シリーズものは前作を観てから、原作があるものはそれを読んでから、そんなスタンスでこれまで臨んできたのですが、今回はちょっと失敗をしたかもしれません。
原作を読まなければ今ひとつ何だったのかが分からないシーンがあった一方で、しかしその原作とのイメージの違いや端折った箇所が気になってしまったのが正直なところです。
あるいはこの映画について言えば原作を読まずにフラットな状態で観た方がよかったのかもしれず、今後を考えると何とも悩ましい「のぼうの城」でした。
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のぼうの城 |
柴崎和泉守が受け持った長野口での戦い方が違ったぐらいで、かなり原作に忠実な作りとなっています。
それだけに145分と長丁場ながらもその全てを描ききれなかったのは当たり前の話ですし、独白のような描写が多かったので映像では難しかったのも分かります。
それでも幼馴染みである正木丹波守の視点からの「のぼう様」の将器こそがこの作品の肝心要だと思っていただけに、長親の名前を出した途端に城に入ることを受け入れた百姓や、長親を城代としたときに他の家臣があっさりと認めたときの丹波守の驚きと戸惑いをもっと前面に出すべきだったでしょう。
そしていい味を出していたものの野村萬斎の見せる鋭い表情のシーンがあまりに多すぎで、これでは「のぼう様」ではありません。
原作を読んでいなければあるいは能ある鷹は爪を隠す、のように違和感が無かったかもしれませんが、そこが最後まで引っ掛かってしまいました。
もちろん原作を離れれば、かなり楽しめた作品です。
正義感あふれる爽やかな石田三成を上地雄輔が、冷静沈着かつ剛胆な大谷吉継を山田孝之が見事に演じていましたし、やはり榮倉奈々はイメージが合いませんでしたが思っていたよりも悪くはなく、佐藤浩市に山口智充、成宮寛貴にお久しぶりの鈴木保奈美もしっくりきていました。
さすがにTBS開局60周年記念作品だけのことはある豪華なキャストで、エンドロールを見るまではナレーションが安住紳一郎であることに気がつかなかったのは不覚と言えば不覚でしたが、そのエンドロールで現在の忍城の遺構や正木丹波守が開基となった高源寺やその墓を紹介するところなどは一本とられた感じです。
水攻めのシーンはハリウッド映画に比べればチープながらもそれなりの迫力はありましたから、公開を一年ほど遅らせたことも頷けます。
ただ「この男の奇策、とんでもないっ!」をキャッチコピーにした時点で原作とはベクトルが違ってしまったのだなと、そんな気がする久しぶりの時代劇の映画でした。
2012年12月4日 鑑賞 ★★★☆☆(3点)