シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

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星の旅人たち

2012-06-14 | シネマ は行

昔スペイン語を少しかじったときに(動詞の活用ですっかりつまづいてしまったのだけど)、このEl Camino de Santiago de Compostelaのことを少し習ったことがあって、予告編を見たときから興味があった。監督が昔から好きなエミリオエステベスだし、主演が彼の実の父親であるマーティンシーンということでこれまた楽しみにしていた。ワタクシは映画の事前情報をそんなに入れないタイプなので、この作品がどれくらい注目されているかは知らず、こんな小さな作品だからきっとがらがらだろうと勝手にタカをくくっていたら、小さな劇場ではあるけど、結構満杯だったのでビックリした。エミリオエステベスもマーティンシーンも日本の映画ファン以外にそこまで人気があるとは思えないし、これはEl Caminoへの文化的な興味からくるものなのかなぁ?やはり日本にはお遍路というものがあるからか?と勝手に想像したりして。

前置きはこれくらいにしてと。大学を辞めて世界を見たいとアメリカを飛び出した息子ダニエル(エミリオエステベス)がピレネー山脈で嵐に遭遇して死亡したと連絡を受けた父親トム(マーティンシーン)は現地に息子の亡骸を受け取りに行き、息子がサンティアゴデコンポステラまでの巡礼の旅をする1日目で亡くなってしまったことを知る。亡骸をそのまま持って帰るつもりのトムだったが、息子の遺志を継ぎ、サン=ジャンから800キロにおよぶ巡礼の旅を息子の代わりにすることにする。

途中で出会うのは、痩せるために歩きに来たというオランダ人のヨストヨリックヴァンヴァーヘニンゲン、禁煙のために来たというカナダ人のサラデボラカーラアンガー、スランプから脱するために来たという作家でアイルランド人のジャックジェームズネスビット。トムは特に旅のお供を期待していたわけではないが、というよりどちらかと言えば独りになりたかったんだけど、巡礼の道がだいたいほとんどの人が同じコースを辿るため行きがかり上この3人と旅を共にすることになる。

途中途中のスポットで息子の遺灰を少しずつ置いていくトム。話したくない事情も少しずつ旅の仲間にはバレていく。カナダ人のサラは表向きは禁煙のためと言ってはいるが、どうやらDV夫との辛い過去を清算するために来たということも分かってくる。ヨストとジャックには隠している事情は特になさそうだったけど。

800キロを1か月から2か月かけて歩くというのだから、過酷な旅には違いないんだろうけど、途中の町の人々の巡礼者への温かい歓迎や、その土地土地の食べ物(特にダイエットに来たはずのヨストが一番楽しんでいたようだけど)風景など牧歌的な雰囲気がして、なんだかワタクシにもできそうな気さえしてしまう。いや…この映画を見てもしEl Caminoに行ったらかなり後悔することになると思うけど…

やっぱりこれだけの旅をするのだから、それぞれが人生において何か新しい出発をしようと望んでいるんだと思うんだけど、結局のところそれが何だったのかはワタクシには分からなかった。それがこの映画の中でうまく語られていなかったんじゃないかと言うとエミリオエステベス監督の度量不足のようになってしまうのだけど、ワタクシは決してそんなふうには思わなかった。2か月歩いたからといって人間が表面的に他人から見て何が変わるわけではない気がする。ただ自分の中でそれが意味を持つものであればいいんじゃないかなと。それは巡礼者にとってもっとも私的なことであり、そこに踏み込む必要はワタクシは感じなかった。

マーティンシーンの演技はいつもながら素晴らしく、息子と自分とに向き合う真摯な父親の姿を体現していた。これはやはり監督と主演俳優が実の親子であることに大きく起因していると思う。これは観客に見せるための映画としてきちんと成り立っていると同時に親子の個人的なフィルムであるようにも感じた。ヨスト、サラ、ジャックを演じたそれぞれの俳優たちも本人の国籍のままの配役で、ある程度素の部分も大切にしつつの演技だったのかなという気がする。

残念だったのは、これだけ雄大な風景が広がる中であまりカメラがその美しさを捉えきれていないと感じる部分があったことだ。トムの荷物を盗んだジプシーの子の親がお詫びにと夜の宴に招待するシーンでも、最後のサンティアゴデコンポステラの寺院に入るシーンでも、自然の光だけで撮影したようで暗すぎたり逆光だったりしてあんまり演者の表情などが見えなかった。これは多分わざとそうしたんだと思うんだけど、人工的でいいからちゃんと見たかったなと思いました。

エミリオエステベスのインタビューで知ったんだけど、彼の息子がEl Caminoの途中で出会ったスペインの女性と恋に落ち結婚してスペインに住んでいるという。彼にとっては自分の父親とのストーリーでもあり、息子とのストーリーでもあったということですね。

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