特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

喜心

2015-06-26 16:56:37 | ボランティア
季節は、梅雨の真っ只中。
不安定な天気が続き、激しい雷雨に襲われることもしばしば。
たった一日の天気さえ読みきれない。
ただ、不安定なのは天気ばかりではない。
私の心身の調子も、相変わらず不安定。
梅雨空のごとく変化しながら七転八倒・四苦八苦の真っ只中。
生きているかぎりそこから抜け出せないのかもしれないけど、それでも、何とかこうしてやっている。

この時季、ブログはなかなか更新できないけど、仕事は相変わらず(老体?に鞭打って頑張っているつもり)。
とにもかくにも、依頼があればウジ・ハエのように汚物に走っている。
ただ、やはり、暑い季節の現場作業はキツい!!
だけど、その分、やり応えはある(“やり甲斐”とはまた別)。
頑張ることによって、わずかでも自分がマトモな人間に変われるような気がするから(錯覚?)。

そんな仕事上がりの晩酌はまた格別。ホントに美味い!!
しかし、私は、二年余前、自分に週休肝二日制を布いた。
そして、今やそれは週休肝四日制に発展している。
つまり、週飲三日を実行しているわけ。
いいことなのか残念なことなのかわからないけど、人一倍健康に留意しなければならない年齢になっているもので。

身体を壊してツラい思いをするのは自分だけではない。
回りの多くの人に迷惑をかけることになる。
そうはいっても、健康(病気)に対してできることは限られている。
多くの罹患・負傷は自分の力が及ばないところで起こる。
だからといって、何の自制・節制もしないのは、自分に対して・回りに対してあまりに無責任・無慈悲だと思う。
だから、それなりの忍耐が必要だけど、週飲三日と標準体重を堅持しているのだ。

しかし、晩酌の誘惑は強敵。
食欲とタッグを組んで襲ってくる。
「俺、今日は頑張ったな!」
と、自分で思える日は尚更。
「週休肝四日なんて、なりゆきでそうしているだけであって正規のルールではない」
「週休肝二日を貫徹しさえすれば自分に負けたことにならない」
と、自分の中の悪魔が囁いてくる。
だから、さすがに、無策ではこれに対峙できない。
「炭水化物+アルコール=脂肪」と理解している私は、何としても標準体重は維持したいので、さっさと御飯(炭水化物)を食べて酒を諦めやすくしたり、ノンアルコールビールや炭酸水で乾きを癒したりしてしのいでいる。

今、よく飲んでいるのは、ビールとハイボール(+たまに缶チューハイ)。
もともと、ロック派の私はハイボールが嫌いだった。
流行りだしたときも興味を覚えなかった。
しかし、ロックで飲むと酒量がハンパなく多くなる。
同時に、身体や財布への負担も大きくなる。
それで再考し、ハイボールを試してみることにしたのだ。
ただ、飲みなれないせいか、はじめはあまり美味しく感じられなかった。
が、それでも、飲み続けているうちに味がわかるようになり、今は美味しく飲めている。

たった週に三日しか飲める日がないわけで、自分の中で晩酌の価値は以前より格段に上がっている。
だから、悩細胞のはずの私でも単細胞のように、飲める日は昼間から気分が揚々としている。
ただ、いいことばかりではない。
一晩に飲むアルコール量が減らないのだ。
飲み始めは缶ビール350mlを一本。
次はハイボール。
炭酸水4:ウイスキー1の割合、炭酸水は一杯分500mlだからウィスキーは一杯分125ml(神経質な性格だから分量は正確)。
これを2~3杯飲むわけだから、一夜の晩酌でウィスキーを250ml~375ml飲んでいるということになる。
私の基準では、これはちょっと飲みすぎ。
何のための週飲三日なのか、本末転倒にならないよう気をつけなければならないと思っている。
が、それでもなかなか酒量を抑えられない弱いところが、私が私である由縁である。



ある日、知らない番号で携帯が鳴った。
仕事柄、不特定多数の人に電話をかけ、不特定多数の人から電話がかかってくることが多い私。
だから、見知らぬ番号で携帯が鳴ることも日常的にある。
相手は依頼者(お客)かもしれない。
だから、私は、そんな番号でも、とりあえず、よそ行きの作り声で愛想よく電話をとる。

電話をとると、向こうからは男性の声。
それは、それから一年近く前にゴミ部屋を片付けた際の依頼者。
聞き慣れない名字であり、当時も何かと親切にしてくれた人で、私は男性のことをすぐに思い出すことができた。
久しぶりの“再会”にテンションを上げる私に反し、男性は申し訳なさそうに声のトーンを落とし、事情を話し始めた。

用件は、現地調査。
対象は、空き家となっている男性の実家の庭。
電話から何日か前、
「雑草がのびて虫が発生している」
と、男性の実家の隣地に建つアパートの管理会社から苦情が入ったためだ。
本来ならすぐに見に行くべきところ、男性は仕事の都合で遠い地方に在住。
しかも、数ヶ月前に大病を患い、まだ身体が本調子でないとのこと。
見に行きたくても行けず、近くにいる親戚や知人にも頼みづらいよう。
そこで思い浮かんだ私に、
「どんな状況か見てきてほしい」
電話をしてきたのだった。

男性と私は、仕事を通じて一定の短い期間関わりあっただけ。
家族でも親戚でも友人でも何でもなければ、仕事の完了とともに縁は切れたはずの間柄。
なのに、私に電話を入れてきた・・・
・・・私を頼って電話をしてきてくれた。
理由はわからなかったが、私は、そのことが妙に嬉しかった。
人に必要とされ、人に頼られることで自分の存在価値があがったような気がしたからか・・・とにかく嬉しかった。
だから、
「お安い御用です!」
と、その用を快諾。
以前に世話になった人からの頼みでもあるし、日時指定がなく他の仕事のついでに行くという条件も飲んでもらったので、仕事(お金)にならないことはわかっていても対会社には他の仕事と同様の現地調査業務として無償で引き受けることにした。

その日の天気は雨・曇。
空はどんより曇り、雨は降ったり止んだりを繰り返していた。
他の仕事で現場と同じ方面に出向く予定があった私は、それが終わってから現場に行くことに。
有償の仕事をテキパキと片付け、無償の用に向かってイソイソと車を走らせた。

男性の依頼は庭を見てくるだけのこと。
ただ、私は、
「せっかく頼りにされたんだから・・・」
と、雑草の始末までやるつもりで出向いた。もちろん無償で。
が、手入れがなされていない庭は荒れ放題。
生い茂った雑草は背丈くらいまで伸び、その生成は想像以上。
プチジャングルと化した庭は私を威圧しているようにもみえ、草取り作業に着手していいものかどうか私を躊躇させた。
しかし、その日のその後の私の予定は帰社+事務所内残務のみ。
はじめの決意を自分の弱心で違えることに抵抗感を覚えた私は、結局、草取りをやることにして草の中に身を投じた。

作業は、当初の予想以上に困難なものとなった。
降ったり止んだりの雨は、時折、雨粒の一つ一つが背中で感じられるくらいの大粒に・・・
樹みたいに生長した雑草は庭中に自生し・・・
一本一本、大きく根を張り、簡単には抜けず・・・
開始早々、遅々として進まない作業に疲れと苛立ちを覚えてきた私の頭には、
「仕事(有償)で請け負ったわけじゃないし・・・“やる”って言ってないし・・・テキトーなところで切り上げようかな・・・」
といった考えが過ぎりはじめた。
そう・・・自分に責任はない。やめればツラい思いをしないですむ。
しかし、途中で投げ出して惨めな思いをするのは誰でもなく自分。
その惨めさに比べればツラい思いから逃れて得た楽なんて極めて小さい。
それがわかっている私は、
「最後までやる!」
と、気を取り直して再び雑草に向かった。

靴も作業服もドロドロ。
蚊群の餌食となった腕や首筋はボコボコ。
更に、冷えきった身体は寒気でガタガタ。
雨に打たれ、土にまみれ、蚊に刺されヒドい有様だった。
だけど、その中身は、何故かハツラツとした喜びと闘争心に満ちていた。

私の報告を聞いた男性は、とても喜んでくれ何度も礼を言ってくれた。
欲求を満たし、遊びに興じ、快楽に浸ることにも大きな喜びはあるが、人の心というものは、そういったモノとはまったく趣を異にする喜びも抱く。
些細なことだけど、私には、男性から必要とされ・頼られ・感謝されたことが大きな喜びとなった。
そして、その類の喜びに出会えたことをありがたく思った。


家に帰った私は、まず入浴。
湯につかり冷えた身体をゆっくりあたためた。
そして、
「今日も疲れたな・・・今日は飲んでいいだろ?」
と自分に許可を得、冷蔵庫からいつもの缶ビールを取り出し一気飲み。
そして、黄金色にはじけるハイボールに自分を重ねた。
そうして、普段はなかなか味わえない善人気分がいい肴になり、安酒は美酒となり、夜更けとともに疲れた身体と喜ぶ心に深々と沁みていったのであった。



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