特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ダメ親父とバカ息子

2009-04-30 17:44:55 | Weblog
一向に減る気配のない自殺・・・我が国は、まさに〝自殺大国〟。
本ブログにも度々取り上げているように、その数は少なくない。

手法として多く用いられるのは、やはり、首吊りか。
正式にカウントしてきた訳ではないけど、私個人の経験でも、それが最多だと思う。

だいぶ前のこと、日本人の多くが縊死を選ぶことを分析したものを見聞したことがある。
仕事柄、興味を覚えたのだが、それを知ったところで自殺が防げる訳でなし。
私の仕事には手遅れな内容ばかりだったので、中身を頭に刻むことはなく、今ではほとんど忘れてしまっている。

一口に〝縊死遺体〟と言っても、その状態は様々。
自然死と変わらず、特段の変異が見られない遺体もあれば、逆に、不自然な変容が表れている遺体もある。

よくある変容は、顔の変色。
鬱血による変色なのだが、その色は、赤から紫まで様々。
深刻な場合、黒に近いグレーになることもある。

あとは、舌出し。
吊った衝動で、一時的に垂れ出るのだろうが、場合によっては、そのまま噛んでしまっていることもある。
その場合、舌が切れかかって出血していることがあり、処置に手を焼くことも多い。

〝口から出てしまった舌は、口の中に戻せばいい〟
簡単に言うと、それだけのことなのだが、これがなかなか難しい。
往々にして、強く噛み締めたまま硬直しているから。
下顎を強く押して、口に隙間を開けようと試みるのだが、これがなかなか開かない。
自分で歯を強く食いしばり、その顎を押してみればわかるけど、首ばかりが動いて肝心の口は一向に開かないもの。
それを、時間がかかろうが・手間がかかろうが、何とかこじ開けて、舌を口の中にもどさなければならないのである。

そんな変容の中で、最も特徴的なのは、やはり首の傷痕。
一般の人は、映画やTVのメイクでたまに見かけたことがあると思うけど、ありがちなのは、首の中央・真横に引かれた紫色の線。
内出血した様を模しているのだろうが、実状とはかけ離れている。

細い紐状のものに、自分の全体重をかけるわけで・・・
それに、首の柔らかい表皮が耐えられる訳はなく・・・
実際は、顎のラインに沿って深く食い込み、表皮に裂傷・擦傷を負っていることがほとんど。
たまのケースでは、首の骨が折れたり外れたりして、首が不自然にグラグラしていることもある。

そんな縊死体。
遺族が最も気にするのは、やはり首の傷痕。
見ていて痛々しい・・・
会葬者に見られたくない・・・
自殺した事実を許容できない・・・
等の遺族感情が働くからだろう。
だから、
「損傷を修復してほしい」
「首を隠してほしい」
「傷痕を目立たなくしてほしい」etc・・・
そんな依頼が多い。

この時の仕事も、そんな風だった。


依頼されたのは、故人に遺体処置を施し、柩に納めた上で斎場に運ぶ作業。
凝った段取りは要らず、手数も少なくて済む、シンプルな仕事だった。

呼ばれて出向いたのは、警察署の霊安室。
目的の遺体の他にも〝訳あり遺体〟が何体も保管され、殺伐とした雰囲気。
そこは、本来、〝死体検案〟をするところであって〝遺体処置〟をするところではない。
〝納棺〟をすることはあっても、〝納棺式〟をすることはない。
哀悼の精神も厳粛さも二の次の、慌ただしい作業場。
私は、与えられた時間が少ないことは言われなくてもわかったので、署員に急かされる前に作業を終えるべく、頭と手を同時に動かしながら作業に取りかかった。

立ち会っていたのは、中年の男性一人・・・故人の父親。
無精髭に、頭もボサボサ。
服装も、普段着を更に乱した感じのもの。
自分のとるべき態度がわからないようで、憔悴した顔に狼狽の色を滲ませていた。

「目立たなくできますか?」
やはり、男性はそれを要望。
口にしたくなかったのだろう、男性は、〝首〟とか〝傷痕〟といったキーワードを避けるように、そう言ってきた。

「大丈夫ですよ」
ほとんどの場合、特別な処置を施さなくても、納棺するだけで傷痕の大半は隠れるもの。
私は、故人を納棺した状態を思い浮かべて、そう応えた。

「本人も、人に見られるのはイヤでしょうから・・・」
男性は、少し後ろめたそうな感じ。
何かの言い訳をするみたいに、小声でそう言った。

「そうですか・・・」
〝気にしているのは家族じゃない?〟
私は、そう思ったが、あえて気にも留めない素振りで空返事。
その方が、男性も気が楽だろうと思ったためだった。


亡くなったのは、20代の男性。
霊安室にいくつか並ぶ検死台の一つに安置。
裸の上に時代遅れの浴衣がかけられており、首には、それとわかる傷痕がクッキリ。
それは、故人が自分にやった事と、故人が警察に連れてこられた理由を暗に示していた。

〝不幸中の幸い〟と言っていいのか・・・顔に鬱血色はでておらず。
ただ、口から頬にかけて一筋の血痕。
わずかに唇を分けると、案の定、その隙間か血が漏出。
口の中には、赤い血がタップリ溜まっているようで、頬に少し圧をかけるとグシュグシュと不快な音がたった。

更に唇を開いてみると、歯と唇の間に異物を発見。
それは、小指の先くらいの肉片・・・
首を引かれた衝動だろう・・・よく見ると、それは故人が噛み切った舌先だった。

事情がどうあれ、その状態は、葬式をするにあたって難をもたらす。
私は、できる限りの〝血抜き〟をするため、口を開けることにチャレンジ。
しかし、例によって、顎は食いしばられたまま強く硬直。
それは、まるで、故人の死に対する意思を表しているかのようで、少々の力ではどうすることもできなかった。

時間がないこともあって、私は、口を開けることを早々と断念。
代わりに、脱脂綿を使って血を少しずつ排出。
それから、外れた舌先を口の奥の方に押し込めた。


そんな私の作業を見つめながら、男性はブツブツと独り言・・・
「バカな奴だ・・・」
呻き声と溜息が混ざったような声で、また、何かにとりつかれたように、何度も何度もそうつぶやいた。

私は、最初、その言葉は、故人にぶつけているものとばかり思った。
同時に、それに圧倒的な虚無感を覚えた。
しかし、男性が繰り返す言葉を何度も聞いているうちに、それは故人だけにぶつけている言葉のようには聞こえなくなってきた。
そして、そんな男性の心情を察すると、私が、この親子に抱いていた悲しい虚無感に、生きることの苦しさと悲しさが加わって、更に辛さが増してきた。

「ダメな父親だったな・・・すまなかったな・・・」
一通りの作業を終え、柩の蓋を閉めようとした時、男性は、何もなかったかのように目を閉じる故人にそうつぶやいた。
そして、その様に、正味の人間が見えたような気がした。


世の中、善人や賢者はたくさんいる。
博学な頭脳者や立派な人格者も多い。
しかし、欠点や短所のない人間は一人もいない。
皆、少なからず、愚かさや弱さを持っている。
皆が、ダメな自分・バカな自分を内包して生きている。
だから、私は、男性がダメな親父だったとも、故人がバカな息子だったとも思わない。
それどころか、それが正味の人間なのだと思う。
故人が、自死を選んでしまったことも含めて・・・

人間は、適当にダメで・適当にバカな生き物・・・
悪に触れないダメさや、命に触れないバカさなら、あっていいと思う。
そして、自分のダメさ・自分のバカさは、力んで対峙するのではなく、怯えて目を背けるのでもなく、構わずそっとしておけばいいと思う。
その陰は、人生を照らす日向の明るさを、一層際立たせるために必要なのだろうから。





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おにぎり(後編)

2009-04-23 09:13:11 | Weblog
「それがですねぇ!・・・」
「???・・・」
女性は、急に声高に。
その変容から、私には、話が本題に移っていくことが読みとれた。

「不動産屋は、〝何も知らない〟って言うんですよ!」
「は?・・・」
私には、女性の言うことがすぐには飲み込めず。
ほんの一瞬だったが、頭の中が白くなった。

「どうも、大家に口止めされてるみたいなんです」
「なるほど、そういうことですかぁ・・・」
所有のアパートで腐乱死体がでたとなったら、大家は相当のダメージを喰らう。
だから、不動産会社に口止めした大家の気持ちが、わからないではなかった。

「とりあえず、警察は来ますよね?」
「えぇ・・・遺体が発見されてたら、結構な騒動になったはずですけどね・・・」
仕事で外出していた女性は、事の始終を把握しておらず。
遺体がでた事実も、実際に確認した訳ではなかった。

「事が事だけに、近所に訊いて回る訳にもいかないじゃないですかぁ・・・」
「そりゃそうですね・・・」
そんなこと訊いて回って、もしそれが事実でなかったら、かなりの顰蹙をかうはず。
また、事実だとしても、余計なことを近所に言いふらすことにもなりかねない。
女性は、確証を得る術がなくて、行き詰まっていた。

「臭ってることは、認めてるんですか?」
「えぇ、誰が嗅いでも明らかですから・・・」
漂う悪臭は、女性の鼻だけで感知されているものではなく・・・
不動産会社は、さすがに、そこまではトボケられないようだった。

「で、ニオイの原因は何と?」
「〝知らない〟〝わからない〟の一点張りです」
不動産会社が実状を把握してない訳はなく・・・
しかし、事の真相については、頑なに口を閉ざしているようだった。

「お話を伺った限りでは、ほぼ間違いないと思いますけど・・・」
「私も、そう思ってるんですけど・・・」
悪臭は悪臭でも、種類は色々。
可能性は高いにしても、はたして、それが本当に腐乱死体のニオイなのかどうかは、実際に嗅いでみないとわからないことだった。

「これから、伺いましょうか?」
「え!?いいんですか!?」
相手が、横柄な口をきく無愛想な男だったら、そんな気も起きなかったかも。
しかし、相手は礼儀をわきまえた女性。
更に、場所がそんなに遠くなかったこととに加えて身体が空いていたこともあり、私は、現場を見に行くことにした。


電話を切ってから程なくして、私は現場に到着。
まず、一階の共有通路を直進、女性宅前を素通りし、一番奥の部屋の玄関前で停止した。
すると、鼻を動かすまでもなく、辺りには憶えのあるニオイがプ~ン。
それは、嗅ぎ慣れた腐乱死体臭と酷似するニオイだった。
次に、ベランダ側に回って窓を観察。
その内側には、私の想像を裏付けるかのように、でっかくなった無数のハエが徘徊していた。

「御足労いただいて、ありがとうございます」
「どういたしまして・・・」
「このニオイなんですけど・・・どうです?」
「やはり、間違いないと思います」
「やっぱり、そうですか・・・」
「不動産屋に、強く言った方がいいんじゃないですか?」
「何度も言ってるんですけど・・・」
「必要でしたら、私が話しても構いませんけど?」
「そうしていただけると、助かります」
私に促されて、女性は、携帯電話を取り出してその場から不動産会社に電話。
私を強い援軍と感じてくれたのか、意外に強気な交渉を展開。
しばらく話して後、私にバトンタッチ。
〝専門家(自称)〟の出現に不動産会社も年貢の納め時を悟ったのか、〝喋ったことを大家にはバラさない〟という約束で、事の真相を明かしてくれた。

亡くなったのは高齢の男性。
自然死で、死後二週間放置。
家賃や公共料金の滞納はなかったが、まとまった遺産もなし。
更には、身よりらしい身よりはなく、賃貸借契約の保証人も既にこの世にはおらず。
後始末をしようにも、法定相続人・・・故人の権利義務を引き継ぐ人間が見当たらず。
不動産会社も大家も、誰の権利と責任で後始末をすればいいものやら・・・誰もが逃げ腰で、頭を悩ませているばかり。
結局のところ、〝後始末の目処は全く立っていない〟とのことだった。

「不動産会社の立場もわかりますけど、あまり頼りになりませんね」
「ですね・・・」
「この際、引っ越しを考えた方がいいかもしれませんよ」
「引っ越し!?」
「このまま、ズルズルいく可能性も大きいですし・・・」
「それは、ちょっと・・・」
女性は、常識的にも良識的にも、近々のうちに事の収拾が図られると信じているよう。
落ち度のない自分が退去しなければならないなんてことは、少しも考えていないようだった。

結局、二人で話してても妙案はでず。
不動産会社に対しては〝暖簾に腕押し〟で、故人宅に対して手も足も出せないため、根本解決の道は閉ざされた状態。
私ができることと言えば、女性に防臭の術を伝授することくらいで、非常に中途半端なかたちで役目を終えざるを得なかった。

「役に立たなくてスイマセン」
「いえいえ・・・とにかく、本当のことが聞けてよかったです」
「放っておいて、自然に臭わなくなるなんてことはありませんから、また困ったことがあったら連絡下さい」
「ありがとうございます・・・少ないんですけど、お昼代にてもして下さい」
帰り際、女性は、〝昼食代の足しに〟と、私にチップを差し出した。
紳士(?)のお約束で、一旦は断ろうかとも思ったが、それも野暮と思われたので、私は礼を言って素直に受け取り、現場を後にした。

帰途中、私は、もらったチップでいくつかのおにぎりを買い、それを頬張りながら車を軽快に走らせた。
昼食を逃してヒドく腹が減っていたせいか、女性の心遣いが嬉しかったのか、はたまた、何かの御褒美か、いつものおにぎりがいつもよりちょっと美味しく感じたのだった。


このブログも掲載数が400編を越え(多分・・・)、来月で丸三年を迎えようとしている。
終了宣言云々以降は、一回一回が最終回になる可能性を秘めている訳だが、振り返ると、〝よく続いてきたもんだ〟と、我ながら感心して(呆れて?)いる。

取り扱うネタは、〝生死〟〝命〟〝人生〟等、限られたもの。
多少、味付けや観点を変えているだけで、書いている内容・伝えたいことの核心はほとんど似たようなもの。
〝模様が単調〟というか、〝色が単一〟というか・・・平たく言うと〝ワンパターン〟。
しかし、私の浅知恵・偏見・独善・偽善・貧欲・杞憂・陰鬱・勘違い等の雑味が独自のテイストを作り出しているのだろうか、ありがたいことに、それぞれに違う味を見いだし、噛み分けてくれる読み手の方々がいる。

そんな本ブログが目指すところを食べ物に例えると、〝おにぎり〟なのかもしれない。
華もなく艶もなく、人の目を引く魅力もない。
地味で小さく、味も栄養価もほどほど。
中の具が多少変わるくらいで、食感も味も一辺倒。
一般の料理と並べるのもおこがましいくらい、舌や腹に飽きられやすい。

しかし、身近であり・手軽であり・優劣を感じることもなく・食べるのに背伸びする必要もない。
そして、食べれば、わずかでも飢えが癒やせる。
更には、命をつなぐことができる・・・
生意気を言うようだが、自分にとって・読んでくれる人にとって、本ブログはそんなささやかな糧になれば幸いだと思う。

しかし、それはお互いのこと。
〝もっと美味いモノはないのか!?〟〝もっと豪華なモノをたらふく食いたい!〟と、文句ばかりたれている私だけど、実は、気づかないところで、色んな人から色んな〝おにぎり〟を食べさせてもらっている。
だからこそ、こうして自分も〝おにぎり〟が握れているわけ。
そのありがたさと真味がわかってこそ、握り出す〝おにぎり〟の具が〝愚〟から〝Goo〟に変わるってものなのだろう。

そんな生き方を探求しながら、そして噛みしめながら、一粒の飯を一綴の文字に変えている私なのである。
(↑ちょっと、格好つけすぎだね。)





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おにぎり(前編)

2009-04-17 15:38:52 | Weblog
このところ、体調が優れない話を毎回のように続けているが、今日現在でいうと、少しずつ持ち直してきている。
口に入る食べ物と酒の量が増えてきたので、それがわかる。

しかし、年柄年中、愚痴や弱音を吐き続けている私。
憂鬱・疲労・倦怠・不眠・食欲不振・拒食・二日酔etc・・・
この類のことは、私に限らず多くの人も抱えているだろうに・・・
読んでくれる方にとって、いい加減、目障りになっているのではないだろうか。

私は、〝器が小さい〟というか〝度量が少ない〟というか・・・人としてのキャパが小さい。
だから、抱える苦悩をいちいち吐き出していかないと、身が保たないのだろう。
ま、自分を分析して解釈の仕方を変えても、自身の性質そのものが変わる訳でなし。
読んでくれる方の目汚しになることを承知しつつも、このまま、お付き合いいただくほかあるまい。


前回書いたように、最近、私の主食の一つになっている〝おにぎり〟。
(〝おにぎり〟と〝おむすび〟の違いがわからないけど、本編では、私が聞き馴染み・言い馴染んでいる「おにぎり」を使うことにする。)

食欲不振・拒食状態であっても、2~3個くらいなら難なく完食。
また、車であちこち動き回っていることが多い私は、運転しながらでも食べられるので重宝。
結果、一日の食事を、すべてコンビニおにぎりで済ませるような日もでてきている。

私が一度に買う数は、ほんの2~3個。
これが、このところの私の一食分。
元来の大食いがウソのようだ。

一口に〝コンビニおにぎり〟と言っても、その種類は多い。
コンビニ自体の種類も多い上、一つの店だけで何種類もあるから。
そして、よくできたものもあれば、そうでないものもある。

某大手チェーンのおにぎりは、やわらかめに握ってあって具も多い。
片や、別の大手チェーンの製品は、固く握られていて具も少ない。
頭のいい人達が商品開発に取り組んでいる大手コンビニでも、この差は歴然。
まぁ、これは、商品開発部門の問題ではなく、製造工場の問題なのかもしれないけど・・・
事情がどうあれ、やはり、握りはやわらかくて具は多めが私の好み。

好んで、よく買うのは梅。
食欲を刺激してくれそうだし、身体にもよさそうだから。
そう言えば、最近、梅干一個を種ごと御飯に埋めているようなおにぎりに出会わなくなった。
ちょっと前は、コンビニにも、そんな梅おにぎりがあったように思うのだが・・・
食べやすさ・作りやすさ・コスト等に不利な面が多く、淘汰されてしまったのだろうか・・・
今は、ほとんどが練り梅。
これはこれで悪くはないのだが、やっぱ、梅は粒の方がウメー(・・・)。


朝に食べたおにぎりは、とっくに胃から消えていたある日の正午前、〝昼は何を食べようかなぁ・・・〟なんて暢気なことを考えているところに、電話が入った。

「もしもし・・・」
「あのー・・・仕事の依頼ではないんですけど、ちょっと教えていただきたいことがあるんです・・・」
声の主は、女性。
自分では消化しえない不安を抱え、第三者の助言が欲しくて電話をしてきたようだった。

「どういった御用件ですか?」
「隣の部屋で、人が亡くなったらしいんですが・・・」
始めは〝何の相談だろう・・・〟と引き気味の私だったが、〝人が亡くなった〟と聞いた途端に目を見開き・耳もダンボに。
苦笑いするしかない悲しい性(サガ)を、自分に感じた。

「それで?」
「〝死臭〟って言うんですか?・・・うちまでそのニオイがしてきまして・・・」
私の中では、〝死臭〟と〝腐乱死体臭〟は別物。
しかし、それは〝おにぎり〟と〝おむすび〟くらいの違いしかなさそうだし、そんなことは女性も眼中になさそうだったので、サラリと聞き流した。

「そうなって、どのくらい経ちます?」
「もお、10日くらいになります・・・」
不動産会社に連絡したのは、四日前。
ただ、ニオイは、その更に一週間くらい前から、女性宅に漂っていた。

「かなりニオイますか?」
「嗅いだことのないニオイですけど、誰が嗅いでもクサいと思いますよ!」
腐乱死体現場に遭遇すると、ショックのあまり、〝感覚的なニオイ〟ではなく〝精神的なニオイ〟にやっつけられてしまう人が少なくない。
私は、その辺の錯誤がないか、女性に確かめた。

「それは、キツイですねぇ・・・」
「えぇ・・・ちょっとツラくて・・・」
どんな異臭でも、嗅がせ続けられるのはたまらない。
ましてや、それは、腐乱死体臭なものだから、肉体的な問題にとどまらず精神的にも滅入ってきているようだった。

「とにかく、精神的にまいりますよね」
「それもそうですが、身体への影響が心配で・・・」
腐乱死体臭は、精神を蝕むもの。
しかし、女性は、それよりも、悪臭自体が、ウィルス等の身体に悪いものをまき散らしていないかを心配していた。

「空気感染するものは、いくつもありますけど、〝死臭〟自体が病原体になるなんてこと聞いたことないですよ」
「・・・なら、いいんですけど・・・」
仮に、そんなことがあるとしたら、〝ウ○コ男〟がこうしてピンピン?してられるはずもなく・・・(頭は、壊れてるけど・・・)
私は、身をもって、それを証した。

「部屋の位置関係は、どんな風ですか?」
「アパートの一階で、臭ってるのは一番端の部屋です」
現場は、木造アパートの一階。
悪臭を放っている部屋は一階の端部屋で、隣に位置するのは女性宅だけだった。

「上の部屋は?」
「空いてるみたいなんです・・・」
女性宅がそれだけクサければ、上の部屋もニオっている可能性が大。
ただ、上の部屋の状態を知ろうにも、そこには誰も住んでいなかった。

「第一発見者は?」
「不動産屋に連絡したのは私です・・・見てはいませんけど・・・」
普段はたまることがなかった新聞が、何日分も玄関前にたまるように。
そのうち、窓の内側に黒点がチラホラと発生。
日に日に増殖するハエと漂い始めた悪臭に異変を感じた女性は、不動産会社に対処を要請した。

「人が亡くなってたとしたら、警察が来たはずですけど・・・」
「その辺のことは、知らないんです・・・」
女性が不動産会社に連絡したのは、日中、自分の職場から。
したがって、それ以降にアパートで起こった出来事を知る由もなく・・・
帰宅した時のアパートに、朝と変わったところはなく、異臭だけが静かに漂っていた。

「どんな方でした?」
「年配の男の人・・・ごく普通のお爺さんです」
老年男性の一人暮らしは、整理整頓・家事清掃が行き届かないもの。
私は、過去に蓄積した経験を材料にして、部屋のグレーと汚染部のワインレッドを思い浮かべた。

「(お隣同士の)お付き合いは?」
「いえ・・・付き合いらしい付き合いは、ほとんどありませんでした」
性も世代も異なる〝お隣さん〟。
ただでさえ、人間関係が稀薄になってきている時勢で、付き合いがなかったのは自然なことだった。

「具合でも悪くされてたんでしょうかね?」
「さぁ・・・見た目は、元気そうでしたけど・・・」
顔を合わせれば、社交辞令の挨拶を交わすのみ。
悪い印象はなかったようだが、人柄や体調まではわかるはずもなかった。

「死因なんて、わかりませんよね?」
「わかりません!わかりません!」
身内でない女性は、さすがにそこまでは把握しておらず。
自殺or自然死の違いで、女性の精神の揺れ方も変わってくると思われたので、後にミスを犯さないよう予め確認しておいた。

「どちらにしても、人が亡くなっていたことには、間違いないんですよね?」
「それがですねぇ!・・・」
女性は、声のトーンを急に上げた。
そして、その後、話は本題に移っていった。

つづく





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ゴテゴテ

2009-04-10 08:50:58 | Weblog
春なのに・・・大したことはやっていないのに・・・
睡眠不足と食欲不振が続いている。
ヒドい時は、倦怠感と拒食感が、一日中つきまとう。
お陰で、身体は痩せたような気がしているのだが、それに併せて体力まで落ちしまっては、もともこうもない。
放っておくと、気分まで落ちかねないので、暑くなる前に再起を図らなければいけないと思っているのだが、何をどうすればいいものやら・・・

まずは、食生活の改善?
今、食べ物は、アッサリ系・サッパリ系が中心。
バナナ・そば・おにぎり・・・そんな物が主食になっている。
もっと力のつきそうなものを食べた方がいいかもしれないけど、無理に食べると余計に体調が崩れてしまう。

重いものは、胃が受け付けない。
特に、油脂系はダメ!
もともと、子供の頃から、揚げ物が得意ではない私。
大人になって、だいぶ改善されたけど、それでも油脂系料理には弱い。
唐揚くらいなら普通に食べられるけど、天ぷら・フライになると量が限られる。
適量に抑えておかないと、胃がもたれるし消化不良を起こす。
下手をすると、腹をヒドく壊してしまうこともある。

また、本来は好物のはずの肉料理も、今の私には重過ぎる。
焼肉な焼鳥などはもともと大好物なので、口では美味しく食べられるけど、胃腸が受け付けない。
少し食べただけで、即座に不快感が襲ってくる。
そんな具合で、今は、ゴテゴテしたものを前にすると、吐き気をもよおしそうになるのだ。


「冷蔵庫を処分してほしいんですけど・・・」
30代くらいの声の女性から、不要品処分の依頼が入った。
その声はヤケに明るく、ネクラな私の耳には心地いいくらいのトーン。
しかし、並の家電処分依頼が、私のところに舞い込んでくるのは稀。
私は、それが不要品ならぬ〝腐妖品〟であることを、すかさず察知した。

「中は空?・・・じゃないですよね?」
「えぇ・・・実は、そぉなんですよぉ・・・」
「結構、たくさん入ってます?」
「冷蔵の方は少ないですけど、冷凍庫には結構・・・」
「それって、腐ってます?・・・よね?」
「多分・・・」
「電源は?」
「入ってます・・・今は・・・」
「〝今は〟!?」
「はぃ・・・」
女性は、羞恥心を越えた何かを達観していたのか、雰囲気は明るく口調もハキハキ。
〝私、バカでしょ?〟〝笑っちゃうでしょ?〟と言わんばかりに、明るく開き直っていた。


事の経緯は、こうだった・・・

女性は、海外へ短期留学することに。
準備を進める中で、しばらく空けることになる部屋も整理整頓。
出発の数日前からは、余計な食べ物が残らないように、食生活も注意。
買ってくる食品は常温で保存できるものを中心にし、生鮮類は完食できる量に制限。
そうして、腐る食品が残らないように努めた。

ただ、冷凍食品は別。
〝冷凍庫内の食品は長期保存に耐え得る〟と判断して、魚肉系食品が多く入る冷凍庫はそのまま手をつけず。
そうして、全ての準備は完了。
期待に胸を膨らませて、念願の海外留学に出掛けたのだった。


「それで?」
「しばらく空ける家に、電気は要らないじゃないですかぁ・・・」
「まぁ・・・そうですね」
「・・・」
「ん!?まさか?」
「そうなんです・・・安全のために、電気の ブレーカーを落として出掛けちゃったわけなんですよぉ・・・」
「あらら・・・」
「どうかしてますでしょ?」
女性か帰宅したのは、半年後。
久し振りの自宅は、出掛ける前と比べても変わったところはなし。
女性は、玄関を入ってすぐ電気がつかないことに気づき、電気ブレーカーをON。
眠っていた各家電は息を吹き返し、台所の冷蔵庫も〝ブーン〟。
その音は、女性が浸っていた海外生活の余韻を一気に吹き飛ばしたのだった。

生鮮食品を半年も常温で放置すれば、腐るに決まっている。
女性は、そこまでは容易に想像できたものの、それ以上の画が思い浮かばず。
その未知の不安が、恐怖心を掻き立て、冷蔵庫のドアを開けるのを躊躇わせた。
しかし、冷蔵庫をそのまま放置するわけにはいかず。
女性は、〝心の準備を整える時間が必要〟と考え、次の休日に片付けることを決意しコンセントを抜いたのだった。

しかし、心の準備は、なかなか整わず。
女性は、萎えた気持ちを立て直せないまま、休日を幾度もやり過ごし・・・
それでも、冷蔵庫は、中に抱える問題を外に訴えることなく辛抱していた。

そんな冷蔵庫の大人しさと女性の〝掃除したくない〟という気持ちとが相まって、女性の気持ちは、次第に〝気が向くまで放っておこうかな?〟という方向に変化。
後始末を先に延ばせば延ばすほど、大変さが増すことはわかっていたけど、自分の意志に理性は効かず。
そうして、腐妖冷蔵庫は、台所の一員として期限なく鎮座することになり、再びコンセントが差し込まれたのであった。


「そういうことだと、腐った食べ物は凍ってるわけですね」
「えぇ・・・多分・・・」
「妙な液体とか、漏れ出てません?」
「はぃ・・・特には・・・」
「ニオイは?」
「特段のニオイもありませんね」
さすがは冷蔵庫。(←何が〝さすが〟なのか、よくわからないけど・・・)
その機密性は高く、臭気も液体も漏らすことなく、外観は平然。
しばらく放置しても尚、外に問題らしい問題は発生していないようだった。


作業の日・・・
「お待ちしてましたぁ!」
女性は、電話で抱いた印象の通り、快活で愛嬌タップリのキャラクター。
留学から当日に至るまでの心模様も聞いていたし、また、その人間らしい弱さ親しみを覚えてもいたので、私の顔からも自然と笑みがこぼれた。

「どうなってるんでしょぉ・・・」
怖いもの見たさの好奇心もあってか、女性は、中を見たそう。
私が開けるのを期待しているようだった。

「やめときましょう」
安易に開けて〝腐敗液が流れ出す〟・〝悪臭が噴き出る〟等の事故が起きたら大変。
そうなったら、余計な仕事が増えるだけだし、クレームを誘発しかねない。
私は、冷蔵庫の扉(引き出し)を開けず、封印したままの状態で運び出すことにした。

「ありがとうございました!」
女性宅での作業は、冷蔵庫を回収するだけのこと。
ほんの十数分で請け負った仕事は完了した。

「あとは、持ち帰って、キチンと処分しますので」
女性から教訓を得た私は、当日中に中身を片付けることを心に予定。
ハツラツとした女性の笑顔に見送られて現場を後にした。

しかし、少し時間が空くと、女性から得た教訓はどこへやら。
中身の始末する作業を思い浮かべると、頭は憂鬱な気分が支配。
そして、嫌なこと・苦手なこと・気が進まないことへの対処を後手後手に回す・・・
切羽詰まった状態にまで追い込まれないと、腰を上げない・・・
時間は無限にあると錯覚して、大切な機会を逸する・・・
〝重症に陥る前に・重傷を負う前にやった方がいい〟ってわかっているのに気づかないフリをする・・・
そんな悪い癖が、ムクムクと顔を出してきた。

結局、萎える気持ちを奮い立たせることができず、当日の作業は断念。
しかし、翌日も・翌々日もやる気はでず・・・
しまいには〝このまま乾燥してくれないかなぁ〟なんて、ムシのいいことを考えるようになった。

しかし、現実はシビア。
電気を失った冷蔵庫は、自分を冷静に保つことができず・・・
そのうちに、妙な液体と異臭が漏れ出してきて、私に逃げ道はなくなり・・・
結果、後手後手のツケは、ゴテゴテしたものを前にした吐き気となって回ってきたのであった。




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命根・命花 ~続・Flight~

2009-04-04 09:24:53 | Weblog
もう四月。
春も本番。
冷え込みが和らぎ・暖かさが増し、陽も少しずつ延び・夜明けも早まってきている。

春の到来は、冬季の朝鬱を患う私には大歓迎なのだが、問題もある。
ここ二週間くらい、極度の不眠症に陥っているのだ。
更に、頭痛・食欲不振etc・・・

春を迎えて、私の中で何かが芽吹いているのか・・・
冬眠していた何かが目を覚ましたのか・・・
もともとの不眠症に輪がかかり、深刻な状態。
寝付きはいいのだが、早朝(夜中)に覚醒。
目が冴えたまま明け方を迎え、やっと眠くなったかと思ったら起床時刻。
そんな困った(弱った)状態なのだ。

そんな具合だから、このところ、昼間っから目がショボショボ。
頭も、回転が鈍化してボーッ。
常に軽い睡魔に襲われているような状態で、なかなかツラい日々を過ごしている。

ただ、そんな私にも、柔らかい元気を与えてくれるものがある。
満杯の酒・・・じゃなく、満開の桜だ。
これから一週間が見頃らしいが、〝桜好き〟の私にとって、それは格別の眺め。
欲を言えば、〝ゆっくり花見〟といきたいところだが、現実は、通りすがりに眺める程度。
それでも、何ともいえない快感覚をもって、私の心をプラスにもっていってくれる。
ありがたい春の風情だ。


母親との電話を終えてしばらく後、不動産会社の担当者から電話がかかってきた。
予定通り、母親は、私との電話が終わってすぐ、連絡を入れたよう。
そして、相続を放棄する旨を伝達。
言葉の端々には謝罪の意が混ぜられていたが、その口調は事務的で、一方的なもののようだった。

一方の担当者は、そうなることを全く予期しておらず、〝寝耳に水〟。
そんなことが罷り通ることが信じられず、唖然。
返す言葉もそのための知識もなく、ただ母親の言うことに返事をするのが精一杯だった。

「大家さんのプレッシャーが、藪蛇になりましたかね?」
「少なからず、影響したでしょうね・・・」
「困りましたよ・・・」
「資産補償や慰謝料の類はさて置いて、物理的な原状回復だけでも請求されたらいかがですか?」
「でも、それだけでも、相当の費用がかかるでしょ?」
「まぁ・・・アノ状態ですから・・・」
「多分、〝うん〟とは言わないでしょうね・・・」
「責任を感じていないわけではなさそうですから、打診するだけしてみたらどうですか?」
「・・・ですかねぇ・・・」
本来の権利義務者は、故人。
しかし、当人がいなくなったため、事後処理の責任は宙を浮遊。
〝母親が責任を負うべき!〟と断言できる根拠もない。
しかし、このままでは、大家が気の毒。
私は、部屋の原状回復だけは母親の責任で行われることを期待した。

「こんなことって、普通、あり得ないでしょ?」
「いや・・・多くはありませんけど、たまにありますよ・・・」
「え゛ー!そんなバカな話があるんですか!」
「法律上は、正規に認められた権利ですからね・・・」
「でも、さすがに、このまま黙って承知する訳にはいきませんよ!」
担当者は、全然納得できない様子。
母親を責める手だてがないことを承知しつつも、諦めきれない感情を抱えて苛立っているようだった。

「契約の保証人は?」
「それがですね・・・」
「母親じゃなくて、保証会社を使ってたんですよ・・・」
「そうなんですか・・・じゃ、(母親を責めるのは)尚更、難しいですね」
「ん゛ー・・・」
故人(娘)の自死を予感していた訳ではないだろうが、母親は、賃貸借契約の保証人にはなっておらず保証会社を利用。
ただ、保証会社が担うのは家賃滞納時の補償のみ。
部屋の原状回復は、まったく範疇にないことだった。

「大家さんはどうです?」
「それが・・・状況が呑み込めないみたいで・・・」
「はぁ・・・」
「とにかく、〝責任はとってもらう!〟の一点張りなんです・・・」
「・・・」
「娘がこんなことしでかしといて、何もせずに逃げるなんて、普通じゃ考えられないじゃないですか!」
「まぁ・・・」
「理解できるはずないですよ!」
「・・・」
母親の相続放棄に、大家も唖然。
そんな権利が母親に認められること、そして、それが自分にどういう事態をもたらすのか、現実のこととして理解できないらしかった。

そんなこんなで、話は煮詰まる一方。
いつまで話してても結論に達し得ないのは明らかで、我々は、再度、現場に集まることにして話を締めた。


約束の日時、私は再び現場へ。
大家と担当者は、約束通り現れたが、当然、母親は来ず。
それでも空気はピリピリと張りつめ、そんな中で、話は始まった。

部屋を放置したところで、状態は、悪くなることがあっても良くなることはない。
それは、腐乱死体現場に見識がない二人も、容易に理解。
短い話し合いの結果、トイレの特掃と消臭消毒だけは急いでやることに。
そうして、私は、その作業を請け負った。

「ところで、費用はどなたが?・・・」
その場は、お金の話をしにくい雰囲気。
しかし、無償ではやれない私は、浮くことを覚悟で費用負担の話を持ち出した。

「それは・・・」
担当者は、口を濁しながら視線を大家へ。
それ以上は言及せず、大家に返事を譲った。

「私が払います!」
私に対して向けられたものではなかったが、大家は、不満感情を丸出し。
鬱積する悔しさを吐き出すように、そう言った。


ほとんどの現場に共通することだが、特掃に着手する際、特有の嫌悪感を覚える。
特に、自殺現場はそれが強い。
この時は、特に、母親の相続放棄にも大きく引っかかるものがあったので、それが尚更だった。
しかし、請け負った仕事は完遂しなければならない。
私は、最初は余計なことを考えないようにして、機械的に腐敗液に手をつけた。

雨戸が閉められた部屋は、不気味な暗闇。
狭いトイレを照らすのは、小さな蛍光灯のみ。
そんな静寂の中での作業は、心身に堪えた。
しかし、仕事を完遂するまで後には退けない。
労苦と恐怖感と嫌悪感をグチャグチャに混ぜ、生きる糧と使命感に作りかえ、特掃魂を燃やした。


「ニオイは残ってますけど、見た目はきれいになりましたよ」
「そうですか・・・」
「家財生活用品はどうしますか?」
「処分するにも、それなりの費用がかかるでしょ?」
「それは、まぁ・・・」
「片づけたところで人には貸せませんし、ゆっくり考えて少しずつやりますよ・・・」
「はぃ・・・」
「ただ・・・七輪だけは持って行っていただけると、ありがたいんですけど・・・」
「はい・・・わかりました」
「すいません・・・」
大家は、〝冷静さを取り戻した〟というより〝元気をなくした〟といった様子。
当初のハイテンションとのギャップが大きく、その様が気の毒に見えた私は、誰もが嫌がる七輪の処分を二つ返事で承諾した。

それから後・・・
家財生活用品は、全て処分。
建具・備品も取り外し撤去。
そして、トイレをはじめ、すべての内装を解体。
最後に残ったのは、基礎コンクリートが剥き出しの四角いスペース。
そして、それは、住居に戻る予定もなく、無期限で放置されることになったのであった。


あれから、しばらくの時が経つ・・・
その後、アノ部屋は、原状を回復し、誰かが何事もなかったかのように暮らしているかもしれない。
そして、本件に関わった人々はもそれぞれの人生を歩いていることだろう。
母親も、大家も・・・
古い過去を捨て、悩める今を生き、新しい未来を描きながら・・・


今思うと、コンクリートの箱と化した部屋は、花ビラが散った後の桜と重なる。
独特の淋しさと虚無感がある中でも、再生・新生の希望がある。

花が散っても葉があれば、
葉が枯れても枝があれば、
枝が折れても幹があれば、。
幹が倒れても根があれば、
すべてを再生するチャンスを持つ。
根があれば強い幹も・しなやかな枝も・鮮やかな葉も・美しい花も生むことができる。
しかし、根を失っては、幹は幹でなくなり・枝は枝でなくなり・葉は葉でなくなり・花は花でなくなる。

美しいのは花ビラだけではない。
葉には葉の・枝には枝の・幹には幹の美しさと価値がある。
そして、その基は、誰にも気づいてもらえず・陽も当たらず・冷暗の中にあり・泥まみれになって汚れた根・・・つまり、〝命〟そのものにある。
そして、それこそが、命の花なのかもしれない。




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