題材ということで心温まるストーリーかなぁと思って見始めました。冒頭でいきなり、鶴瓶演じる村でただ一人の医師・伊野治の失踪というところから始まり、何やらただの心温まるストーリーではなさそうな予感。失踪の捜査に乗り出した刑事2人松重豊岩松了と村人とのやりとりから伊野の人物像に迫っていく。

物語は伊野が村の医療を一手に引き受けていた過去に戻る。村人たち、看護師・大竹余貴美子、研修医・相馬瑛太、製薬会社の営業・斎門香川照之などとのやりとりが描かれていく中で、さまざまな伊野のエピソードが語られる。

印象的なエピソードは寝たきりのおじいちゃんの臨終の床。最後まで延命治療と施そうとする研修医・相馬とは対照的に家族の、特に介護を引き受けている、いや、押し付けられているであろうお嫁さんの表情をうかがい、延命治療をせずに死亡宣告をする伊野。おじいちゃんを抱き上げ「よう今までがんばったなぁ」と言った瞬間おじいちゃんのノドに詰まっていた赤貝が出てきて息を吹き返し、周囲は「神様だ」と伊野をもてはやす。

一方、刑事たちの捜査が進むにつれ、伊野は実は医師免許を持っていないニセ医者だったということが判明する。それを分かった上で観客は伊野のエピソードを見ることになる。

東京で医師をしている娘りつ子井川遥がいる鳥飼かづ子八千草薫は娘に義理立てしてか胃が悪いらしいのに伊野に診せに来ない。熱中症で救急で診ることになったのを機にかづ子の胃の調子を診る伊野だったが、かづ子の胃にはガンがあることが判明する。娘には言って欲しくないというかづ子の希望通り伊野は胃潰瘍と偽って治療を続ける。

看護師の大竹は伊野がニセ医者だということに気付きながらサポートし続け、緊急の患者が気胸になったときも針を刺す場所をそっと教えたりしていた。彼女は医者のいない村で伊野の存在がどれだけ大きいかをもっとも知っていた人だったんだろう。看護師という職業上は彼女のしたことは決して許されることではないんだろうけど、映画を見ている限りでは彼女に対して嫌悪感などはまったく感じなかった。

製薬会社の営業マン斎門も伊野がニセ医者だと知っていたが、薬の販売を手伝わせるなどして伊野を利用していた。ここのところはどういう経緯でそうなったか語られないが、かつてペースメーカー機器の営業だった伊野となんらかの形で知り合いだった斎門が伊野の素性を黙っておく代わりに薬を売りつけていたようで、これはどっちもどっちってな感じだけど、現実的には捜査が進めば、伊野が患者に必要でない薬を与えていたことも判明するだろうし、そうなれば斎門もヤバい立場に追いやられる可能性はあると思う。

研修医の相馬はすべての研修が終わったら伊野の下で働きたいと考えるほどになっていたが、伊野がニセ医者だったと刑事に知らされると「怪しいとは思っていた。伊野が変な治療をしないように目を光らせていた」などど言っていたのは、おそらく尊敬していた人に裏切られたという悲しみと、そんなニセ医者を尊敬してしまっていた自分の自尊心が傷ついたことへの怒りが原因だったのだろう。

研修医・相馬にここで働きたいと言われたときの伊野が「俺はニセモノや。資格がないんや」と言うときの鶴瓶の演技が秀逸だ。前半はコミカルな感じで進み、鶴瓶の芸人としての本領発揮といったところだが、こういうシリアスなシーンの鶴瓶の目の座り方はハンパなく怖い。普段へらへらした印象だけに、目の奥の底なし沼のような暗さに寒気がする。

先に書いたおじいちゃんの臨終の場面や、鳥飼かづ子との交流を見ると、日本の終末医療の在り方などの問題提起かというふうにも捉えられるのだけど、伊野がなぜニセものの医者になりすましこの村に入り込んだのか、研修医・相馬に告白したように年2000万円もらえるからと転がり込んだら抜け出せなくなったというのが真実なのかどうか、有名な医者だった父との確執がそうさせたものだったのか、はっきりと語られることはない。結局、村人が感じたように「あの人はなんだったんだろう?」という状態に観客もほったらかしにされて終わったような気がする。

ただ、伊野がニセ医者だったと知らされたときの村人個々の反応が、それぞれで「あの人のおかげでこの村は成り立っていた」と言う人と、「どうりでちっとも良くならなかったはずだ」とか今まではお世話になっておいて手のひらを返したように言う人で、さまざまな人間の心の奥を垣間見ることができる。

ガンの母親がニセ医者にウソの診断をされた鳥飼りつ子も伊野に憤りを感じているふうではなかったのが、ちょっと不思議な気はしたけど、母親をほったらかしにしていた自分とそばで面倒を見てくれていたニセ医者とどっちが偉いか?と自問自答していたということなのか。

鳥飼かづ子は伊野にとてもよくしてもらっていたわりに「何も分からなくて。怖いですねぇ」なんて言っていて、冷たいばあさんだなと思ったけど、ラストシーンのかづ子が入院している病院に給食業者を装って忍び込んできた伊野を見たときの笑顔でなんか救われた。

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