特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ゆく年

2025-03-16 06:57:52 | 特殊清掃
今日はとうとう大晦日。
2006年も今日でおしまいだ。
楽しいことより辛いことが多かったように思う今年だけど、過ぎてみると早いもんだ。
年齢も一つ重ねて、「オヤジ」「オジさん」と呼ばれるにはもう充分だ。


今日は、血の特掃と別現場の消臭消毒に行ってきた。
どちらの現場もリアルタイム過ぎるので、詳細を伝えるのは控えるが、私にとっては軽い現場だった。
特掃だけじゃなく消臭消毒も大事な仕事の一つ。
「消臭消毒」と一口に言っても、仕事としてはかなり難しい。
人間の腐乱臭は鼻に臭いだけじゃなく精神に悪いから。
それを片付けるには、錬磨したノウハウと根気が必要なのだ。


5月からだけど、ブログも結構書きまくった。
トータルで、180編くらいにはなるのだろうか。
「死」や「死体」だけをテーマに、よくもこんだけ好き勝手なことを書けるもんだと、我ながら呆れるやら苦笑するやら。


「人は、何故生まれてくるのか」
「人は、何故生きるのか」
「人は、何故生きなければならないのか」
「生きる意味って何なのか」
「自分とは?」
そんなことを考えながらの死体業生活である。
これらの問いには、人それぞれの答や解釈があるだろう。
そして、その真理を追い求めている人も少なくないだろう。


世の中や人生には、知らなくていい事・知らない方がいい事、考えなくていい事・考えない方がいい事があるように思う。
どうだろうか。


上記の問いにつき、時々そんな風に思うことがある。
「命とは?人生とは?自分とは?」
なんて考えたところで、私の場合はしんどい思いをするばかりだから。




本ブログの書き込みコメントに、「死ぬのはやめた」と書いてくれる人がいる。
そんな人達に対して「よかった・・・ありがとう」と安堵するのも事実だけど、私には「人助けをしている」「人を救っている」なんて思い上がった考えはない。
「人の役に立っている」なんて勘違いもない。


真実はその逆。
死にたい気持ちと戦いながら書かれたコメントに、私は生かされているのだ。
助けてもらっているのは私の方。
ブログを始めてから、もう何人もの人が生きる勇気を与えてくれた。


私は弱い人間だ。
日々、悩んだり落ち込んだりする。
他人からすると驚くような些細なことで、気分を沈ませることも多い。
そして、生きる価値・自分の存在価値を見出だせなくて苦しむ。
結果、心の闇に支配され、そこからなかなか這い出せなくなる。
この状況に陥ると、手に負えない。
生きていることそのものが、辛くて辛くてたまらない。


そんな私に向けて発信される生きるエネルギーに、私は支えられているのだ。
苦渋の中から搾り出される生きる決意が、私を闇から救ってくれる。
涙もろい私は、「ありがとう」と泣く。


人という文字は、人と人が支え合うかたちを表していると、よく言われる。
そんなこと、若い頃には気にもしなかったけど、この歳になって確かにそう思う。
少なくとも、この私は自分一人では自分を支えることはできないくらい無力だ。
このブログ(書き込み)により、随分と私は支えら救われているけど、結果的に誰かを支えていることもあるだろう。
この支え合いが、私達を人間にしてくれ、生かしてくれているのではないだろうか。


死を考える程ではなくても、人それぞれが色んな悩みや苦しみを抱えているはず。
自分一人で戦うのは辛いかもしれない。
でも、このブログを通じて人と人とが支え合い、生きるきっかけを共に享受できればいいと思う。


「今年も終わりか・・・」
仕事が終わって、着替えた特掃服をしみじみ眺めた。
特掃で浴びた故人の血が、ズボンに着いていた。
黒く乾いた血痕と自分の存在価値を重ねて思った。
「俺は・・・俺は生きるよ」


「特殊清掃 戦う男たち」を来年もヨロシク。
そして、2007年が私達にとって生きた年になることを祈る。



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2006-12-31 21:00:39
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まさか(後編)

2025-03-05 06:21:24 | 特殊清掃
毎日、新しい朝を迎えられることが当たり前になっている私。
ただ、その日の仕事や天気・眠気などによって起床することが辛く思える日がほとんど。
気分が低滞していると「夜が明けなければいいのに・・・」とさえ思ってしまう。


しかし、世の中には朝を迎えたくてもそれが許されない人達がいる。
予期せずして朝が与えられない人達がいる。
また、いずれこの私もそういう日が来る。
死は必然だ。
「まさか」のことじゃない。


その日の朝も、気分が浮かない目覚めだった。
睡眠不足のはずなのに、やたらと早く目が覚めてしまった。
就寝中、唸されたような記憶と季節外れの寝汗が、この日に起こる出来事を予感させた。


「ひょっとして、昨夜の電話は悪い夢だった?」
一瞬、気持ちが緩んだ私だったが、残された自筆のメモが一気に気持ちを引き締めてくれた。
書かれた内容が結構グロかったため、思わず溜息がこぼれた。


「やっぱ、現実か」
「気合を入れて行ってくるか!」
私は、自分に喝を入れた。


現場は、公営の団地だった。
私は、かなり緊張していた。
汚腐呂掃除の経験は随分と積んできてはいるものの、「死後二ヶ月」というのは記憶になかったからだ。


ドキドキする心臓を落ち着かせて、玄関前で深呼吸。
それから、隠してあった鍵を使って開錠。
誰もいるはずもない部屋に、例によって「失礼しま~す」と言いながら上がりこんだ。
その動きはロボットみたいにぎこちなく、腐乱臭も気にならないくらいにワナワナしていた。


浴室の場所はすぐに分かった。
アレコレと考え始めると、ドアを開けるのに躊躇するばかりなので、何も考えないようにして一気に入口の扉を開けた。


「うぉっ!これか!」
浴室内には独特の腐乱臭が充満しており、浴槽には真っ黒な汚水が溜まっていた。
そして、表面には黄色い厚みを持ったおびただしい数の脂玉が浮遊。
私がこれまでに何度も遭遇してきた汚腐呂のそれより明らかに色が濃く、透明度はほとんどゼロ。
「これが二ヶ月モノか・・・」


浴槽の縁や浴室の床のあちこちには、焦げ茶色の干からびた皮膚とが腐敗液が付着。
浴槽内部以外の汚れは、遺体(遺骨?)搬出の際にできた汚れのようだった。
ちなみに、同じ腐乱でも、臭汚腐呂の臭いと汚腐団などの陸地の臭いは似て非なるものなのである。
当然、両方ともかなりイッてる臭いなので、「こっちがマシ」とか言えるレベルではない。


私は、器具を使ってゆっくり汚水を掻き回してみた。
明らかに、元固形物(人間)だったであろうドロッとした黄土色の沈殿物が底の方から舞い上がってきた。
何と言ったら分かるだろうか・・・ま、分かり易く説明する必要はないか。


「これは何?ここはどこ?俺は誰?」
私の中で、嫌悪感と特掃魂が戦っていた。


「大丈夫?」(俺)
「あんまり大丈夫じゃない」(隊長)
「やれそう?」(俺)
「分かんない」(隊長)
「二ヶ月経つとこうなるのか・・・」(俺)
「・・・だな」(隊長)
「断る?」(俺)
「それをやっちゃ男が廃るだろ」(隊長)
「じゃ、どうすんだよ」(俺)
「考えるしかない・・・あとは根性」(隊長)
「でたー!困ったときの根性頼み」(俺)
「やっぱ、最後はそれしかないだろ」(隊長)


私は、依頼者に電話した。
依頼者は弱々しかった。
身内をこういう亡くし方しただけでもショックだろうに、急かされる事後処理に心身ともに疲れていると思われた。
私に対してもすごく申し訳なさそうに話す依頼者に、私は特掃魂に火をつけざるを得なかった。
人の役に立ってお金までもらえるんだから、特掃冥利に尽きるってもんだ。


「二ヶ月と聞いて驚きましたけど、たいしたことなかったですよ」
「似たような現場を何件もこなしていますので大丈夫です」
「安心して待っていて下さい」


依頼者の心的重荷を軽くするのも大事な仕事。
↑こう言うと少しはカッコいいけど、実は、そうすることによって私は自分を追い込んでいくのだ。
そうして自分の逃げ道を塞ぎながら、特掃の切り札である最後の根性を引き出すのである。


その後の作業は複数日に渡って行った。
過酷・凄惨を極めたことは言うまでもない。
その詳細を記すのは、しばらく後にしよう。
クリスマスイブには似合わな過ぎるネタなんでね。


そう、今日はクリスマスイブ。
街は、きらびやかに飾り立てられている。
それにしても、キリスト教徒でもないのに、世間(皆)が「メリークリスマス!」ってお祭り騒ぎしているのが、私には少々滑稽に映る。
浮かれ気分も悪くないけど、こんな日くらいは、イエス・キリストを覚えてみてもいいかもね。


私は、今夜はマーボー豆腐でも食べながら安焼酎でも飲むかな。
MerryChristmas!

PS:「マーボー豆腐?」ってピンときた貴方は特掃通!



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2006-12-24 10:04:01
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お風呂掃除でお困りの方は




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まさか(前編)

2025-03-02 19:33:50 | 特殊清掃
特掃現場になる家のほとんどは、故人が独居していたところである。
近年増えてきていると言われる孤独死だ。
ただ、まれにそうでない所もある。
それは自殺現場に多いのだが、自然死して腐乱死体がでた家でも他に同居者がいることがある。


家庭内別居の状態とはいえ、まさか同じ家で暮らしている人間が腐乱するまで死んだことに気づかないとは・・・。
通常だと、物音や気配がなくなれば変に思うだろうし、そうでなくても家の中に異臭が漂い始めれば異変を感じて当然のはず。
なのに、腐乱死体になるまで誰にも気づかれずに放っておかれるのだ。
作為的な何かがあるのだろうか、不思議でならない。
まぁ、私が考えるまでもなく、警察がシッカリ調べているのだろうから、私が余計なことを詮索しても仕方がない。


また、特掃現場では、故人が死んでからの時間がストップしたようになっていることが多い。
ベランダに洗濯物が干したままになっていたり、電子レンジに食べ物が入ったままになっていたりと様々。
何気ない日常生活が、いきなりの状態で止まったままになっている。


これは中高齢者宅に多いのだが、「元気に生きるための○ヶ条」「幸せに暮らすコツ」「病院のかかり方」「薬の飲み方」の類が大きな字で壁に貼ってある家もある。
そういうものからは、故人が自分の人生を大切にしながらも回りに(家族・子供)に迷惑を掛けないように、普段から心身の健康に留意していたことが伺える。
そんな生前の心掛けと現実の腐乱痕を対比すると、ちょっとせつなくなって汚物に情が傾いていく。


ガスコンロに何かが入った鍋が置いたままになっていることもある。
そのほとんどはドロドロに腐りきっていて、元が何の料理だったのか判別不能なのだが。
まさか、それを食べる前に逝くことになろうとはね。
腐乱は腐乱でも、腐った食べ物もタチが悪い。
独特の悪臭を放つし、液状のものは処理にも手間がかかる。
同じ現場でも、人の腐敗は耐えられるのに、食べ物の腐敗に「オエッ!」とくることさえある。


ある家では、カップラーメンが蓋が開いた状態で、テーブルの上に置いてあった。
そして、その脇には腐乱痕。
興味本位で容器の中を覗いてみると、お湯を注いだような跡があった。
カップラーメンを食べるつもりで仕度をしたものの、ラーメンができ上がるまで命がもたなかった訳だ。
これもまた「まさか」の出来事、せつない運命だ。


死体業をやっていると、生死は常に表裏一体のものであることを毎日のように思い知らされる。
生と死は、まさに隣り合わせ。
一瞬先のことさえ、誰にも分からないものだ。
必然的に死ぬ前に偶然的に生きている中で「明日は我が身?」と緊張する。


トイレ・浴室での突然死も多い。
本ブログにも頻出している通りである。
用を足しにトイレに入った本人は、まさか生きて出られなくなるとは思ってなかっただろう。
気持ちよく風呂に入った本人は、まさか生きて浴槽から出られなくなるとは思ってなかっただろう。


ホントに「まさか!」である。
しかし、この「まさか」が自分や自分の身の回りで起こらない保証はない。


夜中に電話が鳴った。
就寝中だった私の脳は、無防備のまま。
必死に平静を装おうとするのだが、叩き起こされた脳が瞬時に平常稼働するわけもない。
半分寝ボケたまま電話にでた。


電話は、浴室特掃の問い合わせでだった。
現場の状況を聞き進めるうちに、次第に脳が動き始めた。
そして、「まさか」と、目がパッチリ覚めた私だった。


つづく




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2006-12-20 15:27:35
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飽食の陰でⅠ

2025-02-18 06:34:51 | 特殊清掃
私は、食欲旺盛だ。
昔から早食いの大食い。
経済的な事情から、たいして上等なものは口にしていないけど、毎日おいしく御飯を食べている。


食べ物が美味しく食べられるのは幸せなことだ。
不自由なく食べることって極めて当たり前のことのようで、よく考えるとそうでもないことに気づく。


まず、お金がないと食べ物は買えない。
お金を得るには仕事が必要。
また、いくらお金があったって、買える食べ物がなければ仕方がない。
食べ物があっても、食物を受け入れる身体(健康)がなければどうしようもない。
また、健康って、精神と肉体の両方でないてダメなもの。
そう考えると、毎日の食事が美味しく食べられることがどんなに貴重なことであるかに気づかされる。


更に、酒や甘味まで味わえる私は幸せ者だ。
酒が美味しく飲めるときは心身ともに調子がいいとき。
五臓六腑に浸み渡るアルコールが、もらい腐りした脳をリセットしてくれる。
また、酒に対する味覚が健康のバロメーターにもなっている(肝臓くんだけが一人静かに泣いている?)


私は、更に甘味にも目がない。
洋菓子・和菓子、何でもOK!・・・(あ!最中や甘納豆など、凝った和菓子は苦手だった)。
5号サイズのラウンドケーキなら一人でペロリといってしまう。


「ミルクレープ」ってケーキがあるでしょ?
アレを初めて食べたのは30歳くらいの時、人に連れられて行った銀座のケーキ屋だった。
フォークが入っていく感触が何とも言えず心地よく、一口食べると「なんだこりゃ!?」。
食べてビックリ!、その舌触りと旨さに心を動かされた私だった。


店は違えど、それから何度かミルクレープを食べているが、いつも三角にカットした小さなもの。
いつか、円いラウンド状態のままを思いっきり食べてみたいものだ。
それが、私のささやかな(バカな?)夢。


食い意地の張った私には食い物の話は尽きない。
ただ残念なことに、舌に美味しいものは身体に悪いことが多い。
脂肪・糖分・塩分・アルコールetc
こんなんじゃ、将来は、ロクな病気にはならなそうだね。


食べ物が豊富にある現代の日本で、意外な死に方をする人がいる。
どんな死に方って?
冷たい言い方だけど、事故死や自殺は珍しくも意外でもない。


答は、餓死だ。
にわかに信じ難いかもしれないが、現代でも餓死する人がいるのだ。
色んな人の色んな死に携わっている私でも、餓死には驚く。
豊食による病気で逝く人が数知れない中で、ひっそりと餓死者もいるのだ。


そんな現場では、「なんで?」と思ってしまう。
一体、何が人を餓死に追いやるのだろうか。
貧困か・・・
将来の悲観か・・・
プライドか・・・
それとも、餓死も自殺手段の一つなのか。


餓死者がいた部屋だからといっても極貧の雰囲気はない。
もちろん、お金持ちの雰囲気はないけど、一通り家財道具・生活用品は揃っている。
腐乱汚染も例の通り。
「どうして・・・」
ホント、不思議なせつなさを覚える。


何年か前、幼い子とその母親が餓死遺体で発見されたというニュースがあった。
かすかな記憶によると、その家には食べかけたのカップラーメン以外に食べ物はなかった。
母子は名前も分からず身元不明。
このニュースを聞いた私は、もの凄くせつなくなった。
薄っぺらい同情心でしかないけど、複雑な悲しさがあった。
母と子、どちらが先に息絶えたのか知らないけど、どちらにしろその状況を想像すると堪え難いものがある。


格差社会、低所得者層の増大が取り上げられる中で、日本でも餓死者が増えていくのだろうか。
過剰な接種カロリーに悩む大多数の日本人の陰で、誰にも気づかれることがなく。


「昼飯は何を食べようかな?」
「夜は何をツマミに飲もうかな?」
なんて、呑気に考えられる日々に飽食の陰を見る私である。



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2006-12-09 09:30:04
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秘蔵酒

2025-02-15 05:37:35 | 特殊清掃
私は酒が好きだ。
たいして強くもないけど、下戸でもない。
数少ない、人並みにできることの一つが酒を飲むこと。


例えばビール。
子供の頃は、「大人は、なんでこんな苦いものを飲みたがるんだろう」と不思議に思っていた。
子供の頃に飲んだビールは、苦いばかりで本当にマズかった。


それからしばらく成長して自分でビールを飲み始めるようになるのだが、当初は周りに合わせて(大人ぶって)味の分かるフリをしていた。
ホントはマズイくせに、「うまい!」なんて言いながら。
しかし、飲み続けているうち次第に味が分かってきた。
そして、本当に「うまい」と感じるようになり現在に至っている。


少し前、ある居酒屋に行った時のこと。
高級店には縁がない私が行くのは、いつも安価な大衆店。
その時も大手チェーンの大衆店だった。


「とりあえずビールを下さい」
目の前に、どの店にも見られる普通の中ジョッキがでてきた。
私は、当たり前の味を想像してグビグビッと勢いよく飲んだ。


「ん?うまい!・・・」いい意味で意表を突かれた。
「今日はヤケにうまく感じるなぁ」
「喉が渇いてるのかな?」
不思議な感覚のまま、ビールはグイグイすすんだ。
しばらく飲んでいても、ペースは落ちない。
しばらくして、店員に尋いてみた。


「このビールの銘柄は何ですか?」
「○○(メーカー)の○○(銘柄)です」
「え?この値段で?」
「メーカーとタイアップして、○○記念のキャンペーン中でして」
「なるほど!そう言えば、このビールは○○でしたよね」


私は、そのビールの存在は知っており、ずっと「飲みたい」と思っていたものだった。
しかし、貧乏人の私には手が届かないでいたもの(いつも雑酒ばかり)。
それが偶然にも一般ビールと同じ値段で飲めたことはラッキーだった。


私は宣伝のつもりでも、結果的に営業妨害になってはいけないので、メーカー・銘柄は伏せておく。
ちなみに、有名メーカーの国産だ。


ある腐乱現場。
故人は年配の男性。
台所で腐っていた。
部屋の隅にはビールの空缶や酒瓶がゴロゴロと転がっており、酒好きだったことが想像されて親しみを覚えた。


床には腐敗粘土が厚く広がっており、私はそれを回り(外側)から少しずつ片付けていった。
そのうち、床からは床下収納のフタが見えてきた。


「中に 何か入ってるかな~?」


私は、目詰まりしたフタを工具でコジ開けた。
床下収納のフタは意外に重いもの。
私は、腐敗脂で滑りやすくなっていたフタを慎重に外した。


中には、何本かの酒瓶が立っていた。
その一つを手に取ってみたら、名の知れた高級酒。


「おっ!?」
少し興奮してきた私は、次々と瓶を取り出してみた。
日本酒・ウィスキー・バーボン・ブランデーetc、知らない酒もあったけど、どれも高級酒である威厳があり、かなりの熟成度を誇ってるようなモノもあった。
しかし、残念ながら、それらには例の熟成した液体がベットリ着いていた。


「これじゃぁ、どうしようもないなぁ」
せっかくの酒も、飲めるとか飲めないを考える以前の状態になっていた。


酒好きの故人は、きっと大事にとっておいたのだろう。
そして、それを口にする前に逝くハメになろうとは思ってもみなかっただろう。


人間は死んでしまうと、高級酒も金も、自分の身体さえも持っては逝けない。
何でも惜しみ過ぎないで、適当に使っていった方がいいね。
それが、生きているうちの特権かもしれないから。


さーてと、今夜も飲むか!
宵越しの銭なんか持ってられるか(単に、持てないだけだけど)!




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2006-12-05 18:05:00
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追いつめられて ~小心者の戦いⅡ~

2025-02-13 06:37:00 | 特殊清掃
ワサワサワサワサ・・・
汚染箇所の周辺には、それまでに何度かお目にかかったことがある未確認歩行物体が、群れをなして這い回っていた。
「オッ?こいつらに会うのは久し振りだな」
最初はそんな余裕をかましていた私だったが、よく見てみるとその数は膨大。
気のせいか、彼等は私に向かって近づいてきているように思え、その不気味さに鳥肌が立ってきた。


「こんな所に長居は無用!退散、退散っと」
現場見分の山場(汚染箇所の確認)をクリアした私は、気持ちも軽快に外に出るため玄関に進んだ。
そして、老朽鉄扉のノブに手をかけた。


「あれ?」
ドアが開かない。
「あれっ!?」
まだ開かない。
「あれーっ!?」
全然開かない。


私は、何が起こったのか理解できず、頭が真っ白になった。
無意識のうちに、ドアをガチャガチャやり続けた。


「ま、ま、まさか?」
「ひょ、ひょ、ひょっとして?」
「と、と、閉じ込められた!?」
私は動揺しまくった!
心臓はバックンバックン、身体からはイヤな汗がジトーッとでてきた。


「落ち着け!落ち着け!」
「慌てるな!慌てるな!」
「冷静に!冷静に!」
自分に言い聞かせる自分が、既にパニックに陥っていた。
精神的にも物理的にも、完全に追いつめられた私。


しばらくの間、ドアノブと格闘した私だったが、いつしか弱気になり、ついに自力脱出を諦めた。
「どうしよぉ・・・」
とにかく、他の住人に私の存在を知らせることにした。


まず、ドアを内側からしばらくノック。
時折、外から物音・人の動きを感じるものの、反応がない。
「腐乱死体部屋の中からノック音がしたら、助けるどころかビックリして逃げてしまうか・・・」


次に、ドアポストの隙間から「スイマセーン」と何度か声をだしてみた。
「・・・ま、これも不気味だな」


私は、他に助けを呼ぶことにして、ポケットの携帯電話を取り出した。
「さて、誰(どこ)に電話しよぉか・・・」
会社・大家・鍵屋etc、自分の面子や事の緊急性など色々考えて、とりあえず不動産会社に電話することにした。
そして、特掃を依頼してきた担当者に、「玄関ドアが壊れたらしく、真っ暗な腐乱死体現場に閉じ込められてしまった」ことを伝えた。
すると、担当者は驚いて「すぐに110番か119番に電話する!」と、見当違いな返答をしてきた。


このくらいのことで警察や消防の手を煩わせる訳にはいかない。
私はそれを制止して、とにかく鍵を持って急行してくれるように頼んだ。


担当者が到着するまで、私は、そこで待つしかなかった。
腐敗臭、未確認歩行物体、そして暗闇。


私は、意識的に楽しいことを考えようと試みたが、思考はどうしてもネガティブな方向に傾いた。
「俺には、楽しいことのネタがこんなにも乏しいのか」
と苦笑したのもつかの間
「未確認歩行物体が自分を食おうとするのではないか」
「幽霊がでるんじゃないか」
と言う不安が襲ってきた。
「なんだか、恐いなぁ・・・」


私は、余計なものが見えたり聞こえたりしないよう目を閉じ、両手で両耳を塞いでジッとしていた。
そして、自分を励ますために、どこかで聴いたことがあるアンパンマンのテーマソングを不完全な歌詞で繰り返し唄った。
ちなみに、「ウジとシタイだけがト~モダッチさ~〓」なんて唄ってないからね。


助けを待つ、その場の臭かったこと、その時間の長かったこと。
しばらくして、やっと担当者が来てくれた。
そして、外からドアを開けてくれた。
意味不明なことに、外からだと普通に開いたドアだった。


「助かったーっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「あまり大丈夫じゃないです」
「でも、大事にならなくてよかったですね」
「まぁ・・・ね」


長時間いたせいで、私の身体には腐乱死体臭がバッチリ着いていた。
生きているのに死人の臭いを発しながら、ヨロヨロと帰途につく私だった。


「追いつめられて・三部作」はこれで終了。


記したこと以外にも、私は毎日色んなかたちで追いつめられながら生きている。
そんな人生は、楽よりも苦の方が多いような気がしている。
それでも、人は誰でも、追いつめられた土俵際で踏ん張る力は備わっているようにも思う。
ま、踏ん張れないときは一旦負けて、また仕切り直せばいいんだけどね。


気づけば、2006年も師走。
大したことができないまま、歳だけとっていく。




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2006-12-03 08:46:09
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腐乱臭・異臭でお困りの方は
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追い詰められて ~怠け者の苦悩~

2025-02-08 05:39:38 | 特殊清掃
私は、幼い頃から怠け者である。
元来、努力・忍耐・勤勉には無縁の私は、何をやるにも面倒臭がってしまう。
面倒臭がらずにできることと言えば、食うことと寝ることぐらい。
特掃がない日は、風呂に入るのも面倒臭い。
若いころには、面倒臭がらずにできることがもう一つあったけどね。
んー、我ながら情けない。


怠け者の私は、だいたいのことは追いつめられないとやらない。
何をやるにも、前倒しより後手後手。


学校の宿題やテスト勉強も、面倒臭くてなかなか手をつけることができないタイプだった。
それでもまだ、着手すればマシな方で、怠け心に負けて全然勉強しないことも多かった。
更に、自分一人で開き直っているのならまだしも、末期になると他人(友人)をも巻き込んで堕落していた。
「実社会で生きていく上で、学校の勉強がどれほど役に立ち、どれほど重要なものか、はなはだ疑問に思う」
等と吐いて、勉強嫌いな友人をこっちサイドに引きづり込んでいた。
典型的な劣等生だ。


特掃業務においても、「面倒臭えなぁ」と思うことがたくさんある。


作業を終えて帰って来ると、道具・備品類をきれいにして片付けなければならない。
これが結構面倒臭い!
ただでさえ疲れて帰って来るのに、その後まだ道具類の掃除をしなければならないなんて、かなわない。
しかも、普通の汚れじゃないんで、なかなか手間がかかる。


腐敗液の主要構成物質の一つに脂がある。
一度この脂が着いてしまうと、なかなか落ちない!
実質は、食用油や工業用油と大差ないのだろうが、腐敗脂はなかなかきれいに落とせない。
汚いモノにでも触るかのように、オヨビ腰でやるからだろう。


しかし、道具類を使いっぱなしで放置しておくと、自分で自分の首を締めることになる。
一番恐ろしいのは、自分でも気づかないうちに腐敗液が素肌に付着してしまうこと。


「ん?なんか臭えなぁ」
と思っていたら、手や腕に腐敗液が着いていたなんてことがある。
「ギョエーッ!早く拭かなきゃ!消毒!消毒ーっ!」


こんな仕事をしていても、私は、わりと潔癖症なのである。
我ながらおかしい。


他に面倒臭い作業と言えば、階段の上下がある。
現場が、団地やマンションの場合だ。
エレベーターのない建物はもちろん、エレベーターがあっても使用を許してもらえない所も少なくない。
運び出すモノがモノだけに、住民からも嫌悪される訳だ。当然だろう。
そんな現場はかなりキツい!
肉体的にハードなのはもちろん、精神的にもいたたまれない。
近隣住民からの好奇・嫌悪の視線を浴びながら作業しなければならないからだ。
これも結構キツい!


でも、請け負った仕事に逃げ道はない。
追いつめられた状態で荷物を持ち、階段をひたすらUpDown。
まるで、筋力トレーニングでもしているかのような作業が続く。
しかも、私は荷物を身体から離して持つ習性があるため、腕力も余計に必要。
それが、涼しい時季ならまだしも、暑い夏にこの作業は過酷だ。
滝のように流れる汗と膝の感覚麻痺に、意識が遠退いていきそうになる。
怠け者は苦悩する。
腐乱現場を少しでも楽に片付けるため、少しでも人の視線を浴びないために。
しかし、考えても得策はない。
結局は、足元に垂れる汗を踏み、「ヒーヒー」言いながら、黙々と身体を動かすだけ。
人と視線を合わさないように、時々空を仰ぎながら俯いて地道に働くだけ。


追いつめられた状態では、怠け者も働かざるを得ない。
追いつめられた状態でも、死なないうちは生きなければならない。


そして、今日もクタクタになった身体を奮い立たせ、人の死に様を消していく。



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2006-11-29 09:24:55
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追いつめられて ~臆病者の根性~

2025-02-06 05:17:57 | 特殊清掃
私は、幼い頃から臆病者である。
もっとも、何をもって臆病者とするかは曖昧なものだが。
ま、今回はその辺には触れないで話を進めるとしよう。


その昔、私は、同年代の子が怖がらないようなもの(こと)も怖がっていた。
結構な弱虫だと自認している。
今でも、恐いもの・恐いことがたくさんある。
中でも、人が一番恐いかも。


人は、人を悩まし・苦しめ・キズつける。
もちろん、マイナスなことばかりではない。
人は、人を楽しませ、助け、幸せにする。
それでも、私は「人って恐い」と思う。


私は、人の何を怖がっているのだろうか。
まずは、その力。
暴力・経済力・社会的な力etc。
それから、その精神。
怒り・妬み・恨みetc。
そして、今までのブログにも何度となく書いてきた・・・そう、人の目(評価)だ。


「人からよく見られたい!」という自己顕示欲が強くて、時には見栄を張ったり、時には虚勢を張ったりする。
でも、残念ながら実態がともなっていないから、そんなことからは虚無感・空虚感しか得られない。
それなのに、また懲りずに見栄と虚勢を張っては虚しさを覚える日々を繰り返している。


人の目を気にせずに生きられたら、どんなに楽だろうか。
そうは言いながらも、今日も私は人に好印象を与えるべく、社交辞令と建前を駆使しながら無駄な抵抗をしている。
そして、なんとか人並に人間関係を動かしている(つもり)。


特掃は臆病者には無理そうな仕事に思われるかもしれないが、実はそうでもない。
どちらかと言うと、臆病者の方が向いている仕事かもしれない。
臆病者は人を気にするので、人に顰蹙をかわないように細心の心配りをするし、人の言うことに従おうとする。
そのスタンスが、結果的にGoodjobにつながるのかも。


臆病者が特掃をやるには、追いつめられる必要がある。
特掃現場の一件一件、いつも私は追いつめられている。
自分が生きるためにやらなきゃならないプレッシャーと請け負ったこと(依頼者)に対する責任とに。


「やりたい?」or「やりたくない?」→当然、やりたくない!
単純に考えると、やりたい訳じゃないのにやっている自分と向き合うことになる。
誰もが嫌うこの仕事、自分でも苦しいこの仕事なのに、やり続けている。
この葛藤は、ほとんど毎日ある。


請け負った現場に逃げ道はない。
まさに、追いつめられた状態だ。
恐くたって、吐いたって、泣いたって逃げられない。


そして、そこからくる疲労感と脱力感は独特な重さがある。
頭も身体も、ホント、グッタリくる。


特掃をやる上で欠かせないものは、道具やノウハウ・経験etc色々あるが、基本的には「根性!」だ。
それも、「最後の根性」だ。


「最後の根性」とは、常日頃から当人の人格に備わっているものではなく、臆病者が追いつめられたときに爆発させるエネルギーのこと。
「火事場の馬鹿力」と言えば分かり易いだろうか。
そんな場所では「火事場の馬鹿力」に頼るしかない。
特掃って、そんな最後の根性をださないとできない仕事かもしれない。


相手は、元人間の一部。
しかも、とてつもない悪臭を放ち、見た目にもグロテスク。
こんなモノの始末なんて、余程追い詰められた人間でないとできないだろうと思う。


私は、今日も追いつめられて、頭が壊れそうになりながら、腐乱人間がこの世に残した痕を消している。



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2006-11-27 17:31:22
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愛の痕

2025-01-15 05:57:54 | 特殊清掃
時々、思うことがある。
生きていることの不思議さ。
生きていることの意味。
自分とは何か。


私が、「生は夢幻」「人生は夢幻の想い出」だと捉らえていることは、たまにブログでも取り上げている。
ただ、私の中でもこれは一側面でしかない。
あくまで私の中だけの話だが、矛盾しないかたちで違う捕らえ方もしている。
モヤモヤして収拾がつかない話になりそうなので、今回は取り上げない。


人間(死体)は、放っておくと腐り溶けていくことは過去ブログの通り。
自然現象とは言え、そのグロテスクさは凄まじい。


私は、そのイメージだけで「溶ける」と表記しているが、正しくは「解ける」か?、はたまた「熔ける」か?・・・流行りの平仮名表記で「とける」がマッチするのか、ちょっと迷うところだ。
でも、間違っても「とろける」って書かないように気をつけなきゃね。


現場はマンションの一室。
故人は若い男性、依頼者は故人の父親だった。


私は、部屋を見分しているうちに自殺を疑い始めた。
その理由は三つ。
故人の年齢が若いこと。
消費者金融の請求書がたくさんあったこと。
部屋にはやたらとゴミが多くて、ちらかっていたこと。
私の経験に限っては、このパターンの自殺率は高い。


遺族や故人を気の毒に思う気持ちがない訳ではないが、私は、基本的に他人の死は悲しくない。
冷たいようだが、事実だから仕方がない。
したがって、現場では辛気臭い演技もほとんどせず、思いついたことは率直に口にだしてしまう。


「自殺ですか?」
「一応、自然死ということになってますが、どうも薬を飲んだみたいで・・・」
父親もハッキリした事実を掴めていないらしく、言葉を濁すしかないようだった。


「余計なことを尋いてスイマセン」
「いえいえ、そちらの仕事にも影響することでしょうから」
寛容な、理解のある依頼者だった。


決して広くない部屋なのに、家財道具・生活用品・ゴミは大量だった。
汚染箇所を先に処理することはできず、まずは部屋を空にすることを先行させた。
この現場に限ったことではないが、悪臭とホコリ、そして汚物にまみれながらの作業は、なかなか楽じゃない。


荷物を搬出し終えると、部屋には、床に広がる腐敗液とウジだけが残った。
そして、その様を父親が見に来た。


「これは?」
「人体が腐敗した痕です」
「えっ!?」
「人体は腐敗するとこうなるんです」


父親は驚いたようだった。
「人は腐ると溶ける」と説明した方が分かりやすかったのだろうが、ずうずうしい私でもさすがにそのセリフは吐けなかった。


「と言うことは、息子の一部ということか・・・」
そう言って、父親は急に泣き始めた。
私と接するときは、ずっと冷静な姿勢を保っていた父親が急に泣き出したので、私はちょっと驚いてしまった。
しかし、その心情を察すると、余りあるものがあった。


気の利いた言葉を思いつかなかった私は、黙って床の掃除を始めた。
私にとっては、腐敗液の拭き取りはお手のもの。
みるみるうちにきれいになった。


空になった部屋、きれいになった床を見渡しながら父親は感慨深そうに言った。
「こうして見ると、息子がこの世に存在して生きていたということが、まるで夢の中の出来事のようですよ」
「・・・残った臭いが夢の痕ですかね」
「夢のあとか・・・そうですねぇ・・・」
「多少の後先があるだけで、我々の人生だってそのうち終わるわけですから、とにかく元気だして下さいね」
「ありがとうごさいます」
「こちらこそ」


私の人生は、どんな夢のあとを残すのだろうか。
大きな不安と小さな期待の中、現場をあとにした。



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2006-11-17 10:01:58より

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故郷

2025-01-11 06:15:52 | 特殊清掃
「故郷」は、人によって違う。
物理的に異なるのは当然として、その定義(概念)も違うのではないだろうか。


生まれた所、育った所、長く暮らした所etc。
場所に限らず、人や想い出が故郷になるこもあるだろう。


特掃の依頼が入った。
故人は老人(男性)、依頼者はその姉。
現場は老朽一戸建。
平屋・狭小、プレハブ造りの粗末な家だった。


腐乱場所はその台所、板の間。
古びた室内は、かなり汚れてホコリっぽかった。その中央に腐敗痕が残っていた。
死後、かなりの時間が経っているらしく、腐敗粘土は乾き気味だった。


依頼者の話によると、現場の周辺は故人・依頼者達にとって故郷らしかった。
幼少期を家族で楽しく過ごした場所。
戦火が激しくなった頃、田舎に疎開し、終戦を迎えて戻って来たら一面が焼野原になっていた。
それで、一家は仕方なく外の地に移り住んだとのこと。


故人は、若い頃から故郷に家を持つことを目標にしていた。
そして、故郷で人生を終えることも生前から望んでいたらしい。
それを聞いて、自殺を疑った私だったが、どうも自然死のようだった。


故人は企業人としての現役を引退した後、かねてからの希望を叶えて故郷に家を構えた。
小さくて質素な家でも、愛着のある故郷で暮らすことができて、故人は幸せだっただろうと思った。
それから幾年が過ぎ、亡くなったのである。


台所に広がる汚物には嫌悪しながらも、生前の故人には親しみに似た感情が湧いてきた。


腐敗液は、台所の床にとっくに浸透していた。
表面を掃除したところで、汚染の根本が片付く訳ではない。
表面の腐敗粘土を掃除するより台所の床板を剥がして撤去する方が得策だと考えた私は、依頼者にそれを提案した。
誰も住む人はいないし、取り壊すしかない家なので、依頼者は私の提案を快諾。


私は、愛用の大工道具を使って、床板を少しずつ剥がしていった。
薄暗い床下を見て、「!?」。


床下の土には、妙に脚がたくさんある二種類の虫が這い回り、黒くボソボソとした盛り上がりができていたのだ。
床板を透り抜けた腐敗液が、床下の土に滴った結果であることはすぐに分かった。
髪・骨・歯は残っただろうけど、故人は故郷の土に還っていった訳だ。


「故郷の土に還ることも、生前の故人が望んでいたことではないだろうか」と、勝手に想像して微笑んだ私。


「土に還る」という言葉があるが、「土に帰る」じゃないところに、何とも言えない深い意味を感じる。
その意味が何であるか具体的には説明できないけど、本能的に重く感じるものがある。


以前も書いたが、私は自分の屍を火葬(焼却)して欲しくないと考えている。
故郷でなくても、どの地でもいいから、土に還りたいと思う。
しかし、今の法律や葬送習慣じゃ、無理だろうなぁ。


そうは言っても、今回の故人みたいなイレギュラーなケースは遠慮したいものだ。
仮にそうなったとしたら、後世にも特掃隊長が現れて、片付けてくれるかな?




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2006-11-13 21:31:50
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ヅラ?ツラい!

2025-01-05 08:35:18 | 特殊清掃
特掃現場では、死体の頭髪が残っていることはザラにある。
と言うより、大量の毛髪が残っている現場の方が、そうでない現場より多いと思う。


骨や歯は警察がきれいに回収していくが、毛髪にまではいちいち手が回らないのだろう。
腐敗液の中にポツンと残された毛髪には、不気味なものを感じる。


首吊自殺によくある、座位のまま腐乱していったケースでは、頭皮・毛髪が床ではなく壁にくっついていることも珍しくない。
腐敗液が乾いていく段階で、接着剤みたいに作用するのだ。
なかなか想像し難いかもしれないが、この光景はかなり不気味。
想像しやすいように、具体的に説明すると、壁にベッタリと部分カツラがくっついているようなもの。
そして、当然のごとくその下は凄惨な状態。
赤茶黒の腐敗液・腐敗脂・腐敗粘土が広がっている。


ある現場。
故人は和室、畳の上で腐乱していた。
驚いたのは、その頭髪。
頭の形状が極めてリアルなかたちで残っていたのだ。


死後、かなりの時間が経過していたらしく、白髪混じりの頭髪は、本物のカツラのごとく頭の形をとどめてシッカリと残っていた。
気持ち悪かったのか面倒臭かったのか、警察は頭蓋骨だけを拾って帰ったのだろう。


「ついでにコレ(頭髪)も持ってってくれればよかったのに・・・」
私はボヤいた。
そして、躊躇した。
「コレ、どうしようかなぁ・・・」


考えたところで、やるべきことは決まっている。
とりあえず、畳から拾う(剥がす)ことにして、片手で掴んで引いてみた。
重い抵抗を感じた。


「ちゃんと掴まないと、中途半端なところでちぎれてしまう」
そう判断した私は、両手を使い、髪の間で深く指を入れた。
その感覚は、自分の身体から手(腕)だけが分離されているような変なものだった。
防衛本能か?私は、自然と自分の手からを視線を外して、それを慎重に引っ張った。
精神的にも物理的にも、重い重い抵抗を感じた。


ベリベリ・バリバリと頭髪は畳から離れていった。
ところが、あともう少しで持ち上がりそうなところで、私のカラータイマーが点滅。
同時に、私の全身にモノ凄い悪寒が走った。


「イカンッ!緊急避難!」
私は、作業を中断して外に駆け出た。
そして、マスクを外して深呼吸。
心臓がバクバクしていた。
「恐えぇ・・・」
ボヤきながら、気持ちを整えた。


心のカラータイマーが点滅をやめて元に戻るまで、しばらくの時間を要した。
私は、晴天の空を見上げた。
「俺の人生、こんなんでいいのか・・・」
「今は、これをやれっつーことか・・・」
特掃には関係ないことを考えて、気を紛らわした。


しばらくの後、意を決して再突入。
余計なものを見ないように、余計なことを考えないように、毛髪を引っ張った。


メリ!メリメリメリーッ!
「お゛あ゛ーっ!」
私は、持ち上げた自分の手を見て、再び全身に悪寒が走った。
中身(頭・顔)がないのに、まるで生首を持ち上げたような錯覚に襲われたのだ。


さて、畳から外したのはいいけど、後始末には困る。
私は、どうしても持って帰る気になれなかったので、遺族に返すことにした。


もともと、でてきた貴重品は遺族に渡すことになっていたので、この「ヅラ風自毛」も貴重品の一つに混ぜておいた。


中を開けてビックリしたかな?


なにはともあれ、このヅラはツラいよ!



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2006-11-15 13:29:14
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カレーライス

2025-01-04 06:36:01 | 特殊清掃
私は、オニギリをよく食べる。
「好物」と言う訳ではないのだが、その手軽さや携行の利便性から重宝している。


緊急性を要さない特掃のときは、一日の作業開始時刻は10:00~11:00頃。
身体には汚れや悪臭が着くので、昼食休憩をとらないで作業を進めることが多い。
だから、昼食が夕方近くになることも日常茶飯事。


そんな時にオニギリはいい。
作業前の腹ごしらえに、作業途中のおやつ代わりに、作業後の食事に、車の中でいつでも食べられる。


カレーライスは、幼少の頃からの好物。
「大好物」と言うほどではないのだか、たまに食べる。
カレーって、いくら安物でもどこで食べても、それなりに美味しい。
まずいカレーって、当たったことがない(ふざけ半分の激辛カレーは例外)。
いい食べ物だ。


食べ物を表題にするときは、ロクな話じゃなくて恐縮だ。
・・・と思いながらも書く。


ある風呂場での話。
ちなみに、これは「不慮の事故」が起きた現場とは違う、ずっと以前の話。


ボロボロの老朽団地の一室、故人は風呂場で腐っていた。
私は、浴室全体をゆっくりと眺めた後、恐々と浴槽を覗き込んだ。
幸い、汚水は抜けていた。
が!、浴槽の底には腐敗粘土がたんまりと溜まっていた。
そして、その中にはおびただしい数のウジが。


「うぁちゃー!」
毎度、ワンパターンの反応をする私。


一口に「腐敗粘土」と言っても、その色は黄色っぽいものから焦茶色っぽいものまである。
また、粘度も高いものから低いものまである。
(以前の記事で説明したっけ?)


この現場の腐敗粘度は黄色っぽくてドロドロしたものだった。
それはまるで、程よく煮込んだ・・・
ここまで書いたら何が言いたいのか分かると思うので、以下省略。


では次の具材を探そう。
老朽団地の風呂は、かなりの旧式。
追焚ができないタイプで、浴槽は浴室に置いてあるだけのものだった。
浴槽の汚物を片付けてから、その浴槽を動かしてみた。


すると、浴槽の陰、浴室の隅に大量のウジが固まっていた。
大量のウジが平面的に広がっているのは珍しくない。
しかし、折り重なって立体的に群生しているのは珍しい。
それはまるで、オニギ・・・
ここまで書いたら何が言いたいのか分かると思うので、以下省略。

汚物容器の中。
白いウジと黄色い腐敗粘度。
それはまるで、カ・・・
ここまで書いたら何が言いたいのか分かると思うので、以下省略。

やはり、カレーライスは大衆食。
心に響く(のしかかる)その深いテイストは、ビーフシチューに敵わない?

どちらにしろ、カレーもビーフシチューも人間が作るものの方がいい。
人間で作られるものよりね。



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2006-11-09 08:28:20
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深刻な深呼吸

2024-12-23 05:27:15 | 特殊清掃
季節は初冬、現場は老朽一戸建。
閑静な住宅街に、その家だけが異様な雰囲気を醸し出してした。
「近所付き合いなし!」
「発見が遅れてもやむなし!」
と、家が語っていた。


腐乱場所は奥の洋間。
死亡推定日が間違いじゃないかと思うくらいに酷い状況だった。
「真夏ならいざ知らず、この季節でこの汚染とは・・・」


私は、ガッカリしながら作業手順を頭の中で組み立てた。
本来なら、汚染部を先に片付けたいところだったが、家財(ゴミ)が多すぎてそれができなかった。


猛烈な悪臭に閉口しながら、まずは家財を梱包して搬出。


私がいつも使っているマスクは、安物の簡易マスク。
防臭より防塵優先。
悪臭は、余裕でマスクを通り抜け、鼻から肺に入ってくる。


ん!?ちょっと待てよ。
これを書いていて気付いたが、ひょっとすると、大量の腐敗臭を吸ってきている私の肺は、腐敗臭にバッチリ冒されているかも?
だとすると、私の吐く息は腐乱死体の臭いがするのかな?
調度、タバコと同じような原理で・・・。
ウェ~ッ!
そう考えると、自分で自分が気持ち悪い!


話を戻す。
腐乱現場では、本能的に浅い息で通す。
とても、深い息ができる所ではないから。
ま、それが適度な酸欠状態をつくりだして、脳的にも作業をしやすくしてくれているのかもしれない。


家財の梱包・搬出を終え、やっと汚染箇所に着手。
汚腐団をたたみ、汚妖服を拾った。


汚妖服に言及するのは初めてかと思うが、早い話が「故人の着衣」。
警察が遺体を片付ける際に脱げてしまうのだろう(あえて脱がせているとは思えない)、汚妖服が現場に落ちていることは多い。
腐乱死体が着ていたものだから、普通じゃない。
タップリの腐敗液を吸っているのが常。
現場によっては、ベトベトの腐敗粘土にまみれているモノもある。
また、故人が脱いだ汚妖服は、その後はウジが着ていることが多い。


次は、床に敷いてあるカーペットに手をつけた。
どうも、二枚重で敷いてあるらしく、まずは上のものを剥がした。
ネチョネチョと捲くれ上がるカーペットの間にも、腐敗液が浸透して粘土状態になっていた。
「ミルクレープみたいだな」


二枚目のカーペットを見て驚いた。
「ん!あったかい?」
「これ、ホットカーペットじゃん!」
「しかも、スイッチONのままじゃねぇかよ!」
「誰かスイッチ切っとけよーっ!」


こんな状況じゃ、遺体の分解もはかどるし、ウジだってスクスクと育つに決まっていた。


「あ゛、い゛、う゛、え゛、お゛ーっ!」
と、くだらない悲鳴を上げながら、ホットカーペットをコンパクトに丸めた。
「ウジロール完成!」


そんなこんなで、その現場を終えた(楽しそうに書いていても、実際は全然楽しくない)。
現場を離れても、腐乱臭が鼻に着いているのは毎度のこと。
それは仕方がないものと諦めている。
風呂に入れば、だいたい落ちるんで。


しっかし、肺にまで腐乱臭が付着していないことを祈るばかりだ。


身の回り、見渡す世の中は空気が汚れている。
たまには、きれいな所に行って、のんびり深呼吸したいもんだな。



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2006-10-24 17:21:40
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ビッグウェーブ

2024-12-18 05:52:44 | 特殊清掃
人間であるかぎり、気分・感情に波があるのは自然なことだろう、
ただ、私においては、その波の高低差が激しいのが難点。
特に、30歳を過ぎてからは、全体的に低い位置で上下している。
歳のせいかメンタルな問題か分からないが、若い頃に比べて、気分がスカーッと晴れることが少ない。


そうは言いながらも、特掃業務においては、年々パワーが上がっている。
特掃業務に対しては、体力は落ちても、精神力は上がっているのだ。
単に、経験を重ねている がゆえの「慣れ」かもしれないけど、我ながら、「たくましくなったなぁ」と思うことが増えてきた。
そんな今では、どんな現場でも臆することなくズカズカと入り込む。
そして、「こりゃヒドイ!」等と、時には無神経な言葉を吐いてしまう。


そんな私でも、特掃を始めた頃はいつもビビりながら現場に入っていたものだ。
あまりの凄惨さに、目を閉じたこともある。
あまりの悪臭に、一分と部屋に留まれなかったこともある。


そんな初々しかった頃の話。
とある1Rマンションの一室。
腐乱現場はトイレだった。
依頼者はマンションのオーナー。


玄関を開けた途端に強烈な腐敗臭とハエが襲ってきた。
それだけで、逃げたい気分。
内心ではかなりビビっていたのだが、そんな心情を依頼者に悟られてはマズイので、精一杯気丈に振る舞った。


玄関を突破し、問題のトイレの前へ。
悪臭が外にもれないように、玄関ドアは閉められてしまった。
もちろん、依頼者は外。
薄暗くて臭い室内には私一人きり。
その時点で、既に半泣き状態。


しばらく悶々とした後、勇気を振り絞ってトイレのドアを開けてみた。
すると、衝撃の光景が目に飛び込んできた。
液化汚物になった元人間が床一面に溜まっていたのだ。
ユニットトイレの床は、液体を浸透させないから、腐敗液はドア下面までなみなみと溜まっていた。


気持ち悪さを通り越した嫌悪感で、私の脳と心は、「イヤ!嫌!イヤ!無理!ムリ!無理!」と、完全な拒絶反応を示した。
まるで、脳ミソと心臓が、プルプルと横振れするかのように。


「これをきれいに掃除するのが俺の仕事(責任)か?」
そう考えると物凄い重圧がのしかかってきた。
更に、何とも言えない惨めで悲しい気分に襲われた。


「何で俺がこんなことしなきゃならないんだ?」
「生きていくためか?」
「食っていくためか?」
「俺は、こんなことをしなきゃ生きていけない人間なのか?」
その葛藤の中で、私は深く落ち込んだ。
「最低だ・・・最悪だ・・・」
私の心は完全に泣いていた。


あれから、私も歳を重ねた。
葛藤と戦いの日々に変わりはないが、私は強くもなり弱くもなった。
頑張れるときもあれば、頑張れないときもある。
晴れの日もあれば、雨の日もある。


日々の気分にも波はあるし、人生にも波がある。


私には、凪の道ではなく波浪の道が定められているのだろうか(それとも水中?)。


今でもアップアップ状態なのだが、どうせならビッグウェーブを待ちたい(望みたい)。
波にのまれるのもよし、乗れれば尚よし。
それが私の人生。
でも、希望の浮袋を持っていれば、とりあえず溺れることはなさそうだ。


私のアップアップ人生は、まだしばらく続きそうだ。


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2006-10-22 13:06:53より

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リアル

2024-12-13 04:49:59 | 特殊清掃
現場に行ってから、「こんなのありかよぉ」と思うことは多い。
床を埋め尽くすウジの集団、壁を黒く染めるハエの大群、飛び散る血、正体不明の肉塊etc。

私が現場に到着するのは、腐乱死体の本体は警察が回収した遺体の後。
死体本体が残っていることは稀である。

まぁ、「死体本体」と言っても、その溶け具合いによって、指すモノが変わってくるのだが。
溶けた人間が相手じゃ、何が「死体本体」なのか不明確だ。
とりあえずは、骨は本体にあたる。
では、「死体本体」に含まれないものは?
お馴染みの、腐敗液・腐敗粘土・毛髪などの小物(?)がそう。

現場によっては、残された汚物から遺体があった状況がリアルに想像できるところがある。
手足や頭があった位置がハッキリ分かると、結構不気味なものである。
人間の痕を残す汚物が、私の想像力をバーチャルな世界に引き込むのだ。

そんな時は、いつもの手段で脳の思考を停止させるしかない。
防衛策はそれしかない。
ある腐乱現場。
汚染場所は洗面所だった。
洗面台の前に膝まづくような格好で汚染が広がっていた。
その汚染から、シンクに両腕と頭を突っ込み、膝立ち状態だったことがうかがえた。
シンクの内側には無数の頭髪がつき、腐敗液・腐敗脂が溜まっていた。

死後日数がそんなに経っていなかったのだろう、腐敗液はみずみずしい(変な表現?)ままで、腐敗粘土にまではなっていなかった。

大量の髪が小さな排水口に詰まっているらしく、先に腐敗液を除去するしかなかった。
吸水・吸油用のパックを使って吸い取りながら、髪の毛も拭き取った。

排水口が浅いところで詰まっていたのは不幸中の幸いだった。
深いところまで汚染されていると、水回りの管を通じて風呂・トイレ・キッチンにまで悪臭がまわる可能性があるからだ。

アパートやマンション等の集合住宅の場合、その臭いは他住居にまでまわることもある。
「家の水回りから変な臭いがしてくると思ったら、他世帯の腐乱死体臭だった」なんてことも有り得るわけ。
こうなると、部屋の消臭だけではどうすることもできない。
ま、ここではそこまでのことにはなっていなかったので、よかった。

シンクの脇には腕の痕、ワインレッドの液体が伸びていた。
腐敗液の態様からは、警察が遺体を回収した様もうかがえる。
それもひたすら拭き取るしかなかった。
床の汚染も同様。

特掃作業が終わってから、依頼者が現場確認にきた。

「遺体はどんな格好で死んでたんでしょうね?」
そう尋ねられた私は、洗面台の前に膝まづきポーズをとって言った。
「ちょうど、こんな感じだったと思います」

何も考えずに安易な行動をとってしまった私。
とっさに、特掃前の光景が頭を過ぎった。
頭の中で、自分と腐乱死体が重なってしまい、思わず「ウワッ!」と叫んで飛び退いた。

こともあろうに、実際の現場で腐乱死体を代演する自分にこう思った。
「いい度胸をしてるのか、バカなのか・・・」

汚物が人間的だと精神的にキツい!
人間が汚物的だと、これまたキツそうだけど。


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2006-10-20 16:05:29
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