特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ドッグフード

2007-05-05 08:40:43 | Weblog
作業に使う道具等を買うため、私はホームセンターに行くことが多い。
郊外によくある大規模店になると品揃えも豊富で、探し物がある時や凝った道具が必要な時はかなり重宝する。

ちなみに、特掃に使う道具類の寿命は長くはない。
特段に壊れるのが早いわけではないのだが、例の汚物がこびりついて精神的な面で長持ちしないのだ。
愛用の特掃靴も同様。
不本意ながら、もう何人も踏みつけてしまっている。
いくら非道でも、ここまで人を踏みつけにして生きている人間はいない?

そんなホームセンターには、ペット用品売場もある。
買い物のついで、通り掛かりに見てみると、最近はペットフードの種類も豊富にあることが分かる。
今は人間様だけではなく、ペットの方も飽食になっているらしい。
各種のオヤツ類をはじめ、犬猫の年齢や肥満度に応じた食品も揃えられている。
子犬・老犬・デブ犬etc・・・それぞれに合わせたモノがある。
更には、人間の食べ物と見紛うケーキやお菓子類まで。
ここまでくると、コメントに困るくらい感心してしまう。

特掃の依頼が入った。
亡くなったのは若い男性、現場は1Rアパート。
依頼者は故人の父親で、孤独死した息子の後始末をするために、遠方から駆け付けていた。

息子の急死、しかも腐乱死体で発見されたことに強い衝撃と深い悲しみを負ったようで、私と話すときも目が潤んだままの状態だった。
男性は、誰かと会話でもしてないと自分を保っていられなかったのだろう、とにかく私と何かを話したそうにしていた。
検死結果は自殺ではなく自然死のようだったけど、男性の気持ちを想うと痛々しく思えた。

不動産会社や近隣住民の強い要望があり、私は急いで腐乱痕をきれいにして悪臭の着いた家財・生活用品を梱包しなければならなかった。
男性の話をゆっくり聞いてあげたい気持ちもあったけど、それは仕事を終えた後にすることにして作業にとりかかった。

部屋の中は地味な雰囲気で、大きな家具や家電もなし。
言葉は悪いけど、年齢の割には大したモノが置いてなく、普段から質素な暮らしをしていたであろうことが伺えた。
肝心の汚染は部屋の隅にあり、側のクローゼットにも広がっていた。

汚染箇所以外に、特に目を引いたのはキッチン。
棚の中には、普通の食品に混ざって、たくさんのドッグフードがあったのだ。

「犬でも飼ってたのかな?・・・でも、このアパートは、動物を飼っちゃいけなそうだけどな・・・」
そう思いながら、辺りを見渡した。
過去に何度か経験したように、その辺に犬の死骸が転がってないかと思ったのだ。
ちょっとした緊張感が身体を走ったが、幸い、部屋のどこにも犬の姿は見当たらなかった。
私は、気を取り直して作業を開始した。

キッチンの片付けを進める頃には、空腹感も手伝って、手からゴミ袋に入れられるドックフード缶が旨そうに見えてきた。
そしてその時、頭にピン!ときた。
「まさか?・・・これを?・・・自分で?」
故人は、ドッグフードを自分の食料にしていたのではないかという疑念が突然湧いてきたのだ。
また、それを想像することによって、私の中で全ての状況のつじつまが合ってきた。

確かに、肉の缶詰にしても、人用より犬用の方が格安。
食欲が抑えられない上の倹約生活には重宝する品かもしれない。
しかし・・・それにしても、ドックフードを食べるとは・・・。

部屋の片付けが終わってから、私は依頼者を呼び戻した。
そして、作業が完了した部屋の中を確認してもらった。

「台所の棚にドッグフー・・・」
色々と報告事項がある中で、私はドッグフードのことにも触れかかった。
息子の孤独死・腐乱だけでも充分な苦痛なのに、ドッグフードを常食とするような貧困生活をしていた事実を知ることはツラさと悲しさを重くするだけ。
だから、私は自分の口から出かかったた野暮な情報を呑み込んだ。

きれいに片付いた部屋と梱包した廃棄物をチェックしてもらっていると、男性は故人(息子)のことを静かに話し始めた。

故人は、親の反対を押し切って上京。
当初は希望していた職業に就いたものの、イメージしていた職業と現実の仕事とのギャップに耐えきれずに挫折。
それから職を転々。
職を変えるごとに忍耐力も削られていき、とうとうロクに働きもしない生活に。
親や故郷の友人達にデカいことを言って上京した手前、みっともない現実を見せられなくなり、そして、次第に誰とも疎遠になっていった。

結果、困窮生活の果てに孤独死・腐乱死体に・・・そうして故人は、葬式らしい葬式もせず慌ただしく火葬されたのであった。

「何の力にもなってやれなくて・・・」
男性は目を潤ませたまま肩を落としてた。
「そんなことないと思いますよ・・・」
私は、男性を少しでも支えられそうな言葉を探したが、見つからなかった。

私にできることと言えば、黙って男性の話を聞くことと、片付けたドッグフードを男性に気づかれないように運び出すことくらいだった。






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