特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

コラッ!

2007-12-31 08:53:24 | Weblog
今日は大晦日。
2007年も今日でおしまい。
また一つ歳をとり、また一年死に近づいた。

毎度毎度、同じセリフを吐くけど、過ぎてみると時の移り変わりは速いものだ。
気づいたら、明日から2008年なんだもんね。

今年も、たくさんの人が死んで逝った。
病気・老衰・事故・自殺・・・男も女も、老いも若きも、富んだ人も貧しい人も。
数が多すぎて一つ一つを思い出すことはできないけど、あちらこちらにドラマがあった。
作り物ではない、真実のドラマが。
揺れる感情と波打つ鼓動を伴いながら、そんなドラマに私も関わってきた。
色んな故人・色んな人ととの出会いと別れに、喜怒哀楽があった。
それがまた、私の人生に味わいを与え、私の人格を鍛練してくれているのだろう。

また、昨年にも増して、今年の仕事は精神的にも肉体的にも過酷だった。
休養する時間もロクに取れず、精神疲労と肉体疲労を蓄積したまま今日を迎えている。
これが年々度を増してくることを考えると、頭が痛い。
それでも、食べていくうえで仕事は必要不可欠なものだから、やれるだけやるしかない。

そんな隊長にとって今回は二度目の年越しとなる。
「二度目?」
そう、「隊長」は実在の人物ながらも、blogの中にしかいない人間でもあるから、blogと同じで二度目の年越し。
「特掃隊長」なんてダサいニックネームは、軽い思いつきで名付けたもので、こいつはblogの外には存在していないのだ。

そして、隊長は、この一年も色んな目に遇い(遭い?)、色んな経験をしてきた。
多くの人の支えや励ましを受けながら、隊長はこの一年を乗り切ってきた。


この一年も、あちこちの出版社・編集者から、blog書籍化の打診があった。
正直言うと、「条件付きで、受けてみようかな」と思ったこともあった。
別に、欲(金)に目が眩んだわけではなく?、ちょっとだけ社会の陽にあたってみたくなったのだ。
日蔭暮しが長い隊長がそんな心境になるのは、そんなに不自然なことではないと思う。
しかし、そんなひと時の自己顕示欲を満たしても人間の質が上がるわけではない。
そんなことは、人格を高めるために必要なことではない。

しかも、書いている隊長に問題がないわけではない。
blogの中の隊長は読者に甘やかされ過ぎの傾向があって、知らず知らずのうちに自己を否定する謙虚さが欠けてきている。
人間、高慢・傲慢になってはいけないのに、人の善意に触れ続けると、ついついそっちの方へと傾いていってしまうのだ。
だから、たまには自分を見つめ直すことが大切。自分を否定する謙虚さと、さらにそこから強く立ち上がる力を養うことが必要。

大人になると、人に叱られることがなくなる。
愛情をもって叱ってくれる人がいなくなる。
しかし、自分を正すために人は叱られることが必要なときがある。
弱く愚かな生き物である人間は、己一人の力ではなかなか軌道修正ができないから。


隊長には書く自由・読者には読む自由があり、書き込みコメントも基本的には自由。
昔みたいに荒れるのはまっぴら御免だが、コメントの中身は自由。
なのに、公開・非公開を共通して、隊長が嫌悪され叱責・批難されることは極めて少ない。
ありがたいことに、目触り・耳触りのいいものばかり。

しかし、はたして、隊長は書き込みにイメージされるような男なのだろうか・・・疑問に思う。
・・・否!残念ながら違う。

blogに表れている隊長の人格は、私のほんの一面・一部でしかない。
実際は、いい年をして、隊長は手のかかる男。
なだめたりすかしたりして御機嫌をとらないとまともに仕事をしない。
また、本音と建前を使い分け、悲しみの依頼者に対しては偽善的な振る舞いで応対。
常に、楽して生きることと金のことばかり考えている欲深くで意地汚い人間。
感謝の気持ちは薄く、不平不満ばかりが頭を占有。
人の悪口は言うし、愚痴や弱音なんて口癖になっている。
しかも、やたらと気が弱く、何にやるにも腰が引けている。
そんな惨めな男なのである。

したがって、本blogは、ある種のノンフィクションでありながら、〝隊長が体裁のいいきれい事を吐いているだけ〟と言われても文句を言えない代物なのかもしれない。
そして、そんなふやけたblogを世に出したところで、皆が不快な思いをして隊長が恥をかくだけだろう。

何はともあれ、「それに気づいただけ少しはマトモな人間になってきたのかもしれない」と、わずかに安堵しているのも事実。

書籍化に気が乗らない理由は他にもある。
出版社・編集社からの口説文句はありきたり過ぎて、隊長の気持ちを溶かすだけの温度を持っていないのだ。
各社からの提案はとても上品でスマート、品格をともなわない隊長にはミスマッチ。
毎日毎日、目に見える汚物と目に見えない苦悩を相手に格闘している隊長は筋金入りのヘソ曲りなので、そう簡単に気持ちは反応しないのだ。

結局、書籍化の話は全て辞退して本年を終えようとしている。


まぁ、何はともあれ、今年一年を生き通せたことに感謝だ。
必然の死に向かって生きることの奇跡に深い感慨がある。

昨日までは特掃に出たけど、幸い?大晦日の今日は現場仕事の予定はない(〝今のところ〟だけど)。
そんな今日、私は隊長の一年を振り返る。
他人が立ち入れない世界に生きている隊長を真に叱れるのは私しかいないのかもしれないから。

「コラッ!」
自分を叱る心の声を持てたら、それは素晴らしいこと。
正月を前に、「めでたい!めでたい!」と浮かれてばかりいないで、年の終わりくらいは一年を振り返り、自分と真に向き合ってみるものいいかもしれない。
そして、自分で自分を叱って励ましてみるといい。

新しい年を新しい自分で生きるために。








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それぞれの年の瀬

2007-12-27 16:17:27 | Weblog
毎年のことだが、X'masを前後してのこのシーズンはどこに行っても賑やかだ。
今年のX'masを楽しく過ごした人も多いと思う。
今年は、いい具合いに連休も重なったしね。

そう言う私は、連休もへったくれもない。
夏場に比べれば余裕があるものの、相変わらず現場を走り回っている。
この年末も、都心から郊外のあちこちに出没し、社会の陰部を黙々と片付けている。
ゆっくり休みがとれないのは残念だけど、それでも年末年始のお祭ムードを世間からおすそ分けしてもらって、ささやかな幸せを感じている。

それぞれの人が、それぞれの年の瀬を迎えているのだろう。


その現場の原状復帰を終えたのは、何年か前の年の瀬だった。
秋の特掃に始まって、最後の内装工事が終わる頃にはX'masの時期になっていた。

「あの時の両親は、今、どうしているだろうか・・・」
ふと、そんなことを考える・・・


「ふぅ~、今日の仕事はこれでおしまいだな」
ある年の秋の夕暮時、私は、昼間の汚仕事を終えて帰途中の車中で一息ついていた。
そんな中、出動要請が入ってきた。

「とにかく、すぐに来て下さい!」
電話の相手は慌てており、緩んでいた気分が一瞬にして引き締まった。
そして、私は、走行ルートを変更して現場に向かった。

現場はロフト付1Rマンション。
依頼者は、そのマンションのオーナー。
依頼者は、電話で話した時に比べれば落ち着きを取り戻していた。

「急に呼び立ててすいません」
「いえいえ」
「とにかく、早く何とかしないといけないと思って・・・」
「とりあえず、部屋を見せて下さい」
「私は行かなくてもいいですか?」
「どちらでも」
「・・・」
「私一人で見てきますから、大丈夫ですよ」
「申し訳ありません・・・」

依頼者は、私一人を凄惨な現場に行かせることに気が咎めたようだったが、そうは言っても自分は行きたくない様子。
どの現場でも大半の人がそうなので、私は気遣いに感謝するのみで気にはならなかった。

現場の部屋はマンションの上階。
私はエレベーターを使わずに階段で上がった。
健康のため・・・な訳ではなく、他の住人を避けるためと、身につけてきた〝PERSONS〟をエレベーター内にまき散らさないためであった。

「ここだな・・・」
玄関前に立って、深呼吸の後にマスクを装着。
玄関ドアを開けて土足のまま部屋に入った。

「これかぁ・・・」
部屋に家財は少なく、床に広がるミドル級の腐乱痕が目に飛び込んできた。

「ひょっとしたら、俺の方がクサイかも?」
マスクをずらして息を吸ったら、部屋のニオイはライト級だった。

「ん?自殺か?」
ロフトのハシゴには不自然な汚れと頭髪が付着。
それは故人が首吊り自殺を図ったことを表していた。

現場調査を終えた私は、依頼者の待つエントランスに戻った。
依頼者は、人目を気にしながら私を隅の方へ誘導した。

「どうでした?」
「深刻な状態ですけど、掃除だけでしたら今日中に何とかできます」
「そうですか!よかったぁ!」
「ところで・・・自殺ですか?」
「え!?・・・」
依頼者は、表情を曇らせた。

「違ってたらスイマセン」
「・・・」
「汚染の状況から、それが見受けられたものですから・・・」
「そ、そのようです・・・警察がそう言ってました」
「そうですか・・・」
「あ!これは内緒にしておいて下さいね!」
「あ、はい・・・」
「他の住人に知れたら、どんなことになるか・・・」
「他言しないことは約束します」
依頼者が風評被害を恐れていることはすぐにわかった。

〝死人発生〟というだけでも人々に嫌悪されるには充分の威力がある。
それが、〝自殺〟〝腐乱〟となったら嫌悪感を通り越して恐怖心すら与えてしまう。
それは、マンション住民だけの問題ではなく、地域住民とのトラブルの火種にもなりかねない。
マンションのオーナーである依頼者にとっては死活問題・一大事なのだ。

「故人は若い男性のようですが・・・」
「ええ、確か・・・○○歳くらいのはずです」
「○○歳ですか・・・若いですね・・・」
「家賃や公共料金を滞納したりマナー悪い人達が出入りしたりと、色々と問題のあった人なんです」
「そうでしたか・・・」
「その上、こんなことしてくれちゃって・・・」
「・・・」
「費用は保証人に払ってもらいますから」
「保証人はどなたが?」
「親御さん・・・父親だったはずです」
「そうですか」
「場合によっては、費用は私が立て替えますので、とにかく掃除だけでもお願いします」
「承知しました」

私は、疲れた身体にムチ打って作業に着手。
まずは、腐敗液で汚染されたものを処理しなければならず、それらを一つ一つ拾っては袋に梱包していった。

「ん?」
床に散らかる汚染物の中に一枚の現金書留封筒があった。
身内から故人宛に送られてきたもののようだった。

開封済の中を覗いてみると、中には一枚の紙があった。
私は、腐敗液でバリバリになっているそれを取り出し、慎重に開いた。
それは、手紙だった。

そこに書かれた力のない文字を追いながら、その切実な内容に私は絶句した。

「私達には、もうこれが限界」
「これ以上の無心には応えられない」
「家を越さなければならなくなった」
「ひっそりと暮らしたいから、所在は探さないでほしい」

差出人は父親らしく、その日付は、故人が自殺したとされる日からそんなに離れていなかった。

「〝訳あり〟か・・・重いな・・・」
私は、自分の気持ちが落ちていくのを感じながら、その手紙を手にしたまま重苦しい空気に飲み込まれていった。


依頼者が父親から聞いた話によると、故人には人に言えない過去があった。
故人はその過ちを何度も繰り返し、両親はその尻を拭うために身を削り心血を注ぎ続けた。
そして、その結末は、私が見た通りのこととなったわけである。

「ご両親は、随分と苦労されたみたいで・・・話を聞いたら気の毒になってきました」
「息子さんの死を悲しみながらも、何だかホッと安心したようでもありましたよ」
そんな依頼者の言葉に、両親の複雑な心情が滲み出ていた。


あれから、何年経っただろうか・・・両親のその後を知る由もない。
ただ、今は、息子(故人)との楽しい想い出だけを抱いて穏やかに暮らしていることを信じたい年の瀬である。






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ねこみ

2007-12-23 17:30:18 | Weblog
年の瀬も押し迫り、寒さも厳しさを増してきた。
私が起床する時は、いつも外は暗く極寒。
布団から出るのがツラくてたまらない。
更に、私は重い朝欝症を抱えているので、朝の起床には一層ツラいものながある。

この時期は、外で酒を飲む機会が増える人が多いと思う。
こんな仕事をしている私でもそれなりに付き合いがあるので、12月に入ってから週に1~2回は外で飲んでいる。

若い頃は外で飲むのが大好きだったので、忘年会などにはイソイソと出掛けていた。
そして、無茶飲みしてはバカ騒ぎをしていた。
それが楽しかった。
しかし、ここ4~5年は外での飲み会に気がすすまなくなってきている。
気も身体も懐も疲れるせいだろう。
ネクラな私は、今は、自宅で静かに飲むのが断然よくなっている。
安く飲めるし、疲れたらそのまま寝ることもできるから極めて楽チンなのだ。

以前のblogにも書いた通り、秋からにごり酒を飲んでいる。
しかも、例年にはないくらいにたくさん。
blogに書いたことで、自分で自分の酒癖を刺激してしまったのかもしれない。

今、一番飲みたいのはN県S酒造K酒なのだが、この辺の店には置いてないので、比較的どこにでもあるG県M酒造S酒ばかり飲んでいる。
(管理人がインターネット通販で買うことを勧めてくれたが、クレジットカード決済に抵抗があるので却下した。)
もちろん、これもなかなかの美味。
抑えて飲んでも一升が一週間ももたず、空き瓶ばかりが増えている。
にごり酒の消費を抑えるため、たいして飲みたくもないビールやチューハイを先に飲むのだか、やはりこれらは暑い季節に旨いものなので、この時季の日本酒には太刀打ちできない。


「家の裏にあるネコの死骸を片付けてほしいんですけど」
ある日の朝、そんな電話が入った。
前の晩に深酒をしていた私は、頭痛と倦怠感を抱え、睡眠不足の状態だった。
そんな中での電話だったため、私はいまいち気分がのらなかった。
しかも、動物となると尚更。
相手が人間の腐乱死体だと、責任感・使命感に似た特掃魂が沸き立ってくるのだが(変人?)、ネコだったためいまいち燃えてこなかった。
それでも依頼者は困っているようだったので、私は急いで現場に向かうこととなった。

現場は古い町並みに建つ一軒家。
私は、家の人に案内されて裏手に回った。
その場所は、普段は人が立ち入るようなところではなかったため、依頼者も異臭によってやっと気づいたらしかった。
確かに、家の裏には不快なニオイが漂っており、そこから死骸の腐乱がかなり進行していることが伺えた。

「あそこなんです」
依頼者が指差す先に黒い盛り上がりがあった。
死骸の上には黒いビニール袋が掛けられていた。

「〝クサイ〟ったって所詮はネコだ」
私は、プロっぽく振る舞いたかったため、マスクも着けず死骸に近づいた。
そして、不用意に黒いビニール袋を剥がした。

「グ!グハッ!くせーっ!」
ビニールの下からはグロテスクなネコの死骸が出現。
同時に、強烈な悪臭パンチ!
私は、視覚と臭覚へのダブル攻撃に面食らってっしまった。

「ダ、ダメだこりゃ・・・やっぱ、マスクなしじゃ無理だ」
ネコ死骸の腐乱臭なんて何度も嗅いだことのあった私だが、そのニオイは一段と強烈でタジタジに。
ナメてかかった自分を恥じながら、一時退却。
もともと体調がよくなかったこともあいまって、吐き気まで襲ってきた。

「だ、大丈夫ですか?、あ、あとはお願いしますね・・・終わったら声を掛けて下さい」
私の弱腰に依頼者も動揺。
顔を強張らせて逃げるように家の中に避難していった。

私は、現場から離れたところで小休止し、波打つ気持ちを静めた。
そして、専用マスク・その他の装備を整えて再び現場に戻った。

「まったく!こんなとこで寝込みやがって!」
もともとが黒猫だったのかどうかは不明ながら、その時点の死骸は全身が不気味に黒光りしていた。
そして、ネコとしての形状は維持しながらも、不自然に変形。
腐敗はかなり進行しているようだった。

「さてさて、これをどうやって回収するかな・・・」
死骸を手で持ち上げることを想像すると、ゾゾゾゾゾ・・・と鳥肌が立った。
そして、そのやり方は自分でも無理であることがすぐにわかった。
私は、予め用意していた小鍬とシャベルを使うことにした。

「慎重にやるより、一気にやっつけてしまった方がいいな」
私は、回収を一発で決めるべく、頭の中で何度もシュミレーションを反復。
そして、実際に何度か手を動かしてみて、イメージトレーニングも行った。

「いっちょ、やってみるか!」
意を決した私は、マスクの下で深呼吸。
片手のシャベルを死骸の背中下に 差込み、片手の小鍬を死骸の腹に当てた。
そして、目を閉じると同時に一気に手を引いた。

「ん?手応えがない・・・」
小鍬の方には想定していたような手応えを感じず、シャベルの方にも重量感はなかった。

「あれ?何か変だぞ」
私は、片目だけを恐る恐る開けてみた。

「オ゛ァーッ!」
すると、目の前の死骸はは腹の皮が破れて〝くの字〟に湾曲。
更に、驚くべきことに、腹の中にはドンブリ一杯はあろうかという程のウジがギュウギュウ。
そして、それが不気味にムニョムニョ・・・これには私も仰天!思わず跳び上がってしまった。

「この仕事、引き受けるんじゃなかったかなぁ・・・」
ドツボにハマッた私は、自分の運命を悲嘆。
それでも、ウジの逃亡は阻止しなくてはいけない私は、早急に次の手を打つ必要があった。

「手を使うしかないか・・・」
これ以上小鍬を使うと死骸がバラバラになるし、モタモタしているとウジがどんどん逃げていく。
悠長なことを言ってられない状況に陥った私に残された手段は限られていた・・・と言うより、手段は一つしかなかった。
私は、自らの手で死骸をビニール袋に掻き込む荒業にでることにした。

「ア゛・・・エ゛・・・オ゛・・・」
その作業はまさに過酷。
私は、悲鳴とも溜息ともつかない唸声をたてた。
「俺の手って、汚い仕事ばかりやらされて可哀相なヤツだ・・・」
自分の手がやっていることはとても直視できたものではなく、私は目を閉じて手探りで死骸を袋に入れた。

「片付きました?よかったぁ!ありがとうございます」
作業の完了を、依頼者はとても喜んでくれた。
いつもなら、何らかの達成感や満足感を得られるのだが、その時の私は疲労感や憔悴感の方が強く、依頼者と喜びを共有することができなかった。

その日は、夜になっても体調が戻らず元気がでなかった。
本来は、分解ネコやウジ丼を経験したくらいで食欲が減退するほどヤワじゃないのに、食事もロクに喉を通らず珍しく酒も欲しくなかった。

「いつまでこんな仕事をしてかなきゃならないんだろう・・・それでも、身体を壊して寝込むよりマシか・・・」
起きていると余計なことばかり考えそうだったので、その夜は早々と布団に潜り込んだ。
そして、朝までの短い時間、つかの間の休息をとるのだった。






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ショートケーキ

2007-12-19 07:25:28 | Weblog
いきなり景気の話。
この世の中、〝景気がいい〟と言われだしてしばらく経つ。
しかし、自分にあてはめてもその実感はなく、回りにもその実情は見つからない。

もともと、景気の動向を肌で感じるような仕事でもないのだが、そんな中にあってもあちこちの現場から、この社会が段々と生きにくいものになってきていることを感じている。
中でも、ここ数年の間に、経済的な困窮と人間関係の希薄さ(孤独化)を強く感じる現場が増えてきたような気がする。

物価・税金・社会保険料etc・・・出ていくお金は増えていくばかり。
一方、好景気なんて〝どこ吹く風〟、入ってくるお金はそう簡単には増えていかない。
また、表裏と打算にまみれた人間関係からは人の真意が見えない。
身内でさえも関わり合いになるのは煩わく疲れるばかり。
だから、少々の寂しさよりも独りでいることの気楽さの方にウェイトを置く。

そんな〝貧乏独居〟が増えていく社会には明るい未来が描きにくく、それを思うと楽しい気分にはなれない。


話は変わってケーキの話。
私は、酒も好きだが甘いものにも目がない。
5号ぐらいのラウンドケーキならペロリとたいらげてしまうことは過去blogにも書いた通り。
ミルクレープをラウンドで食べる夢は実現していないけど、各種甘味はちょくちょく食べている。

私の懐は安物を、腹は高級品を欲しがるけど、結局はほとんどコンビニやスーパーで売っている手頃なものばかりを食している。
どちらにしろ、私は、自分でも嫌になるくらいメタ坊が喜びそうなものばかりが好んで食べているのである。
まったく、困ったもんだ。


特掃の依頼が入った。
依頼者は中年の女性。
女性の話をつなぎ合わせてみると亡くなったのは女性の夫で、夫婦は別居していたようだった。
その模様を淡々と話す女性の口調に、気丈さと動揺が滲み出ていた。

「発見が少し遅れまして・・・」
「どのくらい経っていたみたいですか?」
「警察からは、〝約一週間〟と言われました」
「そうですか・・・で、倒れられていたところはどこですか?」
「台所みたいです・・・私は見ていないのですが・・・」
「とりあえず、現場を見せて下さい」
「お願いします」

約束の日時、私は現場で依頼者の女性と待ち合わせた。
現場は密集した住宅街に建つ1Rのアパート。
〝古くもなく新しくもない〟といったたたずまいで、異臭は外にまでは漏れだしていなかった。
その季節と死亡してからの経過時間、そして異臭が外にまでは漏れていない状況を考え合わせると、汚染はライト級であることが想像できた。
そんな想定のもと、私は、マスクは首にブラ下げたまま手袋だけを装着して玄関を開けた。

「これかぁ・・・」
玄関を入ってすぐの所、流し台の前の床に故人が倒れていた痕があった。
「軽いな・・・」
さすがに、部屋の中には異臭がこもっていたが、私にとっては余裕で我慢できるレベルだった。

「見ますか?」
私は、少し離れた後方で緊張している女性に声を掛けた。

「はい・・・」
女性は、小さく返事をしてゆっくり近づき、玄関口から中を覗き込んだ。

「ご主人が亡くなっていたのはここで、多分、ここに頭があって、こういうかたちで倒れられていたんだと思います」
私は、身振り手振りを交えて故人のカタチを表した。

「そうなんですか・・・・」
女性は、鼻と口に手をあてて、現実味が湧かない様子でそれを眺めていた。

「この汚れは何ですか?」
「グロテスクな話になりますけど・・・人体が腐敗する段階で流れ出た体液です」
「血?・・・ですか?」
「血液も混ざってると思いますが、それだけじゃないですね」
「???・・・」

女性は、腐敗液の正体はおろか、人体が腐敗していく過程も全く想像できないようで、私の説明にも怪訝な表情を見せるばかりだった。
私も、余計な知識をひけらかしたところで何の意味もないので、女性に質問されたことに簡潔に答えることだけに留めておいた。

「これくらいの汚れでしたら、すぐに掃除できますよ」
女性には外で待っててもらい、私は、汚染部分の掃除をさっさと済ませた。
それから、部屋に散乱するガラスの破片を片付けた。
これは、警察がこの部屋に突入する際にベランダ側のガラスを破ったことによって残されたものだった。

作業をやり終えると、若干のニオイが気になるくらいで、部屋はきれいに蘇った。
もともと部屋にある家財・生活用品の量は極めて少なく、ゴミや不用品らしきモノもほとんどなかった。
そこからは、故人の慎ましい生活が偲ばれた。

私は女性を部屋に呼び、貴重品類を探してもらいながらその後の打ち合わせをした。

「それにしても、荷物が少ないですね」
「・・・ええ・・・引っ越してきたばかりですから・・・」
「・・・そうですか・・・」
「仕事が不景気でね・・・主人は、再出発するためにここへ越してきたんです」
「・・・」
「でも、まさかこんなことになるなんて・・・」
「・・・」

話が暗い方向に煮詰まってきたので、私は作業で身体を動かして場の空気を変えることにした。
まずは、〝腐りモノ〟をチェックするため、冷蔵庫の扉を開けた。
すると、中には赤い苺がのったショートケーキがあった。
コンビニかスーパーで買ったものだろう、二個入用の透明ケースに一個だけ残された状態で。
手に取って見ると、消費期限はとっくに切れていた。
だだ、外見上はいたんだ様子もなく美味しそうなケーキそのものだった。

「ケーキが入ってますね」
「ショートケーキですね・・・」
「ええ・・・」
「主人は、昔からケーキが好きでね・・・よく食べていたんですよ」
「へぇ~、私も好きですよ」
「〝ケーキを食べると贅沢な気分が味わえて楽しい〟って、よく言ってました」
「わかるような気がします」
「一個残したまま逝っちゃったんですね・・・」
「・・・」

私には、この夫妻が別居するに至った経緯を想像することはできなかったが、二個ペアの一個だけ残ったショートケーキが二人の人生を象徴しているように見えて仕方なく、女性が流す笑顔の涙に切ない寂しさを感じるのだった。
そしてまた、世の中の景気が良かろうが悪かろうが働ける仕事があり、ショートケーキが食べたい時にいつでも買えるくらいの生活ができていることに小さな幸せと生きている実感を覚える私だった。






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密室(完結編)

2007-12-15 08:11:57 | Weblog
部屋にたくさんのモノを溜め込む人の気持ちは分からないでもない。
私も中学~高校生の頃、自分の部屋にやたらとたくさんのモノを溜め込んだ時期があったから。

本音と建前を下手に使い分けて薄っぺらいきれい事を吐くばかり教師、支え合うフリをしながら足を引っ張り合うばかりの友達関係・・・それ以上に性根がひん曲がっていた(いる?)私は、つまらない学校生活にホトホト嫌気がさしていた。
そんな心は、いつも何かに飢え渇き、隙間だらけ・穴だらけ・・・何とも言えない淋しさがあった。
そんな私は、モノを溜め込むことによってそれを埋めようとしていたのかもしれない。

しかし、物理的なモノで心を満たそうとしても無理だった。
いくらモノを溜め込んでも、それは一時的に自分をごまかすことぐらいしかできず、心の隙間は一向に埋まらなかった・・・
それから二十余年、この年になってその術を見つけたものの、残念ながら実現には至っていない。


現場の話を続ける。
男性が受けたショックは事のほか大きそうで、その目は泳ぎ表情は強張っていた。
私は、男性が立ちすくむ玄関前に近づき、男性の視線を追って中を見た。
すると、イメージしていた通りのゴミ屋敷が広がっていた。

「やっぱり、こういうことになっていましたか・・・でも、これはまだ軽い方ですよ」
実際のレベルは軽くはなかったけど、〝少しでも男性の気が楽になれば〟とそう言ってみた。

「なんでこんなことになっちゃったんだろう・・・」
しかし、男性は、私のささやかなフォローにも表情を変えず、呆然と呟くばかりだった。

「起こってしまったことは仕方がありませんよ」
「・・・」
「この程度の片付けなら一日でできますから、そんなに心配しないで下さい」
「一日で?」
「ええ・・・今まで、これ以上の現場を何度となく片付けてきてますから大丈夫です」
「そうですか・・・」
「まずは、お母さんと話し合ってみて、それからご連絡下さい」
「はい・・・わかりました」
「あと一つ、アドバイスですが・・・捨てるかどうか迷った場合、捨てた方がいいときとそうでないときがありますが、この部屋の場合は思い切って捨てられることをお勧めします」
「はい・・・」
「迷ったら捨てることが、片付けのコツですよ」
「なるほど・・・憶えておきます」

肝心の女性がいないところで、家にズカズカと入り込むのは無礼な気がしたので、興味はありつつも私は玄関から奥へは進まなかった。
また、他人と遭遇することは女性の羞恥心を刺激すると思ったので、女性が帰ってくる前に退散することにした。
同行していた担当者も私の仕切りに口を挟むことなく、一緒に現場を離れてくれた。


それから、男性からはすぐに連絡が入るものと思っていたのに音沙汰のないまま、しばらくの時が過ぎた。
そして、何日も経って私も現場のことを忘れかけてきていた頃、男性から連絡が入ってきた。

「連絡が遅くなって申し訳ありませんでした」
「いえいえ・・・どうかされましたか?」
「捨てないものを選り分けて持ち出すのに時間がかかりまして・・・何分、自宅が遠方なものですから」
「そうですか・・・で、お母さんは?」
「本人は嫌がったんですけど、とりあえず、うちで引き取りました」
「それはよかった」
「とても、あんな所に置いておく訳にはいきませんからね」
「ところで、あの後、大変だったんじゃないですか?」
「そうなんです・・・」

男性は、話を続けた・・・
あの日、私が現場を離れてからしばらくすると、家主女性(男性の母親)が外から戻ってきた。
そして、玄関に立つ男性の姿を見ると非常に驚いて大慌て。
男性は、言いようのない怒りがこみ上げてきて女性の言い訳にも耳を貸さず激高。
女性は、泣いて謝罪。
男性は、女性に手荷物をまとめさせて、強制的に自宅に連れ帰ったのだった。

男性は、女性の心情についても話してくれた・・・
夫を亡くして独りになった女性の心には、ポッカリと大きな穴が空いた。
決して仲がいいばかりの夫婦ではなかったけど、長い年月の山谷を一緒に歩いてきた二人。
いつの間にか、お互いの存在は必要不可欠なものとなっていた。
そんな中で夫を失った女性は、一気に気持ちの張りをなくし、その生活も単調なものとなった。
部屋の中にも寒々とした空間が目立つようになり、それを埋めるためにモノを増やしていった。
また、喜ぶ人も文句を言う人もいなくなったために家事にも身が入らず、掃除やゴミ出しも後手後手になるようになった。
そのうちに、ゴミを出す回数も減り、部屋に溜まる量も増えてきた。
同時に、掃除も滞るようになり部屋の汚れも増していった。
そして、そのまま月日を重ねていきゴミ屋敷が着々と形成されていったのであった。

女性は、自宅がゴミ屋敷と化していく状況にあって、それを問題に思わない訳ではなく、相当に頭を悩ませていた。
しかし、問題が深刻化していけばいくほど誰かに相談する勇気が持てなくなっていった。
そして、あとはゴミ屋敷をひた隠しにするしかなくなったのであった。

「必要なモノはほとんど出しましたから、部屋に残っているモノは全部捨ててもらって結構です」
「承知しました」
「鍵を送りますから、あとはお任せします」
「取っておくモノはもういいですか?」
「大丈夫です、よろしくお願いします」

作業の日。
依頼者となった男性も家人の女性も現場には来なかった。
私を信頼して送ってきてくれた鍵を使って部屋に入り、いつもの段取りで作業を始めた。
一般的な?ゴミ屋敷では、ありとあらゆる種類の生活ゴミがゴチャ混ぜになって山積されているのだが、この家のゴミはある程度の分別と袋詰めがなされていた。
また、その様は、女性が少しでも片付けようと試みていたことを伺わせた。

長い間、この部屋の問題に手を焼いていた近所の人達も、片付け作業を歓迎して何かと協力してくれた。
そのお陰もあって、特段の障害もなく作業は無事に終了した。

「最初の電話からここまでくるのに随分と手間と時間がかかったけど、きれいに片付けられてよかったな」
私は、作業の最終チェックを行いながら、空っぽになった部屋をしみじみと眺めた。
そして、依頼者親子が肩の荷を降ろして和解する姿とその後の穏やかな生活を想像し、ちょっとした達成感を覚えたのだった。








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密室(番外編)

2007-12-11 15:53:58 | Weblog
日常の予定にしても人生の計画にしても、先々のことはなかなか自分の思い通りにはなってくれないもの。
予定通りに事が進まなかったり進路変更を余儀なくされたりする現実は、人生に常に付き纏う。
「人生は、思い通りにならないことの方が多い」と、開き直った方がいいくらいかもしれない。

しかし、先が見えないことは悪いことばかりではない。
例えば、自分の死亡日時が予めわかっていたら、何とも生きにくい。
充実した時間を過ごせるかもしれないけど、短絡的になる危険性も高い。
極端な自己中心的エゴイストとなって、生きた跡を汚したまま死んでいかなければならなくなるかもしれない。

「先がわからないから不安」
されど、
「先がわからないから生きていける」
人生は、予定通りにいかないから面白いのかもしれない。


ちょっと汚い話で恐縮なのだが・・・
数日前の明け方、私は強い吐き気に襲われて目が醒めた。
前夜の夕食が消化しきれていない感じの不快感があり、どうにも寝ていられなくなったのだ。
それからしばらく、荒い息をしながらゲップを繰り返していた。
そして、そのうちに下腹が張ってきた。
上より先に下にきたのだ。

「食アタリかなぁ・・・」
過去にも何度となく食アタリに遭ったことがある私は、自分を襲う症状から真っ先に食べ物が原因ではないかと疑った。
そして、前夜に食べたものを一つ一つ思い浮かべた。

私は元来、食べ物の〝賞味期限〟〝消費期限〟等はあまり気にしない性質。
生モノでなければ、期限を過ぎたものでも平気で食べる。
だから、過去の体調不良も、それが原因だったこともあったかもしれない。

「食べた物に変なモノはなかったなぁ・・・」
しかし、この時は、思い出してみてもコレといって引っ掛かるものはなく、食べたモノに原因を見つけられなかった私は、その体調不良を少し不気味に思った。

仕事は体調を考慮してくれない。
体調が良くても悪くても、仕事は待ってくれない。
その日も仕事の予定は入っていた。
幸い、特掃撤去作業ではなく片付けた後の臭気・衛生調査だったので、私は予定通り仕事に行くことにした。

ちなみに、過去に体調不良で仕事を休んだという記憶はない。
しんどい思いをしながらも仕事をした記憶は数多いけど。
別に、療養休暇が許されないとか認められないということはないはずなのだが、私には少々の無理は押しても仕事をする習慣が身についている。
また、死体業にはそういう文化があるのだ。
ま、これも仕事に応じて定められる宿命なのだろう。

かなり身体はだるかったものの、私はいつも通り現場に向かって車を走らせた。
そんな中、出し切った感のある下の方は落ち着いていたのだが、不快感はそのうち上の方にきた。

「ゲプ・・・ヤバイなぁ・・・」
吐き気をもよおしてきた私は、車中にあったレジ袋を手に取って口元に近づけ、胃の暴発に備えた。
その吐き気は、我慢すればできそうなレベル。
しかし、その状態のままで仕事に行くことは到底できなかった。

「すっきり吐いた方がよさそうだな」
走っていたのは高速道路だったので、私は次のPAに寄ってトイレに行くことにした。

人間の心理は面白いもので、〝我慢する→吐く〟と考えを変えると気持ちが緩みだす。
すると、吐き気が倍増して、それまで我慢できていたものができなくなってくる。

「空いてればいいけど・・・」
PAに車を入れトイレに向かった私だったが、残念なことに朝のトイレ(大)は混雑して空いているところが一つもなかった。

「待つしかないな・・・」
私は、待つ間、違うことを考えて気を紛らわそうとしたした。
しかし、〝吐くイメージ〟を持ってしまった脳はなかなかそれを忘れさせてくれず、私の吐き気は段々のその強さを増していくばかりだった。

「や、やばくなってきた・・・」
私の心臓と胃は鼓動を増し、次第に冷静さを失っていった。

「あそこで吐いちゃおうかな・・・」
手洗場のシンクを見て、そんな考えが頭に浮かんだ。

「イヤイヤ!そんなのダメに決まってるだろ!」
そんな所で吐くのは、回りの人に対してあまりに無礼。

「じきにトイレは空くはず・・・辛抱!辛抱!」
私は、吐き気に負けそうになった自分を励まして、ひたすらトイレが空くのを待つ私だった。


このblogをスタートしたのは一昨年の五月。
現在までに書き綴ったものは300編を越えているが(正確な数は自分でも把握していない)、私の本業はコレじゃないので、
「いつまでも書き続けられるもんじゃないよな」
と思いながら書いている。
自分のペースでボチボチやっている次第。

いつも、一つ書き終えると、
「次は何を書こうかなぁ」
と、ボケーッと考える。
そして、頭に適当に思い浮かんだものをケータイに打っていき文字にしていくのだ。

前回の「密室(後編)」は、アレはアレで終わりにするつもりだった。
しかし、公開・非公開コメントを通じて続編を求める意見が多く寄せられていることを知り、
「だったら、続きを書いた方がいいのかな」
と、思うようになってきた。
しかし、もともと書くつもりがなかったものなので、現場を思い出しながら頭をリセットしなければならない。
ま、こうしてもったいつける程の面白さがないことは明白なので、過度の期待は禁物だ。

何はともあれ、blogに反響をもらえることはありがたいこと。
そして、それによる予定変更はおおいに歓迎できる。


「この体調じゃ、今日の仕事は予定通りにこなせないかもな・・・」
やっとのことで入った臭い密室から、私は、なかなか出られなくなったのだった。




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密室(後編)

2007-12-07 08:05:49 | Weblog
私は、死人が絡まない仕事もやる。
消臭、消毒、害虫駆除、内装工事、不要品処理etc・・・
その中で、ゴミの片付けも大事な仕事であり、私はゴミ屋敷の片付けも何度となくやってきた。

ゴミ屋敷に縁のない人には分からないかもしれないけど、その主は老若男女・色々な人がいる。

「どうやったらこうなるんだろう・・・」
「どうやって生活しているんだろう・・・」
ゴミ屋敷を目の当たりにする度にそう思う。
しかし、その半面で
「俺には理解し得ない事情や理由があるんだろうな・・・」
とも思う。
人生は、人それぞれ。
しかし、どちらにしろ、他人に迷惑をかけるのはよくない。
特に、賃貸住宅や集合住宅は住民相互の思いやりとルールを守ることが大切で、そのために自分の生活を制限したりやりたいことを我慢したりすることも必要だと思う。


その日から何日か過ぎたある日、私宛に一本の電話が入った。
電話の相手は不動産管理会社の担当者だった。

「身内が見つかりましたよ!」
「そうですか!それはよかった!」
「賃貸契約の保証人に息子さんがなってましてね」
「そうですか!」
「だだ・・・」
「は?」
「事情を話したら怒りだしてしまって・・・」
「え?」
「〝家の中を見たのか?うちの母親がそんなバカなことするはずない!見てもいないくせに失礼なことを言うな!〟って、かなりの怒りようで」
「そんな・・・嗅げばわかりますから、とにかく現地に来てもらったらどうですか?」
「それが、住んでるところが遠いんですよ」
「どこです?」
「○○県の○○市」
「そりゃまた遠いですねぇ!」
「でしょ?だから、軽々しく〝来てくれ〟とも言えなくて・・・」
「そっかぁ・・・じゃ、○○さん(現場家主)に電話して実のところの伺ってもらうようお願いしたらどうですか?」
「それくらいならやってくれるかもしれませんね・・・頼んでみます」
「次は、〝またそれから〟ということにしておきましょう」
「了解です」

ゴミ屋敷の住人で〝いかにも!〟という雰囲気を醸し出している人は少ない。
家から離れたところでは、意外と普通に社会生活を営んでいるのだ。
仕事や外の用事も普通にこなし、普通に身綺麗にしている。
まさか、自宅がそんな状態になっているなんて、回りの人間には容易に想像できるものではない。

だから、今回の男性も〝母親宅がゴミ屋敷になっているかも〟と聞いても、ピンとこなかったのだろう。
それどころか、きれいに暮らしていた過去を知っていたのだから、反発心も尚更だっただろう。
「妙なことを言うな!」と激するのにも頷ける。
しかし、現実は現実として受け入れてもらわないと、他人がシワ寄せを食うばかり。
何とか、男性(息子)に女性(母親)へ接触してもらい、問題解決の糸口を探りたい私だった。


後日、再び担当者から電話が入った。

「息子さんが現場に来てくれることになりましたよ!」
「それはよかった!」
「一回きりのチャンスになるかもしれませんので、その時に現場に来てもらえませんか?」
「いつです?」
「○日の○時です」
「了解です!しかし、そうすんなりいくとは・・・何かあったんですか?」
「それがね・・・」

始め、女性に電話をしたらいつもの様子と変わらなかったので、男性は不審には思わなかった。
しかし、問題の核心を突くと、女性の返事は歯切れが悪くなってきた。
更には、〝心配だから様子を見に行く〟といった話になると、女性はなんだかんだと理由をつけてそれを拒絶。

以前は、男性やその家族が家に来ることを楽しみにしていた女性。
少々の用事はそっちのけで、喜んで歓迎してくれていた。
それが、ここにきてそれを拒んできたことに男性は大きな不審感を抱いた。
それで、女性には内緒で現場を訪問することを決断したのだった。


約束の日時。
我々の気分に反して、空は快晴だった。
既に、担当者とは同士・同胞のような間柄になっており、現場に関係ない雑談をしながら男性の到着を待った。

「この度はどうも・・・」
「遠方から、わざわざすいません」
待つことしばし、二人で建物の前にいると、いかにも〝遠方から来た〟といった感のする大きな鞄を持った中年男性が現れた。
そして、人が死んだわけでもないのに、私達は、何とも辛気臭い挨拶を交わした。

「数年前に親父が亡くなってから、ずっと独り暮しをしているんですけど・・・まさか・・・ね」
「・・・」
「昔は、きれい好きで家事も几帳面にこなしていたんですけど・・・」
「・・・」
「よく考えると、しばらく前から電話で話すときの様子が変でした」
「そうですか・・・」
「マズイことになってなきゃいいんですけど」
「そうですね・・・玄関を開けてもらえないと困るので、我々は少し離れたところにいますね」
「あ、大丈夫です・・・これがありますから」

男性は臆した表情に笑みを浮かべ、ちょっと得意げにスペアキーを掲げた。

「では、早速行きましょうか」
我々は三人でエレベーターに乗り、現場の階まで上がった。

「このニオイ、わかります?」
現場階の通路には、前の時と同じ悪臭が漂っていた。
そのニオイは男性にも認識できたようで、にわかに顔を強張らせた。

「我々は、ここで待っていますから」
私と担当者はエレベーターの脇、現場玄関から離れたところに留まり、女性宅には男性一人が向かった。

想像通りのゴミ屋敷になっていたら、それは玄関を開ければ一目瞭然のはず。
私と担当者が注視する中、男性は始めにインターフォンを押した。
耳を澄ませたが中から応答はなし。
更に、もう一度押したが、やはり応答はなかった。
女性は、居留守を使うことはないので、どうも留守のようだった。

男性は、おもむろに鍵を取り出し、ドアの鍵穴に挿入。
それは、私にとっても緊張の瞬間だった。
それから、我々が息を飲む中、男性は恐々とドアを引いた。
そして、開けたドアの奥に視線をやったかと思うと、男性は横顔を引きつらせてそのまま硬直してしまった。
その様は、中がどんなことになっているかを如実に表していた。

「よし!密室が開いた!・・・やっと私の出番が回ってきましたね」
私は、マスクと手袋を装着しながら、男性が呆然と立つ玄関にゆっくりと歩を進めるのだった。








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密室(中編)

2007-12-03 21:20:55 | Weblog
〝孤独死〟は、なにも独り暮しの人にだけ起こるものではない。
家族と同居している場合でも、トイレや浴室・自室等でひっそりと人知れず亡くなっているケースもあるのだ。
本blogでいくつか取り上げてきたように、私はその様な現場に何度となく遭遇してきた。

そんな現場の故人は、やはり高齢者が多い。
高齢・加齢に伴う肉体の衰えは誰にとってもやむを得ないことで、そんな人はちょっとした体調不良や気温・気圧の変化が命に関わることがある。
どうせ逝かなければならないのなら、長患いをせずにポックリ逝った方がいいのかもしれないけど、その後は直ちに発見してもらわないと色々とマズイことが起こる。

人の死は、何か特別な出来事であるかのように思われがちだが、実は至極自然な現象で意外なほどに呆気ないものである。
しかしながら、ピンピン生きている人やその家族にとっては想像だにできないものでもある。
だから、家族の中にいても孤独死は発生するのだ。

また、これはかなりのレアケースなのだが、独り暮しではないのに故人が腐乱していることがある。
本blog初期の頃に一現場のことを書いたことがあるが、私も今までにそんな現場をいくつか経験してきた。
風呂で煮られたわけでもなく・暖房に焼かれたわけでもなく、家族にも気づかれず・関心を持たれず、故人が長い時間放置されて腐っていった現場だ。

そんな現場に初めて遭遇したとき、私は、家族に対する驚きを隠せなかった。
その家族模様を現実のものとして信じることができなかった。
しかし、どれも紛れもない現実だった。
そして、そんなことが起こる現場は、共通して家族は家庭内別居状態であり家は一戸建であった。

家庭内別居をして日常は顔を合わせることがなくたって、その生活には同居人が存在する気配くらいはあったはず。
その気配(存在感)が急になくなったら変に思うのが自然だろうと思う。
更に、しばらくすると異臭が漂い始めたはずで、ここまでくると異変を感じない方がおかしいくらいだと思う。
それでも、家族は故人を無関心に放置し、腐敗が進んだ状態になってやっとその死に気づくのだった。

とにもかくにも、どんなに家族内の人間関係が希薄でも、お互いに存在の気配くらいは気にかけておいた方がいいような気がする。
お互いのために。

そんなウソみたいな経験を持っていた私は、今回の現場でも同様の疑いを抱いていた。


同行した不動産管理会社の担当者はインターフォンを押した。
すると、家人の女性が中から応答。
その声の利発さときちんとした返事に、私は意表を突かれた。
私は勝手な先入観で、「変人+無愛想=会話不成立」を想像していたのだ。

女性は、担当者の話を無視するわけでもなく、はぐらかすわけでもなく、また無礼な口をきくわけでもなく、その語り口から受ける印象は淑女そのもの。
しかし、担当者がいくら頼んでも玄関のドアを開けることはかたくなに拒み続けた。
話に聞いていた通り、どうも、その部分だけは譲れないようだった。

それでも担当者は粘り強く説得を試みたが、結局、女性の気持ちを動かすことはできず。
もちろん、強行突破なんてできるはずもなく、具体的な進展を得られないまま、我々はスゴスゴと引き下がるしかなかった。

「いつ来ても、このパターンなんですよ」
「なるほど・・・困ったもんですね」
「ところで、どうです?何のニオイだかわかりましたか?」
「ええ・・・ゴミのニオイですね」
「ゴミ・・・だだの?」
「いや、大量のゴミです・・・色んなニオイが混ざってて・・・中はゴミ屋敷になっていると思いますよ」
「え!?ゴミ屋敷!?」
「ええ、これはゴミ屋敷特有のニオイですね・・・腐った食べ物・腐った水・害虫・糞尿・カビ・トイレ・風呂など、色んな悪臭が混ざって熟成しているんだと思います」
「う゛ぁ・・・」
「多分、動物の死骸まではないと思いますけどね」
「・・・」

私は、現場のニオイが腐乱死体のものとは異なったものだったので、とりあえず安堵した。
ホッとした安心感からでるジョークで、中では人が死んでいないことを「動物」という言葉に変えて伝えてみたのだが、最初からそんな心配をしてない担当者には全く通じておらず、私だけが空振りの後の冷たい風を感じていた。

「で、どうすればいいですか?」
「ん゛ー・・・外回りだけ消臭・消毒しても、根本的な解決にはなりませんよ」
「ですよね・・・」
「焼石に水、費用を無駄にするだけですね」
「困ったなぁ・・・」
「やはり、原因そのものを解決しないと、いつまでもこの問題は片付かないと思いますよ」
「そうですかぁ・・・」

火事や救急などの特段の事情でもないかぎり他人の家を勝手に開けることはできない。
そして、ゴミだろうが不用品だろうが、家主の同意・許可がないと家の中にある物には他人が手をつけることはできない。
また、女性宅に踏み込む正当性を証するには、その程度の悪臭では弱すぎた。
私は、それまでに経験してきたゴミ屋敷や遭遇してきた家主のことを思い出しながら、頭の中で策を練った。

ゴミ屋敷の片付けは、本人が問題意識を持ってやる場合と、身内による説得や強制的手段で行われる場合とに分かれる。
前者のパターンは若年層に、後者のパターンは老年層に多く当てはまる。
そして、この現場の家主は高齢者。
つまり、私は、近しい身内の人に動いてもらうことを思いついたのだった。

「入口を変えましょう」
「は?入口?」
「正面玄関はやめて勝手口から入るんです」
「勝手口?」
「そう、(家主女性の)身内を探して連絡をとってみて下さい」
「はい・・・」
「次のことはそれからにしましょう」
「わかりました」

その日の仕事はそれまでにして、我々は現場を退散。
私は、これ以上この現場に関わりたくない逃走本能と、最後までやり遂げたい特掃魂とを心の天秤でグラつかせながら帰途についた。

それから、担当者から〝親族が見つかった〟旨の連絡が来るまでには、わずかの日数しか要さなかった。
しかし、頼みの綱である親族が見つかったものの、事はそう簡単には進まないのだった。

つづく








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