特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

確執

2016-03-28 09:06:01 | 消臭 消毒
進学、就職、転職、転居・・・
この時期、人生の岐路にある人は多いと思う。
希望と期待、意地とプライドを持って新たな歩を踏み出す人もいれば、失意と不安の中、意地とプライドを捨てて歩きださざるを得ない人もいるだろう。
私は、意地もプライドもなく、絶望と不安の中、ヤケクソ気味で新たな道に進んだクチ。
もう、24年余も前のことになるけど、その経緯は、何度か書いてきた通り。
毎度のことながら、思い出してでてくるのは溜息と苦笑いくらい。
「自業自得」と、無理矢理、自分を納得させている。

とにもかくにも、新しい環境には、新しい人間関係がつきもの。
初めて会う上司・先輩・同僚、初めて会う先生・上級生・同級生etc・・・
そういった人達と仲良く、うまく付き合えれば、それに越したことはない。
ただ、人は、十人十色。千差万別。
中には、嫌いなタイプの人間、苦手なタイプの人間、ウマが合わない人間がいても不自然ではない。
もっと言うと、自分にストレスをかけてくる人間、腹の立つ人間は、「必ず」と言っていいほど、どこにでもいる。
結局のところ、自分の意に関係なく、嫌いな人間と関わらなければならない、ウマの合わない人間と付き合わなければならないこともでてくるのである。

ただ、人間関係をこじらせることは、自分にとってもマイナス。
それはそれで、違うストレスを生むから。
だから、人は、そうならないために、テキトーなところで、妥協し、我慢し、迎合し、忘却する。
時には、おもしろくもないことに愛想笑いを浮かべ、下げたくない頭を下げ、納得できないことにもうなずく。
自分を、学校で、会社で、この社会で成り立たせ、生かすために。


依頼された仕事は簡易清掃と消毒消臭。
一般家庭のトイレ漏水の後始末で、仕事としてはかなり小さいもの。
それでも、お金をいただく以上はシッカリやらなくてはいけない。
私は、事前に約束した日時に依頼者宅を訪れた。

現場は、キチンと区画整理された郊外にある一般的な住宅地。
造成分譲からまだそんなに時間がたっていないことがすぐにわかる、きれいな家並。
そして、そこに建つ家は、いわゆる“建売住宅”。
建物の形状と外壁の色が家ごとに若干違うくらいで、同じパターンの家がズラリと並んでいた。

整然と並ぶ番地を順に追っていくと、目的の依頼者宅はすぐに見つかった。
私は、その家の前に車を寄せて停車。
片側には、自家用車一台なら充分に通れる道幅が残っていたため、何も気にせず車を降りた。

すると、間髪入れず、向かいの家から一人の老年男性がでてきた。
そして、声高に、
「そこ、とめちゃダメ!」
と、一言。
戸惑った私が黙っていると、矢継ぎ早に、
「邪魔だから!すぐにどかして!」
と、更に声を大きくして言ってきた。

しかし、周囲を見渡しても、私の車は、誰の邪魔にも何の邪魔にもなっていない。
しいて言うなら、私の車があると、男性宅の車が少々出しにくいかと思われるくらい。
ただ、男性に、車を出す様子はない。
だから、私は、
「○○さん(依頼者)の御宅に来たんですけど、すぐ済む用事ですから・・・」
と、男性が了承してくれるものとばかり思って、そう応えた。

しかし、男性は、そんな言い分、意に介さず。
「そんなこと関係ない!ダメなものはダメ!」
と、一点張り。
私有地でも私道でもないのに妙に強気で、妥協する姿勢を一切みせなかった。

こんなの、“お互い様”の精神があれば何でもないこと。
しかし、まったく融通がきかず。
そんな男性に、かなりイラッときたのだが、こんなところで揉めは依頼者に迷惑がかかる。
私は、沸いてくるマグマを飲み込み、小さく舌打ちして再び車に乗り込み、少し離れた公園脇に移動してそこに車をとめ、歩いて依頼者宅に戻った。

そこは市街地でもなく、住民の通報でもないかぎり駐禁を切られることはないと思われたが、目の届かないところに車を置いておくのは、やはり不安。
そうは言っても、住宅地につき、コインパーキング等も皆無。
私は、車を公園脇に置いてきた事情を依頼者に話し、この家の近くに置けないものかどうか相談した。

すると、依頼者は、人差指で自分の頭をトントンやりながら、
「すいませんね、近所に変なのがいて・・・アノ人、ここがおかしいんで、相手にしなくていいですから」
と呆れ顔で言い、そして、
「構わないから、家の前に車をとめて下さい」
と言って、不敵な笑みを浮かべた。

またアノ男性に文句を言われるのはほぼ間違いなかったので、私はいまいち気が乗らなかったが、それでも公園脇に放置して駐禁を心配しているよりはマシ。
男性に何か言われたら、その責任を依頼者に転嫁するつもりで、再び、車を依頼者宅前に戻した。

やはり、向かいの男性はすぐにでてきた。
が、意外にも何も言わず・・・
スゴく言いたそうにしているものの、何かを飲み込むようにしながら、結局、何も言わず。
私が依頼者の指示で車をとめたことが察せられたのだろう、これ以上言うのは火傷のもとと判断したようだった。

それでも、作業中、依頼者宅に出入りする私を、男性は、いつまでも自宅の庭から塀越しにジッと睨みつけていた。
威圧してるつもりか、監視してるつもりか、まるでケンカを売られているようで、私は極めて不愉快な気分に。
普通なら、「何か用?」「失礼じゃないか?」とでも言うところだったが、この場限りの現場で揉め事を起こしても何の得もない。
結局、私は、その都度、睨み返すだけにし、口と身体は男性に向けなかった。


人の悪口って、言わずにいられないときがある。
また、それが、ストレス解消になることがある。
自分の口を汚し、同時に人の耳も汚してしまうものだけど、私にも、現在進行形で身に覚えがある。
作業が終わると、依頼者は、
「気分の悪い思いをさせて、すいませんでしたね・・・」
と、男性の件を私に詫びてくれ、ついでに、ことの経緯を話しはじめた。

ここは、数年前に分譲された新しい住宅地。
土地は広めながらも上物は量産の建売家屋で、若い世帯でも購入しやすい価格帯になっていた。
そして、依頼者家族をはじめ、マイホームを夢見る若い世帯が次々と購入していった。

少しでもいい家に住みたいから、身の丈に合わないローンを組んで失敗するような人もいるらしいけど、通常、人は、自分の経済力に見合った家を買う。
だから、こういった新興住宅地には、生活水準・生活文化・生活スタイルの似たような人達が集まりやすい。
ここもそうで、依頼者も同様、住民のほとんどは、幼稚園児や小学生・中学生の子供がいるような30代~40代の世帯。
一方、どういう事情で越してきたのはわからなかったが、向かいの男性宅は現役を退いた老後世帯。
子供もとっくに成人独立した、老夫婦二人きりの世帯だった

男性と近隣住民との間には、特に何があったわけでもなかった。
何かのトラブルはきっかけで確執が生まれたわけでもなく、引越し当初は、フツーの社交辞令関係だった。

そして、住み慣れてくると、近所同士、親しい人間関係ができてくるもの。
同年代で似たような家族構成の家族が集まっている住宅地なら尚更そうで、春には連れ立って花見に出かけたり、夏には誰かの家に集まってBBQや花火をやったり、秋には一緒にレジャーに出かけたり、冬にはクリスマス会・忘年会・新年会をやったり、たまの休日に酒宴を催したりと、気の合う家族が固まるように。
とりわけ、依頼者宅周辺の家々は、皆仲が良く、良好な関係をつくっていた。

しかし、その輪に向かいの男性夫妻は入っていなかった。
年齢も、家族構成も、生活スタイルも、嗜好も、生活上の課題も他世帯と大きく違うわけで、仕方がないことだった。
しかも、それは、住民達が意図的(悪意で)にそうしたわけではなく、自然とそうなったもの。
善悪で判断できることが原因で起こったことではなかった。

それでも、最初の頃は、気を使って男性夫妻を酒宴に誘ったりしたこともあった。
しかし、男性は、社交的な性格ではないうえ下戸で酒を好まず。
また、年上としてのプライドがあるのか、話しをする機会をつくっても、口から出るのは昔の自慢話や説教じみた御節介ネタが多く、聞いているほうも楽しい気分になれなかった。
結果、会話も自然となくなり、徐々に、距離が空いていった。

男性は、それで疎外感をもったのか・・・
それがおもしろくなかったのか・・・
次第に、周りの人に対してスネた態度をとるようになり、それが、被害妄想的にエスカレート。
近くの路上に車を停めると「邪魔だ」と文句を言うのはもちろん、
学校帰りの子供が表で遊んでいると「うるさい」と文句を言い、
子供が路面に蝋石で落書きをして遊んだ際は「景観を損ねる」と文句を言い、
時には、ゴミ収集日にゴミ袋を開けて分別をチェックしたりして、他家の粗探しをするようなこともあった。
結局、「お互い様」と融通し合うべきことも一切応じず、そういった振る舞いが、人に変人扱いされ、人から嫌われる原因になり、男性は、ますます孤立の度を深めていったのだった。


視界を狭めれば意地を張ることはできる。
広い視野を持てば、つまらない意地は捨てられる。
視線を上げなければプライドを保つことができる。
上へ視線を向ければ、つまらないプライドは捨てられる。
小さな怒りさえあれば、拳を振り上げることはできる。
だけど、振り上げた拳を下ろすには、大きな勇気が必要。

男性は、新しい暮しの中でつくっていく新しい人間関係に期待感を持っていたのだろう・・・
仲良く付き合える“ご近所”が欲しかったのだろう・・・
周りの人に、自分の存在を気に留めてほしかったのだろう・・・
しかし、現実は、確執だらけの“村八分”状態。
そして、対人関係にとどまっていたはずのその確執は“対自分”に・・・つまり、“自分の理性と良心”の間に、また、“理想の自分”との間にまで転移し、男性を蝕んでいったのか・・・

そこで目にした、「自業自得」で片付けてはいけない人間の愚弱は、持つべき意地が持てず・つまらない意地が捨てられず、また、持つべきプライドが持てず・つまらないプライドが捨てられない私の前に、大きな問を置いたのだった。



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