シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

私がクマにキレた理由

2008-10-16 | シネマ わ行
これ、映画館で見るかどうかボーダーの作品だったんですが、予告を見て「ブリジットジョーンズ」とか系かな~と思って、しかもスカーレットヨハンソン、やっぱり気になっちゃうし~ってな気持ちで見に行きました。

今回のスカーレットはいわゆる普通の役。特にお色気ムンムンでもないし、年齢不詳でもありません。頭はいいんだけど、専攻の人類学ではお金儲けはできず、女手ひとつで育ててくれた母ドナマーフィーが望む金融界に就職しようとはしたものの、なんか納得できずセントラルパークでぼーっとしているときにセグウェイの前に飛び出した子供グレイヤーを助け、その母親ミセスXローラリニーに「アニーよ」と自己紹介したところ、「ナニー?まー、ちょうど良かったわ。新しいナニーを探していたのよ」と面接を申し込まれる。現実世界ならここで「いやいや、私はアニーです」と普通に訂正すればいいんだけど、ここは映画の素敵な世界。アニーはきちんと訂正せずにナニーっていいかもって面接に出かけていく。

ミセスX(エックス)って変な名前なんだけど、それはアニーが人類学を専攻していたから、アフリカの原住民とかを観察するような感覚でニューヨークのアッパーイーストに住むお金持ちの実態を観察するっていう意味での観察対象としての「X」なんですね。冒頭のシーンでアニーが自然史博物館で世界のさまざまな地域にする人々のひとつの例としてニューヨークアッパーイーストの人たちを紹介していき、アニーに起こる現実のお話だけじゃなくて、映画的な演出があって楽しい。

さて、ニューヨークのアッパーイーストと言えばお金持ちがたくさん住んでいるところ。父親たちはお金儲けにせいを出し、母親たちはエステに美容整形、なんちゃらセミナーやら慈善事業に忙しい。ならば子育ては誰がするのか?答えはナニー!ってわけ。

アニーはミセスXのお宅に住み込みのナニーとして働き始めるのだけど、彼女のすることはグレイヤーの面倒を見るだけじゃなくてクリーニングを取りに行くだの買い物に行くだの料理を作れだのってそんなことまでやるのーーー???ってことばかり。これってお手伝いさんの領域よねぇ。それだけ給料もいいんかなぁ?

アニーが規則でガチガチのミセスXの目を盗んでグレイヤーを楽しい場所に連れて行ってあげたり、ジャンクフードを食べさせたり、契約上はしちゃいけないんだろうけど、庶民なら、子供なんだもんそれくらいいいじゃんって思うようなことをして徐々にグレイヤーの心をつかんでいく。それと並行して、仕事が忙しくて子供のことなんか全然見てないし、シカゴ支店の女の人と浮気しているミスターXポールジアマッティや、そんな夫と知りながら自分を見てもらおうと必死で子供の心の痛みには目を向けようとしないミセスXの姿が描かれる。この金持ち連中にはほとほと腹が立つんだけど、一生懸命にグレイヤーの面倒を見て、両親のケンカにも傷つけないようにしてあげたり、ミセスXの雑用もがんばってこなしていくアニーがとてもかわいい。

この映画の邦題になっている「クマにキレた」っていうのは実は子ども部屋にあるテディベアの目に設置されたナニー監視カメラにキレたって意味なんですね。原題は「THE NANNY DIARIES」だから、邦題のほうがずっとシャレっ気があるかもしれないですね。

アニーとグレイヤーの交流はもちろん胸にキュンとくるもので、こういう映画の王道ではあるけれどとてもかわいらしい。そして、ミセスXを演じるローラリニーがお金持ちでなんでも物はあるけれど、愛情に飢えてるという女性をとてもうまく演じている。彼女がミセスXの焦燥感みたいなものをうまく表現していたからこそ、最後にアニーの忠告(というかホンネ大爆発!)に心を動かされるところも出来過ぎ感ぎりぎりセーフって思えたんだと思う。

アニーが知り合う“ハーバードのイケメン”はクリスエヴァンスくんで、ワタクシは彼もとても好きなんだけど、今回の役はちょっとイケてなかったな。なんかこの二人の恋愛エピソードはちょっと邪魔だった気がする。

結局アニーはナニーとしてひと夏を過ごしたあと人類学を究めようと人類学専攻でハーバードに奨学金で入ることになるわけだけれども、アニーがナニーになる前に金融界に行こうとしていたように、その道で食えない学問と食える学問があるっちゅうのはなんとも悲しい現実ですね。前途洋々な若者にとってナニーはひと夏の経験で、もう一度大学に入りなおすなんて、なんともアメリカンなラストでありました。

全体的にもうひとパンチほしい作品ではありましたが、随所に笑いあり、ほろりとくるところあり「ブリジットジョーンズ」系の映画としては上出来ではないでしょうか。