特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

Hot dog ~前編~

2013-02-28 16:24:25 | 特殊清掃
「動物の引き取りもやってますか?」
ある年の冬、不動産管理会社から問い合わせの電話が入った。
動物死骸の処理をイヤというほど(イヤイヤ)やったことがある私は、
「はい・・・やってますけど・・・」
と、少々浮かないトーンで返答。
そして、
「料金は、腐敗具合や死骸がある場所等によって異なるので、場合によっては結構な金額になることもありますけど・・・」
と気の乗らない言葉を続けた。
すると、返ってきたのは、
「いやいや、死んだ動物じゃなくて、生きた動物なんですけど・・・」
と意外な言葉だった。

「生きてる動物ですか!?」
私は驚いた。
当社のサービスにそんなメニューはないし、そんな依頼を引き受けたこともなかったから。
死んだ動物も気が進まないけど、生きてる動物はもっと気が進まない。
だから、
「それはちょっと・・・」
と即座に難色を示した。
しかし、冷たくあしらうのは無礼なような気がした私は、
「引き取ってさしあげたいのは山々なんですけど・・・」
と、気がすすまない本心が露呈しないよう気をつけながら言葉を補った。
すると、
「やっぱり・・・そうですか・・・」
と、担当者は、断られることを予想していたかのように溜息をついた。

事情はこう・・・
管理している賃貸物件で借主の男性が自殺。
故人は一人暮らしだったが会社勤めをしており、遺体は一両日のうちに発見
早期発見と季節の低気温が重なり、遺体汚染はまったくといっていいほどなかった。
ただ、そこには、故人の家財生活用品が残置されたまま。
しかも、残されていたのはそれだけではなく・・・
故人が飼っていた犬が残されていたのだった。

借主の自殺について大家は嫌悪感を露に。
管理会社に対し、一刻も早く部屋を明け渡すよう遺族に働きかけることを指示。
しかし、当の遺族は、故人との関係が良好ではなかったようで、本件に関わりたくない様子。
管理会社に後始末を一任し、更に犬の引き取りも拒否。
結果的に、管理会社は、部屋を片付ける役目を負うことに。
家財生活用品の始末だけではなく、犬の始末までやらなければならなくなったのだった。

引き取り手のない犬は、役所に引き取ってもらうしかない。
しかし、そうすれば殺処分されるのは明白なわけで、担当者はそれを躊躇。
そうは言っても、飼主は自殺したわけで、故人や遺族に失礼な言い方になるけど、あまり気味のいい経緯をもった犬ではなく、身の回りに飼ってくれる人もみつからず
また、自分自身も犬を飼えない環境にあった。
大家の手前、一日も早く部屋を片付ける必要がある・・・
しかし、犬を始末することは躊躇われる・・・
その二肢の間に挟まって、担当者は困りきっていた。

動物の回収はともかく、家財撤去処分・消毒消臭となれば通常の業務。
結局のところ、現場に行ってみないと何も始まらないわけで、現場第一主義者の私は、現地調査に出向く日時を約束。
現場は極めて冷たい状況にあるだろうに、私は、担当者の心優しさにあたたかな気持ちを抱きながら電話を終えたのだった。


翌日、私と担当者は現地で合流。
立場に上下はないのに、彼は極めて低姿勢。
「変なこと頼んでスイマセン・・・」
と、犬を引き取る約束もしていない私に頭を下げた。
一方の私は、
「とりあえず、今日は部屋を見に来ただけですから・・・」
と、同情心に流されないよう冷たい一線を引いた。

鍵を開けて玄関を開けると、いきなり
「ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!・・・」
私の登場に驚いたのだろう、どこからともなく犬の吠音が響いてきた。
「うわっ!!」
私は驚嘆。
どこから現れるかわからない猛犬を警戒して身を強ばらせた。

薄暗い部屋に目を凝らすと、私の目に動くモノが映った。
更によ~く見ると、それは小さな犬。
犬種をきかず勝手に中型~大型犬を想像していた私は、拍子抜け。
「なんだ・・・こんなチビか・・・」
相手を見た目で判断する癖は、人間に対してだけではなく犬に対しても同じこと。
犬が小型であることを知った私の気持ちには急に余裕がでてきた。

そのチビ犬、しばらく吠えた後はダンマリ。
いくら吠えても無駄であること悟った様子。
その場に立ちつくし、何かを訴えるかのように私の方をジーッと見つめるばかりだった。

その時点で、故人(飼主)が亡くなってから数日が経過。
その間、餌と水は担当者がやっていた。
ただ、糞尿の始末まではされておらず、部屋はとても不衛生な状態。
糞尿は犬用トイレにおさまらず、その汚れは部屋中に広がっていた。
しかも、真冬の折、暖房らしきものはなく寒冷極まりなし。
飼主の死が、部屋を劣悪な環境に変えていた。

「大家さんからは早く片付けるように言われているんですけど・・・」
「結局、役所に連絡するしかないと思うんですが、殺されるとわかってて引き渡すのも忍びないですし・・・」
「そうは言っても、飼ってくれる人も見つからないし、私の家では飼えないですし・・・」
「もしかしたら誰か拾ってくれるかもしれないので、外に放そうかな・・・」
電話で聞いたとおり、担当者は犬を救済する策が打てなくて弱っていた。
一方の私も困惑。
“犬の始末はサービス外”として割り切ることもできたのだが、担当者の優しさを無碍にできない心持に。
同時に、悩み多き私と同年代の担当者と故人(飼主)に対して妙な同情心が湧いてきた。
それでも、
「どおしよぉ・・・来るんじゃなかったかなぁ・・・」
と、乗りかかった舟を降りるべきか、それともそのまま乗り込むべきか悩んだ。

そして、結局、
「今日は、見に来ただけですから・・・」
と、再びこのセリフを吐き、口を濁すしかなかった。

私は、とりあえず、犬のことは仕事から外すことに。
家財生活用品の撤去処分・消毒消臭・クリーニングだけの見積書を提出する旨を担当者に伝えた。
それから、
「食べられるうちにたくさん食べとけ・・・」
と、再びその家を訪れることになるかどうかわからなかったため、置いてあった餌を器にテンコ盛りにし、また別の器に水をタップリ注いだ。
身勝手な人間の手に運命を握られた犬に対して、なんとも切ない気持ちを抱きながら・・・

当の犬は、少し距離を縮めてきたものの、ただただ呆然。
腹が空いていなかったのか、それとも、とても食べる気にならなかったのか、餌には興味を示さず。
薄汚れた身体とウンコまみれの足、そしてキョトンと私を見つめる目が不憫さと切なさを倍増させた。


孤独死の現場には、飼主の死の巻き添えになって死んでしまうペットがいる。
その死骸を片付けることも少なくない。
また、ペットだけ生き残っているような現場もある。
大方の場合、遺族や関係者が引き取ってくれる。
が、残念ながら、そうならないこともあるのである。

「いちいち深入りしてたらキリがない!キリがない!・・・」
「俺のせいじゃない・・・俺が悪いわけじゃない・・・」
そう思いつつも、何かスッキリしないものを抱えながら、私はその家を後にしたのだった。



また、別の話・・・
ある年の夏、特殊清掃の依頼が入った。
そして、私は、そこでも犬にまつわる切ない思いすることになるのだった。

つづく



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