シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

宮廷画家ゴヤは見た

2008-10-24 | シネマ か行
これも見に行くかどうかボーダーの作品だったんですが、予告を見てやっぱり見に行くことにしました。最近ボーダーの作品が多いな。

物語はゴヤに絵を依頼した2人の男女の数奇な運命をフランス革命からナポレオンの台頭の影響を受けたスペインを舞台にゴヤの視点で描く。というものだが、ゴヤステランスカルスゲールトの視点というかゴヤはこの男女(ロレンソ神父ハビエルバルデムとイネスナタリーポートマン)の絵を引き受けたことが縁で、この二人の運命に巻き込まれるといった感じでしょうか。

実在した画家を実際の時代背景の中で描いているが、物語はフィクションというものを作るのは、さじ加減が非常に難しい部類の作品であると思うが、この作品はゴヤのキャラクターと実際のその激動の時代とこのフィクションの男女の話を絶妙なバランスで描いていて、そのあたりはさすが「アマデウス」のミロシュフォアマン監督といった感じである。

異端審問を積極的に復活させるロレンソ神父は、自らが拷問されたときはあっさりギブアップしてしまう。これがのちにフランスに渡り、まるで自分は異端審問にかかわったことなどないかのようにナポレオンの革命の下にスペインに舞い戻り教会の責任者を罰するような男のキャラクターを非常によく表している出来事であった。しかもコイツ、獄中のイネスに手を出して妊娠までさせてるし。盲目的なキリスト教の神父かと思いきや、ただの風見鶏的な男だったのよねぇ。でもさ、最後に審判にかけられたときは「もう一度悔い改めて神を信じる」とは言わなかったんだよね。それがまたちょっと不思議だった。この男の性格なら処刑になりかけたら「私は神を信じます」とか口からでまかせでも言って、命だけは助けてもらおうとするんじゃないかなと思ったんだけどね。もうあの時点ではさすがにあきらめの境地になっていたのかな。ワタクシはあそこでもう一回寝返ってほしかった気がする。そのほうがこの男がもっと悪者になって逆にスッキリしたような。それにしてもやっぱりハビエルバルデムって気持ち悪いなぁ。前半の神父のときなんて特に気持ち悪いよね。あんな気持ち悪さでナタリーポートマンをなでまわすんだからね。ほんと、ゲェーって感じ。いや、役者としては好きなんですけどね。

イネスは豚肉が嫌いで食べないという理由だけで、隠れユダヤ教徒と疑われ、異端審問にかけられる。そして、拷問にとうとう耐え切れずウソの告白をしてしまう。そんな彼女が獄中では優しくしてくれたロレンソ神父に体を許してしまったとしても誰も彼女を責めることはできないだろう。結局15年も獄中に入れられて、身も心もボロボロになって、15年前に産んだ赤ちゃんのことしか考えられなくなってたんだよね。そして、ロレンソ神父のことも信じ続けて、そこに愛があると思ってしまってたんだよね。15年間心の中でそれしか頼るものがなかっただろうから、それは当然と言えば当然だろう。イネスとその娘アリシアの二役を演じるナタリーポートマン。結構な穢れ役も恐れずにやる女優だというのはもうみんな知ってることだと思うけど、穢れ役を彼女が演じるのってほんと見ていてツライものがある。なんか体も小さいしいくつになってもすごい可憐な少女っていうイメージあるから、すごく胸が痛むんですよね。

この二人の物語を中心に激動の時代に翻弄されるスペインの人々を見つめるゴヤ。たまたまこの二人の絵を依頼されたことから、二人の人生を見つめる立場になる。このゴヤのキャラクターの描き方がまた良かった。本当にゴヤがそんな人だったのかは分からないけど、反骨精神を持ちながらも、宮廷ともうまくやり、無骨な感じもするけれども、どこかチャーミングな男性というイメージだった。ナポレオン軍の虐殺を描いた「1808年5月3日」とか王よりも力を持っていた王妃を中心に描いた「カルロス4世とその家族」など、気骨のある作品を描いた人だった。

映画のコピーが「それは、立ち入り禁止の、愛」となっていたから、もう少し神父とイネスの純粋な禁断の愛を想像して見に行ったのだけど、この映画のどこに男女間のという意味での「愛」があったんだろう?あったとすればイネスの心の中の盲信的な「愛」だけだし、それは本当に存在した「愛」ではなかったわけだし。どうしてこんなコピーになっちゃったのかな?恋愛を描いた映画と思ってもらったほうが客が入ると思ったからか?内容はもっと残酷で、人間の中の悪魔を描いたような作品じゃないかな?ワタクシは期待とは違ったけど、話そのものは見ごたえのあるものだったと思うし、時代背景としても興味深いものだったから、この作品は(視覚的にも心理的にも苦しいものとはいえ)好きだったけど、このコピーに期待して行った人はかなりがっかりしたんじゃないかと思う。

オマケプラド美術館でゴヤの作品を見たけど、絵自体はこんな素人がめちゃくちゃ失礼なんだけど、「なんか下手くそな絵だなぁ」と思った。「1808年5月3日」で手を挙げてる人なんて子供が描いたみたいだし。(いやーこんなん書いたらしばかれるかな?)「カルロス4世とその家族」の王妃なんてすごくブサイクだし。(あ、でもこれは本当に王妃がブサイクだったのか)でも、美術館で解説テープを借りてヘッドフォンで聴きながら鑑賞すると納得できる部分があって、力強い作品だなと思ったことは覚えている。