特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

変わり者

2016-01-12 09:20:05 | ペット臭

私は、人から見て、変わり者のように思われることが少なくないだろう。
これは、仕事柄、仕方がないことと思っている。
だから、明らかに「バカにされている」と感じる場合を除いて、それを感じても不快感を覚えることはない。
ただ、就いている仕事が変わっていることと、弱虫過ぎるところを除けば、私はどこにでもいるようなオッサン。
同年代で大病を患う人も増えてきて、健康寿命が気になり始めている中年男である。

しかし、今年は、大晦日から一月三日まで、四日連続で酒を飲んだ。
休肝日を小刻みに設けることが習慣になっている私の場合、四日連続で飲むのは珍しい。
また、体重増が気にならなかったわけではなかったけど、「正月くらいいいか」と、結構、食べてしまった。
ダイエットしてから一年余経ち、普段は神経質なくらい体重を気にしているのに。
日課のウォーキングも大晦日・元旦・二日はやったけど、三日・四日は休んでしまった。
結構、粘って続けてきたのに、ちょっと残念。
それでも、週休肝二日制は崩していないし、体重も増えていないし、ウォーキングも再開できたのでヨシとしている。
何より、正月をそれだけ楽しく過ごせたのだから、それはそれで喜ばしいかぎりである。

しかし、喜んでばかりもいられないことが、その後に起こった。
正月の反動がきたのか、五日以降、精神の調子がヒドく悪くなってしまったのだ。
そう・・・例のヤツだ。
早朝(夜中)からヒドい欝状態に陥り、息も浅く布団から顔をだすのも困難に。
心は闇に覆われ、何もかもが虚しく思えて仕方がなかった。
そんな状態でも、仕事を休むわけにはいかない。
何とか、布団から這い出て、「ハァハァ」と荒く息をしながら身支度を整え仕事に出た。

日中も、ヒドい虚無感と倦怠感に襲われ、頭が重く身体に力が入らない感じ。
食欲も酒欲も減退する中、身体がもたないので無理矢理食べたけど、「美味い」といった感覚もなく、消化不良気味で腹に異物感を覚えるのみ。
ウォーキングをやっても爽快感はほとんどなく“焼け石に水”。
仕事中は少し気を張ることができ、人目には異常は感じられなかったと思うけど、非常によろしくない状態だった(悲しいかな、今も完全には回復していない)。

ちょうど二年前・・・私は2014年の1月もヒドい状態に陥っていた。
思い出すとゾッとするほど、あの時は、ツラくてたまらなかった。
実は、あまりに辛いものだから、そのときは何年かぶりに病院に行ってみた。
評判のいい病院だったのだが、私が変わり者なのか、ありきたりのカウンセリングから入る手法に馴染めず、また、医師との極端な温度差にも違和感を覚えた。
結果、「やっぱ、病院は合わないな・・・」と、途中で通院をやめたのだった。

幸い、今年は、そこまで深刻な状態にはなっていないけど、手を打たないともっと落ちていく可能性が高い。
厄介なコイツとは長年の付き合いだから、自分でそれがわかる。
まったく、いつもブログに気の入ったことを書いて人(自分)を励ましているのに、このザマ。
願望と現実がかけ離れ過ぎて滑稽なくらい・・・・・もしかしたら、結構な変わり者かもしれない。
しかし、「こんな自分だから、このブログが書ける」とも言えるわけで、悪いことばかりではないか・・・
そうは言っても、これ以上の重症化は何としても避けたい。
いっちょ、山登りにでも出掛けて、気分を変えたいところだ。



臭気調査の依頼が入った。
依頼者は中年の男性。
現場は自宅マンション。
問題視しているニオイはペット臭で、その消臭についての相談したいようだった。

肝心なのは、異臭の原因と程度。
それが判明しないと、判断のしようがない。
私がそこのところを訊ねると
「常日頃から部屋にニオイがつかないよう気をつけていた」
「自分達家族の鼻では特段の異臭は感じない」
とのこと。
それを聞いた私は、即座に「仕事にならない」と判断。
電話だけでこの件を終わらせるつもりで、男性の質問を軽く流していった。

男性と私にはかなりの温度差があった。
ビジネスライクな私に反し、男性は「変わり者?」と思ってしまうくらい神経質になっており、現地調査を強く希望。
しかも、その時間は、男性が仕事から帰宅する夜。
仕事にならない可能性が高いうえに夜の時間を希望された私は「んー・・・」と消沈。
面倒臭くて仕方がなく、男性の要望には、二の足も三の足も踏まざるを得なかった。

男性は、他社にも問い合わせたらしかったが、現地調査依頼を承諾した会社はなし。
私と同じく、どこも「仕事にならない」と判断したのだろう。
しかし、そのことが私の心持ちに変化をもたらした。
「この程度のことを躊躇っていては、何の進歩もないな・・・・・いっちょ、行ってやるか!」
と考え直し、無駄足になることは覚悟のうえで、現地調査の日時を約した。


訪れた現場は、高層の高級マンション。
私は、約束の時間ピッタリに1Fエントランスに入り、インターフォンを押した。
すると、仕事から帰宅したばかりらしき男性が応答し、オートロックを開錠。
何につけても“高級”とは縁がない私は、滅多に味わえない雰囲気に気分を上げながらエレベーターで上階へ上がっていった。

男性宅は、眺望のよさそうな高層階。
私は、出迎えてくれた男性夫妻に、汚い身なり(着回した作業服姿)であることを詫び、靴下の裏が汚れていないか気にしながらすすめられたスリッパを履いた。
そして、促されるまま一番奥の方へ足を進め、開けられたドアをくぐり問題の部屋に足を踏み入れた。

このマンションは、男性の勤務先が用意した“社宅”。
ただ、「社宅」と呼ぶにはあまりに高級。
そういう世界とは無縁の私でも、男性の勤務先が結構な企業であることと、男性のポジションが結構なところにあることが容易に想像できた。
ただし、勤務先の社宅規程は厳格で、マンション自体は“ペット可”にも関わらず、この部屋は“ペット不可”とされていた。
また、男性の家族にはタバコを吸う人はいなかったけど、吸う場合の注意事項と、不始末を起こした場合の責任の取り方も厳重に定められていた。

部屋の隅には動物用のゲージがあった。
中にいたのは、可愛らしい一匹の小型犬。
吠えないよう躾けてあるのか、尻尾を振ることこそなかったものの、見ず知らずの私が現れても黙ったままおとなしくしていた。
この犬は、仔犬の頃、もらい手がない中で夫妻が引き取り、以来、十数年も一緒にいるよう。
つまり、このマンションに越してくるずっと前から一緒にいるわけで、家族も同然。
転勤を理由に手放すことなんて到底できるものではないことは、説明されなくても理解することができた。

幸い、マンション自体はペットの飼育が認められていたため、日常生活に問題はなかった。
散歩も外出も自由にでき、平穏に飼うことができた。
しかし、男性一家は、再び仕事の都合で越すことに。
それに伴って、ペット臭が残っては問題になってはいけない。
禁止されていたにも関わらず犬を飼っていたことが会社にバレてキャリアや肩書きにキズがつくことを怖れてかどうかはわからなかったけど、男性は、不安を覚えていた。
だから、その前に、専門業者=私のアドバイスをもらおうとしたのだった。

部屋には、市販の消臭剤はもちろん、家庭用の空気清浄機や消臭除菌機も用意されており、夫妻が、常日頃からニオイに対して慎重に対処しているのは事実のよう。
だから、実際に感じた異臭もかなり軽微。
犬は体臭の強い動物で、部屋にはまだそれがいたわけだから若干の動物臭こそ感じられたものの、引越しの後、何度か換気すれば片付くレベル。
だから、私は、正直に、業者に依頼してまでの消臭作業は必要ない旨を伝えた。


「無駄足になってしまって、申し訳ありません・・・」
「でも、助かりました・・・ありがとうございます」
と、申し訳なさそうに頭を下げる夫妻に、
「いえいえ、気になさらないで下さい・・・」
「それを納得したうえで来たわけですし、これも私の経験になりますから・・・」
と、私は、笑みを浮かべた。
空振ってもなお笑っている私が、夫妻の目には変わり者に映ったかもしれなかったけど、気分は悪くなかった。
それどころか、いつまでも夫妻が犬を大切にするであろうことが想像され、何だかそれが嬉しくて、あたたかな気持ちになった。
そして、結果的に、金銭的な利益は上がらなかったけど、与えられた温心が私の利益となったのだった。



この仕事、もちろんボランティアでやっているのではない。
また、ここ数年で同業者や類似業者が乱立し競争も激しくなっている。
だから、現地調査に出向いたからといって、すべての現場で請負契約が成立するわけではない。
仕事にならないケースもフツーにあり、金額や作業内容が合致しなかったり、要望通りの施工が難しかったりすると契約は不成立となる。
また、作業条件が合わなかったり、相手に不審な点があったりする場合、こちらから辞退することもある。
結果として、無駄足となることも多い。

でも、小さなことだけど、それも経験の一つ。
目先の利益に注力することも大切だけど、ためになる収穫はそればかりではない。
新しい現場を見ることができ、関わったことのない人と関わることができるわけだから、
これが、すぐに何かの役に立ったり、何かの収穫につながったりすることはないのだろうけど、「無駄」とは思わないようにしている。
どのみち、ジッとしてちゃ現状は何も変わらない。
だから、原則として、依頼があれば出向く。
仕事にならなそうな現場でも、面倒くさそうな相手でも、依頼があればできるかぎり出向くようにしている。


人は変わりにくい。
そんな弱さがあるから。
大きく変化はできない。
それだけの強さがないから。
だけど、人は変われる。
そんな希望を持つのだから。
小さな変化を積み重ねていくしかない。
それくらいの力は持てるのだから。

自分を変えるチャンスは毎日にある。
「毎日が大晦日」「毎日が元旦」
苦しければ苦しいほど、辛ければ辛いほど、そんな心構えで生きていける“変わり者”になりたいと思うのである。


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